((2)”木枯らしのエチュード”のつづき)
「黒鍵のエチュード」は名前の通り、メロディーの「ほとんど」全てで、黒い鍵盤しか出てきません。
バッハは、24の調(12の長調と12の短調)すべてを使い、音楽の旧約聖書ともいわれる「平均律クラヴィーア曲集」を遺しました。ショパンはそのバッハに触発され、やはりすべての調を使った「24の前奏曲」を作曲しました。
しかし黒鍵しか使わないアイデアは、あの大バッハでも想像せず、ショパンが世界で初めて考え付いたものに違いありません。ショパンは、1つのオクターブに5つしか音のない制約から、異国情緒がはじけ飛ぶような独特の世界を編み出しました。
ただし、右手がただ1回、66小節目の和音で白い鍵盤を弾きます。そこに来ると、そこだけはいつものショパンに戻る感じがします。
◆アシュケナージ(デッカ UCCD-50038)
決定盤だと思います。最初から、黒鍵らしい闊達なメロディーと左手のスタッカートがちょうどいい音量で、少しの重さも感じさせません。
また、(0:08)のような自然なリタルダント(テンポを次第に遅くする)が曲中のあちこちに散りばめられており、拍子の線を均等に割り振った演奏とは趣を異にしています。逆に、(0:20)でほんのわずかに加速をつけた軽やかな駆け上がりも素晴らしいと思います。
(0:26)では、伴奏の低音を1つ1つ大切に聴くことができます。
(0:53)で、じっくりテンポを落とした後、最初のテーマが最初と同じテンポで、明るく戻ってきます。その後は、(1:11)の甘美な”ミのフラット”の音がしびれます。
音が聴こえるというより、飛び出してくるような雰囲気があります。短い曲に聴きどころが満載です。