光岳(2,592m) (つづき)
三吉平から涸れた沢のような急坂を登っていきます。トリカブトが多いです。光岳のトリカブトは、他の山で見るものより花のサイズが大きい気がします。
傾斜地に広がる日本庭園のような場所を過ぎると、「静高平」という木製の看板が出ています。静高平では気になることがあります。
「お疲れさまでした!!小屋まであと20分です。ここで水を汲んできて下さい。ここで水を汲める間は、小屋で水をお分けしません。よろしくお願いいたします。」
と書かれていますが、近くにある水場らしき黒いパイプからは水が一滴も出ていません。
小屋まで行っても、水は分けてもらえる(売っている)のかどうか不安になります。
しかし、ほんの少し登ったところにあるもう一つの水場から、ちゃんとおいしい水が出ていました。
光岳を前に、「イザルヶ岳 往復15分」の標識があり、先にそちらに向かいます。小高い丘のような頂上に向かって、踏跡がジグザグに付いています。夕暮れになり、その丘に自分たち2人の、身長より長い影が映ります。
イザルヶ岳は光岳の東にあり、2点の山頂を長野・静岡の県境線が結んでいます。標高線で埋め尽くされた地形図は、しかし山頂のまわりだけ線の間隔が広くなっています。
登り切ると素晴らしい眺望です。穏やかな角度で、聖岳と上河内岳が並んでいます。標高は3,013mと2,803m、山容はとてもよく似ていますが、聖岳の方は前聖岳・奥聖岳の2つピークがあるところが上河内岳とは違います。3年前、前聖から奥聖への稜線を歩いたのを思い出します。
上河内岳からここイザルヶ岳までを結ぶ稜線も、またすべて穏やかでした。
眼前にはびっしりハイマツが広がっています。光岳は、世界最南端のハイマツ自生地として知られています。
「パインアップルの罐をあけ、そこの這松の根元に腰をおろして休みながら、僕等はその這松が日本最南端の這松であることを知った。案内の言によると、これより先の山は皆黒木に覆われていて、這松はこの頂上が最後だという。
「日本最南端はつまり東洋の最南端ということになる」と植物学者の田辺君が言った。
この山旅から帰ってたまたまお逢いした武田久吉博士に、東洋最南端の這松を見ました、と言ったら、
「ほう、それじゃそれは世界最南端の這松です」とさらに上に出られた。」
(深田久弥『山岳展望』(朝日新聞社))
一番驚いたのは富士山の姿でした。光岳は、富士山よりもわずかながら南にあります。日本一の高さの山が、夕陽を浴びて赤く染まっています。まだ雪はないようでした。イザルヶ岳の頂上からは、富士山が本当に赤く見えました。
(登頂:2019年9月中旬) (つづく)