Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

『カレル・チャペックの世界』

2010-06-20 | art... bijutsu
副題、「文芸を通した平和と人間性の追求」とタイトルされた展覧会へ行ってきました。
彼の飼い犬、ダアシェンカがかわいいから、という理由だけでのほほんと見に行ったわたし、チャペック氏の予想外の重い人生、深い思いに、大きな衝撃を受けることになります。

(ついでに、帰りに道に迷って自転車で登山をしてしまい、それも大きな衝撃でした・・・2年も暮らしてて、まだ迷子になるのか・・・)
金閣寺前。大文字がクッキリ。ここで道を誤った、右へ行くべきでした。

チェコを代表する作家、カレル・チャペック(1890-1938)。
ご存知でしょうか、「ロボット」という言葉を発案し、世にその概念を知らしめたのは、彼と兄ヨゼフです。
ジャーナリスト、文明評論家、SF作家、園芸家、愛犬家として多彩な活躍をしたといわれています。ノーベル賞候補にもなりました。生存していれば、受賞していた。
と、こう経歴を書きますと、「いかにも平和」な感じ。

ですが、実際は、戦争に巻き込まれ、思想の違いから自国民に嫉妬され、壮絶な環境に苦しんだ、感受性の豊かな人でもありました。(兄ヨゼフは、アウシュビッツに最初に投獄され、終戦前に亡くなりました。)
それでも、民主主義 という、当時チェコの人々が忘れきっていた“絵空事”を実現したいと願い、故郷と家族を愛し、守り、優しく男らしく生きた知識人でした。
ほのぼのとしたタッチの絵、文章は、彼の精神の気高さ、強さの発露なのです。

お兄さんは画家でした、アポリネールの本の表紙を手がけたりも

当時の空気を展示で学びながら歩くと、かわいいだけではなかった『ダアシェンカ ある子犬の物語』に漂う、深い慈愛を一層感じたりも。

「ときには、街で犬と遊ぶこともあるだろう。犬どうしでいると幸せで楽しいだろうね。だって、同じ血統を持つ一族なのだから。
でも、ダーシャ、家で人間といるときは、自分を誇りに思うだろう。人間と君は、血よりももっと素晴らしくて強いもので結ばれているんだよ。それは、信頼と愛情だ。さあ、おいき。」
(1933年)



1933年、この年は、1月30日にアドルフ・ヒトラーが首相に就任。
3月4日、ルーズベルト大統領が就任。
さらに10月14日、ドイツが国際連盟から脱退。
確実に不穏な空気が濃くなってきたあたりであることを考えると、チャペック氏の言葉は、愛犬との対話にとどまらない含みを持ちます。


しかしいつでも「与えること」に喜びを見出す彼の姿勢が好きです。

「恋のあとに来るものは何かしら、とよく尋ねていたね。僕が教えてあげよう。
恋心とともにやって来て、やがて恋をもしのぐ勢いとなるもの、それは愛着、密着、与えることしか求めない途方もない近さ、なんだよ。」

(1921年、カレル・チャペック、オルガ・シャインプフルコヴァー宛書簡)

昨日marikoちゃんと、「幸せと心の平和ってなんだろう?」という話をしていたときにも、これが思い出されました。
女は、男は、と、分けて語られることが多いけれども、真に心の平穏を得る方法って、人間誰しもこれに尽きるんじゃないだろうか。
とにもかくにも、愛する相手に与えること なのじゃないだろうか。
と、わたしも思うのであります。
まったく対照的な「ロボット」、この正確無比であるけれども個性のない概念上の物質を生みだした心にも、そのバランス感を感じます。



「わたしが見たいちばん良い景色は、イタリアにありました。わたしが気がついたいちばん良い生活はフランスにあり、そして、わたしが会ったいちばん良い人々はイギリスにいます。
しかし、わたしが生活できるのは、ただ自分の国の中だけなのです。」


故郷を愛し、

「人間を形づくるのは、故郷と子供時代である」

ともいっています。

地に足のついた穏やかな暮らしを愛した知識人。
その心に静かに学ぶ機会でした。


『カレル・チャペックの世界』~2010年7月31日@立命館大学 国際平和ミュージアム 1F

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