Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ダマスクローズ 68

2020年06月12日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

アクバル王と彼の息子、孫は、龍涎香( ambergris)※や沈香、香料で絶えず香りが漂う室内、コートホールでの薫香、それに香りを肌に付けるのが非常に好きでした。その内のいくつかはヒンドゥー教徒が神殿で使用していた古代の方法でしたが、歴史家が記録しているように、いくつかのお香は彼によって作り出されました。お香は毎日、美しい形の金、銀の香炉で、ハーレムで燃やされました。甘い香りの花も大量に使用されました。アラク、イター、オイルが花から抽出され、皮膚や髪の毛に使用されました。アクバルは  Khushbu-Khana(香料部門)と呼ばれる部門を作り、シャーマンスール(Shah Mansur)がそれを担当していた程です。

        

イギリス ワイルダーズマス ビーチ(Wildersmouth Beachで発見されたアンバーグリス)

https://www.bbc.com/news/uk-england-devon-42703991 説明はWikiから引用させていただきました。

    

※ 龍涎香(アンバーグリス)

灰色、琥珀色、黒色などの色をした大理石状の模様をした蝋状の固体で芳香があります。龍涎香はマッコウクジラの主な食料である、消化できなかったタコやイカの硬い嘴が核になり、消化分泌物により胃の中で結石化したものです。クジラが吐き出したものがヨーロッパの海岸に稀に打ち上げられています。日本にも相当数打ち上げられているようです。気づかないのは興味がないからでしょうが。大変高価なものです。この大きさで£200,000(約27,334,300円)です。かなり臭いと言われています。そりゃあそうでしょう。胃の中で腐って、鯨がこらえ切れなくなって吐きだしたものですからね。しかしこれを薄めて嗅ぐと、堪らなく良い匂いです。ニオイというのはそういったものなのでしょう。

 

お香の材料は、遠く離れたさまざまな地域から手に入れました。アンバールは、キプロスと地中海地域で育った木から、カプール(カンファー)は木の抽出物でした。シベットとガウラはアフガニスタンのアチンから入手した動物製品でした。ミッドは動物の分泌物から調製されました。沈香はUdとも呼ばれグジャラート、アチン、ダナサリから来ました。頻繁に使用されるチャンダン、カプールは国産でその他は、中世のオリエント全体から輸入されました。

                                   

            

           1605-1627年に君臨したムガル帝国皇帝ジャハーンギールの肖像画

Abu'l Hasan ( アブハルハサン、1589 – c. 1630、インドのデリー出身、ジャハ-ンギール統治時代のムガル帝国のミニチュア画家 ) 1617画。手に持っているのは地球儀。

 

本名であるNur-ud-din Muhammad Salim ( نورالدین محمد سلیم)(ヌールッディーン・ムハンマド・サリーム(ジャハーンギール)のうち、「皇帝名ジャハーンギール:جهانگیر」は、ペルシャ語で「世界を征服する者 ( Jahan: world ; gir : the root of the Persian verb gereftan: to seize )」の意。ヌールッディーンはアラビア語で「真実の光」の意。「世界を征服した絵をご紹介したついでに、もう一枚の絵を取り上げておこうと思います。上とは全く趣が異なる絵です。

 

 


ダマスクローズ 67

2020年06月10日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

    

※5乳香 フランキンセンス Frsnkincenseムクロジ目カンラン科ボスウェリア属の樹木から分泌される樹脂)。 https://www.amazon.co.jp/ フランキンセンス-Frsnkincense-、説明はWikiから引用させていただきました。

水蒸気蒸留で得た精油は、食品や飲料に香料として、又、香水にも利用され、シトラス系、インセンス様、オリエンタル系、フローラル系など様々な香水に使われています。精油には強い刺激作用があり、産地や抽出法で成分が異なります。精油の香りには興奮作用が、樹脂を燃やした香りにはリラックス効果が見られ、強力な抗菌活性をもっています。又、漢方薬として、鎮痛、止血、筋肉の攣縮攣急の緩和を目的として使います。流通している南アラビア地域では、唾液分泌の促進やリラクゼーションのために乳香樹脂をガムのように噛むことがあります。

オマーン、イエメンなどのアラビア半島南部、ソマリア、エチオピア、ケニア、エジプトなどの東アフリカ、インドに自生しています。これらの樹皮に傷をつけると樹脂が分泌され、空気に触れて固化。1-2週間かけて乳白色~橙色の涙滴状の塊となったものを採集します。樹木は栽培して増やすことが困難で、かつては同じ重さの金と取引されたこともあります。良質の商業的な生産は主にオマーンで行なわれています。

乳香は紀元前40世紀にはエジプトの墳墓から埋葬品として発掘されており、古代エジプトでは神に捧げる神聖な香として用いられていました。同様の行為は古代のユダヤ人にも受け継がれており、聖書にも記述があります。イエス・キリストが生まれた時の東方の三博士の贈り物の中に乳香、没薬、黄金があります。

日本にも10世紀には薫香の記述があり、シルクロードを通じて伝来したと考えられています。正教会では、古代から現代に至るまで奉神礼で香炉で乳香を焚く振り香炉に乳香が用いられます。『煙とともに我が願いが天に届きますように。』との願いを込めて。

               https://purpletugboat.tumblr.com/post/107436086583

香水などに使われるようなったのは16世紀に入ってからで、乳香を水蒸気蒸留した精油や溶剤抽出物であるアブソリュートがこの用途に用いられるようになりました。

  ※6 ニオイスミレ https://ja.wikipedia.org/wiki/ :Viola_odorata_Garden_060402Aw.jpg Viola odorata( 別名、wood violet, sweet violet, English violet, common violet, florist's violet, garden violet

バラと同じく香水の原料花として、古くから栽培されてきました。種子や根茎に神経毒ビオリンの他、サポニン、ビオラルチン、グリコサイドが含まれ、嘔吐や神経マヒ、心臓麻痺を発症することがあります。しかし、薬草として古来よりヨーロッパでは咳止めや消炎剤、目薬として利用されてきました。古代ギリシャでは花に含まれる鎮静作用を利用し、怒りを鎮めたり就寝時に使用しました。

※7 ルーアフザ Ruh-Afza

Ayeen Akbery: Or, The Institutes of the Emperor Akber, vol. 1によると;

『Ruh-afzaとは、香炉の中に燻べる固形香料。カシミール産のアロエ木5セール(1seer : 933g)、サンダルウッド1セール、ラウダナム(重量で約10%のアヘン粉末を含むアヘンチンキ)1/4セール、Akyfir1/4セール、乳香3 1/2トウラ(1tola : 11.7g)を含む。』とありました。

『得も言われぬ香り、回春 (ruh afza) の琥珀色の雲が金色と銀色の香炉から漂い流れ出ていく。』この一節はサイード・イムティアズ・アリ・タージ(Sayyid Imtiyāz ʿAlī Tāj 1900–1970、インド劇作家) が書いたウルドゥーの歴史劇「アナリカリ139」※8の中の一説ですが、劇の雰囲気をよく描写していると言われています。ジャハーンギールは若いころから飲酒癖があり、アヘン中毒であったこともこれで納得できます。

すでにイングランドのインド植民地化攻略が始まっていたことを窺わせる内容でもあります。

※8 アナリカリ( Anarkali、ウルドゥー語で انارکلی )

伝説によると、アナカリ(意味:ザクロの花)は、ナディラベグムまたはシャリフウンニッサが付けた名前で、アクバル王の妻または側室でした。

ある日、アクバル王は座って、手に鏡を持ってターバンを並べていました。アナルカリは彼のそばに立っていました。突然、サリム王子(ジャハーンギールの幼名)が部屋に入り、アナルカリに微笑んだ。彼女は挨拶を返しました。彼の鏡の中に(またはシシマハルの壁にある鏡、またはホールの鏡で)二人の間を通り過ぎるのを見たアクバルは、怒りで立ち上がり、アナルカリを生きたまま埋めるように命じました。

アクバルの死後、サリム王子が王になったとき、彼は彼女の遺骸をラホールに葬りその上に墓を建てました。

別の物語では、アナルカリはアクバルの首長の妻のメイドの召使いでした。サリムは彼女と結婚したかったが、アクバルはこの結婚に反対した。アナルカリがサリムへの愛情を捨てるというアクバルの命令を拒否したので、アクバルは生きたまま彼女をラホールに埋葬したのです。

アナルカリの存在を歴史的に証明するものはありませんが、映画、本、歴史の中に彼女はよく登場します。

お話は変わりますが、アナルカリ サルワール(Anarkali Shalwar)は、現在パキスタンにあるラホール発の女性用ドレスです。アナルカリスーツは、シャツを意味するカミーズとパンツからなっていて、いくつかのバリエーションがあります。ゆったりとしたサルワール、膝辺りから足首までがタイトになっているチューリーダール、裾がラッパ状に広がったベルボトム、全体的に下半身にピッタリフィットするスキニーパンツ等がポピュラーです。サルワールとチューリーダールはウエストが1m以上あって、腰紐をきつく縛って履きこなします。

アナルカリの名前は、ムガル帝国の皇帝アクバルの宮廷での遊女である架空のアナルカリに由来しています。伝説の上では、彼女はサリム皇太子との不法な関係のために殺害されたのですが、アナルカリという言葉は文字通り「ザクロの花、木の繊細な芽」を意味し、アナルカリを着用した女性に関連する柔らかさ、脆弱性、無垢、および美しさを示唆しています。

           

Anarkali suit アナルカリスーツ https://www.indiamart.com/proddetail/anarkali-style-hit-design-21266824891.html

 

 


ダマスクローズ 66

2020年06月08日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

パフュームといえば、美しい横顔と薔薇の香を愛でるようなうっとりとした表情の女性のポートレートを思い出します。北インド、ムガル帝国の第4代皇帝 Jahangir(ジャハーンギール、1569/8/31 – 1627/10/28 )の妃 Noor Jahan(ヌール・ジャハーン、1577/5/31 – 1645/12/17 )です。才色兼備の女性で、健康の優れない彼に代わって事実上の皇帝として政務に携わりました。

                  

                   Noor Jahan(ヌール・ジャハーン)  

         

                Jahangir(ジャハーンギール)

二人が手にしているのはそれぞれ、薔薇香水と薔薇の花。

 

ジャハーンギールは、『itr(イター:花から作るエッセンシャルオイル)を作り出したのは私が統治していた時代だ。妻ヌール・ジャハーンの母のアスマット・ベグムが作りだした。』と自伝トゥーズキ・ジャハーンギーリー(Tuzuk-e-Jahangiri)の中に書いています。

アスマット・ベグムがローズウォーターを作ろうと、瓶からローズウォーターを容器の中に注ぎ入れた時、表面に脂が浮いていたのを見つけました。一滴とって手の平で擦ると一度にたくさんの赤いバラのつぼみが咲いたような強い香りがしました。。彼女は沢山のローズウォーターを作るときにそれを少しずつ集めたのです。

他にこれよりも優れた香りはありませんでした。消えた心を回復させ、枯れた魂を取り戻してくれる香りがしました。

その発明への報酬として、ジャハーンギールは一連の真珠をアスマット・ベグムに贈り、彼女を激励しました。 これ以降、itrs※1 を使うことが王室で流行し、季節に応じて異なるitrs が使用されるようになりました。贅沢を競い合い、徐々に香水を使うことがライフスタイルとなっていったのです。 後期のムガル人は itrs をよく使用し、ハーレムカスケード、タンク、噴水に流れ込み、実際にそれらを浴びたと言われています。

ムガル時代には多くの香水が普及し、人々の間でも非常に人気が高まりました。次のようなものがあげられます。

 

肌を新鮮に保つために使った麝香(猫)、ジャスミン、ローズウォーターで作った香水。

Santukは肌を新鮮に保つために使用され、Argaja は夏に肌を涼しく保つために使用されました。

アロエウッド (aloewood)※2、チャンダン(chandan、サンダルウッド、白檀)※3、ラダン(ladan)※4、乳香(loban)※5、デュップ(dhup)、ニオイスミレ(banafsha)※6、チャリラ(chharila)、ローズウォーターを加えて作ったお香ルーアフザ(Ruh-Afz)※7。

龍涎香からの特別なプロセスによって準備されたお香グルカマ(Gulkama)。

ラダン、沈香、その他の成分を含んだ香りの石鹸(Opatna)。

沈香から作ったアビルマヤ(Abirmaya)。沈香でできた線香ブフール(Bukhur)とファティラ(Fatila)。沈香でできた石鹸バルジャット(Barjat)。シャンダン(サンダルウッド)から調製された石鹸Abir-Iksir。シャンダンで作られた液体石鹸ガスル(Ghasul)。

 

※1 itr(イター) https://littleindia.com/the-essence-of-life/ から

Itr gulab (イターガラブ; itr は香水、gulub は薔薇の意) 又は rooh-e-gulub(ルーガラブ;水蒸気蒸留で得たローズオイル)はムガル時代に発明された薔薇香水で、サンダルウッドオイルに花のエキスを溶かしたものを指します。itrはアラビア語で香水の意。又、itr はペルシャ語でローズオイルのことです。

2000年以上の歴史があり、インドではitrを使うことが今では生活の一部ブル・ファズル(Abu'l Fazl、1551/1/14 – 1602/8/12、ムガル帝国の宰相)がペルシャ語で『アクバル王は金と銀の香炉で線香と一緒にアタールを毎日使っていた。』とアクバル王の伝記の中に書き残しています。

itr の発見については諸説あります。アクバル王の伝記の中では、『ヌール・ジャハーンが思い付いた』と取り上げられています。彼女は浴槽の中に押しつぶした薔薇の花を入れるのが好きで、その時itrの中で一番高価で優雅な香りの Rooh Gulab を発見したのです。伝説によると、彼女が入浴したしたとき、一晩中冷やされていた水の上に油性の層を見つけ、これが有名なローズ香水を生み出すきっかけになったというのです。

又、ペルシャ人の母親が発見したとする人もいれば、17世紀に香水を発見したのは、タイフ ( Taif、サウジアラビア西部、マッカ州の都市) やローズイターの有名な中心地であるペルシャの普通の女性だとする人もいます。

ペルシャの香水についてはインドのお話が終わってからしようと思います。まだしばらくインドのお話は続きます。

    

※2 Lignum aloes(別名、沈香、Aloeswood, Agarwood, Ud, Aloes)  http://docsolomons.com/wp/about-lignum-aloes-aloeswood/

インドでは Gujarat, Achin and Dhanasari(グジャラート、アチン、ダナサリ)の沈香を利用しました。

  

※3 サンダルウッド https://jp.123rf.com/visual/search/50273551 文章はWikiから引用させていただきました。

サンダルウッド(ビャクダン、白檀、Santalum album)はビャクダン科の半寄生の熱帯性常緑樹。原産地はインド。インドでは古くはサンスクリットでチャンダナとよばれ仏典『観仏三昧海経』では牛頭山(西ガーツ山脈のマラヤ山(摩羅耶山 秣刺耶山))に生える牛頭栴檀(ゴーシールシャ・チャンダナ gośīrṣa-candana)として有名でした。栽培され、紀元前5世紀頃にはすでに高貴な香木として使われていました。蒸留して得たサンダルウッドオイルの主成分サンタロールには、殺菌作用、利尿作用の薬効成分があると言われ、薬用にも広く利用されます。また、気分の薬として胸のつかえをとり、爽快感を与えます。

   

※4 ladan ラダン https://blog.goo.ne.jp/takemotohana/e/8e86b607389c5a418eb792421e3acf43

キスツス・ラダニフェル Cistus ladanifer ( 別名rockrose, labdanum, common gum cistusハンニチバナ)。地中海西部沿岸地域原産の常緑低潅木、英名:Gum Rock-rose、葡名:Esteva、

 

葉と茎の腺毛からラブダナム(Labdanum)と呼ばれる芳香のある含油樹脂が採れ、香水の揮発保留剤として利用します。ラダニフェル( Ladanifer)は“ゴム樹脂を有する”の意で、香油中の蒸気圧、即ち揮発性を均一化するため(粘りを出すために)に使用します。

 

 


ダマスクローズ 65

2020年06月06日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

ペダニウス・ディオスコリデス(Pedanius Dioscorides)Material Medica AD 50-60 から — Common Rose, French Rose — Oil of Roses

『ローズオイル(Rosaceum oil)は次のように作ります。イグサ※を5ポンド8オンス、オイルを20ポンド5オンス用意する。イグサを水に浸して潰す。ボイルして混ぜる。20ポンド5オンスのオイルを漉す。乾燥した薔薇の花びらを1000枚入れ、手に蜂蜜をつけてこする。上下にやさしく擦る。一晩おいて押し固める。

澱が沈んだら容れものを取り替えて蜂蜜を塗った大きなボールに入れる。漉した薔薇を

小さなボールに入れてその中に濃縮したオイルを8ポンド5オンス入れて再び濃し、二回目絞りとする。3回目、4回目も同じように薔薇絞り、オイルを得ます。毎回内側に蜂蜜を塗った容れものを用意する。2度薔薇の花びらを入れるときは新しい乾燥した薔薇の花を使ってください。』

 

     ※イグサ ジュンクス・エフゥスス Juncus effususから引用させていただきました。

Rosaceumを軟膏、コンフェクションに利用したようです。イグサ(Juncus effusus )は古い書物にたびたび顔を出す薬草です。下のサイトからその薬効を教えていただきました。

 

王樹製薬「森田洋 著 驚くべきイグサの機能性~敷いても健康,食べても健康~」 2002 https://yasukagawa.com/html/igusamorita1.htm 

『利尿薬,消炎薬としてかつて使われていた経緯があるイグサですが、0157以外の多くの食中毒細菌や腐敗細菌に対しても抗菌作用がありました。イグサはどのような微生物に対して抗菌性を発揮したかというと,サルモネラ菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌026、0111(大腸菌0157と同じ腸管出血性大腸菌の仲間),枯草菌やミクロコッカス菌でありました。だいたいどのぐらいのイグサの濃度で抗菌性を発揮したかというと,イグサ濃度 0.78~100 μg/mlぐらいの範囲で抗菌性が認められました。イグサは酸性域で特に安定でした。腸内における有用な細菌類(Bifidobacterium bifidium,Enterococcus faecalis ,Enterococcus faecium, Streptococcus bovis)についても抗菌性は認められませんでした。』

古代ギリシャ、ローマの薬草学がいかに優れていたかを示す好例です。もう一例。

5-35. PINOS RODITES suggested : Rosa canina, Rosa rugosa—Rose Wine

Reditesの作り方。

『1ポンドの、乾燥させて叩いた薔薇を束ねて亜麻の布の中に入れる。それを8パイントの葡萄汁の中に入れる。3ヶ月後、漉して瓶に入れて保存する。発熱、胃の消化不良に、食事の後に1杯飲む。下痢の時にも同様に服用します。薔薇のジュースと蜂蜜を混ぜて作ったものはrhodomeliといって喉の荒れに効果があります。』

さらに遡って、紀元前のギリシャの植物学の祖といわれたテオプラストス( Theophrastus、BC371 –BC287)の『植物誌』から。

 

6.6.5 

『花びらの数、花びらの滑らかさ、色、香り、薔薇には様々な種類があります。殆どの薔薇の花は5枚、幾つかは12枚或いは20枚。たくさんの花びらの薔薇もあるそうで100枚の薔薇もあるそうだ。そのような薔薇はギリシャのピリッポイ(Philippi)近辺で育てていて、パンガイオンの丘※(Mount Pangaeus;カバラから約40 kmのギリシャの山脈の一部分。ヘロドトスも 『偉大なる山、銀、金を産するパンガイオン。』と讃えた。)から移植したということです。

内側の花びらは非常に小さい。香りがなくて大きな花びらではないもの。大きな花びらで花びらの裏側がざらついているものは香りがいい。よく言われているように、色と香りのいいものは土地柄が影響しているようだ。土が同じでブッシュの中で育っていても甘い香りのいい薔薇、香りのない薔薇はあるようだ。最も良い香りの薔薇はキュレネ(Cyrene;現リビア領内にあった古代ギリシャ都市)の薔薇だ。これで作る香水は最も香り高い。Gilliflowers(麝香ナデシコ)※の香りも他の花も、特にサフランの香りは(この花は場所によってばらつきが大きいが)この地のものが一番優れている。

薔薇は種から増やす事ができる。種は紅花やアザミ※ように花の下にある 'apple'(リンゴの形をしたもの )の中にあります。紅花やアザミにはうぶげがあるがそれは種の冠毛だ。種から育てると時間がかかるので、茎を切ってそれを植えているようだ。

薔薇の茂みは、焼いたり、切り取ると、今までよりも良い花が咲くようになります。 放っておくと茂りすぎる。 時々移植したほうがバラにとっていいようです。 野生種は茎と葉の両方が粗く、花も鈍い色の小さな花になってしまいます。』

   

                 ※パンガイオンの丘

https://www.ethnos.gr/travel/74132_dytiko-paggaio-potamia-faraggia-kai-paradosiakoi-oikismoi 

         

※ Gillyflower( 別名colve pink, gilliflower, ニオイセキチク )

中世ヨーロッパで料理にクローブの香に似ているので、その代用として盛んに使われたハーブです。

            

※ アザミ Chamaeleon gummife (カーリーナグミフェラ, キク科 チャボアザミ属 )

どこかで見たことのあるような内容だと思われるでしょう。少し前に引用したプリニウス(AD 23/24–79))の『博物誌』の中にありました。テオプラストス(BC371 –BC287)の仕事が如何に優れていたかを示しています。 

 

 


ダマスクローズ 64

2020年06月04日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

ヨーロッパ中世ではローズウォーターは薔薇の花を水の入った瓶に入れて作っていました。もう一度、今度は以前にお見せしたものとは別の絵を見ていただきましょう。

       

Aqua rosata da (BNF LAT 9333) scritto nel XV secolo. ミラノ版。

aqua rosata, 又はaqua rosacea, aqua rosaeは蒸留液を水又はオイルに溶かし込んだ混和液の意。

 

よく見ると瓶に蓋が付いているのが見えます。中世ヨーロッパでは単に薔薇の花びらを水の中に入れてその香りを楽しんだ程度で薔薇の花を水蒸気蒸留して薔薇のオイルをすくい取り、そのあとに残ったローズウォーターを利用するということはなかったと思われます。

 

ローマ時代どうだったでしょう。プリニウスの言を思い出して下さい。

『オイル漬けはトロイ戦争の時代から知られた方法で、今では軟膏として利用しています。弱い刺激性があることで貼り薬や眼軟膏として使うことも、また珍しい食べ物として、害がないので特別のごちそうをその花びらで包むという使い方をします。』

と言っていましたね。軟膏の基材はこの時代、油脂性でしょうから、油脂性軟膏剤を作る為に、薔薇の花から抽出したオイル(ローズオイル)を利用していたと考えられます。

 

DIOSCORIDES de MATERIA MEDICA

ペダニウス・ディオスコリデス( Πεδάνιος Διοσκορίδης[ ca.40 – 90, 古代ギリシャの医者、薬理学者、植物学者) の『薬物誌』から薔薇を2種引用しました。

    

Rosa lutea: From a copy of Pedanius Dioscorides’ De Materia Medica, By a Byzantine artist, 512.  http://exhibits.hsl.virginia.edu/herbs/vienna-disocorides

   

Rosa lutea biocolor

https://www.rosenschule.de/index.php/rosen/wildrosen/product/rosa-lutea-bicolor

ディオスコリデスの絵の正確さが、下の写真と比較するとよく分かります。

 

     

 

         
上の2つの絵は、イヤ、よく見るとRosa luteaとも同じ図柄です。色んなところで、色んな人が模写したものだから訳が分からなくなっているのです。どの絵にも「これはRosa gallica だ」と明記されていますが、極めて怪しい説明です。紀元後40-90年間に描かれた絵も、何度も引用されながら1,500年以上も経つと、都合の良いように変えられて正確に内容が伝えられていないのです。

              

https://www.biodiversitylibrary.org/pageimage/9500188 1563

New Kreüterbuch : mit den allerschönsten und artlichsten Figuren aller Gewechss, dergleichen vormals in keiner Sprach nie an Tag kommen /

この花はおそらくR. gallica を描いたものでしょう。この絵も植物誌の表紙絵などに引用されています。絵柄は最初の原典と同じだと思われますが、これは銅版画に活版印刷です。ディオスコリデスの絵の正確さが1563年という年月を経た時点でも確かなものであった証です。古代ギリシャやローマの方が中世ヨーロッパよりも本物の姿を我々に伝えているようです。そこで次は古代ギリシャの料理書から薔薇の料理をもう一度引用しました。 

 

 


ダマスクローズ 63

2020年06月02日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

ローズオイルとローズウォーターは共に薔薇の花を水蒸気蒸留して作るのが生産的なといいますか、商業的な方法です。アラビア式蒸留器の出現は9世紀にさかのぼります。BC50年にはアレキサンドリアに蒸留器が既にあったとようです。インダス川流域ではBC5000年から、パキスタン北東のパンジャブ地方 ( ラホールの南西約200kmのラーヴィー川左岸 ) ハラッパーではBC1900年の土器の蒸溜器が出ています。

  

 Deg-Bhapka excavated in the Indus Valley (1977, now in the Taxila Museum, Pakistan)

https://www.fragrantica.com/news/BWME-2019-Interview-with-Pranjal-Kapoor-12250.html

Deg(蒸溜容器)の中に薔薇の花びらやジャスミンを詰めてBhapka(受け器)よりも上に据え付けます。水を入れて加熱することで作業が始まります。   

インド北部のKannauj地方で花の香油を作る、4代目のM.L. Ramnarain Perfumersにインタビューした記事を引用させていただきました。記事と共に蒸溜器、ラクダの皮の容器、蒸溜器の中に入れられた薔薇の花びら、製品の一部分が紹介されています。

   

https://www.kannaujattar.com/blog/traditional-method-of-making-attars-using-hydrodistillation-deg-bhapka-method/ (一部分加筆してあります)

『銅製の蒸留容器、竹の冷却管を使い、レンガとねんどで作った炉の隙間をベントナイト(Fuller's earth)又は粘度で封をするという昔からの方法で薔薇オイルを作っています。それを昔から伝わるオイルの中に残る水分を吸い取る働きがあるラクダの皮で作った袋(kuppies)に入れます。』

                    

       

『Rose Oil(Ruh Gulab)、asmine Essential Oil(Ruh Motia)などShamama, Attar Mitti, Ruh Khus (Vetiver North India), Ruh Motia, Ruh Kewra, Ruh Mehndi (Heena), Zafraanといった伝統的なオイルをスチーム蒸留ではなく、水蒸気蒸留で時間をかけて作っています。ルー(Ruh)は、フローラルと根茎のエッセンシャルオイルを意味します。製品、製法は伝統に基づくもので、我々にとって非常に重要であることは勿論、神聖な存在でもあります。』

カナウジ( Kannauj、インドのウッタル・プラデーシュ州に属する都市。カーニャクブジャ(Kanyakubja)とも称し、古代から中世にかけて繁栄した北インドの古都。)で作られた香水。

https://www.amazon.in/Aromazeia-Mitti-Attar-Fragrance-Kannauj/dp/B01GDYE9NU

 

 


ダマスクローズ 62

2020年05月30日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

           

                    ローズウォーター

           食用 ローズウォーター Premium Flower Rose Water 240 ml

https://www.amazon.co.jp/ ローズウォーター-Premium-Flower-Rose-Water/dp/B07H738HMR から 

製品と絵はアマゾンから引用させていただきました。

『ローズは香りの歴史の中で一番欠かせない香りの一つです。クレオパトラや聖母マリアをはじめとして、歴史上のあらゆる女性を魅了してきました。ローズは芳香を楽しむことはもちろん、宗教的にも、美容や医療としても幅広く使用されてきました。 ローズ センティフォリアの主な生産国はチュニジアとトルコです。 ばらの花を水蒸気蒸留した100%天然のフラワーウォーター(フローラルウォーター・芳香蒸留水)です。 チュニジアに代々伝わる低温水蒸気蒸留法(32℃)で、職人の手によって丁寧に抽出された100%ナチュラル、ハンドメイドウォーター。低温で蒸留することにより、 香り成分の特徴がよく引き立つフラワーウォーターを抽出することが可能。 野生のバラのフレッシュな花びら100%を使用して作られておりますので、天然100%のフラワーウォーター。 精油や人工香料の添加による香り付けなどは一切していません。 また合成化学物質を含む防腐剤や添加物は一切使用していません。 1Lを蒸留するには5時間を要し、また40Kgの花びらを必要とします 【使用方法】 クスクスにまぶしてほのかなローズの香りを楽しむ。 マカロンやケーキ(アーモンド粉の焼き菓子)にしみこませる等。飲み物(コーヒーやお茶、清涼飲料水の香り付け、カクテルの材料として)等。ドレッシングの風味付けに数滴加えて。はちみつに混ぜて、ローズフレーバーはちみつに。家庭療法として25ml程を飲用する。(味が強すぎる場合は、コップ1杯の水に混ぜても)』

         

ダマスク ローズウォーター 500ml ブルガリアローズジャパンhttps://www.amazon.co.jp/

から引用させていただきました。

『商品紹介;全身のボディーケアやヘアケアにもお使いいただけます。ダマスクローズのやさしい香り。
原材料・成分;ダマスクローズ水・ダマスクローズオイル

使用方法;化粧水として洗顔後に。 紫外線をあびてほてったお肌に。パサついた髪、ブロー前にひと吹き。 お部屋にシュッとひと吹きして良い香り。汗のニオイが気になるときに。 洋服やハンカチなどのアイロンがけに。』

 

[136] ROSE PIE, ROSE CUSTARD OR PUDDING PATINA DE ROSIS

『花壇から新鮮な薔薇を摘み取り、葉を取り、花びらから白いところを取り除き、モルタルの中に入れる。ブロスを入れてすり潰す。ブロスを一杯入れて水切りで漉す。仔ウシの脳みそを4つ、皮と神経繊維を取り除いて用意する。8/24オンスのブラックペッパーを砕いて汁で湿らせ脳みそに擦りつける。その上に卵を8個、ワインを1グラス、レーズンワインを1グラス、少量のオイルを塗る。平鍋に脂を塗り、熱い灰の上又は湯にかけてその中に入れる。火が通ったら湯煎にかけて挽いたペッパーを振り掛けて提供する。』

 

中世ヨーロッパとローマ帝国とでは薔薇の使用目的が全く異なります。国の成り立ちが異なるわけですから当然なのですが、どちらの国も同じヨーロッパ大地の上に建っているわけですから、つい同等にみてしまいます。

   

※1ローズワックス ザ・プロダクト ヘアワックス ダマスクローズ 42g

https://www.amazon.co.jp/ザ・プロダクト-product-ヘアワックス-ダマスクローズ-42g/dp/B013DPEC6Q 

製品と絵はアマゾンから引用させていただきました。

『ヘアスタイリングはもちろん、髪・肌・リップ・ネイルなど全身に潤いを与え保湿ケアできるマルチなアイテム。デリケートな赤ちゃん肌の方にも。ダマスクローズの芳醇で甘美な香り。コンパクトなサイズで持ち運びにも便利。外出先でもこれ一つでヘアスタイリングから、あらゆるケアに活躍するマルチバーム。

原材料・成分:シア脂、ミツロウ、トコフェロール、ダマスクバラ花油、アロエベラ液汁   

        

   ※2ローズオイル ローズオイル;製品と絵はアマゾンから引用させていただきました。

ローズ ド マラケシュ ジェル ド アルガン - ローズ 15g( アルガンオイル 70%配合 保湿バーム) 

『材料・成分;アルガニアスピノサ核油、ミツロウ、ステアリン酸グリセリル、トコフェロール、香料、ゼラニウム油、ダマスクバラ花油

使用方法;適量を手のひらに伸ばし、ヘアスタイリングワックスとして、ハンドクリームとして、肘・膝・かかとの保湿としてお使いください。リップバームとしてもお使いいただけます。』

 

 


ダマスクローズ 61

2020年05月28日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

古代ローマで使われた薔薇製品は、シシリーのローズワックス※1、ローズオイル※2、ローズワイン※3が殆どで、生の薔薇はR. canina の花びらに限られています。

アピキウスの中には生の薔薇の花を使ったレシピが例外的にありますが、そのほとんどは薔薇の香りを生かした加工品です。アピキウスから2例引用しておきます。  

     

※3ローズワイン https://www.gettyimages.co.jp/detail/写真/rose-wine-alfresco-ロイヤリティフリーイメージ/157619922

 

ROSE WINE [1] ROSATUM

『ローズワインを作るには、薔薇の花びら、下の方の白い部分は取り除き、亜麻袋に入れてワインの中に7日間浸す。古い袋を取り出し、新しい花びらの入った袋を入れて7日間漬す。7日経つと古い袋を取り出し新しい花びらの入った袋を入れる。7日後にもう一度古い袋を取り出し新しい花びらの入った袋を入れる。ワインを漉し器で漉す。提供する前に蜂蜜を加え、味を調える。露の付いていないきれいな花びらだけを使う事に気を配る。』

[1] 『下剤として、薔薇のワインとバイオレットの花びらのワインを混ぜたものはよく効いた。』 と JOSEPH DOMMERS VEHLING 訳によるアピキウスには注意書きがありますが、これは花びらに含まれるソルビトールの作用によるものです。

現在ローズワインを作るには2種類の方法があります。一つは上のようにワインの中に薔薇の花びらを入れる方法。二つ目は薔薇の花びら自身をアルコール発酵させる方法です。

 

 


ダマスクローズ 60

2020年05月26日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

         

”The English Huswife Gervase Markham 著 1615. ” ではローズウォーターをマジパン、ソース、タルトのフィリングに、ゼリー、スパイスケーキ、オレンジマーマレードを作る際に使用。特にマジパン、ペア、リンゴ、プラム、チェリー、バーベリーで作るジェノア※にはダマスクローズで作ったローズウォーターを使うと述べています。

※ジェノア(Genoa)

                        

       ジェノアの型 https://www.historicfood.com/Quinces%20Recipe.htm

この木型は、上のサイトの説明によるとマジパンやジンジャーブレッドの成形だけでなく、1600年頃に流行ったマルメロ菓子であるクィダニー(quiddany)※1, コトニアック(cotoniack)※2, ジェノア(Genoa)※3のペーストに装飾模様をつけるためにも利用されていたようです。少し横道にそれますが、クィダニー、コトニアック、ジェノアについて触れておきます。

 

※1クィダニー(quiddany)

マルメロで作るキディニア( Quidinia)

Sir Hugh Platt Delights for Ladies (London: 1600) から

28.  マルメロを8個用意して種を取り1クォートの水に入れて、1パイントになるまで煮ます。そこに1/4パイントのローズウォーター1/4パイント、砂糖1ポンドを入れ濃い色になるまで煮ます。一滴取って皿の底に垂らし、それが固まったら水盤に入れたゼリーバッグの中に流し入れます。水盤を火にかけて熱します。スプーンで箱の中に必要量を入れて冷まします。冷めたらカバーをします。型の模様を付けるには、箱の大きさに合った型を用意してそれをローズウォーターで濡らして流し込みます。冷めたら型を取って箱の中に入れます。型を水で濡らすと、ゼリーが剥がれます。

 

※2コトニアック(cotoniack)

  

※ cotoniack  https://stapico.ru/photos/2239950040894085755/info/B8V5rHGHRp7

次の説明は上のサイトからの引用です。

『Quince marmalade(カリンで作ったマーマレード)はポルトガル語のマルメラーダ(marmelada のことで、marmela とは quince の意 ) です。ロシア語の marmalade がもとになっています。カタロニア語では codonyat、カスティリアーノでは embrillo です。古英語ではジェノアペースト、ジェノアマスティック( 厚めのマルメロピューレを平たくプレート状に伸ばしたもの )の名があります。16世紀にジェノバからイギリスに入ったと思われます。英語名の quiddanyまたは cotoniack( 透明のマーマレードそのもの )は、明らかにイタリアの cotognata そのものです。イタリアのシチリアでは、このマーマレードは少なくとも14世紀から知られています。

そして、マルメロのお菓子が東洋の初期に登場したという事実に疑いの余地はありません。イタリアのマルメロマーマレードまたはクロアチアの cotnyata は小さいがアレルギーの心配のない果物から作られた理想的なデザートでした。

コトニアータ(Cotoniata)はクロアチアの伝統的なデザートです。クロアチアではカリンに砂糖とレモン(ジュースと皮)を加え、ダンジャ(dunja)と呼んでいます。既製の cotyonata は数か月間は容易に保管できますが、クロアチアの主婦は月桂樹の葉を入れてガラス瓶に保管しています。』

 

それではジェノアはどのように作るのでしょう。Delights for Ladies から。

※3ジェノア(Genoa)

  1. マルメロのジェノアの作り方
    マルメロを用意して皮を剥き、スライスする。土器のポットの中に入れてオーブンで焼く。1ポンド取り出して濾し、砂糖を1/2ポンド入れてモルタルの中で潰す。ペースト状になったら型で押し3-4回パンを焼いた後に入れて、(低温で)乾燥させる。すっかり乾燥して固くなったら箱の中に入れておく。一年間は保存がきく。      

  

 イタリア、シチリアのアンティーク Sicilian Antique Forms for Cotognata

  

   https://theheirloomchronicles.blogspot.com/2014/04/quince-paste-antique-forms-for-cotognata.html                                                

マルメロのソースに砂糖を適量入れて濃いペースト状になるまで煮詰めます。

スペインでは membrillo といいました。ギリシャ、ローマ、アラブには昔からあったものです。ポルトガルでは marmelada ( マルメロのペースト、マルメロのジャム、マルメロのチーズ  ) と呼ばれ、14世紀になると、マーマレードを特別の型に流し入れて近隣諸国に輸出していました。17世紀のイングランドでは、現在のビターオレンジを使ったマーマレードの先駆けともいえるマルメロのペーストを使った quiddany や cotoniack がありました。イングランドで使われていた ”Cotoniack” はカタロニア由来、“Genoa” はジェノバ由来の名前であることが理解いただけたと思います。”quiddany”  は勿論 quince からきています。

マルメロに含まれる大量のペクチンを利用して砂糖で煮固めたお菓子は、アラブ文化の賜です。今日、似たものにペクチンを使ったパートドフリュイ( Pâte de fruits )があります。

ペクチン【ポリサッカライド ( デンプン ) の一種で1825年フランスのHenri Braconnot( アンリ・ブラコノー、1780/5/29 – 1855/1/15 )が初めて抽出したものです。】はメチオキシール ( methoxyl : -OCH3 )の数によって二つに分類されます。沢山のメチオキシールがついたペクチン (High-methoxyl pectin ) は低いpH のもとで沢山の砂糖 ( 約55 % ) を溶かした状態でゲル化します。これを利用して果物のジュースを固めたものがパートドフリュイです。
絵右上から左回りにレモン、ブルーベリー、オレンジのパートドフリュイです。表面にはアラレ糖をまぶしておきました。                                

 

                                   

 

 

 

 


ダマスクローズ 59

2020年05月24日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

タキュイナムサニタティスに描かれたガラスの瓶に関連するのお話をしようと思います。あれはローズウォーターを作るための容器でした。ヨーロッパでは1350年頃からローズウォーターを使った料理が料理書の上に登場し始めます。

イングランドでは1550年の“A Proper newe Booke of Cokerye、Matthew Parker, Archbishop of Canterbury, and Margaret Parker his wife.著.” 頃からですが、ドイツは1450年、イタリア、フランスは1300年代の料理書の中に登場します。十字軍の遠征による影響、その後のタキュイナムサニタティスのヨーロッパ各地への拡散速度を考えると各国の料理書への登場年代に納得ができます。下に十字軍の遠征地とその年代を引用しておきました。

   

https://sekainorekisi.com/download/ 十字軍の遠征路とラテン帝国地図/ 

これが1096年から始まる十字軍遠征路です。この地図とペルシャの地方政権乱立期の地図とを比較すると、十字軍遠征とその影響を受けた地域と程度がどれほどのものであったかを知ることができます。

   
                 ペルシャの地方政権乱立期

1096年の第一回十字軍遠征時,1055年にアッバス朝からセルジュク朝に、1118年にはイラク・セルジュク朝が建ち、アッバス朝はその庇護下に入ります。目まぐるしい変遷を遂げるのですが、

  

         ローマ帝国の最大領土 https://sekainorekisi.com/glossary/ 

振りかえってローマ帝国の領土と比較すると。ローマ帝国は476年に東西に分裂し、480年、オドアケルにより西ローマ帝国は滅亡し、1453年オスマン帝国により東ローマ帝国が滅亡します。 1922年 に滅亡するまでオスマン帝国はヨーロッパ諸国が東方へ向かう出口を塞いでいたとみることができます。

      
               オスマン帝国の最大領土(1683年)

 

           


ダマスクローズ 58

2020年05月22日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

やっと咲きました。

 

 

この枝が冬から注目してきた枝です。七輪花が付きました。細い枝なので隣の枝の方が花が多くついています。あと3-4日で、花が散る前に枝の根元から切り落とします。名残惜しいなあ。

 

全体はこんな感じです。朝、下を通ると匂ってきます。一年間毎日面倒を見てきた苦労が吹き飛ぶ瞬間です。

 

 

 

  


ダマスクローズ 57

2020年05月22日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

※4シルクロード Achaemenid Persian Empire at its greatest extent, showing the Royal Road.

王の道( Persian Royal Road)はアケメネス朝(BC550 - BC330)にペルシャ帝国の大王ダレイオス1世によって、紀元前5世紀に建造された古代の公道。王都スーサからサルディスに至る(地図中央の茶色の線で示された)道路。交通と通信を容易にするために建設しました。道には宿駅が設けられ、守備隊が置かれていました。

スーサからサルディスまでの 2,699 kmを7日間で旅することができ、歴史家ヘロドトスは、「この公道を利用したペルシャの旅行以上に速い旅は、世界のなかでも他にはない」と記しています。

 

この頃には既にダマスクローズはこの道を通ってローマに入っていたというのです。

  

Central Asia during Roman times, with the first Silk Road

東西にシルクロードが走り、それと直角に交差して南から北に延びてアラル海に注ぎ込んでいるのがアムダリヤ川です。(地図左の、縦に伸びる細い線がそれです)

 

The Silk Road in the 1st century 1世紀頃は海路でローマに入っていたようです。この地図では書かれていませんが、アレキサンドリアを南に(地図上にEthiopiaと書かれているところ)、ナイル川を下って南に、ナイルの低地を船で東へ進路を取りインド洋に出るコースもありました。古来から運河を引く計画が何度も出ては立ち消えになった地域です。

             

  ※5 ダデス峡谷 https://amanaimages.com/info/infoRM.aspx?SearchKey=20062039786 

これら2枚の絵を見ていると、プレニウスがNaturalis Historia の中で『薔薇は湿地よりも乾燥地にあるほうが香り高く、肥えた土地でなくても、粘土質であっても、灌漑されていない土壌でも育ち、瓦礫の荒れた土壌にも好んで生長します。』と述べていたのを思い出します。

                     

※6イスラム国 http://www.jlifeus.com/e-pedia/09.ZZgrass/02.Eurasia/text/01.persia.htm  

700年にはすでにウマイヤ朝がイベリヤ半島の大部分、シシリー、コルシカ、サルディニア島、イタリア半島南部、モロッコ、アルジェリア、リビア、エジプト、アラビア半島全域、トルコ西部、アルメニア、アゼルバイジャン、イランの全域を、トルクメニスタンとウズベキスタン、アフガニスタン、パキスタンの一部を領土としています。首都はダマスカスです。

 

 


ダマスクローズ 56

2020年05月20日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

    

                 ※2 ロサ ルゴサ;R. rugose 

絵と文章をWikiから引用させていただきました。

ロサ ルゴサ(R. rugose、ハマナス、玫瑰)は、落葉低木。夏に赤い花(まれに白花)を咲かせる。根は染料、花はお茶などに、果実はローズヒップとして食用に。東アジアの温帯から冷帯にかけて分布し、日本では北海道に多く、太平洋側は茨城県、日本海側は鳥取県を南限として主に海岸の砂地に自生します。現在では浜に自生するものは少なく、園芸用に品種改良されています。

1 –1.5メートルm の落葉低木で、幹は叢生して茎は枝分かれし、短い軟毛とまっすぐな刺が密生する。葉は奇数羽状複葉で、小葉は通常3対、5枚から9枚つき、葉柄には半ば合着した大きな托葉がある。葉身は楕円形、葉脈に沿って網状に凹みがつき、裏面に凸出しており、葉縁に鋸歯がある。

花期は5 - 8月頃、枝先に1 -3個ほど紅色の5弁花を咲かせ、芳香がある。8 - 10月に結実する。果実(偽果)は扁球形、径は2 – 3 cm で黄赤色、通常は無毛でまれに小さな刺があり、弱い甘みと酸味がある。芳香は乏しい。

花は精油を含み、主な成分はゲラニオールで、その他シトロネロール、ノニルアルデヒド、シトラール、リナロール、フェニルエチルアルコールなどで、これらの精油は、延髄中枢を刺激して血流を促し、血管拡張などの作用があるといわれています。

果実はビタミンC、カロテン、ピロガロール、タンニンを豊富に含んでいます。

花を陰干ししたものは生薬、玫瑰(まいかい)と言い、漢方では6 - 8月に採取して天日乾燥した花蕾は玫瑰花(まいかいか・メイグイファ)と呼ばれます。八重咲きの種の花蕾もハマナスと成分が同じで、同様に取り扱われています。玫瑰花には、鎮静効果、血の流れを良くする作用があり、ストレスによる胃痛や下痢、月経不順に熱湯を注いでお茶にします。民間療法では、矯味、矯臭、抗炎症薬として月経不順、リウマチ、打撲にお茶として服用。完熟前の橙黄色の果実を35度の焼酎に漬け、暑気あたり、低血圧、不眠症、滋養保険、疲労回復、冷え症などに就寝前に盃1杯程度を飲用します。アイヌの間では腎臓の薬として、むくみの解消に根や実を煎じて飲んでいました。

 

R. rugose、R. Fedschenkoana はキンナモメア節(Cinnamomeae) に分類されています。東ヨーロッパから東アジアに至る広い範囲に分布しています。

  

   

             ※3 ロサ フェドチェンコアナ;R. Fedschenkoana 

絵と文章をWikiから引用させていただきました。

中央アジアと中国北西部のアラタウ、天山、パミールアライ山麓が原産地の原種ばら。白の一重咲き。葉は灰緑色で小型。わずかな芳香があります。秋に橙赤色の剛毛が生える細長い実をつけます。落葉性で低木を形成します。枝は多くのとげで覆われ、羽状の葉は淡い灰色がかった緑色で、7〜9枚の葉があり、花は白色、幅は最大5 cmで、夏の数か月間枝の先端に単独または小さな房で生えます。小さな洋ナシ形の剛毛のオレンジと赤の果実がつきます。最近のDNAの研究で、R。fedtschenkoanaがダマスクの親の1つであることが発見されました(他の種はR. moschataとR. gallicaです)。これは、R. fedtschenkoanaが数少ない返り咲きワイルドローズの1つであり、一部のダマスク(秋のダマスク)の繰り返し開花の性質を説明しています。

 

 


ダマスクローズ 55

2020年05月18日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

赤い花がより赤く、白い花がピンクっぽく。その個体に特異な形質が表現されるポイントが遺伝子のどの場所に起因するのか判っている場合、もしくは特異な形質が表現されている個体を比較して原因となっている遺伝子上の場所を探る場合、2つの方法があります。一つは特定のDNA部位を増やして遺伝子の機能を調べる方法です。二つめは特定の遺伝子配列を読む方法です。

一つ目の方法にPolymerase Chain Reaction (ポリメラーゼ連鎖反応)があります。この方法は今話題のPCR検査法と電気泳動法を組み合わせた方法です。

調べたいDNA部位を抽出し、そこにプライマー(標的DNA領域に相補的なおおよそ20塩基対かそれ以下の長さの短いヌクレオチドの一本鎖DNA。自動合成装置によって自動的に合成できる。) DNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)、材料となるヌクレオチドを入れます。

二重らせん構造になっているDNAに90°の熱を加えて熱変成をさせて1本の鎖にします。次に55〜60度に冷やすと、1本鎖のDNAにプライマーが結合します。(相補性を利用しているわけです)

すると、そこを起点としてポリマラーゼの働きで材料となるヌクレオチドに相補性が発揮されて並べられ、1本鎖と対になるDNAが合成されていきます。これを1回おこなうと1本だったDNAが2本に、2回繰り返すと2本だったDNAが4本に、3回繰り返すと4本が8本にという具合に増えて、n回繰り返すと2n 乗個になります。結合させるプライマーをあらかじめ設計することによって必要な部位の、特定箇所のDNA断片だけを作り出せることになります。これがPCR法です。下の絵を見ながらもう一度読むとよくわかります。

ポリメラーゼは火山活動の盛んな原始地球環境(高温,嫌気的,無機的)でも生育できる超好熱菌から得た酵素で耐熱性にすぐれ90℃の熱にも活性を失いません。

 

     

PCR法は、試薬を混交したDNA溶液の温度を上げて下げる、という一連の熱サイクルによって動作します。このDNAサンプルの加熱と冷却の繰り返しサイクルの中で、二本鎖DNAの乖離、プライマーの結合、酵素反応によるDNA合成、という3つの反応が進み、最終的に特定領域のDNA断片が大量に複製されます。

 

アガロース(寒天)やポリアクリルアミドゲルはたんぱく質を分離するのに適当な孔をもつ網目構造になっています。この性質を利用します。上で作ったDNA断片をゲルの中に入れ電気を流します。泳動距離は分子量の大きいものほど流れにくいことを利用します。(PCRによりDNAを増幅し目的の遺伝子を確認するため、制限酵素処理を行った後、電気泳動を実施します。)。電気泳動でその出現パターンを比較して(対象植物が)同じ種であるか否かを識別します。

 

二つ目はDNAシークエンシング (DNA sequencing) です。DNAを構成するヌクレオチドの結合順序(塩基配列)を見るために蛍光標識法を用います。蛍光標識すると、4種類の塩基に対応したそれぞれの波長が異なる蛍光色素で標識することができます。またX線フィルムの代わりに撮像素子を使うことでより迅速・簡便に利用できます。

『R. ×damascenaがどの薔薇との交雑の結果生まれたのか』と言う疑問に答えてくれるヒントのひとつがR. moschataや、R. fedschenkoanaの生息地です。

2017年に表された学術誌;“The Silk Road Hybrids” Robert E. Mattock MSc.。https://purehost.bath.ac.uk/ws/portalfiles/portal/187911419/The_Silk_Road_Hybrids.pdf

に次のような一文があります。要約の部分をご紹介します。

(著作権上、ここから先に引用する絵、図表等はわたしが独自に描いた、撮った、あるいは別の場所から引用したものを掲載することになります。)

 

要約

『 二期咲き(返り咲き)の遺伝子を移入したのは、中央アジアに分布していたR. chinensis ※1とR. rugose※2、それにウズベキスタンに広く分布するR. fedschenkoana※3だけであると思われてきました。

これに代わって、このレポートでは、紀元約3500年前から始まった文化交流の結果、R. ×damascenaに二期咲きの遺伝子が入り、ダマスクローズという園芸上の名前を持った薔薇が、はるか中央アジアのアムダリヤ川流域からローマに、BC300年までに入っていた事実を明らかにしています。

この論文は、DNA分析を2,000例の薔薇におこなった結果、ダマスクローズの親がR.gallica, R. moschata, R.fedchenkoanaであることを突き止めたlwata らの研究を追認する内容になっています。ダマスクローズの親達を地図上にプロットすると互いに重なっていることが最近見直されました。重なりは3つの親間の自然交配種だけではなく、アムダリヤ川流域内に位置しているR.×damascenaの発祥地ともダブっていることを示していました。

古代ローマ人のColumella, Dioscorides, Pliny, Theophrastus, Virgill らがダマスクローズの花びらを使ったローズウォーターの生産地点、日付、プロセスを書き残しています。ダマスクローズとローズウォーターの間には文化の連携があります。中央アジアからペルシャを通ってトルコ、中東からローマへとつづくローズウォーターの生産地を地図上に描くとシルクロードとの関係が証明できます。

2015年、古代ローマ時代のシルクロード※4沿いに位置する野外で、類似の気候をした、乾燥地、厳しい気候、暑い場所を選んで調査が行われ、モロッコのダデス峡谷※5で薔薇の繁殖、栽培を試みることになりました。その結果ローズウォーターは少なくとも4000年以上の間、中央アジア、ペルシャ、中東、地中海地域で宗教儀式に使われていたことを反映する結果を得ることができました。驚くべきことに、ダマスクローズと関連した宗教上の拡がりを持つものはイスラム教が広がる700年※6までは一切その姿を見出すことができませんでした。それよりも古代ローマ人が書き残していたローズウォーターの医用、衛生、消毒、香りとしての利用が広く行き渡っていました。ローズウォーターの薬効性の研究とそれを使っての慢性疾病に対する、治療方は広い範囲で、ローマにあった時と同じように中央アジアに受け継がれていました。

結論を言えば、人間の健康、香りに対する欲求がR.×damasceneに二期咲きの特性を持たせるとともに、BC3500年に中央アジアからBC300年のローマへと生育範囲を広げました。この文化交流にもかかわらず、18世紀までダマスクローズが園芸種として西方に拡散したという証拠がほとんどありませんが、以来、ダマスクローズは二期咲の、大きな花びらをした、香りのよい特性をもって今日の園芸家に愛されています。』

 

  1. ×damascenaがどの薔薇との交雑の結果生まれたのかは議論の尽きないところです。あのイギリスの園芸家Peter Bealesにしても結論の出せない問題であったと思われます。自著CLASSIC ROSESの中で『ダマスクローズはガリカ節と緊密な関係があるとは思うが、他の薔薇との関係を調べれば調べるほど判らなくなる。薔薇の一飼育家としては他の人の言うことに従うか、従おうとするしかない。』と述べています。

Iwataらの論文の内容についても“The Silk Road Hybrids”では触れていますので、これに沿ってお話を続けようと思います。R. ×damascenaはR. chinensis、R. rugose、R. fedschenkoanaとの交雑種であるとする説があります。一方で、R. rugoseの代わりにR. moschata を押す説があります。これにどんな説明で臨もうとするのか、Mattock, Robertが本文内で明らかにしようというのです。

       

            ※1 ロサ キネンシス;Rosa chinensis

絵はhttps://www.gardensonline.com.au/gardenshed/plantfinder/show_3188.aspx から、文章をWikiから引用させていただきました。

ロサ キネンシス(Rosa chinensis, 月季、和名. コウシンバラ、庚申薔薇)貴州省、湖北省、四川省が原産地。高さ1-2mの四季咲きの常緑低木。葉は羽状に3-5枚、長さ2.5-6cm・幅1-3cmの小葉が開く。直径1-2cm の赤い実ができる。中国で栽培され品種改良が加えられた(野生種は一重咲き)。多くの品種改良に重要な品種で、花と実は、生理不順、甲状腺の腫れに効能があるとされ、中国漢方薬として使用される。

                               

 

 


ダマスクローズ 54

2020年05月16日 | ダマスクローズをさがして — Ⅱ

※4RAPD ( Randomly amplified polymorphic DNA ; 無作為増幅多型DNA)

PCR (Polymerase Chain Reation) 法と電気泳動法を組み合わせた、遺伝子分析法です。

薔薇のように挿し芽や株分け、自家受粉で繁殖する植物は、他の個体との自然交配の機会が極めて少ないので品種内のDNA塩基配列がほぼ一定で変化しがたい条件がそろっています。DNA分析で種を判断するには好都合の条件が整っているといえます。DNA塩基配列を分析することで植物の表現型(品種内の個体間では相同ですが、品種間では相違がある領域)を検出することが可能になります。

 

その種にとって特異な塩基配列(多型)を示す部位(ローカス)を鋳型(テンプレート)にして、これと相補的な配列を持つDNA断片(プライマー)を増幅させるPCR法では試料と異なるサンプルが混入した場合、プライマーの結合に差が生じランダムプライマーで増幅されるDNA断片のサイズ、数が異なることがあります。アガロースやポリアクリルアミドゲルを使った電気泳動でこの欠点を補うのがRAPD法です。識別性の高いプライマーを使用することが重要になってきます。

 

アガロースやポリアクリルアミドゲルはたんぱく質を分離するのに適当な孔をもつ網目構造になっています。これを利用して分子の大きさに応じて荷電しているDNA核酸分子をゲル内に注入して電気を流します。泳動距離は分子量の大きいものほど流れにくいことを利用します。(PCRによりDNAを増幅し目的の遺伝子を確認するため、制限酵素処理を行った後、電気泳動を実施します。)。電気泳動法でその出現パターンを比較して対象植物が同じ種であるか否かを識別します。

 

※5 DNAの内部転写スペーサーをシーケンシングする

Internal Transcribed Spacer (内部転写領域)は、分類や同定の際利用する領域のことです。短い一本鎖のDNA(プライマー)を使ってPCRで増幅し“内部転写領域”の塩基配列を決定、比較して種を同定することです。

                                    

上の文章は内容が判っている方が読むと、成る程その通りなのですが、始めて読む方にはなかなか取り付きにくい内容かもしれません。幾つかのサイトをつなぎ合わせてできるだけわかりやすくを心がけて作った解説ですが、解説文としてのは賛同は得られ無いかもしれません。

もう少し頭の中を整理しないといけないと思い、ネットを見ていると「家庭教師のトライ:https://www.youtube.com/watch?v=ZVpNtN9f4K0 」で高校生向けの講義をしていました。すごいですねえ。最近はほんとうに難しいことを習っているのですね。もうびっくり!!「これは基礎からやり直さないと。」と心底思いました。

 

そこで次のサイトからもう少しわかりやすい説明を引用させていただきました。(一部分書き足しています)http://www.jfmda.gr.jp/devicekikaku/topix/09/page_02.html

 

DNA分析に関する事柄はこれからのお話を進める上で大切なところなのでしっかりと頭の中に整理しておこうと思います。若い方で必要ない方はスキップしてください。( )の中は飛ばして読んでも大丈夫です。

 

下図は、ヌクレオチドの構造です。

          

                           ヌクレオチド

      https://lifescience-study.com/1-structure-and-properties-of-dna-and-rna/ 

DNA(デオキシリボ核酸 Deoxyribonucleic acid)は、ヌクレオチドの重合体で遺伝子情報を担う物質で、細胞内の核の染色体の中にあります。

ヌクレオチドは、デオキシリボースにリン酸と塩基が付いた構造をしています。塩基にはアデニン(A)、グ アニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)の 4 つの種類があり、 A と T、 G とCがそれぞれ水素結合した相補的結合(AにはTが、GにはCが必ず付くという結合)をしており、二重らせん構造を取ってDNAを作ります。

            

           デオキシリボース https://idenwatch.com/seikagaku6-1/ 

 

(五角形の形をしたのが炭素が5つつながったデオキシリボースという糖。

炭素には右側から右回りに1’ から5’ までの番号が付いていて、1’ 番目に塩基が、5’ 番目にリン酸が付いてDNAの基本構成単位であるヌクレオチドが形成されます。)

https://lifescience-study.com/1-structure-and-properties-of-dna-and-rna/

4種類の塩基とリン酸の付いたヌクレオチドが連結して、ヌクレオチドの鎖が形成されます。デオキシリボースの5’位の炭素と3’位の炭素の間をリン酸基がつないで鎖状になります。

(このリン酸を介した結合をリン酸ジエステル結合:ホスホジエステル結合といい、下の図のように、糖とリン酸が交互に連結してポリヌクレオチド鎖の骨格を作っています。塩基は、この糖—リン酸骨格から突き出す形でデオキシリボースとつながっています。)

http://nsgene-lab.jp/dna_structure/basic_structure/ 

(ここで重要なのは、ポリヌクレオチド鎖には方向性があるということで、ポリヌクレオチド鎖が形成されたとき、リン酸基の付いたオキシリボースの5’ 位の炭素が向いている側を5’ 末端、OH基の付いたデオキシリボースの3’ 位の炭素が向いている側を3’ 末端といいます。)

 

遺伝子はDNAが複製されることによって次世代へと受け継がれていますが、どうやって複製するのでしょう。DNAは二重らせん構造となっており、そのらせん(2本鎖)がほどかれ、1本の鎖になったところに相補的な鎖が新たに作られることで複製されます。それができるのは、おさらいになりますが、DNAを構成する核酸にはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基が配列されており、AはTと、GはCとしか結合できない。ほどかれたDNAのAの塩基にはT、Cの塩基にはGがくっつくことで、相補的なDNAが合成されるからです。

 

ここまで押さえておくと後のお話がスムーズに進みます。