「でも、ドームが成功すれば俺、そんなことなくなるからさ」
「…」
諒の、やや悲しげな言葉に麻也たち三人は何も言えなかった。
すると諒はこんなことを言い出した。
「高校の学園祭から始まって、小さなライブハウス、都心の大きなライブハウスでメジャーデビューが決まって、ホールでお披露目。そしてツアーやって会場が大きくなっていって、夢の渋谷公会堂。信じられなかった武道館…それが俺達ミュージシャンの双六じゃない? それで、最も幸運な、特別な最高の上がりは東京ドームだ」
この90年代は、サウンドもビジュアルも煌びやかなロックが花開いた時代だった。
ファンもその中から勢いのあるバンドに夢中になり、東京ドームを成功させることは、
殿堂入りのように称賛した。誇りにした。
「でも、武道館までかなえても俺は、麻也さんのパートナーである自信が実は無かったんだと思う。だから何も悪くない麻也さんを疑って傷つけた」
しかし、諒の悲壮感を拭うように直人が、
「でも諒、玄関で麻也さんと諒の笑顔見た時、やっぱり運命の二人なんだって思って安心したよ」
真樹もしみじみと、
「さらに、諒が言うとおり今度のドームで、俺たちトップのうちのひとつになるんだよね。そしたら…もう諒の兄貴との恋愛での不安材料がなくなるんでしょ」
諒は難しい顔をしてうん、とうなずく。
やや重い空気になってしまった。
また憂うつになった麻也は冗談に紛らすしかなかった。
「ドームの先は海外進出、ってなるのかな?それなら、ドームが終わっても諒のえっちが下手なら、俺、海外進出する」
「はあ?」
みんな目を丸くした
諒は真っ青になって叫んだ。
「そんな…俺下手なの? 」
「兄貴!」
「そういう話じゃないでしょ!」