2012年 谷 瑞恵
主人公の飯田 秀司は、ある地方都市の商店街で時計屋さんを営んでいます。時計屋さんのかんばんが「思い出の時 修理します」となっていて、時計の「計」の字が消えていて、これが本の題名になっています。おじいさんの代からの時計屋さんをやっていて、今は時計の修理がメインです。秀司は若くしてスイスで時計の製作を学んできており、独立時計師を目指してますが、事故でお兄さんを亡くしたことがきっかけで前に進むことができないでいます。
もう一人の主人公である仁科 明里は、大手美容チェーンで美容師をしていましたが、恋人の上司に裏切られ、美容チェーンをやめて時計屋さんの向かいにある元美容室に引越してきます。その美容室は、子供の頃にひと夏お世話になった家(母親の元恋人の実家です)で、小さい頃の思い出があります。
5つのショートエピソードを通して物語が進行していき、二人に関わりのある人が登場し、思いで深い写真や服、日傘などをとおして、思い出の深部まで降りていき、登場した人の叶えられなかった想いなど絡まった思い出の糸が不可思議な奇跡を通して解きほぐされていきます。最後には、秀二や明里の心の傷までが癒やされます。二人の恋の物語に入りそうなところで第1作目は終了しています。
ブックカバーの絵を見ていると、作者はこの絵を見ながら物語を書いたのでは?と想うくらい、物語と良くマッチしています。秀司と明里は幸運な偶然と的確な推理で思い出の時を修理していきます。まるで神様が後ろについているような・・・、ひなびた商店街全体が必要な時には裏の世界で動いて登場してきた人の心の深部まで入り込んで思い出の時を修理しているような、それでいて各エピソードの最後には推理小説のように解明されていきます。派手さはありませんが、とても落ち着いた読みやすい物語でした。