アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件 和睦推進派の結束

2022-10-13 11:14:23 | 漫画
           赤穂事件 密会騒動



浅野内匠頭
「御台所様は、お見え為さりませんので
日を改めて打ち合わせする事と致しました」

吉良上野介
「何だと!」
「会わずに帰ってきたのか!」

・・・・・それでは、段取りが狂うぞ 如何するか?・・・・・

浅野内匠頭
「北の丸新御殿での打ち合わせには問題が御座います」
「場所を改めて頂きたい」

吉良上野介
「左様か・・」

浅野内匠頭
「某、御台所様と二人で会う事は遠慮致したい」

吉良上野介
「我儘を申すな!」
「御台所様は勅使・院使のもてなしを良く知っておるし
上様の好みも承知しておる」
「勅使御馳走人は、御台所様から
直接指示を受けなければ為らん」
「北の丸新御殿が嫌なら
大奥に出向け!」

浅野内匠頭
「御指南は、
上様は何でも御召し上がり為さると
申しておりましたので
鳥肉、魚、海老、貝などの食材を
取り寄せる段取りをしておりましたが
仙台殿には精進料理にするようにとの御指示」
「変更で御座いますか?」
「素菜、素食での宴席と為りますか?」

吉良上野介
「精進日の宴席だけは精進料理となるのじゃぞ
左様な事は、いちいち指図されなくても分かる事」
「くだらぬ質問をするな!」

浅野内匠頭
「申し訳御座いません」
「では、素菜、素食は精進日のみに致します」
「某、不勉強で御座います・・」
「精進日を教えては頂けませんか?」

吉良上野介
「それは、決まってはおらん」

浅野内匠頭
「えッ」
「左様で御座いますか?」
「・・・・」
「精進日が分からねば
料理は用意出来ません・・」

吉良上野介
「だから、
御台所様と打ち合わせせよと申しておるのじゃぞ!」

浅野内匠頭
「しかし、某が大奥に近づくと
奥女中が騒めくのを感じるのです」
「某は、大奥には近づかぬ方が良いかと・・」

吉良上野介
「儂ならは、大奥に立ち入っても宜いと申すか!」
「儂に出来る事ならば
其方にも出来る」
「其方、大奥に行け!」

浅野内匠頭
「・・・・・」
「左様な事は・・・」
「やはり、ご指南にお願い致しとう御座います」

吉良上野介
「御台所様は、其方と打ち合わせしたいと願っておられる」
「儂が、代わりに行ったりしたおりには
御台所様、お怒りに為りますぞ!」
「御台所様は、お待ちかねぢゃ!」
「儂が、段取りするから
大奥で打ち合わせをしろ」
「今度、会わずに帰る事をすれば
御台所様は、許さぬと仰せじゃ」
「其方が、行くのじゃ!」

浅野内匠頭
「では、ご指南と共に参上致します」
「上様とご指南、そして、某が揃い
御台所様との打ち合わせに臨みとう御座います」

吉良上野介
「上様は、其方を良き御犬にしたいのじゃぞ」
「上様は、其方を寵愛為されておられる」
「上様は、其方が御台所様と親しくなることを望まれておられる」
「其方が御台所様と結ばれれば
上様はお悦び為される」

浅野内匠頭
「では、尚更で御座る」
「某、御台所様と二人きりで会う事は出来ません」

吉良上野介
「駄目ぢゃ!」
「其方は、御台所様と結ばれる運命ぢゃ!」

浅野内匠頭
「無茶を申しては為りません!」
「某、左様な恐れ多き事
絶対に出来ません!」
「如何してもと申せば」
「其方を切り伏せますぞ!」

吉良上野介
「儂を切っても解決せんぞ」
「それが嫌ならば、お主への指南はせん!」

浅野内匠頭
「んんんゥ」
「仙台殿と共にやる」
「儂は、仙台殿に従う!」

吉良上野介
「赤穂と仙台は絶縁関係じゃ」
「仙台から断られる」
「無駄じゃ」

浅野内匠頭
「儂は、仙台殿に頭を下げ
協力を仰ぐ」

吉良上野介
「無駄ぢゃ!」
「仙台には
儂から圧力をかけておる」
「絶対に赤穂には協力しない」
「よいか!儂に従へ!」
「お主は、御台所様と結ばれる運命ぢゃ!」
「二人きりで密会するのじゃぞ」
「お主に逃げ場は無い」
「諦めろ!」

浅野内匠頭
「んんんゥ」
「上様にお会いして、
其方の不埒を直訴する!」

吉良上野介
「上様は、老中にもお会いせぬのに
犬にも成っておらん田舎大名に謁見などするものか」
「如何してと申せば
儂が代わりに聞いてきてやろう」
「儂が上様から許可を得る」
「上様の命令ならば
従えるのかな?」

浅野内匠頭
「上様は左様な命令など為さらぬ!」
「御指南は
上様を侮辱しておりますぞ!」

吉良上野介
「決め付けるな!」
「全て、上様の命令ぢゃぞ!」
「あのな」
「心配するな
御台所様は、もう中老女」
「間違っても懐妊する事はない」
「御台所様は寂しいのじゃ」
「其方が慰めて参れ」

浅野内匠頭
「嫌で御座る!」

吉良上野介
「しかし、其方は
北の丸殿と北の丸新御殿で
密会しておるではないか
北の丸殿とは密会したが
御台所様の誘いは断るのかな」

浅野内匠頭
「密会では無い」

吉良上野介
「いいや、密会じゃ!」



         赤穂事件 梶川頼照の役割



梶川頼照 (旗本)
「赤穂殿は御馳走人で手が回りませんので
儂が代わりにお伺い致します」

鷹司 信子(御台所)
「お前と話しても意味は無い」
「赤穂の君を呼べ」

梶川頼照
「はい」
「赤穂殿は手が回りません・・」

鷹司 信子
「何故、邪魔立てする!」
「わらはに逆らうつもりか!」

梶川頼照
「申し訳御座いません・・・」

鷹司 信子
「役に立たぬ者は不要じゃぞ!」
「お前を、江戸から追放してやろぉーか!」

梶川頼照
「お許し下さい」
「赤穂殿は大奥には毒に御座います」
「儂が、赤穂殿に代わり此処へ参りました」

鷹司 信子
「赤穂の君が毒ぢゃと!」
「戯けが!」
「早く!赤穂の君を呼べ!」

梶川頼照
「赤穂殿が大奥に近づくと奥女中がざわついております」
「儂であれば、大丈夫で御座る」
「儂は、安心して此処へ来ることが出来ます」
「上様も、安心して儂に任せてくれますぞ」

鷹司 信子
「日頃、将軍が会うのは柳沢と吉良だけじゃ」
「お前では無い!」
「わらはがお前と会うのは
赤穂の君を呼びたいが為」
「それが適わぬのであれば
其方は不要じゃ」
「お前の代わりに
茶坊主を控えさせる」

梶川頼照
「赤穂殿の色気が大奥にはそぐはないので御座います」
「間違いが有るとは申しませんが
上様の大奥に
若い色男を近づけては為りません」
「代わりに、儂が来ましたぞ」
「儂が御台所様の話を聞きますぞ!」

鷹司 信子
「左様か」
「お前の心配はよく分かった」
「しかしな」
「要らぬ心配じゃぞ」
「わらはと赤穂の君の密会は
桂昌院の企てじゃぞ」
「玉が赤穂の君を
わらはの下に寄越したのじゃ」
「玉と綱吉は結託して企てておる」
「赤穂の君が此処へ来るのは
将軍と桂昌院の策略じゃぞ」
「将軍は全て承知しておる」
「知られたとて何も怖がる必要はない」
「既に、全ては、玉と綱吉の知る所じゃ」
「其方もわらはに味方して
証人になれ」
「これは、全て、将軍と桂昌院の策略じゃぞ」

梶川頼照
「策略であれば尚更です」
「やはり、赤穂殿は此処へ来ては為りません」

鷹司 信子
「分からぬ事を申すな」
「お前は、綱吉の犬ではないのか?」
「それとも、吉良の犬か?」

梶川頼照
「両方で御座る・・」

鷹司 信子
「おっほほほ・・」
「左様か・・」
「では、これからは
わらはの犬にも成れ!」
「如何じゃ!」
「わらはの犬になれば
怖いもの無しじゃぞ」
「玉、綱吉、そして、わらはが其方の主人となり
お前を守る」
「如何じゃ!」
「お前は、わらはの犬となれ!」

梶川頼照
「はい」
「有難きお言葉に
敬服致します」
「儂は、御台所様の犬となりました」

鷹司 信子
「よし!犬」
「赤穂の君を連れて参れ!」

梶川頼照
「はい」
「上様、桂昌院様、御台所様の命を受け
赤穂殿を連れて参ります」

鷹司 信子
「ほっほほ・・」
「早く行け!」




松平 綱近 (越前松平家)
「志半ばでの突然の知らせで御座いました」
「水戸の御老公様が逝去為された事
未だに信じられません」
「偉大なお方を失いました」
「悲しみが絶望に代わり
深い悲しみに打ちひしがれて・・・」

松平 頼道 (水戸支流)
「んんぅ」
「気力を失ったのは、我らとて同じ事」
「ただ、御老公が成し遂げられなかった事は
我らが引き継ぐ」
「力を落とすではないぞ」

松平 綱近
「はい」
「この饗応の機会に
何卒、我らが念願を叶えたく・・」

松平 頼道
「んんゥ」
「このままでは、幕府の衰退は避けられまい」
「東北といい、西国といい
財政は逼迫して領民は飢え
新田開拓は廃れ、小作人は減少しておる」
「なァ出雲殿」
「出雲の石見銀山は幕府の貴重な財源となっておるが・・」

松平 綱近
「はい、銀産出量は次第に減少しており
幕府の期待に応えられません」
「鉱夫は、奴隷のごとく働いております」
「鉱夫は、島流しの刑に等しい扱いを
甘んじて受け入れている状態で御座る」

鉱山での劣悪な環境も相まって、当時の鉱夫は短命であり、30歳まで生きられた鉱夫は尾頭付きの鯛と赤飯で長寿の祝いをしたほどであった。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

松平 頼道
「我が尊父は、地方の領民の困窮を防ぐ手立てを
大老に伝え託したが、権力は柳沢に移り
井伊殿は失脚した」
「幕府は、我らに多額の借款をさせて
この困窮を極めている時期に返済を求めている」
「今、この困難を乗り切らねば
幕府の存亡に関わる、大きな人災となるぞ!」

松平 綱近
「はい」
「諸藩は飢餓で苦しんでおります」
「全ての富は、上方と江戸に集中しており
我らは、貧窮に苦しむばかり
ここは、水戸様に御縋りする以外
立ち直る見込みは御座いません」

松平 頼道
「んんゥ」
「尊父の遺産を引き継ぎ
必ず達成させねば為らん」

松平 綱近
「では、周回廻海運構想は潰れてはいないので
御座いますか?」

松平 頼道
「んんゥ」
「周回廻海運構想は我らの希望であり、期待するところでもある」
「水戸の特産品を北から南、
東から西、多くの諸藩に船で大量に運搬できる」

松平 綱近
「銀の産出は減少し続けておるゆえ
これからは、木綿、人参、そして製鉄、馬を海上輸送したい
しかし、我らは西廻海運の船を持たぬから
周回廻海運構想で船と湊を諸藩で共有することが望ましい」
「我らには、手船を持つ資産は無いので御座る」

松平 頼道
「我らとて、同じ事」
「東廻海運は犬吠崎から利根川を登り江戸に商品を
輸送していたが海上経路が開拓されて
犬吠崎は素通りとなった」
「だから、我らの役割も無くなってしまった」
「手船を持たぬ諸藩の湊は敬遠されてしまうから
上方と、江戸の船主が全ての商品を担ってしまうのじゃ」

松平 綱近
「特産品を売りたくても手段が御座いません」
「銀は中国山脈を越えて人足で運ぶありさま」
「何としても、周回廻海運が必用で御座る」

松平 頼道
「んんゥ」
「これには、仙台殿と赤穂殿の和解が必用じゃ」

松平 綱近
「今回の饗応で、仙台殿と赤穂殿が和解するようにとの思いは
共通で御座る」
「これは、全ての諸藩の願いで御座る」

松平 頼道
「んんゥ」
「饗応の準備は全ての諸藩の協力が必要となる
なにせ、料理一つとっても
東から西の広くから仕入れねばならんからな」

松平 綱近
「我らは、協力して
仙台殿と赤穂殿の絶縁関係解消に務めましょうぞ」

松平 頼道
「んんゥ」
「これは、水戸と出雲だけの問題ではない」
「幕府の存亡に関わる
非常に重要な事だと思うぞ」

松平 綱近
「諸大名の協力を仰ぎましょう」

松平 頼道
「んんゥ」
「皆で力を合わせて
全領民の困窮を解消せねばならん」



岡部 長泰 (和泉国岸和田藩3代藩主)
「我が藩財政は豊かで、盛況じゃ」
「儂の評価も大いに高まっておる」

岡部長泰は儒学を好んで林鳳岡に儒学を学び、自らも講師として藩士などに儒学を講じている。和歌をたしなみ、武芸を好むという智勇に優れた人物でもあった。民政においても善政を布いたことから、「誉ある将」と賞賛されている
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

浅野内匠頭 (播磨赤穂藩の第3代藩主)
「赤穂藩は、筆頭家老内蔵助の誉れで盛況で御座る」

岡部 長泰
「これは、全て上方と江戸の交易によるのも」
「西廻り海路の発展による恩恵じゃ」

浅野内匠頭
「はい、左様に御座います」

岡部 長泰
「ところで、儂に相談があるとか?」

浅野内匠頭
「はい」
「今回の饗応に於かれまして
精進の日の確認に御座います」

岡部 長泰
「はて?」
「饗応の日取りの確認かな?」
「それは、ご指南殿にお聞き願いたい」

浅野内匠頭
「いいえ」
「日取りでは御座いません」
「生類憐みの令により鳥や魚、貝やエビの料理に関して
精進の日には遠慮すべきとの事」
「美濃守は何かご存知かと?」

岡部 長泰
「左様な事は知らん」
「精進の日など、儂は知らんぞ」

浅野内匠頭
「左様に御座いますか」
「実は、ご指南も知らぬと申される・・・」

岡部 長泰
「ほォ―」
「吉良殿も知らぬと?」

浅野内匠頭
「はい」
「それ故、料理の準備に難儀しております」

岡部 長泰
「んんゥ」
「これは、危険じゃぞ!」
「桑山一尹の二の舞になるぞ!」

浅野内匠頭
「其の者、院使饗応役で怠りを咎められ、
改易となったので御座いますな」

岡部 長泰
「吉良は、上様の御意志を確認出来ずにいると思うぞ」
「失敗を、お主に押し付けるつもりでは有るまいか?」

浅野内匠頭
「美濃守から良きお知恵を頂けませんか!」

岡部 長泰
「んんゥ」
「饗応の料理は儀式の一環じゃ」
「先ずは膳の数、
続いて運び出される膳と汁と菜の数、
菜の種類、菓子の種類、
膳の器の種類、
膳と器の組み付け」
「これが
本膳、二の舞、三の舞、四っ目、
五つ目、吸い物、銚子、奈良臺、
取肴、折三合、二つ、三つ、菓子九種

浅野内匠頭
「はい」
「食材は
鮫盛、巻するめ、貝盛
サヨリ、干し鮎盛、海老
鱒、赤貝、アワビ、焼き鳥
鶉、鱸、鯔長作り、鯛
塩鴨、くしこ、むき芋
皮ごぼう、焼きとうふ
大こん、うと、ふき
菓子は 雪みとり、枝かき
やうかん、かや、かすてら
まんづう、有平、大平せんへい」
「客一行を身分に応じて順番に配置
御膳や器を身分に応じて区別する事」

「前例と格式が重要であると・・・」

岡部 長泰
「んんぅ」
「前例に従うば良いと思うぞ」

浅野内匠頭
「精進の日は考える必要無しと・・」

岡部 長泰
「前例に従い
精進料理には対処出来るように手筈をしておく事じゃ」

浅野内匠頭
「如何にも、左様に御座る」

             赤穂事件 御三家筆頭



徳川 吉通 (徳川御三家筆頭)
     (後に、6代将軍徳川家宣の養嗣に擬されたことがある)

「今回の饗応で、儂は如何すればよいのじゃ」

岡部 長泰 (和泉国岸和田藩3代藩主)
「はい、 尾張様は徳川御三家の筆頭で御座いますから
上座の最上位で御膳が用意されております」
「御膳を召し上がり頂き、公方様の御言葉をお待ち下さいませ」

徳川 吉通
「食しながらでは無礼ではないのか?」

岡部 長泰
「ご安心下さい」
「将軍のお言葉は、勅使様を通して上皇様、天皇様に
伝えられるこで御座いますから
聞き逃さず注意を払っておれば御無礼は御座いません」

徳川 吉通
「左様か」
「公方様の御言葉を良く聞いておるのじゃな」

岡部 長泰
「左様に御座います」

徳川 吉通
「ところで、其方は儂に相談があると聞いておるが
如何なる事じゃ」

岡部 長泰
「はい」
「尾張様は御三家筆頭」
「将来有望で御座いますから
必ず、上様との謁見が御座います」
「謁見が適えば、確認をしたき事が御座います」

徳川 吉通
「確認とは何じゃ?」

岡部 長泰
「はい」
「尾張様も承知しておられる生類憐みの令に関わる事」
「今回の饗応御膳に出される肉や魚を
如何にするか、上様の御考えをお聞き頂きたい」

徳川 吉通
「儂が聞くのか?」
「お主が直接聞けぬのか?」
「指南役は如何しておる?」

岡部 長泰
「我らは、上様の謁見が叶いません」
「指南役も上様の意向を図りかねております」

徳川 吉通
「んゥ」
「左様か・・」
「では、上様のお呼びがあれば
馳走の事を聞いてみよう」

岡部 長泰
「我らは、柳沢殿に連絡を取り
上様の御考えを確認しておりますが
いつまでたっても返事が御座いません」
「尾張様が最後の望みで御座います」

徳川 吉通
「何じゃ?」
「大袈裟ではないのか?」

岡部 長泰
「上様の御意志を知らずに
饗応の準備をすることは叶いません」
「尾張様は最後の望み」
「お願い申し上げます」







井伊 直通 (井伊直興の嫡子)
     (大老井伊直興は病気を理由に辞任して国に帰る)

「某、尊父の代理にて初めてのお勤めで御座る」
「周りは、年配ばかり故
心細いところ、お声かけ頂き感謝申し上げます」

徳川吉通
「左様な・・」
「某の方こそ貴方より年少故
頼りにしております」

井伊 直通
「生まれ年は同じですかな?」
 
徳川吉通
「はい」
「わたしは、ひと月ほど遅く生まれました」

井伊 直通 
「やはり、同じ年生まれじゃ!」

徳川吉通
「あっははは」
「左様!」

井伊 直通 
「わたしは、まだ家督を得ておりませんから
饗応の席には入れないと思うが・・」

徳川吉通
「ああッ」
「其方の父君は病気と聞いたが
如何しておりますか?」
「重いのか?」

井伊 直通
「内緒で御座」
「ここだけの話・・」
「尊父は元気に御座る」
「仮病じゃ」
 
徳川吉通
「左様か!」
「我ら二人の秘密じゃな」

井伊 直通 
「はい」
「秘密で御座る」

徳川吉通
「今回、公方様からの謁見が無くてな」
「心配しておる」
「儂は、公方様から嫌われておるのか?」

井伊 直通 
「いいえ、心配は御座いません」
「尊父が仮病で国に帰ったのには理由が御座ざる」
「上様は、政を側用人に任せておるそうな」
「大老は上様に合う事も
直接命令を受ける事もなく
側用人を介してのみ連絡があるとの事」
「今や、側用人が大きな力を持ち
大老は不要となった」
「尊父は失脚したのじゃ!」
「謁見が無いのは、側用人が止めておるからじゃな」

徳川吉通
「左様か?」

井伊 直通 
「あまり気にせぬとも
大丈夫じゃ」
「この事も、二人の秘密じゃぞ!」

徳川吉通
「んんゥ」
「秘密じゃ」

「しかし、謁見が無いと困る・・」

井伊 直通 
「如何しました?」

徳川吉通
「頼まれておるのじゃ」
「生類憐みの令で肉や魚、貝やエビの馳走の準備に
変更が生じるかも知れぬと・・」
「上様の意向を確認する事が必用じゃと・・」

井伊 直通 
「左様か・・」
「儂が聞いた話だと
馳走は御台所様がお決めになるとの事
上様は勅使の対応でお忙しいのだと・・」

徳川吉通
「では、上様に馳走の事を聞いたりすれば
不謹慎じゃな・・」

井伊 直通 
「左様じゃ」
「左様な事を出しゃばれば
上様の機嫌を損なうかも知れぬぞ・・」
「謁見が無くて良かったのではないのか・・」

徳川吉通
「んんン」
「帥の申す通りじゃ」
「危うく、上様に嫌われる所であったわ」

井伊 直通 
「君子、危うきに近寄らずじゃ」

徳川吉通
「あっははは」
「君子、危うきに近寄らず!」

井伊 直通
「我らは蚊帳の外」
 
徳川吉通
「蚊帳の外か?」



安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「饗応役は我らだけでは無い」
「仙台藩とは争いたくないぞ!」

藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「ご指南役が仙台を庇っておるようじゃ」
「指南料の上乗せが拙かったか?」

安井 彦右衛門
「んんぅ」
「指南料の問題では無いと思うぞ」
「ご指南は
我らと仙台を競わせておるのではないのか?」

藤井 宗茂
「いいや、競わせているのでは無い」
「我らに嫌がらせをしているとしか思えん!」
「指南料も上乗せを拒否してきた」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「銀子の問題では無いと?」
「では」
「何故に、赤穂に嫌がらせをするのじゃ?」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「噂は本当かもしれん・・」

安井 彦右衛門
「如何なる噂で御座る?」

藤井 宗茂
「公方様の命令のようじゃ」

安井 彦右衛門
「えッ!」
「我に不届きがあると?」

藤井 宗茂
「しッ」
「大きな声を出すな!」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「しかし、何故、公方様は左様な命令を?」

藤井 宗茂
「噂じゃぞ。
お館様は、御台所様に誘惑されておるそうじゃ」

安井 彦右衛門
「嘘じゃろォ・・・」
「まさか・・左様な事・・・」
「こりゃ、大きな声では話せんな・・」

藤井 宗茂
「お館様は大奥に近づかぬように注意しておるが
指南役の吉良殿が密会を強要しているとの噂・・」

安井 彦右衛門
「うッ」
「えげつないのォ・・」

藤井 宗茂
「吉良殿は執念深く嫌がらせを続け
お館様を屈服させようと目論んでおるようじゃ」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「指南役を敵に回しておるから
畳替えも馳走の用意にも大金を要してしまったのじゃな」
「難儀じゃぞ」

藤井 宗茂
「馳走は今までの御膳に加え
精進料理も用意せよとの事」
「これからが本番じゃぞ」

安井 彦右衛門
「馳走に倍の資金が掛かるのか・・」

藤井 宗茂
「いや、倍では済まぬ」
「指南役の吉良殿は
お館さまに密会の罪を着せ
我らが赤穂を改易させ
自らの手柄にせんとしておるぞ」

安井 彦右衛門
「ちと待て」
「何故。吉良の手柄となる?」

藤井 宗茂
「吉良は上様と共謀しておる・・」

安井 彦右衛門
「うぇ」
「・・・・・」
「そりゃ 勝ち目は無い・・・」
「無理じゃ・・」

藤井 宗茂
「いやいや」
「あくまでも、噂話・・・」




淺井彦五郎  (仙台藩大番頭)
「水戸の使者から口上書が御座いました」

伊達綱村 (仙台藩4代藩主)
「んんゥ」
「赤穂が頭を垂れ、
我らに謝罪を申し入れておるそうぢゃな・・」

淺井彦五郎
「如何致しましょうか?」

伊達綱村
「んんゥ」
「赤穂との和解は我らの念願でもある
断る道理はない」
「赤穂との和解で廻り海路が東西で連結する
交易が盛んに為り
仙台藩の復興に繋がる」
「これは、水戸殿の願でもあるのぢゃぞ」

淺井彦五郎
「では、早速に和解を承諾いたします!」

伊達綱村
「んんぅ」
「しかしな、赤穂が和解の手土産として
塩の製法を伝授したいとの申し入れが書かれておる」
「我らも、何か土産を用意したい」

淺井彦五郎
「では、和解金を用意致します」

伊達綱村
「んんゥ」
「それから、伊予の村豊に消息を書くのぢゃ」
「伊予殿にも、赤穂との和解を承諾させねばならん」

淺井彦五郎
「ちょうど赤穂殿と伊予殿は江戸で
饗応役を仰せつけられておりますから
都合が宜しいかと・・」

伊達綱村
「天の助けぢゃ」
「我らは、財政が逼迫し
百姓は飢餓に苦しんでおる」
「そんなおり、
仙台藩にも饗応による資金供与の打診がある」
「伊予の村豊には、赤穂と協力して
饗応を無事にやり遂げる必要があるのだ」

淺井彦五郎
「この和解が成功すれば
旧勢力の反抗は抑えられます」
「改革は、馬の市の復活
新田開発、年貢の負担を減らし百姓を保護すること」
「芝居小屋も復活させたい」
「功労者には、下賜金も用意する」
「和解により良い改革が為される筈で御座る」

伊達綱村
「廃れた湊を復活できれば
藩の建て直しが出来る」
「藩券の乱発も防げる」
「我が仙台藩は飢饉の最中ぢゃ」

淺井彦五郎
「水戸殿と協力して
和解を達成致します」

伊達綱村
「しかし、何故
大切な塩の製法を伝授するとまで申すのか?」
「少々、話が甘すぎないか?」

淺井彦五郎
「いいえ」
「赤穂の筆頭家老大石殿は
利益を我らと共有したいと考えております」
「西廻り海路は
赤穂を豊かにしたのだと」
「これを、周回海路に延長すれば
交易は更に盛んになり
諸藩で問題になっている
飢饉は防げると申された」
「諸藩の問題は、赤穂にも通じる事だと」
「赤穂だけが豊かでは為らぬと申された」

伊達綱村
「赤穂には良き家老がおるのぢゃな」
「しかし、我らにも
良き大番頭がおるぞ」
「それは、其方ぢゃ」

淺井彦五郎
「おおぉ」
「これは、恐れ入ります」
「某、期待に応えるべき
精進仕り、お仕え致します」

伊達綱村
「んんぅ」
「では、浅野様と伊達は和解ぢゃ」
「以後、反対勢力には口出し不要に御座る」

淺井彦五郎
「御意に御座います」
「反対派には、厳しく申し付け致します」

伊達綱村
「んんゥ」



梶川 頼照 (幕府旗本大奥御台所付き留守居番 切米600俵)
「赤穂殿!」
「御台所様がお待ちで御座います」
「大奥で御台所様がお待ちで御座います」
「お待ちで御座いますぞ!」

浅野 内匠頭 (播磨赤穂藩の第3代藩主)
「儂は、大奥に行く事は出来ん」
「其方は、大奥御台所付き留守居番で御座ろう!」
「某の立場は分かっておると思うぞ!」

梶川 頼照
「しかし・・・」
「御台所様を待たせておく訳には参りませんぞ」
「お願いで御座います」
「これから直ぐに大奥に行き
御台所様にお会い下さい」

浅野 内匠頭
「んんぅ」
「もはや、遠慮も限界に御座るな・・」
「では、帥と共に参上致しましょう」
「儂が一人で大奥に参ることは
絶対に出来ませんぞ!」
「其方が同行する事で
誤解を防ぐ事になるのじゃぞ」
「同行してくれるな!」

梶川 頼照
「えェ・・」
「お一人では行けぬと申されるか?」
「儂が供をせぬば行かぬと・・」

浅野 内匠頭
「左様」
「如何じゃ」
「一緒に参ろう!」

梶川 頼照
「えぇーーと」
「あのォーー」
「儂は、邪魔だと申される・・」

浅野 内匠頭
「誰が?」

梶川 頼照
「お一人で、お願い致す・・」

浅野 内匠頭
「ますます、可笑し気な事」
「同伴無き場合は、遠慮致す」

梶川 頼照
「儂が叱られる・・」
「儂は、追放処分になっちまう」
「如何したらいいんぢゃ・・」
「ああ」「困った・・」

浅野 内匠頭
「何故、困る事が御座いましょうか」
「とにかく、儂が遠慮を続けるか?
帥と同行して参上するか?
それを選ぶのは、留守居番殿じゃぞ」
「それが、帥の仕事じゃ
役目ではないのか?」

梶川 頼照
「んんゥ・・」
「・・・・」
「知らんよ・・」
「もう、知らんよ・・」
「儂が追放されたら
赤穂殿の責任だよ」
「ねェ」
「儂が追放されたら
如何してくれる?」

浅野 内匠頭
「左様な事は無いと思うぞ」
「同伴して追放は無い」
「安心為さいませ」

梶川 頼照
「追放処分になったら
助けてくれるか?」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「其方には迷惑はかけん」
「全ての責任は、儂が引き受けた」
「だから、同行しておくれ」

梶川 頼照
「本当か?」
「儂に責任を押し付けぬと誓っておくれ」
「儂は、弱小の旗本で
吹けば飛ぶような儚い立場」
「とても弱い存在なのよ・・」

浅野 内匠頭
「何を申される」
「帥は大奥御台所付き留守居番を任されているのですぞ
もっと自信をお持ち下さいませ」

梶川 頼照
「んんゥ」
「それは、儂が用無しの爺じゃからだよ」
「大奥御台所付き留守居番は爺の役目」
「大奥で儂に遠慮する女中はおらんよ」

浅野 内匠頭
「なのな」
「儂は、大奥に近づけんのぢゃぞ」
「儂が行けば、奥女中は色めき立つっているのだ!」
「儂が大奥に入って行くことは
大変に危険な事なんぢゃぞ」
「それを防ぐのが帥の役目ではないのか!」

梶川 頼照
「だけど・・」
「御台所様の命令だから・・」

浅野 内匠頭
「同行しておくれ」

梶川 頼照
「お一人で・・」

浅野 内匠頭
「同行せねば参らん!」



吉良上野介
「御台所様がお待ちぢゃぞ!」
「早く、参れ!」

浅野 内匠頭
「それは御台所付き留守居番の役目で御座る」
「梶川頼照にお願い致したい」

吉良上野介
「何故! お主が参らんのぢゃ!」
「さァ」
「早く参れ!」
「御台所様を待たせたら無礼ではないか!」

浅野 内匠頭
「某が、大奥に入る事は出来ません」

吉良上野介
「何を申すか!」
「御台所様が、直々に御指名為されておられるのぢゃぞ」
「御台所様に恥をかかせるつもりか!」
「早く、参れ!」

浅野 内匠頭
「何故に、御台所様の恥となりましょうか」
「何故に!」

吉良上野介
「御台所は其方と親しくしたいのぢゃ!」
「断る道理は無いぞ!」

浅野 内匠頭
「それでは、尚更参る訳にはいきません」
「お諦め下され」

吉良上野介
「ほォ」
「上意に逆らうと申すか!」
「反逆となるぞ
お主は謀反人になりたいのか!」

浅野 内匠頭
「何と申されても、無理な事は無理で御座る」
「お諦め下され」

吉良上野介
「いいや為らん!」
「早く行け!」
「上様の命令ぢゃ!」
「上意ぢゃぞ!」
「逆らえば、打ち首ぢゃぞ!」

浅野 内匠頭
「首が欲しければくれてやる」
「今、此処で儂を切り捨てよ!」

吉良上野介
「むむむむむぅゥゥゥゥ」
「後悔するなよ」

浅野 内匠頭
「何を後悔する」
「其方の無能が晒されるだけの事」

吉良上野介
「うぎゅーーー」
「うううェ」
「・・・・・・・・」
「意地になっておるのか?」

浅野 内匠頭
「さにあらん!」
「其方のことが、惨めで悲しいだけじゃ・・」

吉良上野介
「んんんんゥ」
「儂が供をしよう!」
「そうじゃ、其方の後ろから
儂が供をしよう!」
「一緒に参ろう!」
「如何じゃ、これならば良かろう」

浅野 内匠頭
「ん?」
「ご指南だけで参ればよい」
「用事が有れば
ご指南に連絡が有る筈」
「それこそ、ご指南が、お一人で参られよ」

吉良上野介
「あのなァ」
「御台所様は其方を指名しておるのぢゃぞ」
「儂が参って如何なる!」
「戯けた事を申すな!」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「御台所様に御出で下さる訳には参りませんか?」
「某は、大奥には参りません!」

吉良上野介
「御台所様に指図するつもりか!」
「無礼者が!」
「早く、大奥へ参れ!」
「早く行け!」
「ぐずぐずするな!」
「ほら」
「早く」

浅野 内匠頭
「何度、同じことを申される」
「無駄な事は、お止め為され」

吉良上野介
「儂が供をするから
一緒に参れ!」
「ほら」
「手間を取らせるな!」
「おい」
「早く来い」
「ほら」

浅野 内匠頭
「引っ張るのは、お止め下され!」



鷹司 信子 (徳川綱吉の正室)
「赤穂の君」
「待っておりましたのよ」

浅野内匠頭
「大奥ゆえ、遠慮しておりました」

鷹司 信子
「大奥が怖いのかえ?」
 
浅野内匠頭
「此処は、
某が安易に立ち寄る事が許される場所では御座いません」

鷹司 信子 
「では、君に安心して貰わねばならんじょな」

浅野内匠頭
「安心で御座いますか?」

鷹司 信子 
「此処はな、わらわの城なんじょ」
「わらわの城では、わらわが一等なんじょ」
「此処で、わらわに逆らえる者はおらんのじょ」

浅野内匠頭
「はい」
「御台所様は一等に御座います」

鷹司 信子
「大奥では、わらわは一等でありんす」
「それは、其方が恐れる綱吉を陵駕しておる」
「綱吉は、大奥に引き籠る
芋虫のごときイモなんじょ」
「君は芋虫を恐れておるのか?」 

浅野内匠頭
「某、上様を慕い、尊敬しております」
「上様に忠義して、命を捧げております」
「上様に寵愛されたいと願っております」

鷹司 信子 
「君!」
「この江戸城は大奥と男子部屋に別れておるよな」
「男子部屋の主は大奥に引き籠り
芋虫のことくうごめいておる」
「芋虫は男子部屋では偉そうにしておるでしょうが
此処におれば、わらわに足蹴にされる芋虫なんじょ」
「わらわに逆らう者は、此処にはおりません」
「まだ、心配ですかえ?」

浅野内匠頭
「いいえ」
「某は、上様に忠義を果たしたいので御座います」
「恐れなどど・・」

鷹司 信子 
「綱吉は、引き籠りでありんすよ」
「白書院は老中の部屋となってますけど
本来は其処で政を行うのでしょ」
「綱吉は黒書院で側用人と話をするだけ」
「今は、柳沢が大老に成り上がり」
「政は引き籠りの芋虫によって
犬の柳沢に伝えられ
老中は、あの芋虫の妄想を信じて
下らぬ事に熱心になっておるんじょ」
「忠義しているなどと言っておるんじょ」

浅野内匠頭
「左様で御座いますか・・」
「・・某には、負担が大きすぎます故」
「もう、そのあたりで、お止め頂きたく・・・」

鷹司 信子 
「いいえ」
「其方には、本当の綱吉の事をもっと知って欲しいのですよ」
「此処は、わらわが一等でありんす」
「其方のことは、わらわが守りますから
心配は致さぬことじゃ」
「わらわは一等じょ」
「綱吉は芋虫だと思えばよい」
「芋虫の権力は、わらわの権威の下にあるんじょ」
「天皇、上皇様の権威の下で将軍は跪く」
「安心して、わらわに縋っておくれ」

浅野内匠頭
「心使い、感謝申し上げます」
「しかし、某、此処に居続ける訳にもいかず
大名部屋に戻らねばなりません」
「此処に長居は出来ません」
「もう、お暇せねば・・」

鷹司 信子
「分かっておる」
「わらわは、君に安心させたかった故
長居させてしもォーたね」
「ただ、忘れてはなりませんよ」
「大奥ではわらわが一等なんじょ」
「綱吉はわらわに足蹴にされ抵抗も出来ん
哀れな芋虫じゃ」
「大奥では、
引き籠りの芋虫を恐れる女子は何処にもおらんのよ」
「わらわの権威があれば
君は無敵じゃよ」
「よいな、また大奥に来るのじゃ」
「芋虫を怖がってはならんじょ」
「綱吉は、わらわに足蹴となっておるんじょ」
「心配は無用じゃ」
「よいな」
 
浅野内匠頭
「心配り感謝致します」
「某の真心をもって御台所様に尽くしたいと思います」

鷹司 信子
「ああ」
「御膳の事ですけどね」
「芋虫は、なんでも食べる馬鹿な虫ですから」
「精進料理などは不要なんよ」
「無駄な失費は為さらなくとも、大丈夫ですよ」
 
浅野内匠頭
「では、前例に従い御膳を用意致します」
「御台所様の御墨付で御座いますから
安心で御座います」

鷹司 信子
「おおぉ」
「安心したか!」
「君は、わらわに安心したか!」
 
浅野内匠頭
「はい」
「御台所様は信頼のおける
立派なお方」
「信頼し、
お尽くし致したく思います」

鷹司 信子
「君は、わらわが守るからね」
「芋虫は、わらわが退治する」
「心配は要らんよ」
 
浅野内匠頭
「はい」
「我らは、御台所様に忠義致します」

鷹司 信子 
「よく申された」
「其方の決意を見てみたいものだけど
口先だけなどど申されぬな」
「わらわを悲しませてはならんじょ」

浅野内匠頭
「我らは、御台所様に従いとう御座います」

          赤穂事件 和解するか否か



相馬 叙胤 (陸奥相馬中村藩第6代藩主)
「仙台殿使者から急遽の伝言は
赤穂との和解で御座る」

伊達 村豊 (伊予国伊予吉田藩3代藩主)
「書状を受け取った」
「仙台殿は和解金を用意しているとの事」
「今回の饗応は
赤穂殿と協力して
怠り無きようにとの仰せ」
「・・・・・・・」
「困った・・」

相馬 叙胤
「如何しましたかな?」

伊達 村豊
「赤穂との協力は出来ん!」

相馬 叙胤
「しかし、和解金を用意する程に
進められている交渉事ですぞ」
「拒否は出来んじゃろ」
「そもそも、饗応に怠りがあれば
お主の藩は改易となり
その方は浪人に成り下がるぞ」

伊達 村豊
「んんゥ」
「今まで黙っておりましたが
話さねば為りませんな・・」

相馬 叙胤
「んんゥ」
「何か、訳ありか?」

伊達 村豊
「儂は、まだ経験不足の弱小大名じゃ」
「指南役に逆らうことは出来ん・・」

相馬 叙胤
「吉良殿から何か言われたのか?」

伊達 村豊
「んんゥ」
「吉良殿は我らと赤穂藩を対立させたいと思っている・・」

相馬 叙胤
「馬鹿な!」
「今回の饗応が失敗すれば
指南役の責任となる」
「吉良殿は
伊達と浅野様を協力させて
上手くやろうと考える筈」
「対立を強要するなど
絶対に有り得ない事ぢゃぞ!」

伊達 村豊
「左様」
「じゃがな、
儂は吉良殿から直接に釘を刺されたのぢゃ」
「吉良殿は我らには積極的に指南をするが
赤穂殿には何も教えないと申された」
「我らにも、念を押して
赤穂殿に嫌がらせをするように強要しておるのぢゃ!」
「そして、もしも、我らが赤穂殿に協力すれば
我らも赤穂と同様にして、
不始末を咎めると申された」

相馬 叙胤
「んんゥ」
「不可解ぢゃな?」
「吉良殿は如何してしまつたのか?」
「赤穂殿に恨みでもあるのかな?」

伊達 村豊
「噂では、赤穂の家老が
吉良への指南料を見誤ったのだと・・」

相馬 叙胤
「銀子の問題ならば
何とでもなる筈じゃぞ」
「それから、
左様な事で饗応を台無しにすれば
指南役は解任され
江戸から追放
そして、浪人の身に成り下がる」
「これは、吉良殿個人の御考えでは無い」

伊達 村豊
「噂では、吉良殿と公方様が結託して
赤穂降ろしをしているとか・・」

相馬 叙胤
「解せん!」
「上様が赤穂を改易する為に
左様な事をする必要はないぞ!」
「赤穂殿を処罰する良き方法は
いくらでも有るのぢゃ」
「大切な饗応を台無しにするような事は
絶対に考えたりはしない筈」

伊達 村豊
「だけどな」
「上様は吉良殿には頻繁にお会いになるが
我らには、何も無いのじゃぞ・・」
「あのな、御三家筆頭の尾張様にもな
お会いに為らぬそうじゃ・・」

相馬 叙胤
「それは、御指南へ直接に指示をしておる為じゃぞ」
「その方は、御指南に従えばよいのぢゃ!」

伊達 村豊
「左様」
「だからな、困っておるのぢゃ」
「御指南は、赤穂殿に嫌がらせを強要してくるが
仙台殿は和解して協力せよと申される」
「如何したら良い?」

相馬 叙胤
「和解するのが良いと思うぞ」
「仙台殿から急遽の使者があり
書状を受け取ったのぢゃぞ!」

伊達 村豊
「んんゥ」
「しかし、御指南に逆らえば
我らは、無事には済みませんぞ」

相馬 叙胤
「では」
「御指南に従うのが良いとおもうぞ」

伊達 村豊
「んんゥ」
「そうなれば、和解が為りませんぞ・・」



柳沢吉保 (大老格)
「今回の饗応が終われば、我らは松平姓を名乗ることが許される」
「吉里様はいずれ徳川姓を名乗ることに為ります」

柳沢吉里 (柳沢吉保の長男)
「儂は、もう斯様な奇抜なる恰好は遠慮したい」
「服装が派手すぎる」
「この羽を外してくれ」
「この様な女子のような恰好は嫌じゃ!」

柳沢吉保
「左様か・・」
「吉里様は特別な御身分で御座います」
「将来は、その様な格好がお似合いに為りますぞ」
「今から、吉里様が特別な存在である事を
皆々に示す必要が御座います」

柳沢吉里
「左様か・・」
「では」
「公方様は、儂を養子にするのか?」
「皆々が、斯様に申しておるぞ・・」

柳沢吉保
「左様」
「今から、色々と手筈が御座います」
「上様が、吉里様を特別扱いする理由が
皆々に示されて
正式に決定される手筈に御座います」

柳沢吉里
「しかし、
上様に男子嫡子が生まれれば
儂が養子には成れんぞ」

柳沢吉保
「御心配、御座いません」
「何が御座いましても
吉里様は将来将軍と成られる御身分で御座います」

柳沢吉里
「左様か・・」
「しかし、 腑に落ちん」
「儂は、誰の子であろうか?」

柳沢吉保
「側室ではあるが絶世の美女:飯塚染子の御子じゃぞ」
「吉里様は母に似て男前で御座いますぞ」

柳沢吉里
「儂は、公方様に似ていると言われるぞ」

柳沢吉保
「左様」
「将来は、将軍と成られる御身分
姿や形も似ているので御座る」

柳沢吉里
「んんんゥ」
「母君は、側室であるにも関わらず
何で正室よりも優遇される
母が、美人だからか?」

柳沢吉保
「吉里様が将軍に似ているからで御座います」
「今回の饗応では、正式に、桂昌院様の推薦で
松平姓を名乗る事が許される手筈」
「将軍、上皇、天皇の承諾を得て
正式に偏諱を与えられので御座います」
「そして、吉里様には
次の将軍に成るためのお披露目が御座います」

柳沢吉里
「儂は、将軍に成るのか?」

柳沢吉保
「はい」
「目出度き事で御座います」

柳沢吉里
「なぁ」
「儂は、誰の子ぢゃ?」

柳沢吉保
「はい」
「美女:飯塚染子の御子で御座います」

柳沢吉里
「儂は、母君の事を
良く知らんのじゃ」
「母君は儂を遠ざけておるのか?」

柳沢吉保
「いいえ」
「これも又、吉里様の為で御座います」
「母に甘えていては、立派な将軍には成れません」
「将来は名前も、徳川家吉と成りましょう」

柳沢吉里
「儂は、松平姓から徳川姓を名乗るのか?」

            赤穂事件 和睦推進派の結束



津軽信政 (陸奥国弘前藩4代藩主)
「水戸の使者から聞き受けた事、
赤穂と仙台が和睦する事に了承との事、
其方も同意か?」

伊達村豊 (伊予国伊予吉田藩3代藩主)
「和睦は必要で御座る」
「ただ、反対する者も御座います」
「ここは、一先ず和睦致しましてから
饗応役を無事に果たす事が肝要と」

津軽信政
「お役目を終えた後で
確りと協議すると申されるか」

伊達村豊
「左様に御座います」
「ところで、越中様は
これに同意為さいますか?」

津軽信政
「近年、弘前は大飢饉で3万人以上の死者を出す
大惨事があり、幕府に多額の援助を求めた」
「我らの、権威は失墜して幕府からの信頼も失った」

信政は、自らが藩政を取り仕切るようになると、津軽新田の開発、治水工事、山林制度の整備、植林、検地、家臣団の郊外移住による城下町の拡大、野本道玄を招聘しての養蚕、織物、製糸業、紙漉の発展・育成などに努めた。民政においても善政を敷き、弘前藩の藩政確立と発展に尽力し、藩の全盛期を築き上げた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

伊達村豊
「弘前藩の全盛期では
越中様の評価は大変に高う御座いました」
「これは、東北から西国にかけての外様藩に共通する事
廻航路の発達による副産業の賜物」
「ただ、その頃の活況は昔の事
今では、交易が上方と江戸に集中して
外様藩は瀕死の状態」

津軽信政
「伊予国は飢餓が無いだけでも良いではないか」
「我らは、百姓を飢えさせてもなを
知行米をむしり取り、
江戸に献上している」
「そして、更なる借款を積み上げておる」

伊達村豊
「不満を持っている事を、誰かに聞かれれば危険で御座いますぞ」

津軽信政
「本来、我らは、自前の交易で
十分に潤っておった」
「弘前藩には、重要な港が多数あり
東北の交易だけでも十分の利益があった」
「しかし、全ての商船は上方と江戸に向かってしまった」
「我らに残されたのは
幕府からの借款だけじゃ」
「弘前藩の復興に必要なのは
水戸様の思い描いていた周回航路構想を実現する事じゃ」

伊達村豊
「深刻な問題で御座る」

津軽信政
「其方も、今回の饗応役を無事に終えたいであろう」
「赤穂殿の力添えが必用じゃぞ」

伊達村豊
「ただ、指南役の吉良殿が妨害為されまして・・」

津軽信政
「指南役は吉良殿だけでは無い筈」

伊達村豊
「いいえ」
「他の高家指南役は、上様に疎まれております」
「上様の意向が分からぬ者は
名ばかりの指南役」
「実際の指南は出来ません」
「実権は全て吉良殿にあります」
「上様は、吉良殿と大老の柳沢殿以外とは、お話を致しません」

津軽信政
「んんゥ」
「いや」
「近々、大老の嫡子の吉里様が上様に呼ばれておるとか・・」

伊達村豊
「所詮、大老の御眼鏡に御座る」

津軽信政
「それがな」
「御眼鏡は、大老ではなくて
上様の御眼鏡だとの噂じゃぞ」

伊達村豊
「やはり、御落胤で御座るか?」

津軽信政
「今回の饗応では
松平姓を賜るとの事」

伊達村豊
「いずれは、御落胤として表舞台に登場するのか」

津軽信政
「何方にしても、外様藩は見捨てられ
領地は寂びれ、百姓は飢える」
「我らは、困窮して
幕府からの借款が増える」
「借款を返すことも出来ずに
我らは、改易となる・・」

伊達村豊
「そもそも、上方と江戸の交易だけでは
幕府の繁栄は無い」
「外様藩の百姓が
幕府の台所を担っておるのになァ」
「百姓が飢えておるのに
ワンワンは肥える」

津軽信政
「左様」
「ワンワンは大きな犬小屋で
何不自由なく、暮らして居るが
米を作っておる百姓は
過酷な年貢の取り立てで飢えておる」
「ワンワンの餌を百姓に恵んでやりたい」

伊達村豊
「某、犬にでも成りましょうかな・・」
「先代(家綱)様」
「先様の時代は良かった」