arata-tokyo-jp's blog(Henry Nagata)

オリジナル曲・自作動画・エッセイ・ネットで実験など

「ライブ歌手」と「レコード歌手」について・・・

2006年04月14日 10時59分22秒 | エッセイ
歌手にの方にも色々なタイプの人たちがいらっしゃると思いますが、私は以前から歌手の中には「ライブ歌手」とか「レコード歌手」とか呼べるような人たちがいるな、と感じていました。
この言葉は専門用語ではなくて、私が何となく以前から感じていた事を言葉にしたものです。
今日はそのきっかけになったお話を致しましょう。



先ず「ライブ歌手」で思い出す事があります。
20年以上も前に私が銀座のクラブでピアノを弾いていた時の事です。
そのクラブでは毎月一回だけ、日本を代表するジャズボーカルとして非常に有名な男性歌手が出演する事になっていたのです。
TVなどでもお馴染みの人で、この人は若い頃に進駐軍で歌っていた人です。

しかし私はピアノの初心者でしたから、その歌手の歌の伴奏は到底難しくて出来ないと思い、他のベテランのピアニストに1万円を渡して、「その日だけ弾いて欲しい」と頼み、私はそのピアニストの陰に隠れて見学する事にしたのです。

しかし、一応はその歌手の事を知っていなければならない思い、レコードを買いに行ったのですが、何故か「ベテラン歌手の初のレコード」として1枚だけしか置いてありませんでした。
日本を代表するベテランのジャズ歌手だというのに、何故レコードが1枚だけしか出ていないのか・・・?
多少の疑問は感じましたが、とにかくそのレコードを買って聴いてみました。
そして、その時の感想は・・・?
「これが日本を代表するジャズ歌手なのか~!」
正直言って、歌手としての魅力を何も感じる事が出来ませんでした。
以前TVでジャズの番組を見た時には、その番組の司会者が「日本の男性ジャズ・ボーカリスト・ナンバーワン」と紹介していたのです。

そしてその歌手が銀座のクラブで歌った日の事ですが・・・
普通、歌手がピアニストと簡単な打ち合わせをして曲とテンポを決め、ピアノがイントロを弾き、それを聴いて歌手が歌い出す、というのが常識的だと思うのですが・・・
実際はこうでした。
歌う曲名もキーも何の打ち合わせもせずに、この歌手がいきなり歌い出したのです。
多分この歌手には絶対音感はないと思いますから、キーもいい加減だと思います。

このような歌手の歌伴をするピアニストとベーシストというのは、余程耳が良くてベテランでなければ出来ません。
ほとんどのスタンダード・ナンバーをどんなキーでも弾ける人たちです。
私などは初心者でしたから、もしこの人の歌伴をうっかり引き受けてしまったら、曲名もキーも分からずコード進行も分からず、歌い終わるまでひとつも弾けなかった事と思います。

そしてこの歌手は歌い終った時に、お客さんたちに向かってこう言い放ったのです。
「今日はピアノが下手クソだから歌えねえや~!」
でも、それを聞いたお客さんたちからは笑いと拍手が起こり、雰囲気が非常に盛り上がったのです。
これではっきりと分かりました。
この時の事がきっかけで、あの言葉を思いついたのです。
この歌手は「ライブ歌手だ!」・・・とね!
レコードでしんみり聴いても何の魅力も感じない歌手なのですが、ライブでお客さんたちを楽しませて盛り上げる事が非常に上手い歌手なのです。

喜劇俳優として有名だったフランキー堺氏も進駐軍でドラムを叩いていた人ですが、想像するにこの人もドラムの演奏の上手さよりは、お客さんを楽しませて盛り上げる事の方が上手かった人なのではないでしょうか。

ここまで書いてきましたが、誤解が生じるといけませんので一言付け加えて置きますが、
私は歌手の欠点を批判する事を目的として書いているのではありません。
実際はその逆で、「長所を発見する事の重要さ」をお話したいのです。



次に「レコード歌手」について思い出す事があります。
今から30年ほど前の事ですが、あるラジオ番組を聴いていましたら、当時有名な歌手がディスクジョッキーをやっていて、こんな話をしていました。

「私はアメリカの○○○という歌手(男女2人組)の大ファンだったので、日本でライブがある事を知って非常に楽しみにしていました」
「ところが、ライブに行って実際の生の歌声を聴いて非常にガッカリしました」
この2人組の歌手というのは、大ヒットを連発して日本でも未だに熱狂的なファンがいる非常に美しい声の人たちです。
そのディスクジョッキーは、こんな話をした後でその時のライブ録音を流しました。
物的証拠を見せ付けるかのように・・・

それで私もそのライブ録音を聴いたのですが、それを聴いて私も本当にビックリしました。
このディスクジョッキーがガッカリした理由が分かりました。
その歌声がレコードとは違い、全くの素人のように下手クソだったからです。
この生の歌声のままだったら、絶対にレコードをヒットさせる事は出来なかったでしょう。

その後、私が作曲のレッスンを受けていたアメリカ帰りの先生にこの話をしますと、先生はこんな話を聞かせてくれました。
「あの歌手の魅力的で豊かな歌声は生の声ではなく、スタジオで作られたものです」
「同じメロディを何度も歌って重ねて録音して、豊かな美しい声にしているのです」



さて、一般の人たちの中には、TVなどに出て来る有名人やタレントなどに対して、非常に批判的な意見を持っている人たちも多いと思います。
では、今の二つの話を聞いたらどんな気がするのでしょうか?

私は数年前から何人かの歌手の人たちとお付き合いをするようになりましたが、私が考えている事というのは、
「歌手の人たちの長所を早く見付けて引き出してあげたい」という事なのです。
自分が創った曲の雰囲気を無理に押し付けて歌ってもらうのではなく、歌手の個性を自然に引き出す事によって、同じ曲であっても、「歌手の個性によってそ、れぞれ別の魅力が出て来る」という事を発見したからです。

昨年のTV-CMのサウンド・ロゴの時には、自宅に5人の歌手の人たちを呼んで歌って頂きましたが、その時に上品な声の人には上品に歌ってもらい、クセのある歌い方をする人にはそのクセのあるままに歌ってもらったのです。
この方が非常に面白い結果が出せる訳です。
ディレクターもどちらを採用しようかと、かなり迷ったくらいです。

これも誤解を生じやすい事ですので、一言付け加えて置きますが・・・
「どんな人に対しても優しく接し、批判をせずに現状のままで良い」と言うのではありません。
「向上心」を持って今後も進歩を続けて欲しいけれども、現時点で出来る事というのは限られていますから、その中で長所だけは引き出さなければいけない・・・という意味なのです。
「鋭い批判精神と深い愛情」をどんな人に対しても同時に持っていたい、と思っているのです。



さて、私が歳を取るに従って分かってきた事は、ごく当たり前の事かもしれませんが、こんな事です。

「この世の中に完璧な人間などはいない事」
「ある面に於いては非常に優秀な人でも、他の面では案外バカな事をしている事」
「どんな人にも長所と短所がある事」

「人には他人の長所を引き出す事が出来る人と、短所を引き出す事が出来る人がいる事」
「他人の長所を引き出せる人というのは、その人自身に特別な才能がある事」
「他人の短所を引き出せる人というのは、才能などなくても、ただ他人の嫌がる事をするだけで、簡単に短所を引き出す事が出来る事」

私はちょっと想像してみました。
この世の中の全ての人の長所が出たら、どんなに素晴らしい世の中になるだろう。
また逆に、この世の中の全ての人の短所が出たら、どんなに酷い世の中になるだろう。

さて、この辺で簡単にまとめますと、
一人の人間の長所を早く見つけ出し、短所を出さないようにし、その短所は陰でゆっくり成長させて行くしかないように思った次第です。
音楽に関して若い歌手の人たちに期待している事は、チャンスが来たら例え歌が未熟であってもそのチャンスを活かし、人気が出てきたらその人気が持続している間に、陰でこっそり歌のレッスンはしっかり受けて欲しい、という事になります。
「ライブ歌手」、「レコード歌手」などと陰で言われないように・・・
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新しい音楽制作に挑戦! | トップ | 女の子に「オチ○チン」がある... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Laura Biagiottei)
2006-04-16 22:32:46
ほんと、そう思います。。

歌えなくても歌手ってのもありえますし・・。

何を信念にしていくかって、自分でしっかり決めてやってくしかないのかなー

なんて 考えながらです★
返信する
人気というものは・・・ (ARATA)
2006-04-16 23:22:08
YUKAさん、こんばんは。

コメントをどうもありがとう。



これは歌手だけに限った事ではなさそうですね。

先日TVを見ていましたら俳優が出ていて、その俳優はかなり人気があってTVのドラマにいくつも出演していたそうですが、ある時思い立ってアメリカの俳優学校のような所に行ったそうです。

それは、「今の人気がなくなった時に、自分に何が出来るのか?」と、真剣に考えたからだそうです。

人気というのは、一般大衆や他人の評価ですけど、一般の評価くらい当てにならないものはありません。

一般大衆は気まぐれで飽きやすいからです。



人気がなくなった時でも俳優としての技術がしっかり備わっていれば、また別のキャラクターで仕事が来るかもしれません。

名女優の田中絹代さんが「サンダカン八番娼館」という映画で、娼婦役として出演した時には既にお婆さんでしたが、主演の栗原小巻さんとどちらが主役なのか・・・?

私には田中絹代さんの方が主役に見えましたよ。

当然の事ですが、タダの人気女優ではない訳ですよ。
返信する

コメントを投稿

エッセイ」カテゴリの最新記事