(Wed)
尊敬する佐治博士のコラムより
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【巨大地震に思う】
国内観測史上最大の東日本大震災が起こってしまいました。
今は一人でも多くの方々の無事を祈るばかりですが、
改めて地球という天体の上に生きる人間の無力さと「地球にやさしく」などと
豪語してきたことの傲慢さに気付くべき時でしょう。
重ねて言えば、将来に起こるかもしれない小惑星との衝突では、
高さ数十メートル以上の津波と太陽光遮断による地球規模での極寒期が予想されますから、日々の生活の中で、宇宙の中の地球、その上で生息する人間という視点を
持つことは大切です。
ところで、組織としての救援活動などを立ち上げる時に、
気になるのがルールを重視するあまり、出遅れてしまうことです。
人命がかかっている場合にはなおさらです。学校運営においても、
何かが起こってからの学則変更などで手間取った経験は数知れません。
ここで、思い出されるのが、小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡的成功は
マニュアルを超えた「ルール違反」がもたらした成果だったという事実です。
みなさんもご存じのように「はやぶさ」が直面した3回の危機のうち、
最大だったのは、四つのイオンエンジンが壊れてしまい、
地球への帰還が絶体絶命になったことでした。
その時、半分だけ生きている二つのエンジンをつないで
一つのエンジンとして作動できたことが、
奇跡的な快挙として大きく報道されました。
しかし、これはまったくの「ルール違反」がもたらした成果だったのです。
プロジェクトマネジャーの川口さんでさえ、
この非常事態発生で失敗の報道発表をするその時まで
知らなかった「ルール違反」でした。
それは、イオンエンジンの開発に生涯をかけていた一人の技術者が
すべてのエンジンが壊れたときの悪夢にさいなまれて
毎夜、汗びっしょりで目覚める日々が続き、そのために不測の事態に備え、
まったくの独断で、打ち上げぎりぎりのところで、
ひそかに設計図にはないエンジンのつなぎ変えという大胆なことをしていたのです。
本来ならば、500億円を要する計画を130億円でやり遂げたとはいえ、
高額な開発費を使っての失敗は許されません。
そのため、念には念を入れて設計されていたものを
打ち上げ直前に変えたというのですから、言葉を失います。
現代の日本社会は、一般の社会構造から教育界まで、
危機管理、セキュリティー対策の「マニュアル化」で固められています。
それは冒険をしない子供たちを育て、不測の事態に対応できない子供たちを
育てることになってしまいました。
セキュリティーに走るのは、何かが起こった場合に責任回避できるという
負の意味合いもあるでしょう。しかし、責任はみんなで負うものです。
そして、今回の巨大地震の救援活動においても
「ルール違反がはやぶさを救った」という教訓をもう一度かみしめて、
救援体制の確立よりも、まず、臨機応変に一人でも多くの人命救助を優先してほしい、と
願わずにはいられません。
(佐治晴夫・鈴鹿短大学長=宇宙物理学)
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尊敬する佐治博士のコラムより
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【巨大地震に思う】
国内観測史上最大の東日本大震災が起こってしまいました。
今は一人でも多くの方々の無事を祈るばかりですが、
改めて地球という天体の上に生きる人間の無力さと「地球にやさしく」などと
豪語してきたことの傲慢さに気付くべき時でしょう。
重ねて言えば、将来に起こるかもしれない小惑星との衝突では、
高さ数十メートル以上の津波と太陽光遮断による地球規模での極寒期が予想されますから、日々の生活の中で、宇宙の中の地球、その上で生息する人間という視点を
持つことは大切です。
ところで、組織としての救援活動などを立ち上げる時に、
気になるのがルールを重視するあまり、出遅れてしまうことです。
人命がかかっている場合にはなおさらです。学校運営においても、
何かが起こってからの学則変更などで手間取った経験は数知れません。
ここで、思い出されるのが、小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡的成功は
マニュアルを超えた「ルール違反」がもたらした成果だったという事実です。
みなさんもご存じのように「はやぶさ」が直面した3回の危機のうち、
最大だったのは、四つのイオンエンジンが壊れてしまい、
地球への帰還が絶体絶命になったことでした。
その時、半分だけ生きている二つのエンジンをつないで
一つのエンジンとして作動できたことが、
奇跡的な快挙として大きく報道されました。
しかし、これはまったくの「ルール違反」がもたらした成果だったのです。
プロジェクトマネジャーの川口さんでさえ、
この非常事態発生で失敗の報道発表をするその時まで
知らなかった「ルール違反」でした。
それは、イオンエンジンの開発に生涯をかけていた一人の技術者が
すべてのエンジンが壊れたときの悪夢にさいなまれて
毎夜、汗びっしょりで目覚める日々が続き、そのために不測の事態に備え、
まったくの独断で、打ち上げぎりぎりのところで、
ひそかに設計図にはないエンジンのつなぎ変えという大胆なことをしていたのです。
本来ならば、500億円を要する計画を130億円でやり遂げたとはいえ、
高額な開発費を使っての失敗は許されません。
そのため、念には念を入れて設計されていたものを
打ち上げ直前に変えたというのですから、言葉を失います。
現代の日本社会は、一般の社会構造から教育界まで、
危機管理、セキュリティー対策の「マニュアル化」で固められています。
それは冒険をしない子供たちを育て、不測の事態に対応できない子供たちを
育てることになってしまいました。
セキュリティーに走るのは、何かが起こった場合に責任回避できるという
負の意味合いもあるでしょう。しかし、責任はみんなで負うものです。
そして、今回の巨大地震の救援活動においても
「ルール違反がはやぶさを救った」という教訓をもう一度かみしめて、
救援体制の確立よりも、まず、臨機応変に一人でも多くの人命救助を優先してほしい、と
願わずにはいられません。
(佐治晴夫・鈴鹿短大学長=宇宙物理学)
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