山の香も消えたななとせ亡き夫の
守りし森に今日は雨降る
大きな山火事がテレビで連日映されていて、その恐怖に亡夫の口癖を思い出している。
夫は春の山火事をとても恐れていた。「春走り」と言っていたが、カラカラに乾燥して風のある時期には、冬の間に積もった枯れ葉はとても燃えやすく、たとえ土のように見えても地面に落ちたタバコの火は、靴で踏んだくらいでは消えてはいないのだと・・。
一緒に仕事に行く人が煙草を吸う時は、見張っていて必ず水筒の水をかけて後始末をしておくと話していた。
私は限りある飲み水を・・と、まったく違う意味で心配したものだったけれど。
その恐ろしさは、火が燃えやすい地面を這って広がっていても、春の日差しの中では炎が見えず、地面が黒く燃え尽きて行って始めて気付くが、もうその時は風に煽られた火を消すことは容易ではないのだと・・。
春になると聞かされて、時には一緒に仕事をしている人は「見張られて煩わしいだろうなぁ・・」とも思うことがあった。
しかし、今「あなたは正しかった。」と、微笑む写真に向かってほめてあげた。