国鉄時代を知らない世代の人から、JRになったからローカル線が廃止になったとか、不便になったという声を聞きます。
実際に、会社間の乗り入れや、会社間をまたぐ長距離列車の減少、国鉄時代に使えた電話予約が使えないなどの弊害もありますが。国鉄から新生JRになるとき、本州各社も本当にJRで上手く行くのだろうかという疑心暗鬼もあったと言われています。
そこで、国鉄の部内紙。国有鉄道という冊子の中から「貨物会社の収支について」という記事がありますので、sここから資料等を引用させてもらいながらお話を進めさせていただこうと思います。
最初に見ていただくのは、JR貨物の輸送量の予測でした。
年々、5%程度減少すると見込まれており、66年(平成3年)度では、発足当初の5,777万トンから570万トンほど減少した、5,209万トンと予測されています。
その代わり、運輸収入がむしろ増えているのは、ほぼ毎年運賃値上げすることを想定して計画されていたからでした。
運賃値上げはJR発足に際しての既定事項であり、旅客会社も同様に毎年運賃値上げを余儀なくされるものと考えられていました。
国有鉄道 1986年11月号
旅客会社の輸送量についても併せて参照してみましょう。
いずれも、旅客輸送は減少するものと予測しており、それに比して運輸収入が増加しているのは前述のように、運賃値上げで収支を相次ぐなうことを計画していたものでした。
これにより、JR各社は概ね収支係数98程度で大きく黒字にならない代わりに赤字になって国庫からの助成金を支払うことが無いようにと言うスキームが作られたことになります。
以下に、JR各社の5年後の収支見通しを一覧にしてありますのでご覧いただこうと思います。
国有鉄道・国鉄線 1987年3月 29~31ページ参照
ここで、JR東海の経常利益が意外に少ないと言うことに気づかれたでしょうか?
これには、新幹線保有機構の存在が大きく関与していました。
すなわち、新幹線に関しては、当初はJR各社の持ち物では無かったわけです。
東海という会社が出来たのも不明確なのですが、名古屋財界にも鉄道の会社の本社がほしいなぁ・・・そんな会話があったか否かは判りませんが監理委員会の中で6分割と出てきた中で個人的には無理矢理作ったものでは無いかと考えています。
実際、西日本・東日本会社には運輸省の天下り、三島会社とJR東海だけが国鉄からという流れになりましたが。
元々、再建監理委員会の中でもJR東海はさほど重要視されていなかったのでは無いかと思ってしまうわけです。
国鉄本社の中でも、新幹線総局は大きくなりすぎており、上越・東北新幹線では新幹線総局の影響を避けるために、管理局にその運営をさせるようにしたという経緯もありますし、実際国鉄当局も分割民営化時に組織を解体したかったのですが、大きすぎて解体できず、結果的にJR東海にそのまま移動させた、さらにそこで職員選別などで多忙を極める職員局をJR東海に割り振ったといったことを葛西氏が「未完の国鉄改革」で書かれていますが、当時の再建管理員会の中でも、そして国鉄当局としてもJR東海は余り重要視されていなかった会社だったのでは無いかと思われます。
前置きが長くなりましたが、ここでJR東海の収益が大きくならなかった原因の一つとして、新幹線保有機構の存在がありました。
新幹線保有機構は線路を保有して、貸し付けるもので、ただし線路の保守など日常業務などはJR各社が行うこととし、大規模災害時などの復旧工事は行うというものでした。
基本的には、30年リース、価格は再調達価格によるもので算出となっており、本来であれば減価償却も終わり収益性も高い東海道新幹線が最も高く設定され、比較的新しい上越・東北新幹線は低めのリース料に設定されていました。【実際には、上越新幹線は鉄道建設公団が建設したもので、JR東日本が直接返済すべきものですが、これも保有機構に移管させた上でリース料として保有機構に払うこととされていました。
当時の新幹線保有機構に関する記事がありましたので、少し長いですが引用させていただきます。
新幹線使用料現在営業中の東北・上越・東海道及び山陽の4新幹線鉄道施設は,新幹線保有機構が保有し,本州3旅客会社に有償で貸し付ける。貸付料の総額は,機構の引き継ぐ4新幹線資産の再調達価額(現時点において8兆4,600億円と推計〉に相当する額の債務(平均利率7.24%)を,貸付期間〈新幹線鉄道施設の残存耐用年数を考慮して30年〉に対応した30年元利均等方式により償還する場合の1年間の元利支払い額に,資産に係る市町村納付金及び機構の管理費等を加えた額である。
元利支払額は6,948億円,市町村納付金等は176億円,合計7,124億円が貸付料の総額である。この貸付料総額を,4新幹線別の輸送人キロに営業1km当たり再調達価額を乗じた数値の比率により新幹線別に配分し,会社はこれに見合う額を使用料として負担することになる。
ここに書かれていますように、新幹線の運賃は全て新幹線保有機構が吸い上げてしまう形が取られており、このリース料は2年ごとに見直される配分比率が変更されることになっていました。
更にこのリース料は30年後に各旅客会社に帰属するのかという問題もありました。
公団(現:鉄道建設・運輸施設整備支援機構)からの貸し付けであれば、支払いが終われば国鉄に帰属しますので、当然のことながら収益は改善されることになりますが、この保有機構の決定では30年後に再リースという形となるのか、否かその辺が全く見えてこなくなるうえ、2年ごとに支払いの配分も代わることから、長期債務を確定できないということで、JR東海あたりは強い不満を持っていました。
ちなみに、JR各社への貸付額は下記の通りです。
東北新幹線 1,348億円
上越新幹線 657億円
東海道新幹線 4,184億円
山陽新幹線 935億円
となっており、東海道新幹線の負担が極端に大きいことが判ります。ちなみに、東海道新幹線のリース料は、新幹線保有機構全体の収入の59%を占めるものでした。
長くなってしまいますので、この辺で一度切らせていただきますが。
JR発足当初は、JRという会社で本当に上手くいくのかというよりも、かろうじて国鉄への助成金と赤字決算だけは回避できるのではないかと考えていたと推測されます。
また、株式についても、国の関与を避けるため全額株式を売却する・・・NTTはJP同様、国の保有が義務づけられている戸は異なっているのは、元々国が関与しなくても良いような枠組みを作ろうとした。
もしくは、助成金を払いたくないからと言う思惑もあったと考える方が素直であろうと思われます。
いわゆる新自由主義の世界に否応なしに巻き込まれていったと言えるかもしれません。
次回は、JR貨物に特化した部分で思索を深めてみたいと思います。
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