薬の供給が非常に不安定になっています。医師の処方する薬を常用している方は、すぐにでも限度一杯の2-3か月分、処方して貰った方がいいでしょう。特に11月29日に起きた倉庫(日立物流・関西メディカル物流センター)の火災により、製薬企業数社の薬の在庫が全焼しています。今まででさえ、不足気味で不安定だったのが、これから、一層深刻な状況になるであろうことは、想像に難くありません。規則上、90日分までは、あらかじめ処方して貰えるはずです。

愚かなおとめたちは、賢いおとめたちに言った。『油を分けてください。私たちの灯は消えそうです。』賢いおとめたちは答えた。『分けてあげるにはとても足りません。それより、店に行って、自分の分を買って来なさい。』 (マタイ 25:8-9)
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後発薬メーカーで相次いだ業務停止命令をきっかけとする医薬品の供給不足が長引いている。薬局からは「薬剤師になって30年以上になるが、こんな経験をしたのは初めて」といった悲鳴も上がる。医薬品の承認書に記載した詳細な製造方法との照合を徹底する規制が遠因となっている可能性がある。(抜粋)
昨今の医薬品不足はこうして起こった TREND:相次ぐ医薬品の出荷調整に根深い要因、今後の安定供給の見通しは(1/2)
2021/10/26 (日経メディカル)
本吉 葵=日経ドラッグインフォメーション
2021年、後発医薬品企業3社に業務停止命令が通達される前代未聞の事態が生じた。他企業も相次いで出荷調整・自主回収を行っており、医薬品の供給が危機的状況に陥っている。その背景にある要因と今後の見通しを取材した。
出荷調整中の医薬品が2021年5月末から8月末までの間で、2220 から5885アイテムに急増─。21年9月19日にウェブ開催された第54回日本薬剤師会学術大会の医薬品の安定供給に関する分科会で、日本医薬品卸売業連合会副会長でバイタルネット(仙台市青葉区)代表取締役兼社長執行役員の一條武氏が、自社の出荷調整アイテム数が直近3カ月間で約2.6倍に増加しているという驚きのデータを公表した(図1)。うち約9割が後発品だった。
図1 バイタルネットの先発医薬品・後発品を含めた出荷調整アイテム数の推移(一條氏による) *クリックすると拡大表示されます

表1 昨今の医薬品不足の主な要因(取材を基に編集部作成)

海外製造所から原薬の調達ができなくなり供給が滞ったセファゾリン問題が起きた19年以降、医薬品の供給不安がクローズアップされてきた。だが図1のように、21年に入ってからその状況は急激に深刻化している。今、医薬品業界で何が起きているのか。
自主回収や出荷調整急増の背景には、様々な要因が重なり合っているが、特に大きな要因として3つが挙げられるだろう(表1)。
最もインパクトが大きかったのが、21年2月、3月にそれぞれ業務停止命令を受けた小林化工(福井県あわら市)と日医工(富山市)の影響だ。20年12月、小林化工が製造販売する経口抗真菌薬のイトラコナゾール錠50「MEEK」にベンゾジアゼピン系睡眠薬のリルマザホン塩酸塩水和物が通常臨床用量を超えて混入していたことが判明。健康被害の報告が相次ぎ、1人の死亡と245人の健康被害(うち車両運転事故38人、救急搬送41人)が明らかとなった(21年3月29日時点)。同社は医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき21年2月、116日間の業務停止と業務改善命令を受けた。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の立ち入り調査などの結果、製造販売承認書と異なる製造工程や二重帳簿の作成、数百品目に及ぶ品質試験結果のねつ造など、過去に例を見ない不正が明らかとなった(図2)。
図2 小林化工のイトラコナゾール製造実態(厚生労働省 21年9月16日第5回医薬品等行政評価・監視委員会「後発医薬品等の製造管理及び品質管理について」より抜粋、一部改変、図3も) *クリックすると拡大表示されます

図3 日医工の製造所の実態

さらに、翌月の3月、日医工に製造業として32日間、製造販売業として24日間の業務停止が命じられた。同社は20年2月、PMDAや富山県の立ち入り調査によって医薬品の製造管理および品質管理の基準(GMP)違反の疑いが判明し、製造過程の総点検を実施してきた。20年4月から21年1月にかけて75品目近くを自主回収したが、その後の調査で、製造販売承認書と異なる製造方法で製造したり、品質不適合品を適合品となるよう処理をしていたなどの問題が発覚した(図3)。
20年12月時点で約1230品目を製造販売していた同社だが、業務再開後の現在も160品目近くを出荷調整している(21年10月18日時点)。
2社の業務停止命令や出荷停止のあおりを受けて代替薬需要が急増し、他社も出荷調整せざるを得ない状況に追い込まれている。一見、出荷停止となった医薬品については、他社が需要増に応じて増産すれば解決すると思いがちだが、そう簡単ではない。日本ジェネリック製薬協会(JGA)理事長の佐藤岳幸氏は、「後発品企業はもともと他社のシェアなどから自社の供給量を決めて各工場での製造スケジュールを数年先まで組んでいることが多い。昨今の供給不安に対して増産を行っているが、すぐに大幅な増産に対応するのは難しい」と話す。
自己点検で不備が続出
また、出荷調整品目数が急増した2つ目の要因として注目されるのが、小林化工や日医工が行政処分を受けたことを機に、後発品企業各社がここ最近、一斉に自己点検を実施している点だ。自己点検については、JGAが21年3月、会員企業に対して製造販売承認書と製造実態の調査と結果の公表を要請しており、その状況をウェブサイトで公表している。
実際、自己点検の結果、様々な虚偽やずさんな品質管理などが発覚した長生堂製薬(徳島市)は21年10月、31日間の製造販売業、製造業の業務停止命令および業務改善命令などを受けた。徳島県の立ち入り検査で、虚偽の製造指図書や製造記録などを作成したり、試験結果が承認規格を逸脱していると知りながら回収などの必要な措置を講じていなかったほか、添加物の分量が承認事項と異なっていたなど幾つもの悪質な不正が明らかとなった。さらに、その他の企業も不備のあった製品について供給を停止する事態となっている。
武田テバファーマ(名古屋市中村区)CEO 兼社長の松森浩士氏は、「1997年に医薬品製造承認基準が厳格化され、それ以前に製造承認された製品は一般的に製剤設計が脆弱なものも多い。自社の経験上、各後発品企業は取り扱い製品の1~3割ほど、見直しが必要な医薬品を抱えていると思う」と指摘する。
しかし、国が後発品使用比率80%の目標を掲げ、使用促進が図られる中で、多くの後発品企業は取り扱い製品の製剤設計の見直しよりも新製品の製造販売を優先させてきたため、今回のような自己点検で相次いで不備が発覚し、出荷調整や供給停止が多発する事態に陥っている。厚労省も21年7月、全国で無通告立ち入り調査を実施。今後も継続して監査指導の強化を図るとしており、この先も行政処分を受けるような企業がさらに出てくる可能性もある。しばらくは供給不安が続くというのが多くの関係者の見方だ。
さらに3つ目の要因として、昨年から続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大の影響も見逃せない。例えば21年6月ごろの流行期には、COVID- 19の治療で使用されるプロポフォール(商品名ディプリバン他)、9月にはデキサメタゾン経口薬などの需要が大幅に増加し、医療現場で供給不足になる事態に陥った。
浜松医科大学医学部附属病院薬剤部教授・薬剤部長の川上純一氏は、「COVID-19患者への対応に医療スタッフが追われる中、ヘパリン製剤などではこまめな管理が必要な点滴静注よりも、皮下注射製剤の需要が増えており、出荷調整になる製品もあった」と話す。また、原薬製造国でのCOVID-19の流行により製造所の操業を縮小・停止せざるを得なくなり生産に影響が出た原薬もある。
(次の記事に続く)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/monthly/202110/572451.html
TREND:相次ぐ医薬品の出荷調整に根深い要因、今後の安定供給の見通しは(2/2) 深刻化する医薬品不足、供給回復の道筋は?
2021/10/27
本吉 葵=日経ドラッグインフォメーション
2021年、後発医薬品企業3社に業務停止命令が通達される前代未聞の事態が生じた。他企業も相次いで出荷調整・自主回収を行っており、医薬品の供給が危機的状況に陥っている。その背景にある要因と今後の見通しを取材した(本レポートは、TREND「昨今の医薬品不足はこうして起こった」〔2021.10.26公開〕の続きです)。
医薬品の出荷調整・自主回収が相次ぐ未曽有の事態に、現場ではどのように対応しているのだろうか。日経ドラッグインフォメーショ Online(DI Online)の薬剤師会員を対象に、2021年7月に行った後発品に関する調査では(有効回答数2615件)、自由意見として「各後発品を比較した説明のリーフレットを作成した」「できるだけ安定供給している薬剤を選んで丁寧に説明している」など、後発品への信頼が揺らいでいる状況の中でも数量シェアを上げるための様々な取り組みが寄せられた(図1)。
図1 後発品の数量シェアを上げるために薬局として新たに始めた取り組み(日経DI調査より抜粋)*クリックすると拡大表示されます

東京都薬剤師会常務理事の根本陽充氏は「多くの会員薬局の実態を把握するため、21年6月と8月に後発品の流通に関する調査を行ったところ、医薬品の納入状況が悪化し続けていることが分かった。現場では、医薬品を手配する業務が増えたほか、患者に薬剤変更などについて、これまで以上に時間を割いて丁寧に説明し、なんとか医薬品を供給している」と話す。
また、21年5月には、薬剤師が安定的に供給可能な後発品を選択するための資料として、会員内における銘柄ごとのシェア率や原薬製造国などの情報を一覧にまとめた「後発医薬品選択の指針」を公表している。今後、ウェブサイトの会員向けページで公開している「後発医薬品比較サイト」にもこの指針の内容を反映していく方針だ。
一方、後発品企業も信頼回復のために様々な情報開示を始めている。JGAは前述した自己点検の結果のほか、共同開発の有無や製剤製造企業名、製造管理・品質管理への取り組みなどを公開するよう会員企業に要請。また、品質委員会を設けGMPに関する相談窓口を新設するなどの対応を始めている。佐藤氏は「JGAでは会員以外の企業にも自己点検などを呼び掛けており、後発品業界全体で信頼回復に取り組んでいく」と話す。まずは21年内に全ての会員企業に自己点検を終えてもらう予定だという。
国も後発品の品質確保と安定供給のために、より注力していく方針だ。厚労省医薬・生活衛生局の22年度予算概算要求の中で、新規事業としてGMP調査体制や承認申請資料の適合性調査の強化、後発品の安全性情報の効率的な収集・評価を盛り込み、新規に2億4600万円を計上している。
供給回復に数年はかかる
現場の薬剤師が今、最も気にしているのは、この状況がいつまで続くのかということだろう。COVID-19の影響で供給不足となっている製品については、流行が下火になれば元に戻ると思われるが、その他の要因については改善までに年単位の時間がかかるというのが多くの関係者の見方だ。
JGAの佐藤氏は、「取り扱い品目の多い日医工の影響が大きく、同社製品の出荷再開の見通しが立つことが、安定供給に向けて大きな要素になるだろう」と話す。日医工は現在出荷調整中の約160品目について、多くは22年4月以降に出荷を再開するとしているが、具体的な時期は公開していない。同社は21年8月に医薬品卸のメディパルホールディングス(東京都中央区)と資本業務提携を締結したほか、人事の刷新を進めており、「こうした動きを注視していく必要がある」(業界関係者)。
松森氏は、「製品によっては半年~1年ほどで出荷調整が解消されるものもあるが、業界全体で出荷調整が落ち着くには5年くらいかかる可能性がある」と推測する。
後発品企業の根深い問題が顕在化したが、今、問題解決に向けて何をすべきなのだろうか。
厚労省は21年9月、医薬品産業政策の5~10年の中長期的な方向性を示す「医薬品産業ビジョン2021」を8年ぶりに公表。後発品について、安定供給に関する責任の法的位置付けや、効率的な情報収集と適切な情報公表の仕組みなどを検討するとしている(表1)。
表1 厚生労働省の「医薬品産業ビジョン2021」における後発品に関する主な内容 (厚労省の資料より抜粋、一部改変)*クリックすると拡大表示されます

松森氏は、「日本は医薬品の販売中止を“ 悪”とする風土がある。そのため販売中止品目より新たに製造する品目が多くなり、現場の生産能力に余裕がない製薬会社もある。規模に見合った製品数に絞って製造すべきだ」と指摘。現状に懸念を抱き、21年7月に日本エスタブリッシュ医薬品研究協議会を設立し、後発品の製品数の最適化や原薬の安定的確保などを議論していくとしている。「持続可能な供給体制を確立する時期に来ている」と松森氏は話している。
後発医薬品調剤体制加算の算定に時限的措置
どうなる? 2022年度調剤報酬改定
医薬品が手に入りにくく、後発品の数量シェアの維持が困難なケースも出ている中、現場で死活問題となっているのが、後発医薬品調剤体制加算などの算定だ。
厚労省は21年9月21日、「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」と題した事務連絡を発出。21年7月1日時点で供給が停止されていると医政局経済課に報告があった医薬品のうち、取引数量が多く影響が大きいと判断した1000品目近くを、後発品数量シェアの算出対象から除外可能とした。対象となる加算等は、後発医薬品使用体制加算、外来後発医薬品使用体制加算、後発医薬品調剤体制加算および調剤基本料の後発品に関する減算における実績要件。
厚労省保険局医療課薬剤管理官の紀平哲也氏は、「『出荷調整』には定義がなく、様々な要因が絡んでいて一律の評価は難しいため、まずは客観的に評価できる出荷停止品に絞った」と説明し、今後も状況に応じて対応していくという。
事務連絡は22年3月31日までの時限的な措置としている。次回の調剤報酬改定における後発医薬品調剤体制加算等のあり方について紀平氏は、「既に後発品使用率80%の目標はおおむね達成しているとの財務省からの指摘もある一方、現場からは80%を維持するためには労力がかかるので加算が必要だとの声もあり、今後議論していく」と話している。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/monthly/202110/572452.html
医薬品不足は医療機関にどのような影響を与えている?
2021/10/29 山崎大作=日経メディカル
2021年、後発医薬品企業3社に相次いで業務停止命令が通達された。さらに他の企業が出荷調整や自主回収を行ったことで、医薬品の供給が危機的状況に陥っている。この前代未聞の事態に、当初は薬局の仕入れに関する問題とされていたが、その余波はついに医師の処方への影響へと発展しつつある。
アレルギー科、リウマチ科を掲げる北原医院(大阪府守口市)院長の井上美佐氏は、「最近、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)のブシラミンが欠品しており、一部の院外処方をしている患者の処方に対して、小さな薬局から『休薬してもいいか』という問い合わせが来た」と明かす。しかし、そんなことはできるわけがない。「『ないならば大手薬局を紹介して!』と電話を切った」と苦笑する。ブシラミンは、後発品を手掛ける日医工、小林化工が業務停止処分を受けた影響で、東和薬品や先発品を扱うあゆみ製薬が出荷調整を行う事態となっている。あゆみ製薬は2021年7月に新規注文を中止、11月からは既存顧客に対しても出荷数を割り当てて運用することを発表している。
実は同院ではおよそ9割の患者は従来から院内処方で、「早めに在庫を積んだのでまだなんとかなっている」(井上氏)。しかし、薬剤が入手できないからといって、DMARDsで症状が安定している患者を経済的負担の大きな生物学的製剤には変えられない。とはいえ「ブシラミンがなくなったら、今はまだ入手できるサラゾスルファピリジンに変えるしかない」と井上氏は言う。医学的に必要性がないのに薬剤を変更せざるを得ない事態になりそうだ。
後発品不足が患者負担に跳ね返っている例も出てきている。笹川皮膚科(大阪市城東区)で後発品不足の影響を受けたのは抗ヒスタミン薬。21年3月、エピナスチンドライシロップでの自主回収以降、「常に卸に連絡しながら、在庫にあるものをキープしているが、抗ヒスタミン薬は綱渡りの状況だ。しかも代替品がドミノ倒しのように入手できなくなっていて、先発品に変えざるを得なくなったケースもある」と院長の笹川征雄氏はため息をつく。
先発品に変えれば薬剤費は上がる。抗ヒスタミン薬を先発品に変更するだけで、患者の負担増は年間7000円程度。「『高くなるならば塗り薬だけで飲み薬いらない』と言う患者さんも出ている。その結果、症状の増悪が危惧される」(笹川氏)。また、同クリニックは院内処方にしているため、採用薬の変更をアルバイトの医師にも全て説明する必要があるほか、同種同効薬を複数調達する必要が出てきたことから在庫スペースも増やさざるを得なくなったし、レセコンの設定も変更が必要となった。「様々な形で負担が増している」(笹川氏)。
医師は気付いていない?
ただし、多くの医療機関は必ずしも危機感を覚えていないのが実情のようだ。「『昨春、マスクでも同様のことが起こった。だから薬も一過性で、慌てる必要がない』と考える医師は多いのではないか」と指摘するのは大西内科ハートクリニック(津市)院長の大西勝也氏だ。大西氏が専門とする心不全領域でもβ遮断薬のビソプロロールが欠品となっており、日本心不全学会は8月、0.625mg錠の長期処方を避けることなどをまとめた提言を出している。
心不全の患者が4割を占める同クリニックでは、門前の薬局がビソプロロールを多く在庫していたため、今のところは確保できているものの、自院の門前以外で調剤を受けていた患者が「薬がないので、門前で調剤してもらってほしい」と言われたケースや、門前薬局から特定の用量の錠剤がないとの報告を受けたりしているという。大西氏は症状が頻脈のみの患者などビソプロロールの優先順位が低いケースの処方を変更するによって供給の回復を待つ意向だが、「まだまだ危機感のない医師は多い」(大西氏)。大西氏は医師に現状をきちんと把握してもらうためにも、「各企業の生産量と、レセプトから推測される年間の使用量、さらには企業からいつ供給が回復するかの情報をきちんと開示してほしい」と訴える。
国が後発品使用比率80%の目標を掲げて使用促進を急ぐ中で、1997年の医薬品製造承認基準の厳格化に伴う見直しがおざなりになってしまっているとの指摘もある(関連記事:昨今の医薬品不足はこうして起こった)。後発品使用比率の向上は、日本の医療の持続性の点で重要な施策ではあるが、医薬品供給で優先すべきは適切な品質管理に基づいた安全性の担保と安定供給ではないだろうか。国も企業もその原点に立ち返って信用を取り戻す必要があるだろう。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t337/202110/572504.html
後発品の供給不足は医師の処方にも影響 NEWS◎京都府保険医協会の会員調査の速報結果
2021/10/27 (日経メディカル)
京都府保険医協会は2021年10月22日、後発医薬品の供給不足に関する同会の代議員へのアンケートの速報を公表した。それによると、院内処方の医療機関の86.4%が「納入がなくなった・減った医薬品がある」と解答。また、院外処方の医療機関についても94.1%が「在庫がない、あるいは少ないため調剤できない」などと言われた医薬品があるとした(回答数は35)。
2020年12月、小林化工(福井県あわら市)が製造販売するイトラコナゾール錠50「MEEK」にリルマザホン塩酸塩水和物が混入していたことに端を発し、後発品企業の製造上の不備が相次いで発覚したことから後発品の供給がひっ迫している。これを受けて、日本骨代謝学会と日本骨粗鬆症学会は7月19日、新規に骨粗鬆症治療を開始する場合にはエルデカルシトールとアルファカルシドールを避けることや他の薬剤への変更を検討することなどを求める提言を出した他、日本心不全学会が8月16日付けでビソプロロール0.625mg錠の長期処方を避けることやカルベジロールへの切り替えなどを求める提言を出す事態となっている。
京都府保険医協会のアンケートで医薬品の供給不足による影響として最も多かったのは、「同効の他薬剤への切り替えに手間がかかる」で71%(母数は「院内調剤で納入がなくなった・減った」と回答、および「院外調剤で在庫がない、あるいは少ないため調剤できないと言われた医薬品がある」と回答した22件)。以下、「先発医薬品になり、患者負担が増した」(38.7%、12件)、「休薬せざるを得なくなった」(25.8%、8件)と続いた。「患者が後発医薬品を拒否した」という例も9.7%(3件)あった。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202110/572453.html

愚かなおとめたちは、賢いおとめたちに言った。『油を分けてください。私たちの灯は消えそうです。』賢いおとめたちは答えた。『分けてあげるにはとても足りません。それより、店に行って、自分の分を買って来なさい。』 (マタイ 25:8-9)
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長引く医薬品の供給不足 過度な「文書主義」が遠因に 日経ビジネス
後発薬メーカーで相次いだ業務停止命令をきっかけとする医薬品の供給不足が長引いている。薬局からは「薬剤師になって30年以上になるが、こんな経験をしたのは初めて」といった悲鳴も上がる。医薬品の承認書に記載した詳細な製造方法との照合を徹底する規制が遠因となっている可能性がある。(抜粋)
昨今の医薬品不足はこうして起こった TREND:相次ぐ医薬品の出荷調整に根深い要因、今後の安定供給の見通しは(1/2)
2021/10/26 (日経メディカル)
本吉 葵=日経ドラッグインフォメーション
2021年、後発医薬品企業3社に業務停止命令が通達される前代未聞の事態が生じた。他企業も相次いで出荷調整・自主回収を行っており、医薬品の供給が危機的状況に陥っている。その背景にある要因と今後の見通しを取材した。
出荷調整中の医薬品が2021年5月末から8月末までの間で、2220 から5885アイテムに急増─。21年9月19日にウェブ開催された第54回日本薬剤師会学術大会の医薬品の安定供給に関する分科会で、日本医薬品卸売業連合会副会長でバイタルネット(仙台市青葉区)代表取締役兼社長執行役員の一條武氏が、自社の出荷調整アイテム数が直近3カ月間で約2.6倍に増加しているという驚きのデータを公表した(図1)。うち約9割が後発品だった。
図1 バイタルネットの先発医薬品・後発品を含めた出荷調整アイテム数の推移(一條氏による) *クリックすると拡大表示されます

表1 昨今の医薬品不足の主な要因(取材を基に編集部作成)

海外製造所から原薬の調達ができなくなり供給が滞ったセファゾリン問題が起きた19年以降、医薬品の供給不安がクローズアップされてきた。だが図1のように、21年に入ってからその状況は急激に深刻化している。今、医薬品業界で何が起きているのか。
自主回収や出荷調整急増の背景には、様々な要因が重なり合っているが、特に大きな要因として3つが挙げられるだろう(表1)。
最もインパクトが大きかったのが、21年2月、3月にそれぞれ業務停止命令を受けた小林化工(福井県あわら市)と日医工(富山市)の影響だ。20年12月、小林化工が製造販売する経口抗真菌薬のイトラコナゾール錠50「MEEK」にベンゾジアゼピン系睡眠薬のリルマザホン塩酸塩水和物が通常臨床用量を超えて混入していたことが判明。健康被害の報告が相次ぎ、1人の死亡と245人の健康被害(うち車両運転事故38人、救急搬送41人)が明らかとなった(21年3月29日時点)。同社は医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき21年2月、116日間の業務停止と業務改善命令を受けた。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の立ち入り調査などの結果、製造販売承認書と異なる製造工程や二重帳簿の作成、数百品目に及ぶ品質試験結果のねつ造など、過去に例を見ない不正が明らかとなった(図2)。
図2 小林化工のイトラコナゾール製造実態(厚生労働省 21年9月16日第5回医薬品等行政評価・監視委員会「後発医薬品等の製造管理及び品質管理について」より抜粋、一部改変、図3も) *クリックすると拡大表示されます

図3 日医工の製造所の実態

さらに、翌月の3月、日医工に製造業として32日間、製造販売業として24日間の業務停止が命じられた。同社は20年2月、PMDAや富山県の立ち入り調査によって医薬品の製造管理および品質管理の基準(GMP)違反の疑いが判明し、製造過程の総点検を実施してきた。20年4月から21年1月にかけて75品目近くを自主回収したが、その後の調査で、製造販売承認書と異なる製造方法で製造したり、品質不適合品を適合品となるよう処理をしていたなどの問題が発覚した(図3)。
20年12月時点で約1230品目を製造販売していた同社だが、業務再開後の現在も160品目近くを出荷調整している(21年10月18日時点)。
2社の業務停止命令や出荷停止のあおりを受けて代替薬需要が急増し、他社も出荷調整せざるを得ない状況に追い込まれている。一見、出荷停止となった医薬品については、他社が需要増に応じて増産すれば解決すると思いがちだが、そう簡単ではない。日本ジェネリック製薬協会(JGA)理事長の佐藤岳幸氏は、「後発品企業はもともと他社のシェアなどから自社の供給量を決めて各工場での製造スケジュールを数年先まで組んでいることが多い。昨今の供給不安に対して増産を行っているが、すぐに大幅な増産に対応するのは難しい」と話す。
自己点検で不備が続出
また、出荷調整品目数が急増した2つ目の要因として注目されるのが、小林化工や日医工が行政処分を受けたことを機に、後発品企業各社がここ最近、一斉に自己点検を実施している点だ。自己点検については、JGAが21年3月、会員企業に対して製造販売承認書と製造実態の調査と結果の公表を要請しており、その状況をウェブサイトで公表している。
実際、自己点検の結果、様々な虚偽やずさんな品質管理などが発覚した長生堂製薬(徳島市)は21年10月、31日間の製造販売業、製造業の業務停止命令および業務改善命令などを受けた。徳島県の立ち入り検査で、虚偽の製造指図書や製造記録などを作成したり、試験結果が承認規格を逸脱していると知りながら回収などの必要な措置を講じていなかったほか、添加物の分量が承認事項と異なっていたなど幾つもの悪質な不正が明らかとなった。さらに、その他の企業も不備のあった製品について供給を停止する事態となっている。
武田テバファーマ(名古屋市中村区)CEO 兼社長の松森浩士氏は、「1997年に医薬品製造承認基準が厳格化され、それ以前に製造承認された製品は一般的に製剤設計が脆弱なものも多い。自社の経験上、各後発品企業は取り扱い製品の1~3割ほど、見直しが必要な医薬品を抱えていると思う」と指摘する。
しかし、国が後発品使用比率80%の目標を掲げ、使用促進が図られる中で、多くの後発品企業は取り扱い製品の製剤設計の見直しよりも新製品の製造販売を優先させてきたため、今回のような自己点検で相次いで不備が発覚し、出荷調整や供給停止が多発する事態に陥っている。厚労省も21年7月、全国で無通告立ち入り調査を実施。今後も継続して監査指導の強化を図るとしており、この先も行政処分を受けるような企業がさらに出てくる可能性もある。しばらくは供給不安が続くというのが多くの関係者の見方だ。
さらに3つ目の要因として、昨年から続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大の影響も見逃せない。例えば21年6月ごろの流行期には、COVID- 19の治療で使用されるプロポフォール(商品名ディプリバン他)、9月にはデキサメタゾン経口薬などの需要が大幅に増加し、医療現場で供給不足になる事態に陥った。
浜松医科大学医学部附属病院薬剤部教授・薬剤部長の川上純一氏は、「COVID-19患者への対応に医療スタッフが追われる中、ヘパリン製剤などではこまめな管理が必要な点滴静注よりも、皮下注射製剤の需要が増えており、出荷調整になる製品もあった」と話す。また、原薬製造国でのCOVID-19の流行により製造所の操業を縮小・停止せざるを得なくなり生産に影響が出た原薬もある。
(次の記事に続く)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/monthly/202110/572451.html
TREND:相次ぐ医薬品の出荷調整に根深い要因、今後の安定供給の見通しは(2/2) 深刻化する医薬品不足、供給回復の道筋は?
2021/10/27
本吉 葵=日経ドラッグインフォメーション
2021年、後発医薬品企業3社に業務停止命令が通達される前代未聞の事態が生じた。他企業も相次いで出荷調整・自主回収を行っており、医薬品の供給が危機的状況に陥っている。その背景にある要因と今後の見通しを取材した(本レポートは、TREND「昨今の医薬品不足はこうして起こった」〔2021.10.26公開〕の続きです)。
医薬品の出荷調整・自主回収が相次ぐ未曽有の事態に、現場ではどのように対応しているのだろうか。日経ドラッグインフォメーショ Online(DI Online)の薬剤師会員を対象に、2021年7月に行った後発品に関する調査では(有効回答数2615件)、自由意見として「各後発品を比較した説明のリーフレットを作成した」「できるだけ安定供給している薬剤を選んで丁寧に説明している」など、後発品への信頼が揺らいでいる状況の中でも数量シェアを上げるための様々な取り組みが寄せられた(図1)。
図1 後発品の数量シェアを上げるために薬局として新たに始めた取り組み(日経DI調査より抜粋)*クリックすると拡大表示されます

東京都薬剤師会常務理事の根本陽充氏は「多くの会員薬局の実態を把握するため、21年6月と8月に後発品の流通に関する調査を行ったところ、医薬品の納入状況が悪化し続けていることが分かった。現場では、医薬品を手配する業務が増えたほか、患者に薬剤変更などについて、これまで以上に時間を割いて丁寧に説明し、なんとか医薬品を供給している」と話す。
また、21年5月には、薬剤師が安定的に供給可能な後発品を選択するための資料として、会員内における銘柄ごとのシェア率や原薬製造国などの情報を一覧にまとめた「後発医薬品選択の指針」を公表している。今後、ウェブサイトの会員向けページで公開している「後発医薬品比較サイト」にもこの指針の内容を反映していく方針だ。
一方、後発品企業も信頼回復のために様々な情報開示を始めている。JGAは前述した自己点検の結果のほか、共同開発の有無や製剤製造企業名、製造管理・品質管理への取り組みなどを公開するよう会員企業に要請。また、品質委員会を設けGMPに関する相談窓口を新設するなどの対応を始めている。佐藤氏は「JGAでは会員以外の企業にも自己点検などを呼び掛けており、後発品業界全体で信頼回復に取り組んでいく」と話す。まずは21年内に全ての会員企業に自己点検を終えてもらう予定だという。
国も後発品の品質確保と安定供給のために、より注力していく方針だ。厚労省医薬・生活衛生局の22年度予算概算要求の中で、新規事業としてGMP調査体制や承認申請資料の適合性調査の強化、後発品の安全性情報の効率的な収集・評価を盛り込み、新規に2億4600万円を計上している。
供給回復に数年はかかる
現場の薬剤師が今、最も気にしているのは、この状況がいつまで続くのかということだろう。COVID-19の影響で供給不足となっている製品については、流行が下火になれば元に戻ると思われるが、その他の要因については改善までに年単位の時間がかかるというのが多くの関係者の見方だ。
JGAの佐藤氏は、「取り扱い品目の多い日医工の影響が大きく、同社製品の出荷再開の見通しが立つことが、安定供給に向けて大きな要素になるだろう」と話す。日医工は現在出荷調整中の約160品目について、多くは22年4月以降に出荷を再開するとしているが、具体的な時期は公開していない。同社は21年8月に医薬品卸のメディパルホールディングス(東京都中央区)と資本業務提携を締結したほか、人事の刷新を進めており、「こうした動きを注視していく必要がある」(業界関係者)。
松森氏は、「製品によっては半年~1年ほどで出荷調整が解消されるものもあるが、業界全体で出荷調整が落ち着くには5年くらいかかる可能性がある」と推測する。
後発品企業の根深い問題が顕在化したが、今、問題解決に向けて何をすべきなのだろうか。
厚労省は21年9月、医薬品産業政策の5~10年の中長期的な方向性を示す「医薬品産業ビジョン2021」を8年ぶりに公表。後発品について、安定供給に関する責任の法的位置付けや、効率的な情報収集と適切な情報公表の仕組みなどを検討するとしている(表1)。
表1 厚生労働省の「医薬品産業ビジョン2021」における後発品に関する主な内容 (厚労省の資料より抜粋、一部改変)*クリックすると拡大表示されます

松森氏は、「日本は医薬品の販売中止を“ 悪”とする風土がある。そのため販売中止品目より新たに製造する品目が多くなり、現場の生産能力に余裕がない製薬会社もある。規模に見合った製品数に絞って製造すべきだ」と指摘。現状に懸念を抱き、21年7月に日本エスタブリッシュ医薬品研究協議会を設立し、後発品の製品数の最適化や原薬の安定的確保などを議論していくとしている。「持続可能な供給体制を確立する時期に来ている」と松森氏は話している。
後発医薬品調剤体制加算の算定に時限的措置
どうなる? 2022年度調剤報酬改定
医薬品が手に入りにくく、後発品の数量シェアの維持が困難なケースも出ている中、現場で死活問題となっているのが、後発医薬品調剤体制加算などの算定だ。
厚労省は21年9月21日、「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」と題した事務連絡を発出。21年7月1日時点で供給が停止されていると医政局経済課に報告があった医薬品のうち、取引数量が多く影響が大きいと判断した1000品目近くを、後発品数量シェアの算出対象から除外可能とした。対象となる加算等は、後発医薬品使用体制加算、外来後発医薬品使用体制加算、後発医薬品調剤体制加算および調剤基本料の後発品に関する減算における実績要件。
厚労省保険局医療課薬剤管理官の紀平哲也氏は、「『出荷調整』には定義がなく、様々な要因が絡んでいて一律の評価は難しいため、まずは客観的に評価できる出荷停止品に絞った」と説明し、今後も状況に応じて対応していくという。
事務連絡は22年3月31日までの時限的な措置としている。次回の調剤報酬改定における後発医薬品調剤体制加算等のあり方について紀平氏は、「既に後発品使用率80%の目標はおおむね達成しているとの財務省からの指摘もある一方、現場からは80%を維持するためには労力がかかるので加算が必要だとの声もあり、今後議論していく」と話している。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/monthly/202110/572452.html
医薬品不足は医療機関にどのような影響を与えている?
2021/10/29 山崎大作=日経メディカル
2021年、後発医薬品企業3社に相次いで業務停止命令が通達された。さらに他の企業が出荷調整や自主回収を行ったことで、医薬品の供給が危機的状況に陥っている。この前代未聞の事態に、当初は薬局の仕入れに関する問題とされていたが、その余波はついに医師の処方への影響へと発展しつつある。
アレルギー科、リウマチ科を掲げる北原医院(大阪府守口市)院長の井上美佐氏は、「最近、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)のブシラミンが欠品しており、一部の院外処方をしている患者の処方に対して、小さな薬局から『休薬してもいいか』という問い合わせが来た」と明かす。しかし、そんなことはできるわけがない。「『ないならば大手薬局を紹介して!』と電話を切った」と苦笑する。ブシラミンは、後発品を手掛ける日医工、小林化工が業務停止処分を受けた影響で、東和薬品や先発品を扱うあゆみ製薬が出荷調整を行う事態となっている。あゆみ製薬は2021年7月に新規注文を中止、11月からは既存顧客に対しても出荷数を割り当てて運用することを発表している。
実は同院ではおよそ9割の患者は従来から院内処方で、「早めに在庫を積んだのでまだなんとかなっている」(井上氏)。しかし、薬剤が入手できないからといって、DMARDsで症状が安定している患者を経済的負担の大きな生物学的製剤には変えられない。とはいえ「ブシラミンがなくなったら、今はまだ入手できるサラゾスルファピリジンに変えるしかない」と井上氏は言う。医学的に必要性がないのに薬剤を変更せざるを得ない事態になりそうだ。
後発品不足が患者負担に跳ね返っている例も出てきている。笹川皮膚科(大阪市城東区)で後発品不足の影響を受けたのは抗ヒスタミン薬。21年3月、エピナスチンドライシロップでの自主回収以降、「常に卸に連絡しながら、在庫にあるものをキープしているが、抗ヒスタミン薬は綱渡りの状況だ。しかも代替品がドミノ倒しのように入手できなくなっていて、先発品に変えざるを得なくなったケースもある」と院長の笹川征雄氏はため息をつく。
先発品に変えれば薬剤費は上がる。抗ヒスタミン薬を先発品に変更するだけで、患者の負担増は年間7000円程度。「『高くなるならば塗り薬だけで飲み薬いらない』と言う患者さんも出ている。その結果、症状の増悪が危惧される」(笹川氏)。また、同クリニックは院内処方にしているため、採用薬の変更をアルバイトの医師にも全て説明する必要があるほか、同種同効薬を複数調達する必要が出てきたことから在庫スペースも増やさざるを得なくなったし、レセコンの設定も変更が必要となった。「様々な形で負担が増している」(笹川氏)。
医師は気付いていない?
ただし、多くの医療機関は必ずしも危機感を覚えていないのが実情のようだ。「『昨春、マスクでも同様のことが起こった。だから薬も一過性で、慌てる必要がない』と考える医師は多いのではないか」と指摘するのは大西内科ハートクリニック(津市)院長の大西勝也氏だ。大西氏が専門とする心不全領域でもβ遮断薬のビソプロロールが欠品となっており、日本心不全学会は8月、0.625mg錠の長期処方を避けることなどをまとめた提言を出している。
心不全の患者が4割を占める同クリニックでは、門前の薬局がビソプロロールを多く在庫していたため、今のところは確保できているものの、自院の門前以外で調剤を受けていた患者が「薬がないので、門前で調剤してもらってほしい」と言われたケースや、門前薬局から特定の用量の錠剤がないとの報告を受けたりしているという。大西氏は症状が頻脈のみの患者などビソプロロールの優先順位が低いケースの処方を変更するによって供給の回復を待つ意向だが、「まだまだ危機感のない医師は多い」(大西氏)。大西氏は医師に現状をきちんと把握してもらうためにも、「各企業の生産量と、レセプトから推測される年間の使用量、さらには企業からいつ供給が回復するかの情報をきちんと開示してほしい」と訴える。
国が後発品使用比率80%の目標を掲げて使用促進を急ぐ中で、1997年の医薬品製造承認基準の厳格化に伴う見直しがおざなりになってしまっているとの指摘もある(関連記事:昨今の医薬品不足はこうして起こった)。後発品使用比率の向上は、日本の医療の持続性の点で重要な施策ではあるが、医薬品供給で優先すべきは適切な品質管理に基づいた安全性の担保と安定供給ではないだろうか。国も企業もその原点に立ち返って信用を取り戻す必要があるだろう。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t337/202110/572504.html
後発品の供給不足は医師の処方にも影響 NEWS◎京都府保険医協会の会員調査の速報結果
2021/10/27 (日経メディカル)
京都府保険医協会は2021年10月22日、後発医薬品の供給不足に関する同会の代議員へのアンケートの速報を公表した。それによると、院内処方の医療機関の86.4%が「納入がなくなった・減った医薬品がある」と解答。また、院外処方の医療機関についても94.1%が「在庫がない、あるいは少ないため調剤できない」などと言われた医薬品があるとした(回答数は35)。
2020年12月、小林化工(福井県あわら市)が製造販売するイトラコナゾール錠50「MEEK」にリルマザホン塩酸塩水和物が混入していたことに端を発し、後発品企業の製造上の不備が相次いで発覚したことから後発品の供給がひっ迫している。これを受けて、日本骨代謝学会と日本骨粗鬆症学会は7月19日、新規に骨粗鬆症治療を開始する場合にはエルデカルシトールとアルファカルシドールを避けることや他の薬剤への変更を検討することなどを求める提言を出した他、日本心不全学会が8月16日付けでビソプロロール0.625mg錠の長期処方を避けることやカルベジロールへの切り替えなどを求める提言を出す事態となっている。
京都府保険医協会のアンケートで医薬品の供給不足による影響として最も多かったのは、「同効の他薬剤への切り替えに手間がかかる」で71%(母数は「院内調剤で納入がなくなった・減った」と回答、および「院外調剤で在庫がない、あるいは少ないため調剤できないと言われた医薬品がある」と回答した22件)。以下、「先発医薬品になり、患者負担が増した」(38.7%、12件)、「休薬せざるを得なくなった」(25.8%、8件)と続いた。「患者が後発医薬品を拒否した」という例も9.7%(3件)あった。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202110/572453.html