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ワクチン接種後、3000-6000人に1人に心筋炎(日経メディカル)

2021-06-15 17:44:49 | 医療
イスラエルでは、ファイザーワクチン接種後、若い男性3000‐6000人に1人に心筋炎が起きている模様です。ただし、重症ではなく、数週間で症状は改善した、とのことです。

COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎 Vaccine誌より 2021/06/09 平山幹生(春日井市総合保健医療センター参事)(日経メディカル)

 PfizerとBioNTechが開発したBNT162b2ワクチン接種後早期に起きた6例の心筋炎に関するイスラエルからの報告である1)。イスラエルでは、2回投与BNT162b2ワクチン接種プログラムの全国展開が2020年12月に開始され、16歳以上の人が対象となった。

 今回の検討の対象は、胸の痛み/不快感のために救急受診した6人の男性患者(16〜45歳;中央値22歳)。過去あるいは現在COVID-19に感染していないことを確認した患者を対象としている。5人の患者は2回目のワクチン接種を受けた24〜72時間後に発症し、1人の患者は1回目のワクチン接種を受けた16日後に発症した。すべての患者は心電図異常およびCRP上昇(56-347 mg/L;正常レベル<5.0 mg/L)を呈していた。5人の患者では血清トロポニンT値(ピークレベル392-1062 ng/L;正常レベル<13 ng/L)が上昇し、1人の患者では高感度心臓トロポニンT値(14350 ng/L;正常レベル<34 ng/L)が上昇していた。

 経胸壁心エコー検査では、4人は正常であり、2人で左心室駆出率低下の傾向にあった。心臓MR検査では、全患者において心筋炎(心筋浮腫および後期ガドリニウム増強)と矛盾しない所見を示した。心臓CT検査を実施した1人の患者と冠状動脈造影検査をした別の患者では冠状動脈の有意な狭小化は観察されなかった。

 心筋炎の経過はすべての患者で軽度だった。非ステロイド抗炎症薬およびコルヒチンで治療され、入院後4〜8日で退院し、外来でフォローされた。

 BNT162b2ワクチン接種後に心筋炎が発生したという報告は、予防接種後の副反応の可能性がある。ただし、今回の結果は慎重に解釈すべきであり、さらなる調査が必要であると考えられる。なお、過去5年間に該当病院での冬期(12月~3月)の心筋炎の発生率を調査すると、1カ月で平均1.17例の心筋炎(月0~3例)が報告されている。一般に、心筋炎はワクチン接種後の有害事象としては珍しい。成人における天然痘ワクチン接種後の心筋炎での罹患率は1万例に1例である。
Dr. Hirayama’s Eye―若い男性でのワクチン接種後心筋炎が注目されている

 Scienceの記事2)によると、イスラエル保健省に提出された報告書の中で、PfizerとBioNTech製新型コロナワクチン接種を受けた16~24歳の男性3000人~6000人に1人の割合でまれな心筋炎を発症したと結論づけている。ただし、全例が症状は重篤ではなく、数週間で改善している。ハダッサ大学医療センターのMevorach氏は、2回のワクチン接種を受けたイスラエルの500万人のうち、110人の心筋炎症例を特定している。若い男性においてワクチン接種後の心筋炎の割合は高かった。心筋炎は通常若い男性の間でより一般的であるが、イスラエルでの症例の90%は男性に現れ、ワクチン接種を受けた人の割合は一般的な発症率(ワクチンを接種しない状態での発症率)の5〜25倍となる。

 今後、日本でも若い人へのワクチン接種が始まるので、適切な情報提供を行い、リスクとベネフィットを考えて、接種するかどうかを判断してもらう必要がある。

文献

1)Mouch Set al. Myocarditis following COVID-19 mRNA vaccination. Vaccine
Available online 28 May 2021
https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2021.05.087

2)Vogel G et al. Israel reports link between rare cases of heart inflammation and COVID-19 vaccination in young men. Science June 1, 2021
https://www.sciencemag.org/news/2021/06/israel-reports-link-between-rare-cases-heart-inflammation-and-covid-19-vaccination


https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/infection/202106/570639.html


若い男性の心筋炎が予想外に多発、ファイザーやモデルナ製ワクチン By Reuters Staff(ロイター)

米疾病対策センター(CDC)が10日発表した暫定調査の結果から、メッセンジャーRNA(mRNA)を利用した新型コロナウイルスワクチンの2回目接種後に心筋炎が発症するケースが、年齢16─24歳で想定以上に多いことが示された。写真は2014年9月撮影(2021年 ロイター/Tami Chappell)

[ニューヨーク 10日 ロイター] - 米疾病対策センター(CDC)が10日発表した暫定調査によると、ファイザーやモデルナが開発したメッセンジャーRNA(mRNA)型の新型コロナウイルスワクチンについて、接種後に心筋炎を発症するケースが若い男性の間で想定以上に多いことが分かった。

心筋炎を発症した人のうち半数以上が12歳から24歳の若者で、この年齢層が接種者全体に占める割合は9%未満だったという。また、16─24歳の若者のうち2回目の接種後に心筋炎を発症したのは283人で、予想の10─102人を大幅に超過。発症した人の年齢は中央値で24歳に偏っており、8割未満が男性だった。

CDCでは、引き続き検証作業を行っており、ワクチンと心筋炎もしくは心膜炎との因果関係について結論は出ていないと表明。また発症者の大半は完全に回復していると強調した。

ファイザーは、心筋症に関するCDCの検証を支持するとしながらも、接種数と比較して発症数が少ないと指摘した。米国では、約1億3000万人がいずれかのmRNAワクチンを2回接種している。


https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-vaccines-myocarditis-idJPKCN2DM20B




ウイルスのRNAは逆転写されてヒトゲノムに取り込まれる?(日経メディカル)

2021-06-12 01:31:30 | 医療
新型コロナに感染した人において、ウイルスのRNAが人のDNAに逆転写されて、永久的にヒトゲノムの中に取り込まれるのでは?という疑惑に対する調査のようです。最近では、ネット上で、ワクチンのmRNAが逆転写されてDNAとして永久に人の体内に残ると書きたてる方も多いようですので、それへの参考にもなろうかと思います。

SARS-CoV-2ウイルスのRNAは逆転写されてヒトゲノムに取り込まれる? 5月24~30日の「話題になった論文」 2021/06/08(日経メディカル)

 本コラムでは、Googleが提供する学術雑誌のインパクト指標「h5-index」から、各領域10誌を抽出。それを元に世界中で最も多くツイートされた論文を紹介する。

 5月17~23日に最もツイート数が多かったのは、非常に興味深い仮説について検討しているPNAS誌の論文「Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues」で、件数は8849件だった。COVID-19から回復した患者が、その後のPCR検査で再び陽性になるケースは多く報告されているが、これらの患者の一部は真の再感染ではなく、感染力のあるウイルスを排出していない。著者らはこの原因として、ウイルスのRNAから逆転写されたDNAが、ヒトの細胞の中でゲノムの一部に取り込まれており、取り込み部分が転写されることで患者のPCR検査結果が陽性になってしまうという仮説を考えて、検証を試みている。著者らは、SARS-CoV-2に感染させたヒトの培養細胞や、患者由来の組織サンプルのDNAを調べることにより、この現象はLINE-1レトロトランスポジション機構が仲介しているようだと報告している。

 今回注目したのは、オーストラリアのシドニー大学の研究者による救急分野の論文で「Understanding overuse of diagnostic imaging for patients with low back pain in the Emergency Department: a qualitative study」(腰痛で救急部門を受診した患者の過剰な腰椎画像撮影を減らすための定性的な研究)だ。わが国の研究でも、腰痛を訴えて受診した患者の約85%は非特異的腰痛に分類され、画像診断で痛みの原因になる異常所見が見つからないとされている。この研究では、救急部門を受診した腰痛患者に画像診断を行ってしまう要因として、患者自身が撮影に関する意思決定に参加していない、検査で異常が見つかり原因が分かることに対する過剰な期待、診断が遅れてしまうことに対する医師の抵抗感、保険会社など第三者的な画像診断への要望、などを挙げている。

 この期間中に話題となった、各診療科の論文は下記の通り。


内科
Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.2105968118
SARS-CoV-2ウイルスのRNAは逆転写されてゲノムに取り込まれ、ヒトの培養細胞や患者由来の標本で発現している

小児科
30-Day Outcomes of Children and Adolescents With COVID-19: An International Experience
http://dx.doi.org/10.1542/peds.2020-042929
18歳未満のCOVID-19患者の30日アウトカムを調べる国際ネットワークコホート研究:2017~18シーズンのインフルエンザとの比較

皮膚科
Prevalence of Hidradenitis Suppurativa
http://dx.doi.org/10.1001/jamadermatol.2021.1677
乾癬膿瘍(反対型ざ瘡)の有病率:系統的レビューとメタアナリシス

精神科
Intermittent fasting enhances long-term memory consolidation, adult hippocampal neurogenesis, and expression of longevity gene Klotho
http://dx.doi.org/10.1038/s41380-021-01102-4
間欠的な絶食やカロリー制限が長期記憶の強化や海馬の神経新生、長寿遺伝子Klothoの発現に与える影響(マウスを用いた研究)

外科
Comprehensive classification of anatomical variants of the main biliary ducts
http://dx.doi.org/10.1093/bjs/znaa147
肝臓手術のための胆管の解剖学的変異に対する包括的な分類

整形外科
Effectiveness of Adding a Large Dose of Shoulder Strengthening to Current Nonoperative Care for Subacromial Impingement: A Pragmatic, Double-Blind Randomized Controlled Trial (SExSI Trial)
http://dx.doi.org/10.1177/03635465211016008
肩峰下インピンジメントに対する非手術的治療で、肩の強化運動を追加するのは有効か?:ランダム化比較試験による検討

産婦人科
Trichomoniasis and adverse birth outcomes: a systematic review and meta‐analysis
http://dx.doi.org/10.1111/1471-0528.16774
トリコモナス症が出産関連アウトカムに及ぼす悪影響:系統的レビューとメタアナリシス

眼科
Incidence of ophthalmic involvement in Behcet’s disease in the United Kingdom: a British Ophthalmic Surveillance Unit (BOSU) study
http://dx.doi.org/10.1038/s41433-021-01585-z
英国のベーチェット病患者に現れる視覚関連障害の発症率と用いられた治療法:British Ophthalmic Surveillance Unit (BOSU) study

耳鼻咽喉科
Association of Tracheostomy With Outcomes in Patients With COVID-19 and SARS-CoV-2 Transmission Among Health Care Professionals
http://dx.doi.org/10.1001/jamaoto.2021.0930
気管切開術を受けたCOVID-19患者のアウトカムと医療従事者のSARS-CoV-感染に与える影響:系統的レビューとメタアナリシス

泌尿器科
Rituximab in minimal change disease and focal segmental glomerulosclerosis
http://dx.doi.org/10.1093/ndt/gfz205
巣状分節性糸球体硬化症の治療にリツキシマブがもたらした変化

脳神経外科
Surgically generated aerosol and mitigation strategies: combined use of irrigation, respirators and suction massively reduces particulate matter aerosol
http://dx.doi.org/10.1007/s00701-021-04874-4
手術で発生するエアロゾルを減らす戦略:フィルター、洗浄、吸引などを併用する

放射線科
Hyperpolarized 129Xe MRI Abnormalities in Dyspneic Participants 3 Months after COVID-19 Pneumonia: Preliminary Results
http://dx.doi.org/10.1148/radiol.2021210033
退院から3カ月後も息切れがあるCOVID-19肺炎患者を対象に超偏極キセノンガス同位体129を用いたMRI検査で見つかった異常

麻酔科
Implementation of the Canadian Cardiovascular Society guidelines for perioperative risk assessment and management: an interrupted time series study
http://dx.doi.org/10.1007/s12630-021-02026-x
待機的に非心臓手術を受ける患者に対する周術期のリスク評価と管理に際してカナダ循環器学会ガイドラインは順守されているか?

病理
Histopathological findings and clinicopathologic correlation in COVID-19: a systematic review
http://dx.doi.org/10.1038/s41379-021-00814-w
COVID-19患者の解剖や生検で得られた組織病理学的所見と臨床病理の関連に関する系統的レビュー

臨床検査
How to meet ISO15189:2012 pre-analytical requirements in clinical laboratories? A consensus document by the EFLM WG-PRE
http://dx.doi.org/10.1515/cclm-2020-1859
欧州臨床科学検査医学会ワーキンググループによるコンセンサス文書:ISO15189:2012に準拠するために臨床検査室に求められる検査前の準備

救急科
Understanding overuse of diagnostic imaging for patients with low back pain in the Emergency Department: a qualitative study
http://dx.doi.org/10.1136/emermed-2020-210345
腰痛で救急部門を受診した患者の過剰な腰椎画像撮影を減らすための定性的な研究

形成外科
Self-development Tools Utilized by Plastic Surgeons: A Survey of ASPS Members
http://dx.doi.org/10.1097/gox.0000000000003527
米国形成外科学会員に調査した自分の能力を高めるのに役立つ方法やツールとは?

リハビリテーション科
A qualitative meta-synthesis of evidence (meta-ethnography) exploring the personal experiences of gastrostomy tube in neurodegenerative diseases: a case of motor neurone disease
http://dx.doi.org/10.1080/09638288.2021.1922518
神経変性疾患患者に胃瘻を設置した経験に関する論文の定性的研究:民族差を超えたエビデンスはあるか?

総合診療科
Measuring the complexity of general practice consultations: a Delphi and cross-sectional study in English primary care
http://dx.doi.org/10.3399/bjgp.2020.0486
英国のプライマリーケアを担当するGPからのコンサルテーション内容の複雑さを評価する:デルファイ法を用いた横断研究

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/popular/202106/570485.html

mRNAワクチン接種後、数分以内に起こったIII度高血圧の症例報告 Hypertension誌より

2021-05-20 04:44:12 | 医療
mRNAワクチン接種後、数分以内に起こったIII度高血圧の症例報告 Hypertension誌より 2021/05/20 平山幹生(春日井市総合保健医療センター参事)(日経メディカル)

 III度高血圧とは、収縮期血圧が180mmHg以上、かつ/または、拡張期血圧が110mmHg以上である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの接種後数分以内にIII度高血圧が認められた9例の報告である1)。

 2021年1月11日、スイス西部の人口14万人の都市ローザンヌの予防接種センターで、mRNAベースのワクチンを用いたCOVID-19の予防接種が開始された。2月9日時点で、1万3296回のワクチン接種が行われており、このうち1万2349人が1回目の接種(1万501人 がPfizer/BioNTech社製、1848人がModerna社製)、947人が2回目の接種を受けた(945人がPfizer/BioNTech社製、2人が Moderna社製)。アナフィラキシー反応の疑い、倦怠感、息切れ、痛み(頭痛、胸痛など)などの重篤な有害事象に適合する症状を訴える患者に対し、バイタルサインのモニタリングを行っていた。

 モニタリングの結果、ワクチン接種後数分以内にIII度の高血圧が認められた人が9人確認され、そのうち8人が有症状だった。バイタルサインは、オシロメトリック・マノメーター(オムロン・ヒースケア・ヨーロッパ、HEM 907-E7)を用いて、5分間隔で少なくとも3セットの別々の値を測定した。

 9人の年齢の中央値は73歳、男性2人、女性7人だった。9人中8人に高血圧の既往があり、ほとんどが降圧治療を受けていた。1人を除く全ての患者がPfizer/BioNTech社製 (BNT162b2)ワクチンを接種した。なお、Moderna社製(mRNA-1273)のワクチンは、スイスでは1月下旬に導入されたばかり。1人は、過去1年以内に脳動脈瘤に対するコイル塞栓術が施行されており、目標収縮期血圧は140mmHg未満とされていた。頭痛が発生したため、この患者は画像診断を受けたが、頭蓋内出血の兆候はなかった。胸痛を訴えた70歳女性のケースでは、心電図の変化や高感度トロポニンの増加は見られなかった。

 重要なことは、全ての患者が回復したものの、第三次センターの救急部で最大数時間の監視を必要としたことである。この予防接種センターでは大人数の接種を行う体制にあり、接種前の血圧値は把握していない。しかし、9人のうち8人は、血圧は十分にコントロールされていたと申告していた。

 今回の症例報告では、一部の高血圧患者は収縮期そして拡張期の血圧が症状を伴って上昇する可能性を示唆している。これは、痛みや白衣効果に加えて、ストレス応答の結果と推測される。しかし、血圧上昇時の心拍数は比較的低い(中央値73回/分)ことは、この推測とは矛盾するかもしれない。別のメカニズムとして、理論的にはポリエチレングリコールなどのワクチン成分に起因する高血圧が考えられるが、投与量が少なかったことや、患者が注射後数分以内に反応したことから、その可能性は低いと思われた。

 緩衝作用を持つ添加物であるトロメタミンはmRNA-1273ワクチンにしか含まれていないので、原因物質としては除外される。S蛋白とACE2の間の相互作用も、注射後数分で反応しており、これはmRNAが細胞へ取り込まれ、翻訳されてマクロファージや樹状細胞の細胞膜上にS蛋白が提示されるまでの時間にしては短すぎることから可能性は極めて低いと考えられた。

 世界的にワクチンの接種は75歳以上の高齢者や高血圧を含む重症化リスク因子を持つ人を優先にしており、mRNAワクチンについてはアナフィラキシーの報告を受けてこの即時反応に関してより注意されているのが現状だ。副反応としての高血圧については、ワクチンの安全性・免疫原性試験のいずれにおいても明確に言及されていない。しかし、mRNAワクチンの第I/II相および第III相臨床試験は、BNT162b2ワクチンでは平均年齢31歳、中央値52歳、mRNA-1273ワクチンでは平均年齢31歳、中央値51歳と、比較的若年層で行われたことに留意する必要がある。

 mRNAワクチン接種後の高血圧の程度とそのメカニズムを理解するにはさらなるデータが必要であるが、今回のデータは、高血圧の既往歴および/または過去に重大な心血管疾患を患ったことのある高齢者において、ワクチン接種前の血圧管理と、症状のスクリーニングを含むワクチン接種後のモニタリングが必要であることを示している。
Dr. Hirayama’sEye-mRNAワクチンの副反応として高度の高血圧が初めて報告された

 治験段階では、高血圧は報告されていなかった。また、日本での医療従事者に対する調査でも、高血圧に関する検討はなされていない2)。

 日本でのワクチン接種後死亡例3)の中に、高血圧が引き金になって、脳出血や大動脈解離が誘発された可能性も考慮する必要があるのではないだろうか。5月7日時点で、ワクチン接種後に39人が死亡しており、このうち脳出血が5人、くも膜下出血が3人、大動脈解離が2人である。個人的には、ワクチン接種後に家庭での血圧測定を、接種1時間後、夕方、翌日午前中に測定すべきではないかと考える。もしも、III度の高血圧が確認されたならば、かかりつけ医に相談すべきである。ただし、ワクチン接種後の死亡の割合は、10万人当たり1人の発生であるので、COVID-19の致死率が2%であることを比較すると、ベネフィットがリスクをはるかに上回る。
文献

1)Meylan S et al. Stage III hypertension in patients after mRNA-based SARS-CoV-2
vaccination. Hypertension 2021;77: e56–e57.
https://doi.org/10.1161/HYPERTENSIONAHA.121.17316

2)伊藤 澄信ら:新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)健康観察日誌集計の中間報告(5)
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000775324.pdf

3)新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000778304.pdf

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/infection/202105/570277.html

変異株はワクチンの予防効果をすり抜ける可能性(日経メディカル)

2021-05-19 04:22:56 | 医療
いずれも軽症だが変異株はワクチンの予防効果をすり抜ける可能性

NEJM誌から ワクチン接種完了後にCOVID-19を発症した2例 2021/05/19 大西 淳子=医学ジャーナリスト(日経メディカル)

 米国Rockefeller大学のEzgi Hacisuleyman氏らは、SARS-CoV-2mRNAワクチンの2回接種を完了した同大学の職員のうち、2週間以上経過してからCOVID-19を発症した女性職員が2人見つかったと報告した。2人が感染していたのは複数の変異を有するSARS-CoV-2で、ブレイクスルー感染が生じたと考えられた。この報告は2021年4月21日のNEJM誌電子版に掲載された。

 SARS-CoV-2ワクチンのほとんどは、ウイルスのスパイク蛋白質をターゲットにしている。ところが変異株の出現により、スパイク蛋白質にも変化が起こり、ワクチンによって誘導される免疫反応をすり抜ける可能性が懸念されるようになった。ニューヨーク市では2021年3月30日時点で、変異株が新規感染者の72%以上を占めるようになった(26.2%が英国で最初に見つかったB.1.1.7変異株、42.9%がニューヨーク市で最初に見つかったB.1.526変異株)。

 著者らは、SARS-CoV-2 mRNAワクチンの2回接種を終えたRockefeller大学の職員417人に対して、接種完了後2週間以上が経過した時点から週1回ずつPCR検査を行った。追跡期間中に2人の女性がCOVID-19を発症、PCR検査の結果が陽性になった。

 患者1は51歳の健康な女性で、COVID-19の重症化の危険因子は保有していなかった。2021年1月21日にモデルナ社のワクチン(mRNA-1273)の初回接種を、2月19日に2回目の接種を受けた。2回目の接種の10時間後にインフルエンザ様の筋肉痛が発症したが、翌日には消失した。日常生活上の感染予防措置は厳格に行っていた。2回目の接種から19日後の3月10日に、喉の痛み、鼻づまり、頭痛が生じ、その日の夕方に大学でPCR検査を受けたところ、SARS-CoV-2陽性と判定された。翌11日には嗅覚が失われたが、症状は1週間ほどで軽快した。

 患者2は65歳の健康な女性で、やはりCOVID-19の重症化の危険因子は保有していなかった。1月19日にファイザー社のワクチン(BNT162b2)初回接種を受け、2月9日には2回目の接種を受けた。接種した腕の痛みは2日間続いた。3月3日、ワクチン未接種のパートナーがSARS-CoV-2陽性と判明した。3月16日になって、倦怠感、鼻づまり、頭痛が現れ、ワクチン接種から36日後となる3月17日には症状が悪化したため、PCR検査を受けたところ、SARS-CoV-2陽性が確認された。それ以上の症状悪化は見られず、3月20日から回復に向かった。

 どちらの患者も唾液サンプルによるPCR検査を実施してCt値からウイルス量を推定したところ、患者1では19万5000コピー/mL、患者2では400コピー/mLだった。

 SARS-CoV-2スパイク蛋白質の遺伝子配列を調べたところ、武漢で分離されたウイルスと異なる部分があり、臨床的に懸念される変異を有することが明らかになった。患者1のサンプルからは、T95I、del142-144、D614G、E484Kなどを含む変異が見つかり、患者2からは、T95I、del142-144、D614G、S477Nなどを含む変異が見つかった。E484Kは、通常誘導される中和抗体に対する抵抗性を付与する変異として知られており、D614Gは、増殖効率と感染伝播力を付与することが示されている。

 患者1が発症してから4日目に採取した血清の、SARS-CoV-2に対する中和活性を、シュードウイルスを用いて調べたところ、活性は非常に高かった。また、患者1の血清は、武漢で分離されたウイルス、E484K変異を有するウイルス、New York Cityで最初に見つかったB.1.526変異株に対して、ほぼ同様の中和活性を示した。

 患者1が感染した変異株について、ウイルスの全ゲノムを分析したところ、スパイク遺伝子に認められた変化は、感染していたSARS-CoV-2が、既知の英国B.1.1.7系統のウイルスやB.1.526系統のウイルスと近縁ではあるが異なることを示した。

 これらの情報は、ワクチンを接種しても、変異株に感染すれば発症する可能性があることを示唆している。従って、接種後も感染予防のための努力を継続し、疑わしい症状があれば検査を受けるべきだ。また、ワクチン接種完了後に発症した患者については、ウイルスの配列を調べてどのような変異を持つのかを分析する必要があると著者らは述べている。この研究は米国National Institutes of Healthなどの支援を受けている。

 原題は「Vaccine Breakthrough Infections with SARS-CoV-2 Variants」、概要はNEJM誌のウェブサイトで閲覧できる。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202105/570217.html

コロナワクチン、「フィリピンの悲劇」再来はないのか?(日経メディカル)

2021-03-06 10:49:36 | 医療
コロナワクチン、「フィリピンの悲劇」再来はないのか? 
2021/02/10 谷口 恭(太融寺町谷口医院)(日経メディカル)

 まず、誤解のないように「事実」を述べると、僕は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチンを接種する予定だ。集団免疫を獲得するためには接種者を増やさねばならない。だが、患者から「うった方がいいんでしょうか」と尋ねられたときには「現時点では有効で安全性も高いとされてはいますが、中長期的には分かりません」と答えている。

 ファイザー社、モデルナ社ともにワクチンの有効率は約95%とされていて、これは素晴らしい数字だが個人的には有効率が少々低くても安全性の方が大切だと考えている。一部の非医療者の人たちから誤解されているようだが、有効なワクチンが市場に出回ったとしても我々は元の世界に戻れるわけではない。やはり「3密」を避けてマスクを着用するという新しいルールは守らねばならない。だからワクチンは有効率がここまで高くなくても有益だと思う。より重要なのは安全性の方だ。

 アナフィラキシーの頻度が他のワクチンよりもわずかに高いようだが、この程度の数字であれば大半の人が受け入れるだろう。過去に幾つかのワクチンで問題となったギラン・バレー症候群のような神経症状も現時点では報告がなさそうだ。だが、そういった副反応よりも検証に時間がかかるものはどうだろう。既にいろんなところで可能性が指摘されている「抗体依存性感染増強(関連記事:新型コロナのワクチン開発、専門家が気にする“ある副作用”)」だ。

フィリピンで5年前に起きたワクチンの“ギニーピッグ”

 3年前のある日、1年ぶりに再会したフィリピン人の知人が「フィリピン人はギニーピッグにされた」と憤っていた。実は僕がギニーピッグ(guinea pig)という言葉を英語の会話で聞いたのはその時が初めてで、すぐには何のことか分からなかった。一瞬間を置いて、昭和の終わりに流行した邦画のタイトルを思い出した。『ギニーピッグ』とは連続幼女誘拐殺人事件犯の宮崎勤の部屋から見つかったことで有名となったスプラッター映画で、残虐シーンが問題視された。ギニーピッグとはモルモット、すなわち人体実験のような意味で使われていたはずだ。

 「フィリピン人がギニーピッグにされた」とは穏やかではない。知人によれば、その“加害者”はフランスの製薬会社、つまりサノフィ社だと言う。同社が製造したデング熱ウイルスのワクチンでフィリピンの子どもたちが犠牲になっているらしい。他国では(ブラジルなど一部の国を除き)使用されていないワクチンがフィリピンだけで開始されたのは「フィリピンで“人体実験”をすることが目的だった」と大勢のフィリピン人が思っているようだ。

 早速、現地の英字新聞を読み込んで経過をたどってみた。簡単にまとめると次のようになる。

 2016年4月、フィリピン保健省は一部の地域の公立学校に通う約80万人の子どもに対し、サノフィ社製のデング熱ワクチン「Dengvaxia」の接種を開始した。時期尚早ではないかとする反対意見が多く、この時点ではWHOもこのワクチンを推奨していなかった。7月、WHOはこのワクチンを条件付きで推奨することにしたが、その頃からワクチンを接種した小児がデング熱に感染すると重症化し、中には死に至るケースが相次いだ。

 ワクチンとの因果関係が否定できず、2017年11月29日、サノフィ社は「Dengvaxiaをデング熱ウイルスに感染歴のない子どもに投与すべきでない」と発表した。これを受け、フィリピン保健省は直ちにこのワクチンの予防接種プログラムを停止し、ワクチンの販売を中止した。12月5日、WHOが「ワクチンの中止を決定したフィリピン政府を支持する」と発表した。さらに2018年、ワクチンに関するポジションペーパーを改定し、「接種前スクリーニングを行い, デング熱の既往が確認された者(抗体陽性者, またはデング熱が検査診断された既往のある者)のみにワクチン接種を行う方法を推奨する」としている(感染研の関連サイト)。

 香港の英字新聞「 South China Morning Post 」によると、2019年4月時点でフィリピンの約600人の小児が、ワクチンが原因となり死亡した可能性があるという(なお、この事件の詳細は毎日新聞「医療プレミア」の拙コラム「62人死亡? 比デング熱ワクチン導入の“失敗”」「人ごとでないフィリピン『ワクチン不信』と麻疹急増」を参照されたい(現在本コラムは無料で閲覧できる)。

 ところで、Dengvaxiaのプログラムはブラジルではうまくいっていると聞く。フィリピンでは失敗しブラジルでは成功しているのはなぜなのか。それは「年齢」だ。ブラジルでは15~27歳が対象なのに対し、フィリピンでは小学生がプログラムの対象だった。では、なぜ年齢で差がでるのか。恐らくブラジルではワクチン対象者の多くが幼少時にデング熱に感染しているのに対し、小児が対象となったフィリピンではそうではなかったのだ。つまり、未感染の小学生にワクチンを接種したが故に接種後デング熱ウイルスに感染したときに抗体依存性感染増強現象が生じたのではないかと考えられるのだ。

 以前から、デング熱は2回目の感染時に1回目とは異なるタイプに感染すると抗体依存性感染増強現象が生じ重症化することが知られている。一方、新型コロナにそのような報告は(恐らく)なく、再感染することはまれだ。だが、BNO newsが提供する COVID-19 reinfection tracker によると、2月7日時点でSARS-CoV-2再感染の確定例が世界で47例報告されている。中には初感染時より重症化している例もあり、2例は再感染時に死亡している。また、疑い例は1万人以上に上り30人が死亡している。もちろん分母は1億を超えるわけだから、確率からすると微々たる数字ではある。

 それに、デング熱と同じようにSARS-CoV-2も2回感染することがあるからという理由だけで抗体依存性感染増強現象が生じ、さらにワクチンがフィリピンのDengvaxiaと同じ運命をたどる可能性がある、などといえば、これは論理の飛躍であり、識者には一笑に付されるかもしれない。だが、絶対に起こらないと証明することもまた困難なのではあるまいか。

 フィリピンの事件が起こったのはそれほど遠い昔ではなく、わずか5年前だ。しかもDengvaxiaは20年の月日をかけて開発されたワクチンなのだ。それだけの時間をかけ安全性も担保されたはずだったワクチンが市場に登場し、600人以上の子どもが犠牲になった可能性が高く、フィリピン政府は2019年2月に「Dengvaxiaを永久に禁止する」と発表したのだ。

 もっとも、分子生物学は飛躍的に進化しており、サノフィ社の20年と単純に比較することはできない。ファイザー社が販売することになったmRNAワクチンを開発したのはドイツのBioNTech社というバイオテック企業。2008年にUgur Sahin教授と妻のOzlem Tureci教授が夫婦2人で立ち上げた小さな企業で、Financial Timesの記事によれば、Sahin教授は今もマウンテインバイクで通勤しているそうだ。

 1月に武漢で新型コロナが発生したことを知った時点でmRNAワクチン開発に取り掛かり、1年足らずで実用化させた。遺伝子配列が分かっているのだから理論上mRNAを合成するのはそう難しくないのかもしれないが、恐るべきスピードだと思う。また、BioNTech社は夫婦の医学者が立ち上げた企業というとても興味深い会社で、個人的には応援したい。だが、日ごろ診ている患者に現時点でこのワクチンを勧められるかとなると話は別だ。

 アナフィラキシーを除いたファイザー社/BioNTech社製ワクチンの重篤な副作用として、米国の医師に生じた特発性血小板減少性紫斑病(ITP)での死亡、さらにノルウェーの複数の高齢者に起こった死亡事例はあるが、ファイザー社によるといずれもワクチンとの因果関係を示したエビデンスはないとのことだ。

 WHOのワクチン安全性諮問委員会は1月22日、これまでの情報からは高齢者においてもワクチンの利益はリスクを上回るとしている。とはいえ、各国はワクチンの安全性を引き続き監視することも求めている(WHOの関連サイト)。今後、ファイザー社/BioNTech社のみならず、全てのワクチン製造・販売会社は副反応の詳細を可及的速やかに報告してもらいたい。

 ちなみに、以前当院にやってきたサノフィ社のMRは「Dengvaxiaでフィリピンに何が起こったか」について全く何も知らなかった。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/taniguchi/202102/569035.html