「第35課 ダニエル」『旧約のはなし』浦川和三郎司教
153 火のかまどの3青年
ナブコドノソルは大きな金の像を作ってバビロンの平原に立て、ラッパや琴や笛やその他いろいろの音楽が鳴り出したら、皆ひれ伏して礼拝せよと命じました。アナニア、ミサエル、アザリアの3青年もその場に臨んでいたのですが、3人とも王の命令を拒んでひれ伏しません。王は怒って、大きなかまどに薪を、通常の7倍ほども多く積み重ねて、盛んに火の手を上げさせ、3人を着のみ着のまま縛ってその中に投げ込ませました。しかし、天使がかまどの中にくだってほのおを外に払いのけましたので、3人を投げ込んだ役人達は、それに当たって焼け死にました。けれども、かまどの中には涼しい風がそよそよ吹き、3人は、縛られた綱こそ焼き切れたが、身には何の苦しみも感じません。ゆうゆうとかまどの中をそぞろ歩きしながら、声をあわせて神様を祝しています。王は、この有様を見て、大いに驚き、3人を外に呼び出し、口をきわめて彼らの神様を誉めました。以後、この神様をけがす者があったら、その身は斬り、その家はとりつぶしてしまうぞと命じ、3人をバビロンに留め置いて高い位に挙げました。
154 ダニエルとバルタサル王
ナブコドノソルの死後、バビロンの勢いは俄かに衰え、かえって東隣のメディアとペルシアの両国がむくむくと頭をもたげてきました。ことに、ペルシア王シルスは、非常にえらい豪傑で、まずメディアを取り、次にバビロンに攻め入って、その都を囲みました。しかし、バビロン城といえば、天下に2つとないほど頑丈に構えてある。たとえ、敵の王が天空を駆け巡り地の底を潜る術があろうと、到底攻め落とされる心配はない、と、バルタサル王は安心して、防戦の最中に大宴会を催しました。ナブコドノソルがエルサレムから奪ってきた金銀の聖なる器を神々を賛美しつつ、それでしきりに祝い酒を飲みました。すると、たちまち、人の指が壁の上に現れて、不思議な文字を書きつけましたが誰一人その文字を読むことができる者がいない。そのとき、ダニエルが召し入れられて、その文字を
「マネー 数えた テセルー 測った ファレス 分けた」と読み、これを次のように解釈しました。「神さまは、陛下の御代を数え給うたが、もう終わりに達している。陛下をその秤にかけて測り給うたが、あまりに軽かった。陛下の国を分けてメディア人とペルシア人とに与えたという意味でございます。」果たしてその夜、シルス王は、抜け道からバビロンに忍び入ってバビロンを陥落し、バルタサル王を斬り、メディア人のダリウスというものを王に立て、バビロンを治めさせることにしました。
155 ダニエルをライオンの檻に
さて、ダリウスは、大いにダニエルを信用して、ダニエルを諸役人の監督となしました。バビロンの役人たちは、それを面白くないと思い、何とかしてダニエルを陥れようと、互いに談合を始めました。ある日、連れだって王の前に進み出て「これから30日間、王様よりほかの者に向かって、何の願い事でもしてはならぬ。背いた者は、ライオンの檻に入れる」という勅令の発布を願いました。王は、何気なくその願いを許しました。ところで、ダニエルは、日に三度、エルサレムに向かった方の窓を開いて神様に祈ることにしていたのですが、勅令が出てからも、それだけは決して怠りません。例の役人たちは、それをはっきりと突き止めたうえで、さっそく王に訴えました。王は当惑して、ダニエルを救いだす方法があるかどうか終日考えてみたが一向に良い知恵も出てこない。やむを得ず、ダニエルをライオンの檻に入れ、大きな石で蓋をして封印をつけ、誰でも勝手に開けてはいけないようにしておきました。翌朝早く、ライオンの檻に馳せ行き、「ダニエル、活ける神のしもべ、あなたの仕える神様は、ライオンの口からあなたを救ってはくださらなかったのであろうか。」と、鳴き声をあげて叫びますと、檻の底から、ダニエルの声が聞こえました。
「陛下、神様は、天使を遣わしてライオンの口をふさいでくださいました。私が、神様にも陛下にも、何の不都合も致さなかったものですから」
王は喜びのあまりに跳び上がりました。命じてダニエルを引き上げさせ、かえって、ダニエルを訴えた諸役人をとらえ妻子もろともその檻に投げいれました。獅子は、早速彼らをひっつかんで、骨さえ残さずにかみ砕いてしまいました。
156 ダニエルを再びライオンの檻に
ダリウスは、2年にして世を去り、シルス自身がバビロンの政治を司ることとなり相変わらずダニエルを重く用いてくれました。そのころ、バビロン人は、ベル(バール)という偶像を特に尊び拝んでいました。この偶像は、日々、麦粉を12斗、羊を40頭、ブドウ酒を6樽ずつも平らげるという非常な大食家で、王も厚くこのベルを信仰していたものでした。ある日、ダニエルに向かい、
「君は、なぜベル(バール)を信仰せぬのじゃ。見よ、ベル(バール)は活神様じゃ。毎日、どれほどの飲食をしていらっしゃるか。」
と言いますから、ダニエルは笑って答えました。
「陛下、だまされちゃいけません。ベルは内は土で、外は青銅です。飲食などするはずがありますか。」
そこで、飲食の実否を確かめるため、王はダニエルとベルの堂へ行きました。そして、王が偶像の前に供え物を置いてから、ダニエルは敷石の上に灰をふりまき、門を閉じ、封印を施して立ち去りました。翌朝、堂へ行ってみると、封印は昨日のままでした。門を開いて祭壇を見ると、何一つ残っていません。王は非常に喜び、ベルを賛美して中へ入ろうとしますと、ダニエルは王を引き止め、「陛下、下をご覧あそばせ。これは、誰の足跡です」と敷石の上を指差しました。「やあ、これは、男、女、こどもの足跡じゃ」と、王もさすがに驚かざるを得ない。神主たちを召しだして厳しく糾問しますと彼らも、とうとう包みきらないで、堂に抜け道をこしらえていること、夜中、妻子とその抜け道から入って飲食していることなどを、残らず白状しました。王は、怒って彼らを死刑に処し、ベルをダニエルの手にゆだねました。ダニエルは、偶像も堂も残らずたたき壊してしまいました。バビロン人は、大きなヘビを飼い、ヘビを礼拝していました。
王 「こればかりは、活神様でないとは言えまい。どうだ、礼拝しては。」
ダニエル 「ヘビなんか、活神様ってあるものですか。もし、陛下のお許しがありましたら、わたくしは、剣や棒がなくとも、立派に殺してお目にかけますよ」
王が首を縦に振ったので、ダニエルは、松脂と、脂と、獣毛を一つに煮てこれを丸め、ヘビの口へ投げいれました。ヘビは、それを飲んで間もなく、たおれてしまいました。これを見たバビロンの民は、怒るまいことか、王に迫ってダニエルを引き渡させ、7頭のライオンを飼ってある穴に投げいれました。しかし、ライオンは、ダニエルに何の害をも加えません。7日目には、王はダニエルを弔おうと思って、ライオンの穴に行きました。見ると、ダニエルは、ライオンの間にちゃんと座っている。王は、思わず声をあげて、「ああ、ダニエルの神様はえらい」と叫び、命じてダニエルを引き出させ、反対者をライオンの穴に投げいれさせると、ライオンは、たちまちおどりかかって、噛み裂いてしまいました。
157 教訓
神様の教えを守るにつけて、ダニエルのような目を見ねばならぬことが今日でも往々あるものです。恐れず、たゆまず、あくまで信仰を保って、動かない覚悟が重要です。
よろしければ、FBのカトリックグループにもご参加ください。
153 火のかまどの3青年
ナブコドノソルは大きな金の像を作ってバビロンの平原に立て、ラッパや琴や笛やその他いろいろの音楽が鳴り出したら、皆ひれ伏して礼拝せよと命じました。アナニア、ミサエル、アザリアの3青年もその場に臨んでいたのですが、3人とも王の命令を拒んでひれ伏しません。王は怒って、大きなかまどに薪を、通常の7倍ほども多く積み重ねて、盛んに火の手を上げさせ、3人を着のみ着のまま縛ってその中に投げ込ませました。しかし、天使がかまどの中にくだってほのおを外に払いのけましたので、3人を投げ込んだ役人達は、それに当たって焼け死にました。けれども、かまどの中には涼しい風がそよそよ吹き、3人は、縛られた綱こそ焼き切れたが、身には何の苦しみも感じません。ゆうゆうとかまどの中をそぞろ歩きしながら、声をあわせて神様を祝しています。王は、この有様を見て、大いに驚き、3人を外に呼び出し、口をきわめて彼らの神様を誉めました。以後、この神様をけがす者があったら、その身は斬り、その家はとりつぶしてしまうぞと命じ、3人をバビロンに留め置いて高い位に挙げました。
154 ダニエルとバルタサル王
ナブコドノソルの死後、バビロンの勢いは俄かに衰え、かえって東隣のメディアとペルシアの両国がむくむくと頭をもたげてきました。ことに、ペルシア王シルスは、非常にえらい豪傑で、まずメディアを取り、次にバビロンに攻め入って、その都を囲みました。しかし、バビロン城といえば、天下に2つとないほど頑丈に構えてある。たとえ、敵の王が天空を駆け巡り地の底を潜る術があろうと、到底攻め落とされる心配はない、と、バルタサル王は安心して、防戦の最中に大宴会を催しました。ナブコドノソルがエルサレムから奪ってきた金銀の聖なる器を神々を賛美しつつ、それでしきりに祝い酒を飲みました。すると、たちまち、人の指が壁の上に現れて、不思議な文字を書きつけましたが誰一人その文字を読むことができる者がいない。そのとき、ダニエルが召し入れられて、その文字を
「マネー 数えた テセルー 測った ファレス 分けた」と読み、これを次のように解釈しました。「神さまは、陛下の御代を数え給うたが、もう終わりに達している。陛下をその秤にかけて測り給うたが、あまりに軽かった。陛下の国を分けてメディア人とペルシア人とに与えたという意味でございます。」果たしてその夜、シルス王は、抜け道からバビロンに忍び入ってバビロンを陥落し、バルタサル王を斬り、メディア人のダリウスというものを王に立て、バビロンを治めさせることにしました。
155 ダニエルをライオンの檻に
さて、ダリウスは、大いにダニエルを信用して、ダニエルを諸役人の監督となしました。バビロンの役人たちは、それを面白くないと思い、何とかしてダニエルを陥れようと、互いに談合を始めました。ある日、連れだって王の前に進み出て「これから30日間、王様よりほかの者に向かって、何の願い事でもしてはならぬ。背いた者は、ライオンの檻に入れる」という勅令の発布を願いました。王は、何気なくその願いを許しました。ところで、ダニエルは、日に三度、エルサレムに向かった方の窓を開いて神様に祈ることにしていたのですが、勅令が出てからも、それだけは決して怠りません。例の役人たちは、それをはっきりと突き止めたうえで、さっそく王に訴えました。王は当惑して、ダニエルを救いだす方法があるかどうか終日考えてみたが一向に良い知恵も出てこない。やむを得ず、ダニエルをライオンの檻に入れ、大きな石で蓋をして封印をつけ、誰でも勝手に開けてはいけないようにしておきました。翌朝早く、ライオンの檻に馳せ行き、「ダニエル、活ける神のしもべ、あなたの仕える神様は、ライオンの口からあなたを救ってはくださらなかったのであろうか。」と、鳴き声をあげて叫びますと、檻の底から、ダニエルの声が聞こえました。
「陛下、神様は、天使を遣わしてライオンの口をふさいでくださいました。私が、神様にも陛下にも、何の不都合も致さなかったものですから」
王は喜びのあまりに跳び上がりました。命じてダニエルを引き上げさせ、かえって、ダニエルを訴えた諸役人をとらえ妻子もろともその檻に投げいれました。獅子は、早速彼らをひっつかんで、骨さえ残さずにかみ砕いてしまいました。
156 ダニエルを再びライオンの檻に
ダリウスは、2年にして世を去り、シルス自身がバビロンの政治を司ることとなり相変わらずダニエルを重く用いてくれました。そのころ、バビロン人は、ベル(バール)という偶像を特に尊び拝んでいました。この偶像は、日々、麦粉を12斗、羊を40頭、ブドウ酒を6樽ずつも平らげるという非常な大食家で、王も厚くこのベルを信仰していたものでした。ある日、ダニエルに向かい、
「君は、なぜベル(バール)を信仰せぬのじゃ。見よ、ベル(バール)は活神様じゃ。毎日、どれほどの飲食をしていらっしゃるか。」
と言いますから、ダニエルは笑って答えました。
「陛下、だまされちゃいけません。ベルは内は土で、外は青銅です。飲食などするはずがありますか。」
そこで、飲食の実否を確かめるため、王はダニエルとベルの堂へ行きました。そして、王が偶像の前に供え物を置いてから、ダニエルは敷石の上に灰をふりまき、門を閉じ、封印を施して立ち去りました。翌朝、堂へ行ってみると、封印は昨日のままでした。門を開いて祭壇を見ると、何一つ残っていません。王は非常に喜び、ベルを賛美して中へ入ろうとしますと、ダニエルは王を引き止め、「陛下、下をご覧あそばせ。これは、誰の足跡です」と敷石の上を指差しました。「やあ、これは、男、女、こどもの足跡じゃ」と、王もさすがに驚かざるを得ない。神主たちを召しだして厳しく糾問しますと彼らも、とうとう包みきらないで、堂に抜け道をこしらえていること、夜中、妻子とその抜け道から入って飲食していることなどを、残らず白状しました。王は、怒って彼らを死刑に処し、ベルをダニエルの手にゆだねました。ダニエルは、偶像も堂も残らずたたき壊してしまいました。バビロン人は、大きなヘビを飼い、ヘビを礼拝していました。
王 「こればかりは、活神様でないとは言えまい。どうだ、礼拝しては。」
ダニエル 「ヘビなんか、活神様ってあるものですか。もし、陛下のお許しがありましたら、わたくしは、剣や棒がなくとも、立派に殺してお目にかけますよ」
王が首を縦に振ったので、ダニエルは、松脂と、脂と、獣毛を一つに煮てこれを丸め、ヘビの口へ投げいれました。ヘビは、それを飲んで間もなく、たおれてしまいました。これを見たバビロンの民は、怒るまいことか、王に迫ってダニエルを引き渡させ、7頭のライオンを飼ってある穴に投げいれました。しかし、ライオンは、ダニエルに何の害をも加えません。7日目には、王はダニエルを弔おうと思って、ライオンの穴に行きました。見ると、ダニエルは、ライオンの間にちゃんと座っている。王は、思わず声をあげて、「ああ、ダニエルの神様はえらい」と叫び、命じてダニエルを引き出させ、反対者をライオンの穴に投げいれさせると、ライオンは、たちまちおどりかかって、噛み裂いてしまいました。
157 教訓
神様の教えを守るにつけて、ダニエルのような目を見ねばならぬことが今日でも往々あるものです。恐れず、たゆまず、あくまで信仰を保って、動かない覚悟が重要です。
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