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それはともすれば押さえていた感情の堰が音を立てて崩れそうな時間だった。
「傷心」とは言わないが何か空虚な思いに見るもの聞くもの全てがモノトーンにしか感じられない。
何より傷ついたには既に自分の年齢がそのような立場にならざるを得ない領域に達していた事に迂闊にも今まで全く気付かなかった事。
そうか…そんな歳になっていたんだ、自分は。
退任と言っても行くところがあるだけマシなのか。いつまでも現役で仕事を続けられる訳ではないし。
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そして娘達の結婚話。
今年の暮れ、来年の初めと立て続けに嫁ぐ娘達。
来年の今頃は夫婦二人だけになっている筈。その空虚さに堪えられるかどうか。
いずれ娘を持つ父親の誰もが通る道だろう、だから仕方が無い。
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夜、以前来たことがある先斗町の居酒屋で丹念に積み重ねてきた日々を想いながら、飲む。
ただひたすら飲む。
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たぶん最後になるだろう家族揃っての冬の京都の景色はあまりに心に染みすぎた。
くすんだ色が滲むように流れて行く。
少し湿り気のある空気が乾いた気持ちに癒やしてくれるようだった。
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