増田院長記
○表題の南渕宏明著をもう一度読み返した。いわずと知れた日本における数少ない腕のある心臓外科医の著作である。その中で「医者のサービス精神を真に受けるな」という節を読んで、改めて思い当たることが多い。
-医者というのは、変な部分でのサービス精神を持っている。そのサービス精神にごまかされないようにして欲しい。
-「調子が悪い」という患者さんが来て、検査をする。患者さんから、「どこが悪いですか」と聞かれると、それほどたいしたことはなくても、ついサービス精神で「ここが少し悪いですね」と言ってあげたくなる。…つまり医者は「患者さんというものは病名をつけてあげないと納得しない」と考えているのだ。
-医者としては、サービス精神で、誰に対しても「ここがちょっと悪いですよ」と言っていることも多い。
-心の不調でも同じだ。不調を訴えて医者のところに行くと、医者のほうはそれほどたいしたことがないと思っても、サービス精神で「自律神経失調症」という診断名をつけてしまうことがある。
-病院というものが1つの舞台になっていて、医者の側は医者という役を演じる、それに対して、病院に行った人は患者という役割を演じる。…本当はたいした病気でなくても、お互いが医者と患者の役割を上手く演じてしまうような舞台になっていることもあるのだ。…医者の側は、患者さんの望み通りに病名をつけてはいけないと思うし、患者さんも医者のつけた病名をうのみにしてはいけない。
実にすごいことを言っていますね。でもこれが真実である。
私のところに来る患者さんでも、こうした「過剰診断」から薬をいろいろ投与されて、却って本当に抜き差しならない病気になってしまった人を何人も見ている。これが単なる医者のサービス精神だったらいいのだが…。
○例の「博士の愛した数式」の著者・小川洋子とその小説のきっかけとなった数学者・藤原正彦(「国家の品格」の著者でもある)の対談を読んだ。題名「世にも美しい数学入門」(ちくまプリマー新書)。簡単に読めてとても楽しい。やはり、完全数の話が最高だ。完全数は一ケタ台では6、二桁台では28の数字だけだ。完全数とは約数を全部足すとそれ自身の数字になるという数字のことである。たとえば、6の約数は1,2,3。1+2+3=6。28の約数は1,2,4,7,14である。1+2+4+7+14=28である。小川氏の発見はこのとても美しい28の完全数が元阪神タイガースのエース投手であった江夏の背番号であったことである。記憶を失った老数学博士、30の家政婦、その息子の3人の織りなす友愛の世界。そこに阪神の江夏と野球が上手く背景となっている。とてもすばらしい。傑作である。
○今同時進行で読んでいる本は「誰も読まなかったコペルニクス」(オーウェン・ギンガリッチ著)、「めまいと文明」(檜学・小滝透共著)である。それぞれ3分の1くらい読み進んであるが、とてもおもしろい。後日報告する。
○専門分野では「神経眼科 臨床のために」(藤野貞著)を読み始める。論文では「Upbeat about downbeat nystagmus」「Vertical vestibular responses t head impulses are symmetric in downbeat nystagmus」を読んだ。論文は垂直眼振(眼が自発的に上下に動いてしまう疾患)の機序に関するものだ。教科書は表面的にしか触れていないので、最新の論文に直接当たるしかないのである。
○そのほか買い込んだ本では「科学史から消された女性たち」(大江秀房著m講談社ブルーバックス)、「バースディ・ストーリーズ」(村上春樹編訳)がある。前者は女性研究者が発見したのに著名な男性研究者にその成果を簒奪された例が紹介されている。以前紹介したCandace Perthもそのひとりだった。しかしそれにめげず、エンドルフィンのレセプターを発見した。それでそのことを告発できる。
○表題の南渕宏明著をもう一度読み返した。いわずと知れた日本における数少ない腕のある心臓外科医の著作である。その中で「医者のサービス精神を真に受けるな」という節を読んで、改めて思い当たることが多い。
-医者というのは、変な部分でのサービス精神を持っている。そのサービス精神にごまかされないようにして欲しい。
-「調子が悪い」という患者さんが来て、検査をする。患者さんから、「どこが悪いですか」と聞かれると、それほどたいしたことはなくても、ついサービス精神で「ここが少し悪いですね」と言ってあげたくなる。…つまり医者は「患者さんというものは病名をつけてあげないと納得しない」と考えているのだ。
-医者としては、サービス精神で、誰に対しても「ここがちょっと悪いですよ」と言っていることも多い。
-心の不調でも同じだ。不調を訴えて医者のところに行くと、医者のほうはそれほどたいしたことがないと思っても、サービス精神で「自律神経失調症」という診断名をつけてしまうことがある。
-病院というものが1つの舞台になっていて、医者の側は医者という役を演じる、それに対して、病院に行った人は患者という役割を演じる。…本当はたいした病気でなくても、お互いが医者と患者の役割を上手く演じてしまうような舞台になっていることもあるのだ。…医者の側は、患者さんの望み通りに病名をつけてはいけないと思うし、患者さんも医者のつけた病名をうのみにしてはいけない。
実にすごいことを言っていますね。でもこれが真実である。
私のところに来る患者さんでも、こうした「過剰診断」から薬をいろいろ投与されて、却って本当に抜き差しならない病気になってしまった人を何人も見ている。これが単なる医者のサービス精神だったらいいのだが…。
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○例の「博士の愛した数式」の著者・小川洋子とその小説のきっかけとなった数学者・藤原正彦(「国家の品格」の著者でもある)の対談を読んだ。題名「世にも美しい数学入門」(ちくまプリマー新書)。簡単に読めてとても楽しい。やはり、完全数の話が最高だ。完全数は一ケタ台では6、二桁台では28の数字だけだ。完全数とは約数を全部足すとそれ自身の数字になるという数字のことである。たとえば、6の約数は1,2,3。1+2+3=6。28の約数は1,2,4,7,14である。1+2+4+7+14=28である。小川氏の発見はこのとても美しい28の完全数が元阪神タイガースのエース投手であった江夏の背番号であったことである。記憶を失った老数学博士、30の家政婦、その息子の3人の織りなす友愛の世界。そこに阪神の江夏と野球が上手く背景となっている。とてもすばらしい。傑作である。
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○今同時進行で読んでいる本は「誰も読まなかったコペルニクス」(オーウェン・ギンガリッチ著)、「めまいと文明」(檜学・小滝透共著)である。それぞれ3分の1くらい読み進んであるが、とてもおもしろい。後日報告する。
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○専門分野では「神経眼科 臨床のために」(藤野貞著)を読み始める。論文では「Upbeat about downbeat nystagmus」「Vertical vestibular responses t head impulses are symmetric in downbeat nystagmus」を読んだ。論文は垂直眼振(眼が自発的に上下に動いてしまう疾患)の機序に関するものだ。教科書は表面的にしか触れていないので、最新の論文に直接当たるしかないのである。
○そのほか買い込んだ本では「科学史から消された女性たち」(大江秀房著m講談社ブルーバックス)、「バースディ・ストーリーズ」(村上春樹編訳)がある。前者は女性研究者が発見したのに著名な男性研究者にその成果を簒奪された例が紹介されている。以前紹介したCandace Perthもそのひとりだった。しかしそれにめげず、エンドルフィンのレセプターを発見した。それでそのことを告発できる。