〜かたることばが歌になる風になる〜

中野重治の「挿し木をする」

今朝の朝日新聞の「ニュースの本棚」のページで『中野重治の戦後』というのを読んだ。
合唱団で歌うようになってこの作家であり詩人でもある人物を知った。
長男のお嫁ちゃんの実家の福井の出身ということでも近しい気がした。

数年前、この人の詩に林光さんが作曲した『挿し木をする』というソングの伴奏をしたんだけど、所謂『体言止め(名詞で終わる形)』になっていないタイトルに少し違和感と言うか不思議な感覚はあったが、彼岸の中日に兄弟で挿し木をしようと言っている何でもない詩と林さんの旋律に惹かれた。
自分の、あるいはそれぞれの家族が、ずっと昔から受け継いできた「習わし」に目を向けて書いたのだろう。
「おじいさんや、そのまたおじいさんがやっていた、お彼岸に『挿し木をする』こと」

林さんが選んだ詩人だから共産主義や社会主義の人だろと想像はしていた。
つい最近話題になったスタジオジブリの「風立ちぬ」の同名小説の作者堀辰雄らと、中野重治が東大入学後に『驢馬』を創刊し、プロレタリア文学、マルクス主義に傾倒していたが、投獄されてのち『転向』して出獄する。
その後自身の守り続けた信念を一切封じ込めても、書き続ける道を進んだそうだ。

人生の中で郷土のあり方などを模索し、「素朴さ」の重要性が何物にも代えがたいという考えを持っていた、この人の『挿し木をする』は家族へのほのぼのとした温かい思いが伝わる詩。you tubeで聴くことが出来る。

「きょうは三月二十一日 ほのかに粉雪がちらついて
 暖かな春の彼岸の中日です
 おいで妹たち ぼくらは挿し木をしよう
 おじいさんやそのまたおじいさんたちがやったように
 きょうは仏の日で挿し木の日だ
 雪はぼくらの髪の毛にかかろう
 そして挿し木は みずみずと根を誘う」


林光さんは『中野重治の詩に曲がつくのか?疑う人は疑うがよい、僕だって疑う。疑いつつ、断固として曲をつけようじゃないか』と、このソングは生まれたようだ。

まだ肌寒さの残る中にあって、日差しの色の柔らかさが 、パステル調というよりもっと日本画に近いような、淡いグラデーションの絵を思い出させるような響き。

余談だけれど、私が浅くしか知りえていないこの人についての中で、原泉(はらいずみ・はらせんと呼ばれたらしい)という女優さんが奥さんだったと知って少し驚いた。
随分前テレビドラマでよく見た。痩せていて鼻にかかった声で、個性的な役柄が多く老女役が印象的だった。

この人もプロレタリア演劇研究所というところに入り、その後中野重治と知り合い結婚したそうだ。
原泉について調べていく内に、出演作が内容の濃い作品が多いことや、滝沢修などの名優の名前なども出てきて、今更のように時代と共に信念をもって生きた先達たちを思う。

活動を終了した「女声合唱団風」のこと、「コーラス花座」のこと、韓国ドラマ、中国ドラマなど色々。

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