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春先のことです。
小栗判官と照手姫ゆかりの土地を歩いてみようという計画を立てて、まずは近場からということで、藤沢は六会日大前駅で下りてみました。
南に向かって歩きはじめてすぐに見つかるのが「地神社」。平らな台地、亀井野にあって小さく盛り上がっている土地の上に建てられている小さい神社。こちらの境内には「山の神」と彫り込まれた碑が建てられています。
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丹沢の山のふもとで育った僕ですが、この「山の神」という字面からして新鮮に見えたりします。丹沢の山の中では「山の神」を祀っているところなんて見たことがないからです。反対に「山の神」が祀られている土地には、目立った山はありません。一見して「まったいら」って言えるような、だだっ広いところに「山の神」はやってくる。最初は「ちょっと不思議」って思ったりもしたけれど、よくよく考えてみればとっても日本的な感覚なんじゃないか、って気がしてきました。
「山の神」にはいろんなバリエーションがあるようなので、一概には言えないのですけど、こと平地に祀られている「山の神」は来訪神の性格も持っていると考える方が自然です。神様はその姿が見えるわけではなく依り代にふわっと舞い降りるようにして顕われるものですから、この石碑はこの神社がそういう場所であることを静かに示しているようにも見えます。こちらの「地神社」では埴山姫命(はにやまひめのみこと)をお祀りしているそうです。土にまつわる神様のそばに「山の神」がやってくるのはもっともなことなのかも。
藤沢の亀井野から西俣野へと下りていくあたりを歩いていると、相模原の風景に少し似ているような気がします。相模川から段丘を順番に登っていく道から見える風景は、境川流域の西俣野から亀井野に登っていく風景と、本当によく似ているのです。
県立相模原公園のすぐ近く、段丘最上段の眺めのよいところに「山の神神社」という小さな神社があります。山はそこから遠くに見えるものであって、振返ればまったいらな土地が続くのですが、どうにも亀井野あたりと条件が似ているような気がします。
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こちらにも社の脇に石塔が建てられていますが神社そのものが「山の神」を祀っているので、地神社とは逆転していて、少彦名命、天照大神、大己貴命と一緒に埴安媛命の名前が刻まれています。
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相模川と境川に挟まれた地域一帯を、かつては高座(たかくら)と呼んでいたそうですが、高座のいわば上流地域と下流地域には似ている土地柄と言う以上に、なにがしかの相似形がはじめから意識されていたようにも見えてくるので不思議。
小栗判官と照手媛の話も、藤沢あたりで起こった出来事が、高座という大きな領域の上で相似的に引き伸され、再構築されている、として読みなおして見ると、ところどころでリアルな「地面」が顔を出してきそうです。