「銀座 千と一の物語」/藤田宜永(文藝春秋)
藤田宜永氏の小説は探偵・竹花シリーズをいくつか読んだことがある。
なんとなくハードボイルドなテイストの話を記す半面、この小説のような
微妙な男と女の機微を描いてみせるところは意外だった。
大人のノスタルジーたる抽斗がいくつもある。
それは33話のショートストーリー。
これは「銀座百点」という冊子に掲載された銀座を舞台に
銀座生れの主人公を主軸に、ちょっとした出会いと触れ合いの後に、
過去と現在と未来のエピソードが加味される展開される。
そこにあまり知られていない誰もが知るメインストリート以外の
銀座の側面やその当時の歴史や史実を織り込みながら、
人間同士が擦れ違う人生の交差点の1点の出逢い。
時計だけが知っている
長い旅
探しもの
ステキなタイミング
路地の女
名刺は語る
嵐を呼ぶ男
スロット
未来へ続く
ママチャリの看板娘
車夫にときめく
高嶺の花
他、21話
大阪生まれ大阪育ちで22歳まで暮らしていたが、
今は横浜を含め東京生活の方が長くなってしまった。
銀座はよく行くけれど、この小説の中のメインストリートにある
建物やお店等は想像がつくけれど、
実際細い路地や雑居ビルが多いのも銀座の特徴。
昔はある意味名刺の住所が銀座と言うだけでステータスだった時代も。
知っている銀座と、未知の銀座。
そこに、男と女、父と娘、母と息子等々、
折り重なる出会いと記憶の糸を紡ぎあう人間の
様々な出会いの形が自然な形で描かれている。
短いストーリーの中に、様々な老若男女の人生の縮図というか、
かすかな記憶の産物が、大きな出逢いのスタートを切るきっかけともなる。
もしかしたら、本当に銀座の片隅でこの小説のような出逢いがあるかのかも。
10年前に別れた妻と偶然にも会ったのがプランタン銀座の裏だった。
想い出を話すにも、もう彼女はこの世にいない・・・。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます