以下の単位の話は財団法人原子力安全研究協会による緊急被ばく医療「地域フォーラム」テキスト(平成20年度版)がわかりやすいです。
http://www.remnet.jp/lecture/forum/01_05.html
福島原発の事故で放射線量が○○マイクロシーベルト毎時(μSv/hr)または(μSv.hr-1)という情報が出回っています。原子力安全・保安院の人の口頭発表ではさすがにマイクロシーベルト毎時とかマイクロシーベルトパーアワーとか言っていますし、NHK報道も「1時間当たり○○マイクロシーベルト」と正確に表現していますが、単に「○○マイクロシーベルト」とだけ表現している報道や記事もかなり多く見られます。これは正確な単位表現さえすれば避けられるはずの誤解を産みかねない、ちょっと困ったことだと思います。
シーベルト(Sv)は等価線量(equivalent dose)の単位で、SI単位では一応ジュール/キログラム(J/Kg, J.Kg-1)に一致し、その単位次元は一応[エネルギー][(生体組織)質量]-1です。
ここで大事な点は、等価線量(equivalent dose)や実効線量(effective dose)という量は生体組織が放射線を一定時間浴び続けて吸収したエネルギー総量に比例するものだということです。それに対して福島原発事故の記事で述べられている放射線量というのは特定時点での測定値であり、単位次元は[エネルギー][(生体組織)質量]-1[時間]-1となります。ゆえに「1時間当たり」とか「パーアワー(/hr)」「毎時」という表現が正確なのです。そして被曝の影響3)は被曝した総線量すなわち放射線量測定値の時間的積算量に比例しますから、瞬間的に高測定値が得られたとしてもそれが直ちに健康被害に直結するとは言えないのです。
さらに比較対象として、「一般公衆が1年間にさらされてよい放射線の限度」である1mSvがよく使われますが、あまり適切ではない気がします。むしろ1回での照射量を示す、「放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が1回の緊急作業でさらされてよい放射線の限度」の100mSvとか胃ガン検診における0.6mSv1),2)とかがよいように思います。まあ後者だと数値的には変わりませんが。しかし職業人の許容限度を持ってきてもしょうがないとか、検診における被曝量推定値も幅が大きいとか、なかなか適切な比較指標がないので説明に悩むのも理解できますが、放射線関係の方々もなんとか比較的正確で誰にもわかるような比較指標を考えられれば良いのですが。普段からリスクコミュニケーションの方法を練っておくのは大切ではないでしょうか。
しかしいわゆる「健康被害の恐れ」というもののほとんどが実は「被曝してから一生の間にガンで死ぬ確率」のことである点は知って置いて良いでしょう。決して「被曝して髪の毛が抜けてしまう恐れ」などではありません。あわてて逃げ出して事故死する確率の方がよほど高いでしょうね。1回の照射で目に見える健康被害としては250mSvでの白血球減少があり3)、これ以下では目に見える臨床的変化は認められていないとされています。
実は比較対象として「一般公衆が1年間にさらされてよい放射線の限度」を使うと、敢えてミスリーディングな計算ができてしまいます。1年間に1mSvが許容限度ですが1年間はほぼ8400時間ですから放射線強度としては0.12μSv.hr-1です。これと報道されている測定値を比べたら・・・。
1) 日本アイソトープ協会『アイソトープ手帳 10版』p151(放射線診断による実効線量)
2) http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0030/1/0030_G0000072_0024.html 厚労省がん研究班編/医療・GL(06年)/ガイドライン
3) ウィキペディア 人体に対する放射線の影響
4) 本ブログでの関連記事 量とは-1- 単位落とすべからず
http://www.remnet.jp/lecture/forum/01_05.html
福島原発の事故で放射線量が○○マイクロシーベルト毎時(μSv/hr)または(μSv.hr-1)という情報が出回っています。原子力安全・保安院の人の口頭発表ではさすがにマイクロシーベルト毎時とかマイクロシーベルトパーアワーとか言っていますし、NHK報道も「1時間当たり○○マイクロシーベルト」と正確に表現していますが、単に「○○マイクロシーベルト」とだけ表現している報道や記事もかなり多く見られます。これは正確な単位表現さえすれば避けられるはずの誤解を産みかねない、ちょっと困ったことだと思います。
シーベルト(Sv)は等価線量(equivalent dose)の単位で、SI単位では一応ジュール/キログラム(J/Kg, J.Kg-1)に一致し、その単位次元は一応[エネルギー][(生体組織)質量]-1です。
ここで大事な点は、等価線量(equivalent dose)や実効線量(effective dose)という量は生体組織が放射線を一定時間浴び続けて吸収したエネルギー総量に比例するものだということです。それに対して福島原発事故の記事で述べられている放射線量というのは特定時点での測定値であり、単位次元は[エネルギー][(生体組織)質量]-1[時間]-1となります。ゆえに「1時間当たり」とか「パーアワー(/hr)」「毎時」という表現が正確なのです。そして被曝の影響3)は被曝した総線量すなわち放射線量測定値の時間的積算量に比例しますから、瞬間的に高測定値が得られたとしてもそれが直ちに健康被害に直結するとは言えないのです。
さらに比較対象として、「一般公衆が1年間にさらされてよい放射線の限度」である1mSvがよく使われますが、あまり適切ではない気がします。むしろ1回での照射量を示す、「放射線業務従事者(妊娠可能な女子を除く)が1回の緊急作業でさらされてよい放射線の限度」の100mSvとか胃ガン検診における0.6mSv1),2)とかがよいように思います。まあ後者だと数値的には変わりませんが。しかし職業人の許容限度を持ってきてもしょうがないとか、検診における被曝量推定値も幅が大きいとか、なかなか適切な比較指標がないので説明に悩むのも理解できますが、放射線関係の方々もなんとか比較的正確で誰にもわかるような比較指標を考えられれば良いのですが。普段からリスクコミュニケーションの方法を練っておくのは大切ではないでしょうか。
しかしいわゆる「健康被害の恐れ」というもののほとんどが実は「被曝してから一生の間にガンで死ぬ確率」のことである点は知って置いて良いでしょう。決して「被曝して髪の毛が抜けてしまう恐れ」などではありません。あわてて逃げ出して事故死する確率の方がよほど高いでしょうね。1回の照射で目に見える健康被害としては250mSvでの白血球減少があり3)、これ以下では目に見える臨床的変化は認められていないとされています。
実は比較対象として「一般公衆が1年間にさらされてよい放射線の限度」を使うと、敢えてミスリーディングな計算ができてしまいます。1年間に1mSvが許容限度ですが1年間はほぼ8400時間ですから放射線強度としては0.12μSv.hr-1です。これと報道されている測定値を比べたら・・・。
1) 日本アイソトープ協会『アイソトープ手帳 10版』p151(放射線診断による実効線量)
2) http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0030/1/0030_G0000072_0024.html 厚労省がん研究班編/医療・GL(06年)/ガイドライン
3) ウィキペディア 人体に対する放射線の影響
4) 本ブログでの関連記事 量とは-1- 単位落とすべからず
ICRP(国際放射線防護委員会)の公衆被曝の限度は実効線量で年1mSvになっていますが、この限度とはどういう意味ですか?
国際勧告の数字ですよね?
あまり適切ではないということは、どういうことですか?
少し関係のない話しになりますが
本日、枝野官房長官の会見をニコニコ動画で見ていましたら、記者からの暫定規制値についての質問に対して
「この数値を超えたからといって危険であるというものではなく、数値を超えたらその超えた理由などを調査をする目安である」
とおっしゃっていました。
ちょっと調べたら
食品の安全性確保などを主な目的とした「食品衛生法」の中で、有害な物質などが含まれる食品の販売などを禁止する条項である「第6条第2号」に該当するレベルの有害な物質が農産物や食品に含まれているかどうかの「規制値」のこと。
と書いてあったんですが…
我々国民には、理解不能なことばかりです。
よろしくお願いします!
> あまり適切ではないということは、どういうことですか?
1mSvというのは1年間の総量ですが、今回のような事故での被曝の可能性というのは短期間でのものです。時間的にスケールの異なるものを比較して良いのかどうかという点が、「適切ではないかも知れない」と私が考える点のひとつです。
あとひとつは数値の問題ではなく1mSvという規制値の性質によるものです。1年間で我々は自然放射能を平均(地域差はある)で2.7mSv浴びているとされています。加えて1年に1回X線CT検査を受けると6.7mSvが加わります。なんと規制値の7倍もの被曝が許されているのは、検査により将来の死亡率を下げられるメリットが6.7mSvの被曝で将来のガンによる死亡率が上昇するデメリットを上回ると推定されているからです。この(2.7+6.7)mSv=9.4mSvにさらに年間1mSvが余分に加わると、将来のガンによる死亡率が1/9.4だけ上昇することになります。少ないと言えば少ないですが、放射線等を取り扱う仕事をするわけでもない一般公衆の場合はそのデメリットに相当するようなメリットが何もありません。
ICRPの考え方では、放射線被曝による癌死亡率効果は被曝線量に比例するのでどんなに少ない線量でもゼロではないと想定しています。なので、メリットのない被曝は本来はゼロであるべきなのです。さりながらゼロというのも非現実的なのでエイヤッ(と言うと怒られそうですが)と1mSvに決めています。『放射線概論』通商産業研究社からの受け売りでは「日常生活で普通容認されている他の危険度より小さいか同じであるべき」ということで、余分な被曝による死亡率上昇が普通に生活していく上での事故や病気による死亡率よりも少ないような程度と考えて良いと思います。1mSvに決めた経緯というのは私も勉強不足です。
通常の毒物とは効き方が異なるので、非常に考え方がわかりにくい点もあるかと思いますが、短時間でまとめた話ですのでこの当たりで御容赦のほどを。余裕ができれば、そのうちブログにまとめられればとは思いますが。