さて前回記事の図や式10でわかるように、国内で生産された物やサービスは、純輸出と国内総消費と総固定資本形成と在庫の増加とに分かれて消費されます。
10) GDP(dm)≡PrT+Ep+CpF'
PrT(純輸出)以外の項は国内だけの移動で、生産者から消費者への物やサービスの移動に対応して逆方向への資金の移動が起きるだけです。が、純輸出では生産者から国外へ物やサービスが移動し、国外からは外貨が入ってきます。国外から入ってきた外貨の全量は、純輸出による分以外も含めて、海外に対する債権の変動(Changes in claims to the Rest of the World)と呼ばれています。これは対外債権の増加を正と定義した量ですが、「世界の残りの部分に対する債権」とはなかなか味のある表現だと思います。熱力学における熱浴の概念を思い起こさせますね。本記事ではこの量をCCWという記号で表します。
さて、なぜ「対外債権の増加」なのでしょうか? 外貨というものが実は発行国の中央銀行による債権だと考えられるから、という考えが最も単純に理解できるでしょう。すなわち中央銀行は、発行した外貨を持ってくればどんな物ともサービスとでも交換しますよ、と約束しているわけです。実際には中央銀行にあらゆる物やサービスが揃えてあるわけではなくて、例えば別の国の外貨とか債権といった金融資産に交換してくれるわけです。これを「必ず金と交換します」と約束するのが金本位制です。また現実的には国内に入ってきた外貨の多くは金融業者や日本銀行に保有され、米国債などの外貨建て債権に変えられているようです。
さて、CCW(海外に対する債権の変動)を構成するのはPrT(純輸出)以外に、後述のIcT(海外からの純要素所得)、CrT(海外からその他の純経常移転)、CpT(海外からの純資本移転)の3費目があります。この中でCpTを除いた3費目の合計を経常対外収支(Current External Balance)と呼びますが、SNAでは国内が国外から借りている債務を正値と定義しています。すなわち、上記3費目の合計にマイナス1を掛けた量を経常対外収支(Current External Balance)と定義し、本記事ではCXBで表します。通常言われる「経常対外収支が黒字」というのは、SNA定義の経常対外収支が負の値の状態なので、ちょっと混乱しそうではあります。実はSNAの海外勘定の部では、すべての量について国外から見て増加する場合を正値と定義していますので、国内から見て増加する場合を正値と定義する通常の感覚とは正負が逆になっています。
さて国外との資金の出入りに関する量を輸出入も含めて示しておきましょう。
上記の量の国外からの純流入量を定義しておきます。
PrT 純輸出
11) PrT≡Exp-Imp
IcT 海外からの所得(純) Income Transfer
12) IcT≡(CEp(ex)+PIc(ex))-(CEp(im)+PIc(im))
CrT 海外からの経常移転((純)その他の経常移転) Current Transfer
13) CrT≡CrT(ex)-CrT(im)
CpT 海外からの資本移転(純) Capital Transfer
14) CpT≡CpT(ex)-CpT(im)
上記の雇用者報酬、財産所得、その他の経常移転で(支払)とは「国外からの支払い」という意味で、国民が得た収入となる量です。それに対して資本移転等では(支払)とは「国外への支払い」であり、(受取)が「国外から国内への受け取り」で(受取)の方が国民の収入となる量です。
色々と経緯があって不統一らしいですが、私独自の記号では国民収入となる量は「(ex)」で表し、国民支出となる量は「(im)」で表しました。また前者から後者を引いた国民純収入となる量は3文字目を「T(Transferr)」で統一しました。そのために純輸出(Net Export)は「Product Transfer」の頭文字を取った記号で表しました。
さて雇用者報酬(CEp)の意味はGDPに含まれるものと同様で、それが国境をまたいだ移動だというだけです。財産所得(PIc)は利子や配当で、本記事では簡明のために純雇用者報酬と純財産所得との和を海外からの純所得(IcT)として、この量を主に使うことにします。資本移転とは資本形成等に使われる資金の移転であり対価を伴わないもので、例えば国家間の無償援助が代表的なものです。対価を伴うものがいわゆる投資であり、その対価とは例えば債務であり例えば株式です。この投資の部分は国民経済計算の資本調達勘定の中に金融資産の純増という形で含まれていますが、その話はまた後ほどするかも知れません。経常移転は所得と投資以外の移転で、寄付、保険、税などが含まれるようです。私掠船(しりゃくせん, privateer)などの収益はたぶん経常移転に分類されるのでしょうねえ(^_^)
またCCWには含まれるがCXBには含まれない資本移転CpTを含めた総資本調達(Gross Capital Finance)という概念もあります。これはCpFiで表すことにします。
17) CpFi≡Sv+CpCs+CpT
18) CpFi=CpF'+CCW
17式は貯蓄と固定資本減耗と国外からの資本移転により資本が調達されたことを示し、18式はその使い道が国内での資本形成と国外に対する債権増加であることを示しています。
以上のいくつかの量の定義を資金の出入りも含めてまとめると次の表のようになります。
さて国外との資金の出入りも含めた図は次のようになります。
国内総生産等の図解
基礎から分かる国民経済計算には「(図1)SNA関連指標の概念の関係」と題して、いくつかの量の定義を示す図が示してありますが、この図を式にしたものを以下に示しておきます。ただ、1だけは総生産(付加価値)と中間投入の関係という基本的過ぎるものなので省略しました。本当は国内産出と中間投入の記号を考えるのが面倒だっただけ(^_~)
SNA-2 GDE=Ep+CpF'+PrT
SNA-3 GDP=CEp+OSMI+ITx(n)+CpCs
SNA-4 NDP=CEp+OSMI+ITx(n)
SNA-5 NIds=CrT+IcT+NDP
SNA-6 NNP=NI-ITx(n) 要素費用表示
SNA-7 NI'=IcT+CEp+OSMI 要素費用表示
SNA-8 NI=IcT+NDP
SNA-9 GNI=IcT+NDP+CpCs
上記関係は本シリーズの既出の式や表3と重なる部分が多いですが、SNA-6,7は2012/03/19の記事でも取り上げた市場価格表示と要素費用表示に関する式です。
まあ歴史的経緯もあり似たような複数の量が混在することが理解の壁になっていると言えましょう。つまりは、そこを整理すれば理解はやさしいということになります。
10) GDP(dm)≡PrT+Ep+CpF'
PrT(純輸出)以外の項は国内だけの移動で、生産者から消費者への物やサービスの移動に対応して逆方向への資金の移動が起きるだけです。が、純輸出では生産者から国外へ物やサービスが移動し、国外からは外貨が入ってきます。国外から入ってきた外貨の全量は、純輸出による分以外も含めて、海外に対する債権の変動(Changes in claims to the Rest of the World)と呼ばれています。これは対外債権の増加を正と定義した量ですが、「世界の残りの部分に対する債権」とはなかなか味のある表現だと思います。熱力学における熱浴の概念を思い起こさせますね。本記事ではこの量をCCWという記号で表します。
さて、なぜ「対外債権の増加」なのでしょうか? 外貨というものが実は発行国の中央銀行による債権だと考えられるから、という考えが最も単純に理解できるでしょう。すなわち中央銀行は、発行した外貨を持ってくればどんな物ともサービスとでも交換しますよ、と約束しているわけです。実際には中央銀行にあらゆる物やサービスが揃えてあるわけではなくて、例えば別の国の外貨とか債権といった金融資産に交換してくれるわけです。これを「必ず金と交換します」と約束するのが金本位制です。また現実的には国内に入ってきた外貨の多くは金融業者や日本銀行に保有され、米国債などの外貨建て債権に変えられているようです。
さて、CCW(海外に対する債権の変動)を構成するのはPrT(純輸出)以外に、後述のIcT(海外からの純要素所得)、CrT(海外からその他の純経常移転)、CpT(海外からの純資本移転)の3費目があります。この中でCpTを除いた3費目の合計を経常対外収支(Current External Balance)と呼びますが、SNAでは国内が国外から借りている債務を正値と定義しています。すなわち、上記3費目の合計にマイナス1を掛けた量を経常対外収支(Current External Balance)と定義し、本記事ではCXBで表します。通常言われる「経常対外収支が黒字」というのは、SNA定義の経常対外収支が負の値の状態なので、ちょっと混乱しそうではあります。実はSNAの海外勘定の部では、すべての量について国外から見て増加する場合を正値と定義していますので、国内から見て増加する場合を正値と定義する通常の感覚とは正負が逆になっています。
さて国外との資金の出入りに関する量を輸出入も含めて示しておきましょう。
記号 | 名称 | 英語名称 | 項目No. |
---|---|---|---|
Exp | 財貨・サービスの輸出 | Export of Products | (5.1;1.11) |
CEp(ex) | 雇用者報酬(支払) | Compensation of Employees | (5.2) |
PIc(ex) | 財産所得(支払) | Property Income | (5.3) |
IcT(ex) | 国外から要素所得 | Factor Income from Abroad | |
IcT(ex)≡CEp(ex)+PrI(ex) | |||
CrT(ex) | その他の経常移転(支払) | Current Transfer | (5.4) |
CpT(ex) | 資本移転等(受取) | Capital Transfer | (6.2) |
Imp | 財貨・サービスの輸入 | Import of Products | (5.6;1.12) |
CEp(im) | 雇用者報酬(受取) | Compensation of Employees | (5.7) |
PIc(im) | 財産所得(受取) | Property Income | (5.8) |
IcT(im) | 国外への要素所得 | Factor Income to Abroad | |
IcT(im)≡CEp(im)+PrI(im) | |||
CrT(im) | その他の経常移転(受取) | Current Transfer | (5.9) |
CpT(im) | 資本移転等(支払) | Capital Transfer | (6.3) |
上記の量の国外からの純流入量を定義しておきます。
PrT 純輸出
11) PrT≡Exp-Imp
IcT 海外からの所得(純) Income Transfer
12) IcT≡(CEp(ex)+PIc(ex))-(CEp(im)+PIc(im))
CrT 海外からの経常移転((純)その他の経常移転) Current Transfer
13) CrT≡CrT(ex)-CrT(im)
CpT 海外からの資本移転(純) Capital Transfer
14) CpT≡CpT(ex)-CpT(im)
CCW | 海外に対する債権の変動 | Changes in claims to the Rest of the World | (4.2;3.4) | |
---|---|---|---|---|
15) CCW≡PrT+IcT+CrT+CpT | ||||
CXB | 経常対外収支 | Current External Balance | (5.5) | |
16) CXB≡-(PrT+IcT+CrT) |
上記の雇用者報酬、財産所得、その他の経常移転で(支払)とは「国外からの支払い」という意味で、国民が得た収入となる量です。それに対して資本移転等では(支払)とは「国外への支払い」であり、(受取)が「国外から国内への受け取り」で(受取)の方が国民の収入となる量です。
色々と経緯があって不統一らしいですが、私独自の記号では国民収入となる量は「(ex)」で表し、国民支出となる量は「(im)」で表しました。また前者から後者を引いた国民純収入となる量は3文字目を「T(Transferr)」で統一しました。そのために純輸出(Net Export)は「Product Transfer」の頭文字を取った記号で表しました。
さて雇用者報酬(CEp)の意味はGDPに含まれるものと同様で、それが国境をまたいだ移動だというだけです。財産所得(PIc)は利子や配当で、本記事では簡明のために純雇用者報酬と純財産所得との和を海外からの純所得(IcT)として、この量を主に使うことにします。資本移転とは資本形成等に使われる資金の移転であり対価を伴わないもので、例えば国家間の無償援助が代表的なものです。対価を伴うものがいわゆる投資であり、その対価とは例えば債務であり例えば株式です。この投資の部分は国民経済計算の資本調達勘定の中に金融資産の純増という形で含まれていますが、その話はまた後ほどするかも知れません。経常移転は所得と投資以外の移転で、寄付、保険、税などが含まれるようです。私掠船(しりゃくせん, privateer)などの収益はたぶん経常移転に分類されるのでしょうねえ(^_^)
またCCWには含まれるがCXBには含まれない資本移転CpTを含めた総資本調達(Gross Capital Finance)という概念もあります。これはCpFiで表すことにします。
17) CpFi≡Sv+CpCs+CpT
18) CpFi=CpF'+CCW
17式は貯蓄と固定資本減耗と国外からの資本移転により資本が調達されたことを示し、18式はその使い道が国内での資本形成と国外に対する債権増加であることを示しています。
以上のいくつかの量の定義を資金の出入りも含めてまとめると次の表のようになります。
記号 | Ep | CpF' | -CpCs | PrT | IcT | CrT | CpT | 名称 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
GDP | ○ | ○ | ○ | 国内総生産 | ||||
NIds | ○ | ○ | ● | ○ | ○ | ○ | 国民可処分所得 | |
NI | ○ | ○ | ● | ○ | ○ | 国民所得 | ||
CCW | ○ | ○ | ○ | ○ | 海外に対する債権の変動 | |||
-CXB | ○ | ○ | ○ | 経常対外収支(負値) | ||||
Sv | ○ | ● | ○ | ○ | ○ | 貯蓄 | ||
CpFi | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 総資本調達 |
さて国外との資金の出入りも含めた図は次のようになります。
国内総生産等の図解
基礎から分かる国民経済計算には「(図1)SNA関連指標の概念の関係」と題して、いくつかの量の定義を示す図が示してありますが、この図を式にしたものを以下に示しておきます。ただ、1だけは総生産(付加価値)と中間投入の関係という基本的過ぎるものなので省略しました。本当は国内産出と中間投入の記号を考えるのが面倒だっただけ(^_~)
SNA-2 GDE=Ep+CpF'+PrT
SNA-3 GDP=CEp+OSMI+ITx(n)+CpCs
SNA-4 NDP=CEp+OSMI+ITx(n)
SNA-5 NIds=CrT+IcT+NDP
SNA-6 NNP=NI-ITx(n) 要素費用表示
SNA-7 NI'=IcT+CEp+OSMI 要素費用表示
SNA-8 NI=IcT+NDP
SNA-9 GNI=IcT+NDP+CpCs
上記関係は本シリーズの既出の式や表3と重なる部分が多いですが、SNA-6,7は2012/03/19の記事でも取り上げた市場価格表示と要素費用表示に関する式です。
まあ歴史的経緯もあり似たような複数の量が混在することが理解の壁になっていると言えましょう。つまりは、そこを整理すれば理解はやさしいということになります。
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