さて国民経済計算を理解するということは、その種々の費目の間の関係を理解することを意味します。いきなり全部の関係を考えると複雑ですので、まずは国外との資金の出入りを輸出入以外は無視することにします。さらに以下、わかりやすくするために数式を使いますので、記号の定義を示しておきます。下線を引いた記号は一般にも使われていますが引いてないものは本記事で独自に使うものです。また太字が現在の93SNA準拠の国民経済計算で使用されている費目と名称です。そして括弧内の数字は内閣府公表の統計表一覧1)における項目番号です。
また以下の式において、「=」は単に両辺が等しいことを示しますが、「≡」は左辺を右辺で定義することを示します。
さて国民経済計算の費目に統計上の不突合(Statistical Discrepancy)というものがあります。これは国内総生産(GDP)を支出側から実測した値と生産側から実測した値との差で、いわば測定誤差です。すなわち、
4) StD≡GDE(ob)-GDP(ob)
現在の93SNA準拠の国民経済計算では従来の「GDE(国内総消費)」という用語の代わりに「国内総生産(支出側)」という用語が使われます。そして従来は単に「GDP(国内総生産)」とされていた用語が「国内総生産(生産側)」となっていて、これは統計上の不突合を含めた量とされています。すなわち、
5') GDP(sp)≡雇用者報酬+純間接税+営業余剰・混合所得+固定資本減耗+StD
6') GDP(dm)≡純輸出+民間最終消費支出+政府最終消費支出+総固定資本形成+在庫品増加
5) GDP(sp)≡CEp+ITx(n)+OSMI+CpCs+StD
6) GDP(dm)≡PrT+EpP+EpG+CpF+IvF
支出側では外国人、家計、政府という3つの経済主体が消耗品を消費したということになります。残りは固定資本と在庫の増加となります。生産側については既に解説した通りです。なお、固定資本と在庫の増加については家計と政府に分けないのはなぜかと言えば、測定上の都合からです6)。
さて生産された付加価値は消費と貯蓄に分配されますので、GDP(dm)の内訳が以下のように振り分けられることになります。ただし貯蓄に関して2つの注意点があります。
2') Ep≡民間最終消費支出+政府最終消費支出
7') Sv=純輸出+総固定資本形成+在庫品増加-固定資本減耗
7) Sv=PrT+CpF+IvF-CpCs
まず貯蓄は固定資本減耗を除いた値、すなわち2012-03-27の記事で述べたネット概念の量とされています。また貯蓄の値は7式からではなく生産側から計算されます。具体的には生産側から固定資産減耗を引いて国民可処分所得を求め、そこから総消費を引いた金額が貯蓄と見なされます。
8) NIds≡GDP(sp)-CpCs
9) Sv≡GDP(sp)-CpCs-Ep
この定義から、可処分所得や貯蓄にも統計的不突合が含まれていることになります。
6式を変形して
10) GDP(dm)≡PrT+Ep+CpF'
ただし CpF'≡CpF+IvF
[GDP(sp)=GDP(dm)]という等式に10式と9式を代入すれば、Epが消えて7式が導けます。
以上を図示してみました。
なお、以上は国外との資金の出入りを輸出入以外は無視した場合であり、実際には国民可処分所得と貯蓄には国外からの所得等が含まれますが、その話は次回とします。
また国民可処分所得(NIds)以外に従来使われていた国民所得(NI)という量がありますが、今回の条件では両者は一致します。この両者の違いも次回とします。国民所得(NI)も国民可処分所得同様にネット概念で、対応するグロス概念である国民総所得(GNI)という量も使われていました7)。現在では、配分に関する量としては、ネット概念である貯蓄(Sv)と国民可処分所得(NIds)とが使われています。
それに対して生産面や消費面ではグロス概念である国内総生産(GDP)や総固定資本形成(CpF)が使われているので、慣れないと混乱の元ではあります。
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1) 統計表一覧
具体的データのエクセルファイルへのリンク集。大きくフローとストックに分けてある。
2) 基礎から分かる国民経済計算
図入りの基本的解説
3) 「SNA推計手法解説書(2007年改訂版)」の公表について
実際の推計手順の詳細な解説のPDFファイルへのリンク集
4) 用語の解説
あいうえお順の用語辞典
5) 純輸出の記号は Product Transfer から取った。理由は次回に。
6) (Ref-3,6章[PDF],p68)「コモ法は~主体別の内訳や四半期計数を明らかにするものではない」
7) 総所得に対して純所得だからNNIとするのがわかりやすいと思うのだが、短くすることを選んだのだろうか?
また以下の式において、「=」は単に両辺が等しいことを示しますが、「≡」は左辺を右辺で定義することを示します。
記号 | 名称 | 英語名称 | 項目No. |
---|---|---|---|
GDP | 国内総生産 | Gross Domestic Product | |
GDP(sp) | 国内総生産(生産側) | Gross Domestic Product (supply side) | |
GDP(ob) | 国内総生産(実測) | ||
GDE | 国内総消費 | Gross Domestic Expenditure | |
GDP(dm) | 国内総生産(支出側) | Gross Domestic Product (demand side) | |
GDE(ob) | 国内総消費(実測) | ||
NDP | 国内純生産 | Net Domestic Product | |
CEp | 雇用者報酬 | Compensation of Employees | (1.1;2.4) |
OSMI | 営業余剰・混合所得 | Operating Surplus or Mixed Income | (1.2;2.6) |
ITx(n) | 純間接税 | Net Indirect Taxes | |
1) ITx(n)≡ITx-Sbs | |||
ITx | 生産・輸入品に課される税 | Indirect Taxes(間接税) | (1.4;2.8) |
Sbs | 補助金 | Subsidies | (1.5;2.9) |
Ep | 最終消費支出 | Final Consumption Expenditure | |
2) Ep≡EpP+EpG | |||
EpP | 民間最終消費支出 | Private Final Consumption Expenditure | (2.1) |
EpG | 政府最終消費支出 | Final Consumption Expenditure of Government | (2.2) |
PrT | 純輸出 | Net Export 5) | |
3) PrT≡Exp-Imp | |||
Exp | 財貨・サービスの輸出 | Export of Products | (5.1;1.11) |
Imp | 財貨・サービスの輸入 | Import of Products | (5.6;1.12) |
GNI | 国民総所得 | Gross National Income | |
NI | 国民所得 | Net National Income | |
NIds | 国民可処分所得 | National Disposable Income | |
Sv | 貯蓄 | Saving | |
CpCs | 固定資本減耗 | Consumption of Fixed Capital | (1.3;3.2) |
CpF | 総固定資本形成 | Gross Fixed Capital Formation | (1.9;3.1) |
IvF | 在庫品増加 | Change in Inventories | (1.10;3.3) |
StD | 統計上の不突合 | Statistical Discrepancy | |
さて国民経済計算の費目に統計上の不突合(Statistical Discrepancy)というものがあります。これは国内総生産(GDP)を支出側から実測した値と生産側から実測した値との差で、いわば測定誤差です。すなわち、
4) StD≡GDE(ob)-GDP(ob)
現在の93SNA準拠の国民経済計算では従来の「GDE(国内総消費)」という用語の代わりに「国内総生産(支出側)」という用語が使われます。そして従来は単に「GDP(国内総生産)」とされていた用語が「国内総生産(生産側)」となっていて、これは統計上の不突合を含めた量とされています。すなわち、
5') GDP(sp)≡雇用者報酬+純間接税+営業余剰・混合所得+固定資本減耗+StD
6') GDP(dm)≡純輸出+民間最終消費支出+政府最終消費支出+総固定資本形成+在庫品増加
5) GDP(sp)≡CEp+ITx(n)+OSMI+CpCs+StD
6) GDP(dm)≡PrT+EpP+EpG+CpF+IvF
支出側では外国人、家計、政府という3つの経済主体が消耗品を消費したということになります。残りは固定資本と在庫の増加となります。生産側については既に解説した通りです。なお、固定資本と在庫の増加については家計と政府に分けないのはなぜかと言えば、測定上の都合からです6)。
さて生産された付加価値は消費と貯蓄に分配されますので、GDP(dm)の内訳が以下のように振り分けられることになります。ただし貯蓄に関して2つの注意点があります。
2') Ep≡民間最終消費支出+政府最終消費支出
7') Sv=純輸出+総固定資本形成+在庫品増加-固定資本減耗
7) Sv=PrT+CpF+IvF-CpCs
まず貯蓄は固定資本減耗を除いた値、すなわち2012-03-27の記事で述べたネット概念の量とされています。また貯蓄の値は7式からではなく生産側から計算されます。具体的には生産側から固定資産減耗を引いて国民可処分所得を求め、そこから総消費を引いた金額が貯蓄と見なされます。
8) NIds≡GDP(sp)-CpCs
9) Sv≡GDP(sp)-CpCs-Ep
この定義から、可処分所得や貯蓄にも統計的不突合が含まれていることになります。
6式を変形して
10) GDP(dm)≡PrT+Ep+CpF'
ただし CpF'≡CpF+IvF
[GDP(sp)=GDP(dm)]という等式に10式と9式を代入すれば、Epが消えて7式が導けます。
以上を図示してみました。
なお、以上は国外との資金の出入りを輸出入以外は無視した場合であり、実際には国民可処分所得と貯蓄には国外からの所得等が含まれますが、その話は次回とします。
また国民可処分所得(NIds)以外に従来使われていた国民所得(NI)という量がありますが、今回の条件では両者は一致します。この両者の違いも次回とします。国民所得(NI)も国民可処分所得同様にネット概念で、対応するグロス概念である国民総所得(GNI)という量も使われていました7)。現在では、配分に関する量としては、ネット概念である貯蓄(Sv)と国民可処分所得(NIds)とが使われています。
それに対して生産面や消費面ではグロス概念である国内総生産(GDP)や総固定資本形成(CpF)が使われているので、慣れないと混乱の元ではあります。
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1) 統計表一覧
具体的データのエクセルファイルへのリンク集。大きくフローとストックに分けてある。
2) 基礎から分かる国民経済計算
図入りの基本的解説
3) 「SNA推計手法解説書(2007年改訂版)」の公表について
実際の推計手順の詳細な解説のPDFファイルへのリンク集
4) 用語の解説
あいうえお順の用語辞典
5) 純輸出の記号は Product Transfer から取った。理由は次回に。
6) (Ref-3,6章[PDF],p68)「コモ法は~主体別の内訳や四半期計数を明らかにするものではない」
7) 総所得に対して純所得だからNNIとするのがわかりやすいと思うのだが、短くすることを選んだのだろうか?
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