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進化の歴史を巻き直す:グールド対モリス (3)

2019-05-10 06:11:53 | 生物学
 05/01の記事の続きです。

 次はクールドの7つの世界の中の5)を考えてみます。

 グールドは肺魚類とシーラカンス類とを合わせたグループが登場しなかったり絶滅したりしていたら脊椎動物の上陸は未来永劫なかったと考えました。その根拠はまさに彼らが魚類の極一部にすぎず、陸上進出の前適応となれるような歩行や体の支えに適した骨格をほとんどの魚類は持たないからです。またグールドは述べてはいませんが、彼らはやがて肺に進化する器官をもっていました。これは硬骨魚類(正式には硬骨魚類の中の条鰭綱)では浮き袋となり呼吸機能は失いますし、軟骨魚類(正式には軟骨魚綱)は最初から持っていません。例えば硬骨魚類が今から上陸しようとしても、すでに呼吸機能を失くしてがらんどうの袋と化した器官が空気呼吸に役立つように進化するかというと怪しいものでしょう。

 しかし、実際には現在、海と陸の境界で生活する魚類がいます。ハゼ科のオキスデルシス亜科 (Oxudercinae)に属するトビハゼムツゴロウです。グールドに言わせれば硬骨魚の骨格では陸上で体を支えるまでには成り得ないので彼らが上陸することはできない、となるのでしょう。しかし体を支えるための器官が骨格からしか発生しないというのは思い込みでしょう。肉や皮膚が硬くなってもいいし、体内に新たな器官が生じるかも知れません。また彼らは皮膚呼吸で陸上に適応しているようですが、それだけでは足りない環境に進出した場合には、例えば体内での皮膚呼吸を利用するようになり、そのための器官が進化してくる可能性も考えられるでしょう。

 確かに上陸したのが線虫類だけだったら、いつまでも四肢が生じずにはい回るだけということも考えられます。しかしそれでも、いつの日か体の下面に生じたイボが丈夫になって四肢だか六肢だか八肢だかに進化する可能性もまた否定できないでしょう。クールドは「骨が変化した肢でないと体を支えきれない」という先入観に囚われているように思えます。イボを立派な角へと進化させた動物の実例があるのに[*1]。

 次回に続く。

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*1) 今泉忠明(監修)『おもしろい! 進化のふしぎ 続ざんねんないきもの事典』高橋書店(2017/06/10)より「サイの角はただのいぼ」

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