知識は永遠の輝き

学問全般について語ります

知能系魔術

2019-05-07 06:12:03 | 架空世界
 フィクションに登場する魔術には何者かが判断を下さないとできないような、知能系魔術とでも呼ぶべきものがあります。

 例えば『本好きの下克上』[Ref-1]には契約魔術なるものが登場します。最初は第1部3巻の「契約魔術」の章に登場しますが、魔力のこもった特殊なインクと紙(羊皮紙)で契約書を書いて署名し、各自の署名の上に署名者の血を付けます。全員が署名すると、なんと契約書は消滅します。なので控えはちゃんと別に取っておかないと内容を忘れてしまいます。忘れてうっかり違反すれば、命にかかわります。

 こういう破れない契約と言ったものは世界中の昔話にもよく登場しますし、血判による契約とか盟約は世界中で古くからおこなわれています[*1]。しかしこの魔力は一体どのように働くのでしょうか? これは例えば風を起こしたり雷を落としたりといった単純な力技とは全く異なるものです。何者かが終始契約者を監視していて違反したら罰をくだすのですから、ある種の知能が必要です。例えば結界のように、この線を越えたら罰を下す、というのであれば知能など必要ないかも知れませんが、契約内容は個々に違うのに、それに違反したかどうかを判定するのですから、マイコン並み以上の知能が必要でしょう。

 『本好きの下克上』では人の目に触れるのは魔法のインクと羊皮紙だけですが、いずれも契約成立と同時にどこかへ消えてしまいますから、たぶんそれを受け取って違反を監視する謎の魔物などがいるのではないかと推測できます。知能を持つとはいっても融通の利かないガチガチの石頭に違いありません

 『十二国記』[Ref-2]では天帝が定めたとされる様々な決まり(法)が似たような力を発揮します。十二国記の世界では各国の王は他国を侵略することが禁止されています。具体的には他国に軍を率いて侵入することが禁止されています。なのでこの世界には国家間戦争というものがなく、国が傾くのはひとえに王自身の国家経営が悪いということになるのですが、それはともかく。

 国境を越えれば罰が下るということで国境が結界とも言えますが、単に王が越えたことを何らかのセンサーで検知すれば済むというものではありません。ある程度以上の軍を率いて侵入することが条件であり、数名の護衛と共に王が他国を訪問しても大丈夫です。また、その国の王の許可があれば軍を率いて入国するこができます。これらの条件を判定するのですから、やはりある程度の知能が必要でしょう。

 『本好きの下克上』では契約魔術と似たものにギルドカードというものがあります。金属の薄いカードで、商業ギルドの会員である証明になるのですが、商業ギルドに金を預ける銀行カードの機能も持っています。ということは預金額がどこかに記録されているはずです。そしてカードを使った支払い等は自動的にできていましたから、計算も自動的にできているはずです。じゃあそのシステムで電卓魔術はできないのか? とも思うのですが、もしかすると小型化は困難なのかも知れませんね。

 銀行カードのような便利なものがあれば金貨銀貨といった盗賊から守りにくく、また重いものを持ち運ばずに済んで便利なのですが、最近読んだ『ウォルテニア戦記』[Ref-3]には、まさに銀行という名の組織が登場します。また『十二国記』には銀行に相当する界身という組織が発行する烙款というものが登場します[Ref-4]。

 別の記事で3つのフィクションの中での金融機関の比較をしてみようと思いますが、その前に『ウォルテニア戦記』について次回に少し書きます。

----------------------
Ref-1) 本ブログの記事
 本好きの本好きによる本好きのための物語
 『本好きの下剋上』(2) 魔力格差のある社会
 『本好きの下剋上』(3)
 転生者は一人だけ? 香月美夜『本好きの下剋上』と小野不由美『十二国記シリーズ』より
Ref-2) 本ブログの記事
 転生者は一人だけ? 香月美夜『本好きの下剋上』と小野不由美『十二国記シリーズ』より
Ref-3) 保利亮太『ウォルテニア戦記 (HJ NOVELS)』ホビージャパン (2015/09/19)
Ref-4)
 4a) 『風の万里 黎明の空 (上) 十二国記 4 (新潮文庫)』新潮社 (2013/3/28) p197 「烙款には、保証を発行した界身と限度額を部外者には読めない界身座独自の文字で示してある。」
 4b) 『十二国記』用語集
 4c) 落款(らっかん)という言葉があるが、意味が少し異なる。
 4d) という文字は焼き付けるという意味で、烙印というのが一番知られている熟語だろう。

----------------------
*1) むろん現実世界では人の心に対して以外の物理的効果はない。ほんとだよ(^_^)。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 進化の歴史を巻き直す:グー... | トップ | 進化の歴史を巻き直す:グー... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

架空世界」カテゴリの最新記事