先日の続きです。
以下、公理や定理の表現は私流にしてあります。ヒルベルトの公理系では合同の公理は5つあり、1~3が線分について、4~5が角についてのものです。特に5は三角形の合同に関する二辺挟角命題に当たる公理で、ユークリッドの『原論』では定理とされていたものです。さて線分の合同について述べるには、まず線分を定義しなくてはなりません。
線分の定義;同一直線上の2点の組。2点の順序は問わない。
この定義は普通我々が思い浮かべる線分のイメージとは若干異なるように思います。線分というと普通は「同一直線上の2点間の点の集合」をイメージするのではないでしょうか。とはいえ線分の合同を定義するには2点の組ということで十分なことも確かです。また「2点間の点」の存在や性質を何ら用いなくても定義できるという利点があります。3点3線モデルのように「2点間の点」が存在しないモデルでもちゃんと線分が定義できるわけです。
合同の公理1.線分ABおよび点Aとは異なる点A'があるとき、A'を含む直線上に線分A'B'と線分ABが合同となるような点B'が存在する。合同であることを記号で、A'B'≡ABと表す。
つまり線分ABに合同な線分A'B'を異なる位置に作れると言っています。ここで"合同"というのは無定義語ですから、我々が普通にイメージする図形の合同と同じものである必然性はないことにご注意下さい。
ところで上記の私流表現は実は不十分です(注1)。
合同の公理2.2つの線分が共に第三の線分に合同ならぱ、これら2つの線分は互いに合同である。
この公理からいわゆる反射律、対称律、推移律が誘導できます。むしろ反射律、対称律、推移律の3つをそれぞれに公理として指定する方法が多いかも知れませんが、この公理だとひとつで3つ分を指定できるというわけです。
この公理は一見推移律そのものと見間違うかも知れませんが、「共に第三の線分に」と「互いに」というところが推移律とは異なります。すなわち、3線分をL1,L2,L3とすれば、
(L1≡L2)∧(L3≡L2) ⇒ (L1≡L3)∧(L3≡L1)
です。一方推移律は、
(L1≡L2)∧(L2≡L3) ⇒ (L1≡L3)
であり、2番目の条件もL2とL3が交換しています。蛇足ですが、推移律だけなら合同関係や等号関係だけではなく順序関係にも成り立ちます。合同記号や等号での式だけ見ていると、我々は無意識のうちに前後の交換を同じ式として無視してしまい勝ちですが、上記の式の「≡」を不等号にして見れば、前後の順序が大きな意味を持っていたことがわかりやすくなるでしょう。
合同の公理3.点Bが点Aと点Cの間にあり点B'が点A'と点C'の間にあるとき、線分A'B'と線分ABが合同でかつ線分B'C'と線分BCが合同ならば、線分A'C'と線分ACは合同である。
これは線分の加法が成り立つことを言っています。なお、「間にある」という語は合同の公理の前に述べられる順序の公理に登場する無定義語です。むろん解釈としては普通の「間にある」という意味で構いません。
注1) A'を含む直線Lをひとつ考えると、B'はA'の両側に1点ずつちょうど2点だけ取ることができます。このことを正確に簡潔な文章で示そうとするとちょっと難しいです。『幾何学基礎論』では次のように表現しています。
「A,Bを一直線a上の2点とし、さらにA'を同じ直線または他の直線a'上の点とするとき、直線a'のA'に関して与えられた側につねに少なくとも一点B'を見出し、線分ABが線分A'B'に合同または相等しくなるようにすることができる」
「A'に関して与えられた側」というのが普通使わないような難しい表現ですが、法律用語での「所定の」と同じで厳密な意味になるとは言えるでしょう。「A'に関する側というものが複数ある場合に、そのどれかを任意に取った場合に」というような意味です。この公理の場合だと右側を取ればそこで一点、左側を取ってもそこで一点見いだせるということになります。
ただここで「少なくとも一点」というのは妙です。「ただ一点のみ」だと思うのですが。これは「少なくとも一点」としておいても後に「ただ一点のみ」と証明されるということでしょうか。
続く
以下、公理や定理の表現は私流にしてあります。ヒルベルトの公理系では合同の公理は5つあり、1~3が線分について、4~5が角についてのものです。特に5は三角形の合同に関する二辺挟角命題に当たる公理で、ユークリッドの『原論』では定理とされていたものです。さて線分の合同について述べるには、まず線分を定義しなくてはなりません。
線分の定義;同一直線上の2点の組。2点の順序は問わない。
この定義は普通我々が思い浮かべる線分のイメージとは若干異なるように思います。線分というと普通は「同一直線上の2点間の点の集合」をイメージするのではないでしょうか。とはいえ線分の合同を定義するには2点の組ということで十分なことも確かです。また「2点間の点」の存在や性質を何ら用いなくても定義できるという利点があります。3点3線モデルのように「2点間の点」が存在しないモデルでもちゃんと線分が定義できるわけです。
合同の公理1.線分ABおよび点Aとは異なる点A'があるとき、A'を含む直線上に線分A'B'と線分ABが合同となるような点B'が存在する。合同であることを記号で、A'B'≡ABと表す。
つまり線分ABに合同な線分A'B'を異なる位置に作れると言っています。ここで"合同"というのは無定義語ですから、我々が普通にイメージする図形の合同と同じものである必然性はないことにご注意下さい。
ところで上記の私流表現は実は不十分です(注1)。
合同の公理2.2つの線分が共に第三の線分に合同ならぱ、これら2つの線分は互いに合同である。
この公理からいわゆる反射律、対称律、推移律が誘導できます。むしろ反射律、対称律、推移律の3つをそれぞれに公理として指定する方法が多いかも知れませんが、この公理だとひとつで3つ分を指定できるというわけです。
この公理は一見推移律そのものと見間違うかも知れませんが、「共に第三の線分に」と「互いに」というところが推移律とは異なります。すなわち、3線分をL1,L2,L3とすれば、
(L1≡L2)∧(L3≡L2) ⇒ (L1≡L3)∧(L3≡L1)
です。一方推移律は、
(L1≡L2)∧(L2≡L3) ⇒ (L1≡L3)
であり、2番目の条件もL2とL3が交換しています。蛇足ですが、推移律だけなら合同関係や等号関係だけではなく順序関係にも成り立ちます。合同記号や等号での式だけ見ていると、我々は無意識のうちに前後の交換を同じ式として無視してしまい勝ちですが、上記の式の「≡」を不等号にして見れば、前後の順序が大きな意味を持っていたことがわかりやすくなるでしょう。
合同の公理3.点Bが点Aと点Cの間にあり点B'が点A'と点C'の間にあるとき、線分A'B'と線分ABが合同でかつ線分B'C'と線分BCが合同ならば、線分A'C'と線分ACは合同である。
これは線分の加法が成り立つことを言っています。なお、「間にある」という語は合同の公理の前に述べられる順序の公理に登場する無定義語です。むろん解釈としては普通の「間にある」という意味で構いません。
注1) A'を含む直線Lをひとつ考えると、B'はA'の両側に1点ずつちょうど2点だけ取ることができます。このことを正確に簡潔な文章で示そうとするとちょっと難しいです。『幾何学基礎論』では次のように表現しています。
「A,Bを一直線a上の2点とし、さらにA'を同じ直線または他の直線a'上の点とするとき、直線a'のA'に関して与えられた側につねに少なくとも一点B'を見出し、線分ABが線分A'B'に合同または相等しくなるようにすることができる」
「A'に関して与えられた側」というのが普通使わないような難しい表現ですが、法律用語での「所定の」と同じで厳密な意味になるとは言えるでしょう。「A'に関する側というものが複数ある場合に、そのどれかを任意に取った場合に」というような意味です。この公理の場合だと右側を取ればそこで一点、左側を取ってもそこで一点見いだせるということになります。
ただここで「少なくとも一点」というのは妙です。「ただ一点のみ」だと思うのですが。これは「少なくとも一点」としておいても後に「ただ一点のみ」と証明されるということでしょうか。
続く
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