先日の続きです。
例えば、ヒルベルトの公理系の最初には「結合の公理」が登場します。点と直線だけに関していて平面には関与していないものを挙げます(*1)。
1.2点と結合する直線がつねにただひとつある
2.1直線と結合する点がつねに少なくとも2つある。
3.1直線と結合しない少なくとも3点が存在する
ここで"結合する"とした用語はわかりやすくすれば、公理1でなら「2点を結ぶ」、2と3でなら「1直線上に」とするところです。それをわざわざ同じ言葉にしたのは、双対性(duality)というものを示しやすくしたかったからです。双対性とは命題の中の2つの用語を交換した命題もまた成立するという性質で、ある公理系が持つ性質ということになります。平面幾何学の場合は、点と直線を交換した命題が成立するかどうかということです。結合の公理の双対命題は次のようになります。
1d.2直線と結合する点がつねにただひとつある
2d.1点と結合する直線がつねに少なくとも2つある。
3d.1点と結合しない少なくとも3直線が存在する
多くの幾何学モデルでは2dと3dは成立します。しかし、1dはユークリッド幾何学では成立しません。成立するのは次の定理で、これは背理法により、公理1を使って証明できます。
1e.2直線と結合する点は1個または0個である
すなわち、1eの否定は「2直線と結合する点は2個以上」ということですが、これは公理1の「ただひとつ」という条件に矛盾するのです。
厳密には、ユークリッド幾何学ではさらに次の命題も成立しています。"または"を安易に解釈すると1eは1eeも含んでいると勘違いしかねません。
1ee.2直線と結合する点が0個の場合がある。
(1直線と交わらない直線が存在する)
1eeはつまり平行線が存在すると言っているわけです。1dを満たす"モデル"は1eeを満たしていなくても1eは満たしますから、1dを満たす"モデル"は結合の公理3つを満たしています。このようなモデル、すなわち平行線が存在しないモデルには例えば球面や射影平面があります(01/15記事)。また3点と3直線からなる図1Aのモデル(3点3線モデルと命名します)も結合の公理3つとその双対公理3つを満たしています。3点3線モデルは普通の幾何学的空間とは非常に違って見えますが、点が無限にあるなどという定理や公理はまだ出てきていませんからこれでもモデルになるのです。
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図1A
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図1B
さて射影平面や3点3線モデルでは、1~3、1d~3dが成り立ち、双対性が成り立ちます。なので、定理中の点と直線を入れ替えても体系としては正しいものになり、両者は全く対等です。形式主義から言えば、両者は区別ができません。でも我々が3点3線モデルを眺めれば、明らかに点と直線は別物として認識されます。これは、1~3、1d~3の公理だけでは、我々が直観的に認識している3点3線モデルの性質のいくつかが表現されていないということを意味します。
また、1~3、1d~3dが成り立ち3つの点と3つの直線から成る系だけならば、図1Bのようにぐにゃぐにゃの曲線を"直線"と見なしてもかまいません。しかし我々の直観では、図1Aと図1Bには違いがあります。このように直観的に区別できる性質を証明するためには、結合の公理に加えて色々な公理を導入する必要があるのです。
続く
-------
*1) 原著(ref4;01/01記事)では次の3つの公理。本稿ではⅠ1とⅠ2をひとつにまとめ、Ⅰ3を2つに分けた。
Ⅰ1.二点A,Bに対し,これらの二点のおのおのと結合する少くとも一つの直線がつねに存在する。
Ⅰ2.二点A,Bに対し,これらの二点のおのおのと結合する直線は一つより多くは存在しない。
Ⅰ3.一直線上にはつねに少くとも二点が存在する。一直線上にない少くとも三点が存在する。
例えば、ヒルベルトの公理系の最初には「結合の公理」が登場します。点と直線だけに関していて平面には関与していないものを挙げます(*1)。
1.2点と結合する直線がつねにただひとつある
2.1直線と結合する点がつねに少なくとも2つある。
3.1直線と結合しない少なくとも3点が存在する
ここで"結合する"とした用語はわかりやすくすれば、公理1でなら「2点を結ぶ」、2と3でなら「1直線上に」とするところです。それをわざわざ同じ言葉にしたのは、双対性(duality)というものを示しやすくしたかったからです。双対性とは命題の中の2つの用語を交換した命題もまた成立するという性質で、ある公理系が持つ性質ということになります。平面幾何学の場合は、点と直線を交換した命題が成立するかどうかということです。結合の公理の双対命題は次のようになります。
1d.2直線と結合する点がつねにただひとつある
2d.1点と結合する直線がつねに少なくとも2つある。
3d.1点と結合しない少なくとも3直線が存在する
多くの幾何学モデルでは2dと3dは成立します。しかし、1dはユークリッド幾何学では成立しません。成立するのは次の定理で、これは背理法により、公理1を使って証明できます。
1e.2直線と結合する点は1個または0個である
すなわち、1eの否定は「2直線と結合する点は2個以上」ということですが、これは公理1の「ただひとつ」という条件に矛盾するのです。
厳密には、ユークリッド幾何学ではさらに次の命題も成立しています。"または"を安易に解釈すると1eは1eeも含んでいると勘違いしかねません。
1ee.2直線と結合する点が0個の場合がある。
(1直線と交わらない直線が存在する)
1eeはつまり平行線が存在すると言っているわけです。1dを満たす"モデル"は1eeを満たしていなくても1eは満たしますから、1dを満たす"モデル"は結合の公理3つを満たしています。このようなモデル、すなわち平行線が存在しないモデルには例えば球面や射影平面があります(01/15記事)。また3点と3直線からなる図1Aのモデル(3点3線モデルと命名します)も結合の公理3つとその双対公理3つを満たしています。3点3線モデルは普通の幾何学的空間とは非常に違って見えますが、点が無限にあるなどという定理や公理はまだ出てきていませんからこれでもモデルになるのです。
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図1A
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図1B
さて射影平面や3点3線モデルでは、1~3、1d~3dが成り立ち、双対性が成り立ちます。なので、定理中の点と直線を入れ替えても体系としては正しいものになり、両者は全く対等です。形式主義から言えば、両者は区別ができません。でも我々が3点3線モデルを眺めれば、明らかに点と直線は別物として認識されます。これは、1~3、1d~3の公理だけでは、我々が直観的に認識している3点3線モデルの性質のいくつかが表現されていないということを意味します。
また、1~3、1d~3dが成り立ち3つの点と3つの直線から成る系だけならば、図1Bのようにぐにゃぐにゃの曲線を"直線"と見なしてもかまいません。しかし我々の直観では、図1Aと図1Bには違いがあります。このように直観的に区別できる性質を証明するためには、結合の公理に加えて色々な公理を導入する必要があるのです。
続く
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*1) 原著(ref4;01/01記事)では次の3つの公理。本稿ではⅠ1とⅠ2をひとつにまとめ、Ⅰ3を2つに分けた。
Ⅰ1.二点A,Bに対し,これらの二点のおのおのと結合する少くとも一つの直線がつねに存在する。
Ⅰ2.二点A,Bに対し,これらの二点のおのおのと結合する直線は一つより多くは存在しない。
Ⅰ3.一直線上にはつねに少くとも二点が存在する。一直線上にない少くとも三点が存在する。
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