知識は永遠の輝き

学問全般について語ります

ダーウィンの5つの進化理論-4-

2010-08-25 06:30:00 | 生物学
 前回の続きです。

 さて種の実在論哲学に基づけば、異なる種とはそれぞれが確固たる実在で明確に区別できるものです。したがって種が変化するときはひとつの確固たる実在から別の確固たる実在へと跳躍的に変化するとしか考えられないわけです。とはいえ馬の祖先がいきなり現在の首の長い馬に跳躍したとは考えませんが、進化の途中では少し首の短い種から多少首の長い別の種へと跳躍的に変化すると考えるわけです。さらに高次分類群ともなれば漸進的に進化すると考えたのはほぼダーウィンだけだったようです。
-------------Ref1,p72
 種のみならず高次分類群も漸進的変遷によって生じるという、ダーウィンの徹底的に漸進的な進化説は、ただちに強力な反対に直面した。ダーウィンの親友の一部ですら、それには反対だった。
-------------

 それに対してダーウィンは各個体の変異こそが進化の源と考えました。集団内の個体変異の分布が世代ごとに変化して連続的に別の種に変わるのだと考えたのです。この思考法をマイアは「集団対象思考」と呼んでいます。集団をひとつの実在物として捉えるのではなく、個性ある個々の個体の集まりとして捉えるという意味です。名前だけだと逆の意味に解釈されかねないようにも思えますが(^_^)。 また、同一種の個体に変異があること自体は観察事実ですから誰も否定はしません。しかし種の実在論哲学に基づけば、その変異は決して種の枠を越えるものではなく、それゆえ進化の原因にはなりえないものなのです。
-------------Ref1,p143
ライエルセジウィックハーシェルらが強調したように、実在論者にはある信念があったことである。その信念とは、種内に生じる変異の幅、別な言いかたをすれぱ、ある一つの本質的実在に許されている変異の幅、それには明確な限界がおかれている、ということなのである。集団対象思考をとれば、変異に限界など存在しない。だからこそ既存種の枠を超えて進む明白な可能性が存在することになる。集団対象思考をしたダーウィンと、実在論者だった反対者たちとの決定的相違は、変異可能性の性質と範囲だったのである。
-------------

 そして変異のある個体群から特定の変異が次世代に残されていく過程を自然選択に求めたのがダーウィンの自然選択説、すなわち5つの進化理論の5番目です。5つの進化理論の1-2が生物学界の大勢として受け入れられた第一次ダーウィン革命以降も、自然選択説は人気のある仮説ではありませんでした。
-------------Ref1,p191
自然選択説への反対は、『種の起原』出版後約八十年にわたって、弱まらずに続いた。二、三のナチュラリストを除けば、自然選択を適応の唯一の要因として採用した者は、生物学者にはほとんど一人も、実験生物学者には間違いなく一人も、いなかった。
-------------Ref1,p141
進化という変化を起こすメカニズムとしての自然選択は、総合学説の時代(一九三〇~四〇年代)になってはじめて、広く生物学者に受け入れられた。ただし、少なくとも一部の進化論者にとっては、自然選択こそがつねにダーウィンの研究プログラムの鍵となっている理論だった。事実そう考えた周知の最初の人物はアウグスト・ワイスマンであり(第8章)、熱狂的にかれに続いたのがA.R.ウォーレスだった。
-------------

 また上記引用中のハーシェル(John F.W. Herschel)は種の起源出版当時の英国で非常に尊敬されていた天文学者・物理学者・自然哲学者で、科学的方法論に関する『自然哲学研究に関する予備的考察』という本を書いた人ですが、自然選択説を「めちゃくちゃな」理論と呼んだそうです(Ref1-p75)。

 種の実在論哲学に基づけば、いくら個体間の変異があろうとそれはあくまで同一種の範囲であり、変化するときはそれらの変異も保ちつつも一斉に別の種に変化するというわけです。今でもこういう考えに囚われて「ダーウィンの進化論は納得できない」という人は多いようです。また今西進化論8)の考え方も実在論哲学に囚らわれているようですね。

 魚や昆虫の分類の分野では種の境界というものが非常に曖昧であることはよく知られています。そのような事実に基づけば個体中心の「集団対象思考」は当たり前に受け入れられるのでしょうが、机の上だけで種という概念を考えていると実在論哲学に囚らわれやすいのでしょう。


-----参考文献-------------
1) エルンスト・マイア(著);養老孟司(訳)『ダーウィン進化論の現在』岩波書店(1994/04)
2) 河田雅圭 "科学(1998/12)[小特集:今を生きるダーウィン]"p943「ダーウィンの進化理論と現代の生物学」
3) Mayr,E. "The Growth of Biological Thought: Diversity, Evolution, and Inheritance" Harvard Univ.Press(1982)
4) Futuyma,D.J. "Evolutionary Biology 3rd" Sinaure(1998)
  日本語訳は第2版でMayrの文献より前なので5つのまとめはないかも知れない。
  フツイマ『進化生物学』蒼樹書房(1997/06), ISBN-10:4789130479
5) ジョナサン・ワイナー『フィンチの嘴』ハヤカワ文庫(2001/11)
6) http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textintro/Chapt4.htm
  3.自然選択による進化
7) http://meme.biology.tohoku.ac.jp/introevol/finch.html
ダーウィンフィンチの30年間の進化: 自然選択の実証例 (c)河田雅圭
8) 今西進化論関連サイト
a) http://homepage1.nifty.com/NewSphere/EP/b/evo_imanishi.html
  「進化研究と社会」科学ニュース&基礎用語   「今西進化論」って何?
b) http://www.geocities.co.jp/NatureLand/4270/imanishi/top.html
  今西錦司の世界
c) http://meme.biology.tohoku.ac.jp/INTROEVOL/Page28.html
  河田雅圭  『はじめての進化論』 2―日本社会と今西進化論 今西錦司が残したマイナス


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ダーウィンの5つの進化理論-3- | トップ | ある組織-1-余の臣下の臣下は... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

生物学」カテゴリの最新記事