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残留する放射性セシウム

2011-05-06 06:22:54 | 物理化学
 次回予告をした記事の続きも書きたいのですが、このテーマを先に書いた方がよいでしょう。

 忘却からの帰還の記事でいくつかの地点の放射線量推移がグラフ化されています。また宇宙線実験の覚え書きの記事(04/26)では福島県内 4,400 箇所の放射線量を可視化しています。これを見ると4月末以降は福島市や飯館村のレベルがあまり減っていません。記事でも言及されていますが、I-131(半減期=8日)がほぼ消滅しCs-137(半減期=30年)とCs-134(半減期=2年)が主成分となっていると推定できます。最近の新聞報道を見ても福島市で1.7μSvが続いています。このままのレベルが続けば1年間(8760hr)で14.9mSvになり*1、ICRP勧告による緊急時の介入レベル下限(5mSv/年)を越え、上限(50mSv/年)の3割りほどになります。そして(Cs-137+Cs-134)が主成分ということは、放置すればこのレベルが数十年間以上続くはずだということになります。そもそもこれらの介入レベルはあくまで緊急時の基準であり、そこで永続的に人が住むためには、やはり自然放射線レベル程度まで落とす必要があるでしょう。

 この場合、線量を落とすには土壌汚染を取り除くしかありませんので、土壌の放射性セシウム濃度をモニターする必要があるでしょう。上記の線量は主にモニタリングポストや電離箱で測定された地上0.5~1m以上くらいの空間線量率ですが、この全てが地表の放射性セシウムによると仮定して地表の単位面積当たり濃度を推測できそうです。が、あやふやなことはやめて実測されているデータを見てみましょう。

 福島県庁農業振興課研究技術室のサイトからリンクしている福島県内各市町村の農用地土壌における放射性物質の測定結果(別紙1)[04/06発表]を見ると、(Cs-137+Cs-134)で数千Bq/kg乾土の地点がいくつかあり福島市も入りますが、飯館村が9644および15031Bq/kg乾土と突出しています。さらに第2回[04/12発表]第3回[04/22発表]と続きますがざっと見て増加こそすれ減少はなさそうです。またCs-134がCS-137の85~100%くらいであることもわかります。

 農林水産省発表[04/22]の参考資料である稲の作付に関する考え方(平成23年4月8日)によれば「玄米中の放射性セシウム濃度が食品衛生法上の規制値(500Bq/kg)以下となる土壌中放射性セシウム濃度の上限値」として5000Bq/kgを定めています。この単位はたぶん福島県の測定値と同じく土壌の乾燥質量当たりと思われます。またチェルノブイリでは37,000Bq/m2以上を汚染地帯と特定しています*2。後者は単位面積当たりの濃度であり、前者とは基準が異なるため換算しないと比較できませんが、単純換算は難しそうです*3

 ここで5000Bq/kgというのは、そこで取れる作物が消費者に余分な被曝を与えないように設定された値であり、そこに定住する人々が土壌から受ける被曝線量が規制値を越えないように設定された値ではないことに注意が必要です。そして土壌汚染の源は放射性降下物(フォールアウト)ですから、測定した周囲も住宅地等含めて同程度に汚染されていると推定できます。田畑以外では校庭でのデータがいくつかあるようです。水田と小学校の土壌放射性物質量の比較[2011/04/15]

 また郡山市は独自に校庭の除染を試みました。郡山市長記者会見[04/25]。とはいえそこで永続的に人が住むためには田畑や校庭だけ除染すれば済むというものではないはずです。

 福島市では自主的に除染を始めた有志の方々がいます。真宗大谷派常福寺のブログ[04/24]と、そのソース day 45-2 福島市内除染イベント仮報告 2011-04-24 23:17。ちなみに後者のブログはずっと読んで見る価値があります。発信する見解が全て妥当だとは考えませんが、行動には敬意を表しますし、事実の証言は貴重です。例えば[05/03]の記事などでわかるように、科学的な姿勢で最前線で冷静に戦っていらっしゃいます。続く方も。ふくしま「I-e」ごはん。[05/04]「娘の通う小学校を除染してきました。」

 要するに土壌汚染が考えられる全域で、少なくとも永続的に人が住む予定の土地での汚染除去が必要だということです。原発を冷却する工程表と並行して、汚染除去の工程表も考えることが必要でしょう。なにしろ遅くなるほどセシウムが深く浸透して除去は難しくなるのですし。

 この問題は3/23くらいで認識していた方もいらしたようです。脱帽します。宇宙線実験の覚え書きの記事(04/24)


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*1) 単純に1日24hrを掛けただけなので、屋外で過ごす時間の仮定により数値は小さくなる。
*2) 例えばNHK時事解説[04/27]「セシウムを取り除け・チェルノブイリの経験から」
*3) 以下の仮定の元にざっくりと計算してみた
  ・セシウムは表層1cmまでに含まれる。日本土壌肥料学会の記事によれば「チェルノブイリ事故後の東欧や北欧における調査によると、Cs-137が土壌下方へ進む速度はほとんどの場合年間1 cm以下」
  ・土の比重は2とする。(理科年表より、土(普通の状態))
  すると、1m2当たりの土壌質量は20kgとなるので、
    1Bq/kg=20Bq/m2
  ゆえに、37,000Bq/m2=1,350Bq/kg


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