前回の記事(2019/12/15)の続きです。
場・波・粒子-4-3種の波(2019/12/09)で書いたように、波というものの共通属性は干渉性と考えられ、特に物質波の観測は干渉性の観測と同義です。では電子や光子の粒子性の方はと言えば、例えば写真乾板や検出器で1個々検出される現象として観測されます。すなわち検出される時刻と位置とが誤差があるとはいえ1組の値として観測されます。
干渉性はいわゆる二重スリットを通すことにより生じる干渉縞の観測により確認できます。つまり、光源や電子源と検出スクリーンとの間に二重スリットを配置すると、検出スクリーンで干渉縞が観測できます。長波長の光波のように連続的な波であれば、干渉縞はきれいに現れますが、上述の粒子性が現れる条件、すなわち検出器で1個々検出される条件で測定すると事態が変ります。いや、変わるように見えます。光源から発する光子が時刻ごとに区別できるような条件、具体的には非常に暗い光源を使うと、検出スクリーンには光子の検出痕跡が1個ずつ別々の時刻と位置とで検出されます。そしてそれら多数の痕跡が集まると干渉縞としての分布を示します。
1回ごとの検出ではある時刻と位置とで検出スクリーンに衝突した1個の粒子として観測される電子や光子が、多数回の測定での位置を集計すると波の属性である干渉性を示すというこの現象は、多くの実験で確認されました[Ref-1,2]。干渉性を示すのは電子や光子が波として伝播し二重スリットを通ることで干渉するからだと説明され、どのような干渉が起きるかは定量的に正確に計算できます。そして波として伝播するにもかかわらず粒子として特定の位置で検出されるのは、例えば波動関数の収縮などで説明されています。
さらに電子や光子の経路を複雑にした「遅延選択実験」や「量子消しゴム実験(quantum eraser)」[Ref-2,3]が1980年代頃から提案され行われています。いずれも量子力学の予測通りの実験結果が得られています。そして量子力学の予測というものが日常のマクロ世界の常識とは大きく異なるので、多くの人が解釈や説明に悩むことになります。
マクロ世界の常識では粒子は分割できませんし、同時に2カ所に存在することはできません。ですから1個の粒子は二重スリットの片方しか通らなかったはずであり1個の粒子だけでは干渉を起こすことはできないはずです。しかし上記のように1個ずつの検出を積み重ねた干渉実験では、むしろ1個の粒子だけ、つまり1回の検出だけでも干渉は起きていると考えないと理論的に整合しません。
まず1個ずつの検出しか起きないような実験条件、具体的には非常に暗い光や非常に強度の低い電子線を使った実験では、各1個ずつの検出の時刻はランダムです。そんなランダムに飛来する光子同士や電子同士が位相を合わせて干渉するとはとても考えられません。
また、実験結果を予測する量子力学の理論式は1個の量子の運動(状態と言う方が良いか)を想定しています。これが多数の粒子が一斉に運動するような状態の予測ならば、厳密にはこれら多数の粒子同士の相互作用も計算にいれなくてはならなくなります。例えば電子線での実験なら電子同士の静電反発も計算にいれなくてはならないでしょう。
さらにはいくつかの実験では各検出を記録しておき後で条件のそろった検出だけを集めて統計をとるということが行われます。例えば[Ref-2]で二重スリット実験の最高峰と紹介されているメリーランド大学のキム等による実験では、ハードディスク等に記録したデータからどんなデータを集計するかにより、干渉が現れたり現れなかったりします。これは、それぞれの検出事象は他の検出事象とは完全に独立したものであり、ただ同じような経路を設定した検出事象を集めることによって確率分布を知ることができるのだということを意味します。
くどいようですが、この点をより具体的にイメージしてみます。二重スリット実験の設定を行い実験を開始して1個の検出が起きたとします。その時点で装置を解体してしまいます。次に任意の時刻と場所でまったく同じ条件で装置を組み立て、また実験を開始して1個の検出が起きたらまた解体します。同じことを繰り返してこれら1個ずつの結果を集積したとしたら、通常の二重スリット実験同様に量子力学の予測通りの干渉が観測できるでしょう。つまり光源から検出器までの経路条件などが一定に定まれば、検出面のどの位置で検出されるかという確率は、これらすべての設定条件に依存して一定に定まるのです。そして各1回ごとの検出位置は、この確率に従ってランダムに決まります。
これはある意味、1個々の放射性原子の壊変がランダムに起きるのと同じことだと言えそうです。放射性壊変がランダム現象であることは「ふーん、そんなものか」で納得しやすそうで、「序-5 確実なことは何もない」(2019/09/18)では私もランダムな現象のわかりやすい例として挙げたほどです。けれど、「原子核内部でいつ崩壊するのかはどのように決まるのか?」などと考え出すと不思議な現象にもなってしまいます。つまり原子核内部に古典力学が支配する何かしら決定論的な法則があると思うと、各原子の放射性壊変時刻は初期条件から予想可能となるからです。でも量子力学ではそのような内部の仕組みを想定することは止めています。
放射性壊変は、放出される素粒子(例えばα崩壊ならヘリウム原子核でβ崩壊なら電子)が原子核の中に閉じ込められているという単純なモデルで考えることができます。閉じ込めている壁はポテンシャルの深い井戸として表せます。閉じ込められた素粒子の持つエネルギーは井戸の深さよりも少ないので井戸から出ることはできません。ところが量子力学に従い素粒子の波動関数を計算すると井戸の外にも広がっている解が得られ、この素粒子が井戸の外に存在する確率もゼロではないと予測されます。いわゆるトンネル効果です。得られた解からは素粒子は井戸の中にある状態と外にある状態との混合状態であるということになるはずですが、実際の現象としては一定の確率で井戸の外にあることが観測されるということが起きるわけです。コペンハーゲン解釈で言うと、井戸の外にまでわずかに広がっていた波動関数が検出地点に収縮したということになります。
量子の二重スリット実験では1個ずつの検出ができるような暗い光源や電子源を使いますが、このような発生源から何時素粒子が飛んでくるのかということもやはりランダムな現象です。光の発生は電子などが高エネルギー順位から低エネルギー順位へ遷移する時に起こりますから、光源というのは一般的に言えば、高エネルギー順位の量子状態をたくさん作っておいて、それが低エネルギー順位へ遷移するのを待っているというものです。もちろんこの遷移過程はエネルギー差に依存した確率によりランダムに生じます。そして何時発生したのかは観測されません。観測されるのはあくまでも検出器への衝突です。検出器への衝突時刻と設定されていた経路の距離から発生時刻を推定しているだけです。
つまり粒子(質点)の属性である決まった位置という性質が観測されているのは検出器への衝突時刻においてだけなのです。発生源から検出器までの経路ではそれは観測されていません。それどころか2つのスリットを同時に通っていることが示唆される干渉性が観測されるのですから、経路を伝播しているものは"古典的粒子の属性を一部失った何か"だと考えるしかないでしょう。この"何か"の実体は問わずに「定量的に行列表現すれば挙動が正確に予測できるもの」として組み立てられた理論がハイゼルベルク(Heisenberg)による行列力学(matrix mechanics)です。そしてこの"何か"を波としてモデル化した理論が波動関数を使ったシュレジンガーの波動方程式です。
行列とは異なり"波"というイメージには古典物理的実在物の姿があります。それゆえ私も含めて多くの人々には波動関数で考える方がしっくりと来るようです。それでも"波"というイメージもあくまでも経路を伝播する"何か"のモデルであり、"何か"を直接観測したイメージではありません。そして古典的な波の属性のいくつかはやはり失っています。例えば何らかの振動する通常物質、すなわち波の媒体が存在するといった属性は物質波にはありません。
高エネルギーの電子線やγ線では経路における粒子性も観測できます。例えば霧箱では粒子としての軌跡が観測できます。しかしこの連続的な軌跡として観測されるものは、ミクロに見れば電子線やγ線などの放射線が分子と定点で反応した点を連ねたものです。粒子が連続的な線上を運動しているという認識は、この複数の点を外挿した推定です。しかも軌跡上で反応するたびに放射線はエネルギーを失い波長が長くなってゆきますから波としての性質が変化してしまいます。まさに観測により対象が変化してしまうという不確定性原理です。これは我々が日常的感覚から当然視していた"粒子の属性としての連続的な軌跡"というものがミクロ的には観測されたものではないということです。我々の脳は見えない部分を自動的に外挿するという性質があるためにこの軌跡を想像していただけなのかも知れません。実は見えない部分では2重スリットの両方を同時に通過することも可能だったというのが様々な実験の教えるところなのです。
α崩壊やβ崩壊では放射線源を中心とした球面状の薄い検出膜を多数設置すれば、一定の確率でこのような不連続な軌跡が検出できるでしょう。しかし例えば水素原子を励起する光源のような場合では、発生した光子は通常では1回しか検出できません。すなわち球面状の検出スクリーンのランダムな位置とランダムな時刻にポツポツと検出されるだけです。その光子がたどった経路は観測されません。球面状ではなく、その一部だけの検出器ならば、その方向に来た光子だけがやはりランダムに検出されます。そして光源から検出器までの経路に遅延選択実験などのような様々な仕掛けをすれば、それに応じた確率でランダムな検出イベントが発生するのです。そしてその確率を定量的に予測するのが行列力学であり波動方程式なのです。この現象を理解しようとしてマクロ世界の粒子や波のイメージを使ったモデルに頼ろうとすると、量子は持っていないはずの余分な属性のイメージに引きづられてしまうところが理解するうえでの問題なのでしょう。
このようないくつかのモデルが考えられるという別の例について次回に述べます。それはスピンの話です。
----------------------
Ref-1)
1a) 名古屋大学のわかりやすいスライド
1b) 前野昌弘『量子力学入門』(2002/02/16)。琉球大学理学部講師・前野昌弘によるによる基本的教科書。
1c) 日立製作所「電子の二重スリット実験」
Ref-2) 日経サイエンス記事
2a) 光子の逆説(2012/03)。二重スリット実験の基本。
2b) 「光子の裁判」再び 波乃光子は本当に無罪か?
2c) ヤングの2重スリットの実験と「弱値」。詳しい数式。
Ref-3)
3a) 遅延選択実験
3b) 遅延選択量子消しゴム実験
3c) 二重スリット量子消しゴム実験
場・波・粒子-4-3種の波(2019/12/09)で書いたように、波というものの共通属性は干渉性と考えられ、特に物質波の観測は干渉性の観測と同義です。では電子や光子の粒子性の方はと言えば、例えば写真乾板や検出器で1個々検出される現象として観測されます。すなわち検出される時刻と位置とが誤差があるとはいえ1組の値として観測されます。
干渉性はいわゆる二重スリットを通すことにより生じる干渉縞の観測により確認できます。つまり、光源や電子源と検出スクリーンとの間に二重スリットを配置すると、検出スクリーンで干渉縞が観測できます。長波長の光波のように連続的な波であれば、干渉縞はきれいに現れますが、上述の粒子性が現れる条件、すなわち検出器で1個々検出される条件で測定すると事態が変ります。いや、変わるように見えます。光源から発する光子が時刻ごとに区別できるような条件、具体的には非常に暗い光源を使うと、検出スクリーンには光子の検出痕跡が1個ずつ別々の時刻と位置とで検出されます。そしてそれら多数の痕跡が集まると干渉縞としての分布を示します。
1回ごとの検出ではある時刻と位置とで検出スクリーンに衝突した1個の粒子として観測される電子や光子が、多数回の測定での位置を集計すると波の属性である干渉性を示すというこの現象は、多くの実験で確認されました[Ref-1,2]。干渉性を示すのは電子や光子が波として伝播し二重スリットを通ることで干渉するからだと説明され、どのような干渉が起きるかは定量的に正確に計算できます。そして波として伝播するにもかかわらず粒子として特定の位置で検出されるのは、例えば波動関数の収縮などで説明されています。
さらに電子や光子の経路を複雑にした「遅延選択実験」や「量子消しゴム実験(quantum eraser)」[Ref-2,3]が1980年代頃から提案され行われています。いずれも量子力学の予測通りの実験結果が得られています。そして量子力学の予測というものが日常のマクロ世界の常識とは大きく異なるので、多くの人が解釈や説明に悩むことになります。
マクロ世界の常識では粒子は分割できませんし、同時に2カ所に存在することはできません。ですから1個の粒子は二重スリットの片方しか通らなかったはずであり1個の粒子だけでは干渉を起こすことはできないはずです。しかし上記のように1個ずつの検出を積み重ねた干渉実験では、むしろ1個の粒子だけ、つまり1回の検出だけでも干渉は起きていると考えないと理論的に整合しません。
まず1個ずつの検出しか起きないような実験条件、具体的には非常に暗い光や非常に強度の低い電子線を使った実験では、各1個ずつの検出の時刻はランダムです。そんなランダムに飛来する光子同士や電子同士が位相を合わせて干渉するとはとても考えられません。
また、実験結果を予測する量子力学の理論式は1個の量子の運動(状態と言う方が良いか)を想定しています。これが多数の粒子が一斉に運動するような状態の予測ならば、厳密にはこれら多数の粒子同士の相互作用も計算にいれなくてはならなくなります。例えば電子線での実験なら電子同士の静電反発も計算にいれなくてはならないでしょう。
さらにはいくつかの実験では各検出を記録しておき後で条件のそろった検出だけを集めて統計をとるということが行われます。例えば[Ref-2]で二重スリット実験の最高峰と紹介されているメリーランド大学のキム等による実験では、ハードディスク等に記録したデータからどんなデータを集計するかにより、干渉が現れたり現れなかったりします。これは、それぞれの検出事象は他の検出事象とは完全に独立したものであり、ただ同じような経路を設定した検出事象を集めることによって確率分布を知ることができるのだということを意味します。
くどいようですが、この点をより具体的にイメージしてみます。二重スリット実験の設定を行い実験を開始して1個の検出が起きたとします。その時点で装置を解体してしまいます。次に任意の時刻と場所でまったく同じ条件で装置を組み立て、また実験を開始して1個の検出が起きたらまた解体します。同じことを繰り返してこれら1個ずつの結果を集積したとしたら、通常の二重スリット実験同様に量子力学の予測通りの干渉が観測できるでしょう。つまり光源から検出器までの経路条件などが一定に定まれば、検出面のどの位置で検出されるかという確率は、これらすべての設定条件に依存して一定に定まるのです。そして各1回ごとの検出位置は、この確率に従ってランダムに決まります。
これはある意味、1個々の放射性原子の壊変がランダムに起きるのと同じことだと言えそうです。放射性壊変がランダム現象であることは「ふーん、そんなものか」で納得しやすそうで、「序-5 確実なことは何もない」(2019/09/18)では私もランダムな現象のわかりやすい例として挙げたほどです。けれど、「原子核内部でいつ崩壊するのかはどのように決まるのか?」などと考え出すと不思議な現象にもなってしまいます。つまり原子核内部に古典力学が支配する何かしら決定論的な法則があると思うと、各原子の放射性壊変時刻は初期条件から予想可能となるからです。でも量子力学ではそのような内部の仕組みを想定することは止めています。
放射性壊変は、放出される素粒子(例えばα崩壊ならヘリウム原子核でβ崩壊なら電子)が原子核の中に閉じ込められているという単純なモデルで考えることができます。閉じ込めている壁はポテンシャルの深い井戸として表せます。閉じ込められた素粒子の持つエネルギーは井戸の深さよりも少ないので井戸から出ることはできません。ところが量子力学に従い素粒子の波動関数を計算すると井戸の外にも広がっている解が得られ、この素粒子が井戸の外に存在する確率もゼロではないと予測されます。いわゆるトンネル効果です。得られた解からは素粒子は井戸の中にある状態と外にある状態との混合状態であるということになるはずですが、実際の現象としては一定の確率で井戸の外にあることが観測されるということが起きるわけです。コペンハーゲン解釈で言うと、井戸の外にまでわずかに広がっていた波動関数が検出地点に収縮したということになります。
量子の二重スリット実験では1個ずつの検出ができるような暗い光源や電子源を使いますが、このような発生源から何時素粒子が飛んでくるのかということもやはりランダムな現象です。光の発生は電子などが高エネルギー順位から低エネルギー順位へ遷移する時に起こりますから、光源というのは一般的に言えば、高エネルギー順位の量子状態をたくさん作っておいて、それが低エネルギー順位へ遷移するのを待っているというものです。もちろんこの遷移過程はエネルギー差に依存した確率によりランダムに生じます。そして何時発生したのかは観測されません。観測されるのはあくまでも検出器への衝突です。検出器への衝突時刻と設定されていた経路の距離から発生時刻を推定しているだけです。
つまり粒子(質点)の属性である決まった位置という性質が観測されているのは検出器への衝突時刻においてだけなのです。発生源から検出器までの経路ではそれは観測されていません。それどころか2つのスリットを同時に通っていることが示唆される干渉性が観測されるのですから、経路を伝播しているものは"古典的粒子の属性を一部失った何か"だと考えるしかないでしょう。この"何か"の実体は問わずに「定量的に行列表現すれば挙動が正確に予測できるもの」として組み立てられた理論がハイゼルベルク(Heisenberg)による行列力学(matrix mechanics)です。そしてこの"何か"を波としてモデル化した理論が波動関数を使ったシュレジンガーの波動方程式です。
行列とは異なり"波"というイメージには古典物理的実在物の姿があります。それゆえ私も含めて多くの人々には波動関数で考える方がしっくりと来るようです。それでも"波"というイメージもあくまでも経路を伝播する"何か"のモデルであり、"何か"を直接観測したイメージではありません。そして古典的な波の属性のいくつかはやはり失っています。例えば何らかの振動する通常物質、すなわち波の媒体が存在するといった属性は物質波にはありません。
高エネルギーの電子線やγ線では経路における粒子性も観測できます。例えば霧箱では粒子としての軌跡が観測できます。しかしこの連続的な軌跡として観測されるものは、ミクロに見れば電子線やγ線などの放射線が分子と定点で反応した点を連ねたものです。粒子が連続的な線上を運動しているという認識は、この複数の点を外挿した推定です。しかも軌跡上で反応するたびに放射線はエネルギーを失い波長が長くなってゆきますから波としての性質が変化してしまいます。まさに観測により対象が変化してしまうという不確定性原理です。これは我々が日常的感覚から当然視していた"粒子の属性としての連続的な軌跡"というものがミクロ的には観測されたものではないということです。我々の脳は見えない部分を自動的に外挿するという性質があるためにこの軌跡を想像していただけなのかも知れません。実は見えない部分では2重スリットの両方を同時に通過することも可能だったというのが様々な実験の教えるところなのです。
α崩壊やβ崩壊では放射線源を中心とした球面状の薄い検出膜を多数設置すれば、一定の確率でこのような不連続な軌跡が検出できるでしょう。しかし例えば水素原子を励起する光源のような場合では、発生した光子は通常では1回しか検出できません。すなわち球面状の検出スクリーンのランダムな位置とランダムな時刻にポツポツと検出されるだけです。その光子がたどった経路は観測されません。球面状ではなく、その一部だけの検出器ならば、その方向に来た光子だけがやはりランダムに検出されます。そして光源から検出器までの経路に遅延選択実験などのような様々な仕掛けをすれば、それに応じた確率でランダムな検出イベントが発生するのです。そしてその確率を定量的に予測するのが行列力学であり波動方程式なのです。この現象を理解しようとしてマクロ世界の粒子や波のイメージを使ったモデルに頼ろうとすると、量子は持っていないはずの余分な属性のイメージに引きづられてしまうところが理解するうえでの問題なのでしょう。
このようないくつかのモデルが考えられるという別の例について次回に述べます。それはスピンの話です。
----------------------
Ref-1)
1a) 名古屋大学のわかりやすいスライド
1b) 前野昌弘『量子力学入門』(2002/02/16)。琉球大学理学部講師・前野昌弘によるによる基本的教科書。
1c) 日立製作所「電子の二重スリット実験」
Ref-2) 日経サイエンス記事
2a) 光子の逆説(2012/03)。二重スリット実験の基本。
2b) 「光子の裁判」再び 波乃光子は本当に無罪か?
2c) ヤングの2重スリットの実験と「弱値」。詳しい数式。
Ref-3)
3a) 遅延選択実験
3b) 遅延選択量子消しゴム実験
3c) 二重スリット量子消しゴム実験
二重スリット実験の結果を説明するだけなら「波動関数の収縮」がなくても説明できます。
>さらに電子や光子の経路を複雑にした「遅延選択実験」や「量子消しゴム実験(quantum eraser)」が1980年代頃から提案され行われています。
これらの結果も古典力学で説明可能です。
>ですから1個の粒子は二重スリットの片方しか通らなかったはずであり1個の粒子だけでは干渉を起こすことはできないはずです。
>しかし上記のように1個ずつの検出を積み重ねた干渉実験では、むしろ1個の粒子だけ、つまり1回の検出だけでも干渉は起きていると考えないと理論的に整合しません。
何個あろうとも粒子が干渉を起こすわけがありません。
最初に考えるべきは、経路数ではなく、波動性の有無です。
そして、波動性の有無を考えれば、他の問題は全て解決します。
>それどころか2つのスリットを同時に通っていることが示唆される干渉性が観測されるのですから、経路を伝播しているものは"古典的粒子の属性を一部失った何か"だと考えるしかないでしょう。
何が「2つのスリットを同時に通っている」かを論じないのでは思考が迷走するだけです。
「2つのスリットを同時に通っている」ものが波であるなら古典力学の範疇です。
粒子が「2つのスリットを同時に通っている」証拠もないし、そう考えるべき合理的理由もありません。
尚、朝永振一郎氏の「光子の裁判」は粒子性と波動性を混同して記述している(例え話は粒子性について言及しているように見えて、最後の方に唐突に波動関数が出てくる)ので、素人向けの話ではありません。
http://taste.sakura.ne.jp/static/farm/science/double_slit_experiment2.html
http://taste.sakura.ne.jp/static/farm/science/double_slit_quantum_eraser.html
http://taste.sakura.ne.jp/static/farm/science/delayed_choice_experiment_eraser.html
リンク先は節操のない者さん作成の記事と考えてよろしいですね?
なかなかに詳しく読み込みと理解に時間がかかりそうですが、今の所は私の記事とそれほど基本的考えに違いがあるようにも見えません。直接お尋ねしたほうが早そうな点について質問させてください。
「古典力学で説明可能」の意味は次のようなことでしょうか?
・経路を進んでいる際の干渉は古典的な波の理論で説明できる
・着弾の際の現象は古典的な粒子の理論で説明できる
・電子や光子は波として経路を進み、着弾の際に射影仮説に従い粒子に変身する
ただ勉強不足なもので、3番目の結論だと「「波動関数の収縮」がなくても説明できます」との御発言と整合しないように思えますので、違うのかなとも思えますが。
リンク先に書いてある通り、確認していないことは断定できません。
・経路を進んでいる際の粒子性の有無は不明
・着弾後の波動性の有無は不明
根拠のない不必要な仮定を置かなければ古典力学の範囲で説明可能です。
> ・経路を進んでいる際の粒子性の有無は不明
> ・着弾後の波動性の有無は不明
リンク先の記事では、経路を進んでいる際の波動性は干渉性により確認できる、との認識とお見受けしましたが、粒子性不明ということは、「波動性とともに粒子性があってもいい」とは考えておられるのですね?
着弾後も同様に「粒子性とともに波動性があってもいい」とは考えておられるのですね?
そんなことは一言も言った憶えがありません。
重要なことは、根拠なき想像で結論を確定させないことです。
ある仮定が次の3つの条件を満足するときは、その仮定がどんなに信じがたいものでも真実である可能性があります。
・その仮定がないと説明が困難
・その仮定以外は無理のない極めて妥当な説明になっている
・先入観以外にその仮定を否定する理由がない
一方で、これらの条件が成立しない仮定は正しくない可能性を疑うべきでしょう。
とくに、ある奇妙な仮定を置くと、他にも奇妙な現象を認めなければならなくなるような場合は、その仮定に無理があると考えるべきです。
二重スリット実験では、過程では粒子性がなく最終的には波動性がないという根拠なき仮定を置けば、さらに奇妙な現象を認めなければならなくなります。
そして、そうした仮定を置かなければ、奇妙な現象を認める必要はなくなります。
それならば、その仮定が間違っている可能性を検証すべきであることは言うまでもありません。
>「波動性とともに粒子性があってもいい」とは考えておられるのですね?
考え方が全く逆です。
あってもいいと考えるべきだと主張しているのではなく、あってはならないと主張するならその合理的理由を示すべきだと説明しているだけです。
合理的理由なしに可能性を狭めることは非論理的な思考ですし、可能性を狭めている事実から目を逸らすために暗黙の仮定を置くなら詭弁となります。
特定の可能性を排除するなら、その合理的理由を説明する必要があります。
・「1個の粒子だけ」「でも干渉は起きている」
・「経路を伝播しているものは"古典的粒子の属性を一部失った何か"だと考えるしかない」
言い換えると、根拠なき仮定を放棄すれば、このように考える理由もなくなります。
>メリーランド大学のキム等による実験では、ハードディスク等に記録したデータからどんなデータを集計するかにより、干渉が現れたり現れなかったりします。
これは「ハードディスク等に記録したデータからどんなデータを集計するか」が実験結果を変えるという意味なら明確な間違いです。
この実験では「ハードディスク等に記録したデータ」には次のデータが含まれています。
(1)経路を測定した場合のデータ
(2)経路を測定せずに乱された位相量(両経路の差分)を測定した場合のデータ
つまり、集計の仕方によって結果が変わるのではなく、結果の確定している複数の実験結果を記録から抽出できるだけです。
さらに後者には、次の2つのデータがあります。
(2-1)乱された位相量が0°に近い場合のデータ
(2-2)乱された位相量が180°に近い場合のデータ
そして、(2-1)+(2-2)には干渉縞がなく、(2-1)や(2-2)にはそれぞれ逆パターンの干渉縞が現れています。
一方で、前者にも次の2つのデータがあるはずであり、それらにも干渉縞が現れていると予想できます。
(1-1)乱された位相量が0°に近い場合のデータ
(1-2)乱された位相量が180°に近い場合のデータ
しかし、経路を測定すると(1-1)と(1-2)を分離するための情報が手に入りません。
だから、(1-1)や(1-2)に本当に干渉縞があるのかを確かめることはできません。
乱された位相量を測定した場合にだけ(2-1)と(2-2)を分離することができます。
http://taste.sakura.ne.jp/static/farm/science/delayed_choice_experiment_eraser.html
a.波動性とともに粒子性がある
b.波動性しかなく、粒子性はない
c.粒子性しかなく、波動性はない
d.波動性も粒子性もない
節操のない者さんの認識は「波動性はある」が「粒子性の有無は不明」とのことですから、aまたはbと認識していることになりますよね? 私の書いた「波動性とともに粒子性があってもいい」とは、「(bの可能性もあるが)aの可能性も否定できない」という意味で書きました。わかりにくかったのなら御容赦ください。
【補足+α】に関してはまだ理解が追いつかないのでお待ちいただくとして・・。
>これは「ハードディスク等に記録したデータからどんなデータを集計するか」が実験結果を変えるという意味なら明確な間違いです。
もちろんです。結果はすでに確定していますから。
>つまり、集計の仕方によって結果が変わるのではなく、結果の確定している複数の実験結果を記録から抽出できるだけです。
はい、それ以外の解釈が可能とは思えませんが。
私の理解が追いつかない部分も、たぶん言葉が違うだけではないのでしょうか?
二重スリット実験を分かりやすく説明[http://taste.sakura.ne.jp/static/farm/science/double_slit_experiment2.html]をひとまず読めましたが、以下の*1~4の見解は私も全く同様です。
-------------引用開始----- *1 ----
二重スリット実験が意味することは「単位量の光子や電子であっても波としての性質を示す」ということだけである。 波としての性質が現れるために複数の光子や電子を必要としないこと、すなわち、単位量の光子や電子であっても波としての性質を示すことを世界で初めて実証したのが二重スリット実験である。
------------- 中略 ----- *2 ----
この実験の結果から直接読み取れる事実を次に列挙する。
スクリーン上の模様は全て小さな輝点によって構成されている。【実験事実A】
各輝点は一定範囲に分布し、その密度による濃淡が干渉縞を形作っている。【実験事実B】
輝点は時間とともに増えるが、2個以上の輝点が同時に発生することはほぼない。【実験事実C】
------------- 中略 ---- *3 -----
この実験が意味することは、光子や電子が、着弾までは波としての性質を持っていることと、着弾してから測定までの間に粒子としての性質が現れていることだけである。 着弾後の波動性や着弾前の粒子性については、本実験から結論を導くことは出来ない。
------------- 中略 ---- *4 -----
繰り返すが、粒子として1点に凝集される性質と、波として空間的な広がりを持つ性質を両立していることが不可思議なのである。
-------------引用終り---------------
*3、*4のように分解してみせたのはユニークでおもしろい提言ですが、多くの人は*1から*4までひっくるめて「古典物理の常識とは異なる」と評価しているはずですから間違ってるとも言えないのではないでしょうか?
「すべて古典論で説明できる」とおっしゃるのはたぶん「波と仮定する限り干渉性は古典的波動理論で説明できる」との意味だと推測しますが、それは普通の物理学の徒なら当然の前提のように思えます。
なおヤング以来の波動性とは実験的には干渉性を指していて、1個ずつの量子による干渉実験では特にそうです。それに対して音波や弾性波や電磁波は観測可能な物質を振動させることで検知されるという性質も持ちます。私は一連の記事ではこれら媒質の振動で観測可能な性質を古典的な波動性としています。
参照「場・波・粒子-4-3種の波[https://blog.goo.ne.jp/diamonds8888x/e/bad17b04430e3274955f8949120611cb]」
*1と*2で示されるような波、粒子的な定時刻定点への着弾分布が干渉縞を生じるという観測事実から波と判定されるような波、というのは量子論にしか現れませんから、やはり「古典的に説明できる」と言うのは理解されにくいと思いますよ。
だから、二重スリット実験で通過スリットを特定すべきなのは波ではなく粒子である。 二重スリット実験の条件を維持する限り、波の通過スリットを特定できるわけがない。 二重スリット実験で特定可能なのは粒子の通過スリットだけである。
------------- 中略 ---- *6 -----
後測定方式
------------
このことは、通過スリットを特定する場合も波動性は維持されており、干渉縞が生じない場合にも目視できない干渉が生じていることを示唆している。
-------------引用終り---------------
ここの話はいまだ理解が及びません。初めて知る見解ですが節操のない者さんのオリジナルなのでしょうか? 他にも提唱する人はおいでなのでしょうか? なんだか説得力があるようにも思えるのですが、いずれにせよ教科書的見解にもアップアップの身には初見の異質な見解の評価はなかなか困難ですので、今は判断保留です。
ただ「粒子がスリットを通過」云々との表現を批判されておいでなのは節操のない者さんがトンデモに近いと評価している記事に特有のことではないかという気もしますが違うのでしょうか?
http://taste.sakura.ne.jp/static/farm/science/double_slit_experiment_terrible1.html
https://www.youtube.com/watch?v=pIWuNNF1VZo
あまり見る気もしないので動画は見ていませんが。
http://taste.sakura.ne.jp/static/farm/science/wave_particle_duality_terrible.html
これは私にはわかりやすかったです。参考になりました。
>「1個、2個と数えられる性質」は単なる量子性であって「粒子的な性質」ではない。
>狭義でも広義でも1点に存在する性質がなければ「粒子的な性質」ではない。
私も一連の量子関連記事では、粒子、波というだけの言葉は避けて、古典的粒子、古典的波、量子、粒子性、波動性、という言葉を使うようにはしています。そうすれば混乱が避けられるかなと思いまして。