前回からの続き
ところで前回ちらりと述べたように国家すなわち政府の会計では必ずしも複式簿記を使う必要はないのですが、国民会計、もとい国民経済計算(National Accounts)の理解には複式簿記の考え方は役立ちます。以前の本ブログの記事[国民経済計算の基礎(1)-2012/03/10-]でも書いた通りです。とはいえ国民経済計算に出てくるいくつもの見方、例えば生産・消費・分配の3面からの見方、は借方(debt)・貸方(credit)の2分類とは別物なのですが。
さて「会計の基本は五〇〇年以上前から変わっていない」[Ref-2,p98]ということなので、Ref-1の4章から元祖複式簿記の記帳の流れを見てみましょう。パチョーリの方法では3冊の帳簿を使います。
1冊目は日記帳と呼ばれ、「すべての取引を、日ごと、時間ごとに記録しておく帳面」です。
2冊目は仕訳帳と呼ばれ、「まず財産目録の項目を記入し、その後、日記帳に記録された取引の詳細を」記入します。財産目録はその名の通りで記帳開始前にまず作っておくのですが、これを仕訳帳に記入する時は、借方と貸方に同一金額を記入し、借方(debt)には財産項目名を貸方(credit)には資本という項目名を記入します。つまり現在でいうバランスシートに該当するものを記入するのですが、貸方は全て資本ということにしておくわけです。
3冊目は元帳と呼ばれ、「現代のT勘定のもっとも単純な形」となっています。
日々の記帳としては、日記帳の記録を仕訳帳に記入し、それをさらに元帳に転記します。元帳は「現金、資本、商品、私有財産、不動産、債権者、債務者、役所、仲介業者など」の項目(勘定と呼ぶ)ごとに分けられていて、各勘定では借方と貸方は一致していません。そこで、両者の差分を利益または損失として記載します。そして定期的に"勘定を締めるために試算表を"つくります。
この仕訳帳、元帳(総勘定元帳とも呼ぶ)、試算表というのは現代の複式簿記でも同様の言葉で呼ばれていますが、日記帳は省略して個々の取引を直接仕訳帳に記帳するのが現代では主流のようです[*1]。確かに仕訳帳も時間順に記載してあるのですから日記帳を別に付けておく必然性はありません。パチョーリの日記帳には取引内容と金額という純粋な会計情報以外のことも、まさしく日記のように記載しておくことが勧められていました。まあ金銭出納帳と本来の日記帳が合体したようなものだったらしいのですが、現代ならこの2つは別々に付けるのが普通でしょう。
例えば商品を売った場合だと、現代では次のように、商品という勘定科目と現金という勘定科目で1行ずつ使って記帳します。
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借方 貸方
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商品(10個) 1000
現金 1000
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パチョーリ流ではこれを1行で記帳します。"a"は借方(debt)を示し、"per"は貸方(credit)を示します。
a 商品(10個)、1000 // per 現金、1000
本記事では行数節約のために省略して1行で記載します。以下、典型的な取引をいくつか挙げてみましょう。
1) 仕入れ 商品(100個)、8000 // 現金、8000
2) 販売 現金、5000 // 商品(50個)、5000
3) 購入 消耗品、 500 // 現金、 500
4) 購入 耐久品、2000 // 現金、2000
5) 借入れ 現金、3000 // A銀行債務、3000
6) 返済 A銀行債務、1000 // 現金、1000
7) 引出し 現金、 500 // 預金口座、 500
8) 預入れ 預金口座、2000 // 現金、2000
9) 債務利子 元帳の段階で記入
10) 預金利子 元帳の段階で記入
こうしてみると、仕訳帳では、借方(debt)には会社等の会計主体に入ってきた資産が記入され、貸方(credit)には取引相手に入った資産が記入されることがわかります。バランスシートでは前回、借方(debt)は実体で貸方(credit)は持主という意味付けをしましたが、実は、借方(debt)は会計主体が持っているもの(すなわち実体の資産)で貸方(credit)は出資者が持っているもの(すなわち資産の権利、所有権)という意味付けもできます。バランスシートはストックですから「持っている資産」であり、仕訳帳はフローですから「入ってきた資産」です。
しかしバランスシートでは貸方(credit)には出資者の分しか記載されません。それに対して仕訳帳では仕入れ先や販売相手など出資者以外の財布への出入りも記載されます。つまり記載される項目の違いを除けば、仕訳帳もバランスシートも借方(debt)と貸方(credit)との分類基準は同じなのです。だからそのまま転記できるのですが。
さて仕訳帳から元帳に転記します。お気づきのように上記1)~9)は少しずつ性質の違う取引を挙げていますが、次回からひとつずつ見ていきましょう。
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1) たとえば以下の本
田中 久夫『ベーシック簿記テキスト―新会社法対応「精算表」完全理解』税務経理協会 (2007/05) ISBN-13: 978-4419049232
前林和寿 ;靏日出郎 ;小野保之 ;大澤一雄 ;佐藤利光 ;佐藤芳次 『簿記の基礎』森山書店(2007/04) ISBN-13: 978-4839420437
ところで前回ちらりと述べたように国家すなわち政府の会計では必ずしも複式簿記を使う必要はないのですが、国民会計、もとい国民経済計算(National Accounts)の理解には複式簿記の考え方は役立ちます。以前の本ブログの記事[国民経済計算の基礎(1)-2012/03/10-]でも書いた通りです。とはいえ国民経済計算に出てくるいくつもの見方、例えば生産・消費・分配の3面からの見方、は借方(debt)・貸方(credit)の2分類とは別物なのですが。
さて「会計の基本は五〇〇年以上前から変わっていない」[Ref-2,p98]ということなので、Ref-1の4章から元祖複式簿記の記帳の流れを見てみましょう。パチョーリの方法では3冊の帳簿を使います。
1冊目は日記帳と呼ばれ、「すべての取引を、日ごと、時間ごとに記録しておく帳面」です。
2冊目は仕訳帳と呼ばれ、「まず財産目録の項目を記入し、その後、日記帳に記録された取引の詳細を」記入します。財産目録はその名の通りで記帳開始前にまず作っておくのですが、これを仕訳帳に記入する時は、借方と貸方に同一金額を記入し、借方(debt)には財産項目名を貸方(credit)には資本という項目名を記入します。つまり現在でいうバランスシートに該当するものを記入するのですが、貸方は全て資本ということにしておくわけです。
3冊目は元帳と呼ばれ、「現代のT勘定のもっとも単純な形」となっています。
日々の記帳としては、日記帳の記録を仕訳帳に記入し、それをさらに元帳に転記します。元帳は「現金、資本、商品、私有財産、不動産、債権者、債務者、役所、仲介業者など」の項目(勘定と呼ぶ)ごとに分けられていて、各勘定では借方と貸方は一致していません。そこで、両者の差分を利益または損失として記載します。そして定期的に"勘定を締めるために試算表を"つくります。
この仕訳帳、元帳(総勘定元帳とも呼ぶ)、試算表というのは現代の複式簿記でも同様の言葉で呼ばれていますが、日記帳は省略して個々の取引を直接仕訳帳に記帳するのが現代では主流のようです[*1]。確かに仕訳帳も時間順に記載してあるのですから日記帳を別に付けておく必然性はありません。パチョーリの日記帳には取引内容と金額という純粋な会計情報以外のことも、まさしく日記のように記載しておくことが勧められていました。まあ金銭出納帳と本来の日記帳が合体したようなものだったらしいのですが、現代ならこの2つは別々に付けるのが普通でしょう。
例えば商品を売った場合だと、現代では次のように、商品という勘定科目と現金という勘定科目で1行ずつ使って記帳します。
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借方 貸方
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商品(10個) 1000
現金 1000
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パチョーリ流ではこれを1行で記帳します。"a"は借方(debt)を示し、"per"は貸方(credit)を示します。
a 商品(10個)、1000 // per 現金、1000
本記事では行数節約のために省略して1行で記載します。以下、典型的な取引をいくつか挙げてみましょう。
1) 仕入れ 商品(100個)、8000 // 現金、8000
2) 販売 現金、5000 // 商品(50個)、5000
3) 購入 消耗品、 500 // 現金、 500
4) 購入 耐久品、2000 // 現金、2000
5) 借入れ 現金、3000 // A銀行債務、3000
6) 返済 A銀行債務、1000 // 現金、1000
7) 引出し 現金、 500 // 預金口座、 500
8) 預入れ 預金口座、2000 // 現金、2000
9) 債務利子 元帳の段階で記入
10) 預金利子 元帳の段階で記入
こうしてみると、仕訳帳では、借方(debt)には会社等の会計主体に入ってきた資産が記入され、貸方(credit)には取引相手に入った資産が記入されることがわかります。バランスシートでは前回、借方(debt)は実体で貸方(credit)は持主という意味付けをしましたが、実は、借方(debt)は会計主体が持っているもの(すなわち実体の資産)で貸方(credit)は出資者が持っているもの(すなわち資産の権利、所有権)という意味付けもできます。バランスシートはストックですから「持っている資産」であり、仕訳帳はフローですから「入ってきた資産」です。
しかしバランスシートでは貸方(credit)には出資者の分しか記載されません。それに対して仕訳帳では仕入れ先や販売相手など出資者以外の財布への出入りも記載されます。つまり記載される項目の違いを除けば、仕訳帳もバランスシートも借方(debt)と貸方(credit)との分類基準は同じなのです。だからそのまま転記できるのですが。
さて仕訳帳から元帳に転記します。お気づきのように上記1)~9)は少しずつ性質の違う取引を挙げていますが、次回からひとつずつ見ていきましょう。
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1) たとえば以下の本
田中 久夫『ベーシック簿記テキスト―新会社法対応「精算表」完全理解』税務経理協会 (2007/05) ISBN-13: 978-4419049232
前林和寿 ;靏日出郎 ;小野保之 ;大澤一雄 ;佐藤利光 ;佐藤芳次 『簿記の基礎』森山書店(2007/04) ISBN-13: 978-4839420437
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