RE-1
作 / nana℃
祥子が思わず足を止めてしまったのは、聞こえるはずのない歌が聞こえてきたからだ。確か夏の歌で2000年以降にミリオンヒットを記録したとても切ないバラードだった。思わず声をかけてしまうまでにさほど時間はかからない。
「あなた・・・未来から来たの?」
歌を口ずさんでいた長い髪の少女は、思わず目をそらす。クリーム色のワンピースに黒いパンプス。赤いピアスが印象的で、長い髪には淡いピンク色のコサージュが咲いている。とても<今風>だ。
「驚かないで。私も、私もなの」
祥子は、なんとか彼女との距離をつめようと、言葉を選ぶよりも早く、訴えているような声を出した。小波の音だけが二人の前を通過する。
「別に驚かないわ…。あたし、他にも何人か会ってるもの」
彼女の声は、強い口調でありながらもなぜか悲しみを含んでいた。
「でも、同じ状況なら話が早いね。あなたは何のためにここへ?」
その言葉に祥子は口をつぐむ。彼女自身、自分の置かれている現在の状況が把握できていないからだ。
彼女は、わずか五分前まではいつもどおりの世界を生きていた。いわゆる現実世界だ。マンションの12階までエレベーターに乗っていたとき、突然大きなゆれを感じたことだけは憶えている。一人で乗っていたため、自力でエレベーターから抜け出すまでに1時間以上かかった。たまたま持っていた金物で扉が開いて、絶句した。開いた向こう側に見えたものは。見知らぬ風景、かつどうやた時代が違うと気がついた。子供時代に遊んでいた商店街に今はなき、駄菓子屋があったからだ。
祥子は、これからどこへ行こうかと考えた。風景が違いすぎた。田んぼや屋根瓦の家が多く、今はほとんど水が通わない河川敷にも活気があった。知り合いがいるわけでもない。地元であっても、地元ではない別の場所、空間であることはまちがいなかった。祥子は、何か大きな存在に慰められたいという思いで、マンションから二キロ先のあるこの海までなんとか歩いてきたのだった。
「何のために?分からない…。気がついたら富樫にいたの。ここは、恐らく1998年よね」
「そうよ。珍しいね。ここへ来る人は大体何か理由があるの。過去に何かを置き忘れている人とか、その逆も・・・」
「逆って?」
「未来を変えたい人よ。あたしがそう」
少女の髪の毛の一本一本が夕焼けに反射しながら、とても綺麗な色と混ざりあいながら、そよ風にたなびいている。
「未来を変えるってどうやって?」
「簡単じゃない。過去を変えるだけよ」
「過去を・・・分からないけど、それってものすごく大きなことじゃない?」
「そう思うわ。あたしも過去を変えたあと、自分がどうなるのかわからないしね」
祥子は、戸惑いを隠せない。自分の過去を変えてまで修正したい未来とはどのような不幸であるのか、想像もつかない。まだ幼さが見え隠れする少女の横顔をまじまじと見つめた。
「それでも・・・過去を変えたいの?」
遠くで小さな子供が追いかけっこをしている声がする。犬も一緒なのか、砂浜がすこし波のようにうねっているように祥子は感じた。
「うん。もう決めたの」
「でも、それって運命を変えてしまうことになるわ・・・」
「わたしは、運命なんて絶対に信じたくないの。例えばね、今この浜辺の砂を右手ですくうでしょ?この手の中の砂を地面に落とすか、落とさないかはあたし次第だし、他の誰かが決めることじゃないわ。一秒、一秒、目の前に広がっている、とてつもなく無数の選択肢からたったひとつを選んであたしは前に進んでいる。だから、その積み重ねが運命だなんていわれたくないの。でなきゃ、なんのために生きているかわからない・・・」
彼女の目には、涙が浮かんでいるのか、淡く光るものが映りこんでいる。祥子は、目をふせて言葉を捜していた。
「あたしは信じているわ。これからあたしのすることが正しい選択だって」
依然、少女の声に迷いはなかった、まるでそのために生まれてきたかのような説得力がある声だ。
「いつなの?過去を変える日」
「1週間後・・・」
「何をするのかは聞かないわ。でも、またここへ来ていい?」
返事を聞く前に祥子は駅に向かって歩きはじめる。少ししてから彼女の声が耳に届いた。
「あたしに同情してるの?」
祥子が振り返ると、彼女はまだ海をみつめ、しゃがみこんだままだった。その後姿がとてもさびしく、孤独を感じさせる。
「あたしもこの海が大好きなのよ」
橙色の光に包まれた淡き幻想のかけらを抱いて、祥子は涙をこらえた。
僕ときみが
つなぐ未来と過去
巡りあう季節は
いつも穏やかさを持って
僕らの涙をぬぐってくれた
憧れや希望に似た
いくつものカケラたちが
もう一度空へとのぼるなら
昨日よりもほんのすこし
僕らは互いを暖めあうように
強く儚く生きていよう
さあ
目を開けたなら
時空の階段をのぼり
約束の輪を描こう
もう一人じゃないと
彼や彼女や
花や月や星
あらゆるすべてに
あの日の夢を贈ろう
プロフィール
名前:魔女っこ kirara・*★
性別:女性
現住所:大阪府
誕生日:09月22日
自己紹介:nana℃(ななど)といいます。
小説、脚本、音楽関係のお仕事などをしています。
今日の話題
―海を渡った大きな夢への挑戦!!その11―
子どもさんの感想です。。。「勉強は楽しいものとは思っていなかったけど、イープン君のお話を読んで勉強できることはとっても幸せな事なんだと思いました。」「このお話は昔々の事かと思っていたら、今でもインドネシアの子供達は学校に行けない子や、働いてる子がいることにびっくりしました。」 (花ちゃんの投稿記事より)
イープン君
※今日は、特別に今回の『海の向こうにかかる虹』の主人公、イープン君の実像と絵本とアニメの画像をみなさんにご紹介します。
花ちゃんのボランティア活動情報ブログ「想い出日記」
http://profile.ameba.jp/hanachan-234/
一口メモ
宇多田ヒカルというと、1stアルバムの『First Love』が、いきなり国内外で約1000万の超メガヒットになる売り上げをし、彼女がそれをきっかけに日本の音楽業界で神話的な存在になり、日本の音楽史上歴代1位のとなる超スーパースターになったことは、あまりにも有名な話です。しかし、彼女の本当の才能を開花させる基本は、彼女自身が幼い頃からアメリカンスクールに通い、唯一世界に通用する歌や映画づくりやショービジネスの本場であるアメリカで生活していた、“帰国子女”であったということではないでしょうか。そして、それが世界の音楽市場の厚い壁を突き破ると同時に、日本での“R&B”の彼女独特の“音楽の世界”を生み出し、超スーパースター「宇多田ヒカル」という、日本一のブランド名が創りあげられる、大きな要素になっているような気がします。
当関連ブログ
OCNブログ「おとぎのお家」
http://wildboar.blog.ocn.ne.jp/blog/
アメーバーブログ「おとぎのお家と仲間たち」
http://ameblo.jp/phoenix720/
mixi 「エンジェルハート王国」
http://mixi.jp/home.pl