星になった少年 1

その1

いつも、少年は思い描いていました。
希望の灯りを失くした貧しい生活（くらし）の中で、空の星たちに泣き顔を見られるたびに、あの空の向こうに僕が夢見る幸せの世界があるんじゃないかと・・・・・

―泣き虫で弱虫な自分がいつも君のそばにいる以上、君が想像（思う）ような幸せの世界なんか何処にもないのですよ―

それを、天から見ていた星の天子キララは心の中でそう呟くと、どういうわけか？急に地上に舞い降りて来ました。
そして、突然少年の前に姿を現すと、「君が、本当に私との３つの約束を守ってくれたら、君が望んでいる世界へ連れて行ってやってもいいですよ・・・」と、伝えました。
その見たこともない色とりどりのきらびやか光を体中から放ち、真っ白い羽の付いた衣装を身に付けて、金色のリンクが頭の上に浮かんでいるキララの姿を見た少年は、最初は腰が抜けるほど驚いて後ろ向きにひっくり返ってしまいました。
だけど、「今の貧しい生活から抜け出して理想の世界に行けるんだったら・・・」と、そう少年は心の中で計算すると、キララと３つの約束を守る契約を交わすことを決意しました。
少年との約束の契約を交わすと、キララは少年に対して３つの大きな課題を与えました。

その１つ目の条件は、自分が働いているパン工場から毎日１０日間パンを盗んで、町の地下街や公園で寝泊りしているホームレス（浮浪者）の人たちに、そのパンを分け与えることでした。
それは、さすが悪いことではないのかと少年は悩みましたが、自分が思い描いている理想の世界に行けるという欲望についつい負けてしまい、キララとの約束どおりに毎日パン工場からパンを盗み、町の地下街や公園で寝泊りしているホームレスの人たちに、分け与えることにしました。
その結果、ホームレスの人たちはたいへん喜んでくれましたが、パン工場は大きな損害を受けました。

その約束が終わる日に、再びキララは少年の前に姿を現し、少年に尋ねました。
「君が、私と約束を交わし今日までやって来たことは、きっと君は自分が思っている理想の世界へ行くためにやったのでしょうけど、それは君にとって良いことだと思うか、悪いことだと思うかどちらですか？」
少年はかなり躊躇いましたが、「それは、人として正しいことではないかもしれませんが、自分が理想の世界に行くためには仕方ないことです・・・」と、答えました。
「・・・・・」
 

キララは、その少年の言葉に何の答えを言うことはありませんでした。
そしてただ、２つ目の条件を言い渡しました。
その２つ目の条件は、少年が働くパン工場の近くにあるケーキ屋さんで働いている、少年が好意もい抱いている女の子の部屋に忍び込んで、彼女が可愛がっているウォルドルフ人形を盗んで来ることでした。
「えっ！ぇっ、ぇっ、ぇっ・・・」
少年は星の天子キララの言葉を聞いて、もしかして一瞬聞き違いではないかと思い、再度彼女に尋ねましたが、それは聞き間違いではありませんでした。

悲しいからって　メソメソしないで
苦しいからって　他見をしないで
どんなに笑っていても　どんなに威張っていても
人は誰でも　人間(ひと)である以上
悲しいことや苦しいことが　あるんだよ
君と同じ空の下で　生きているんだよ
だから頑張らなくちゃ　君の未来を決めるのは
他の誰でもない　君自身だから



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