只今公開中の、~青春うたものがたり2~『幸せという名の不幸』は、あなたにとって、母と子の絆とは何なのか?あなたにとって、家族の存在とは何か?その人間(ひと)としての答えを一緒になって考えさせてくれる、“人間の生”というものが作り出す幸と不幸のヒューマニズムに溢れた作品です。また同時に、人の運命って一度狂ってしまうとこんなにもさまざまな束縛や、抑圧による非人間的状態に晒されてしまうのか?と思わなくならざるを得ないような、その人が持つ宿命の陽と陰とを関係を一人の女性の人生を通じて見せてくれる涙と感動の作品でもあります。
企画 / 下家 猪誠 作/ 猪 寿
第5話/不自由な体の母からの手紙
~母がくれた愛の贈り物~
♪こんな寂しい夜だから
Sentiment travel 気まぐれな秋風に 背中を押されるように
行き先も決めずに 片道切符を買って汽車に乗る
荷物といえば ふたりの五年の思い出を詰めるのには ちょっと小さすぎるけど
Happy travel 初めてふたりが旅行する時に買った
紺の揃いのスーツケースが一個だけ 淋しすぎよね
住み慣れた都会(まち)を汽車が離れ ひと駅ひと駅と通り過ぎて行く度に
愛を刻んだあなたとの またひとつ思い出が遠ざかっていく ああひとり旅は初めてじゃないのに 頬を涙が濡らすのはやっぱりあなたが隣にいないせいですかね?
「真実(ほんとう)の愛に 気づく時間(とき)もないまま・・・」
お互いに傷つけ合うほど ah別にたいしたケンカをしたわけでもないのに
別れ話が切り出されて ah心の鍵を掛けあった二人
Traveling alone I am very lonely
有満隆江
◎人物紹介
有満隆江さんは、僕(鹿児島県の種子島出身)と同じ鹿児島県出身のとてつもなくおおらかで、何事においても前向きな考えを持っている、とても笑顔の素敵な女性です。ただ、彼女から話しを聞いて驚いたことは、「聴き屋」という商売があるということです。宗教や占いやカウンセリングなどではよくある話ですが、これまでいろんな商売をしている数多くの方とお会いしましたが、ただ単に“人の話を聴いてお金をもらう”という「聴き屋」という商売があることは、有満さんとあって初めて知りました。いやはやこの世の中には、まだまだ自分が知らないことが、いっぱいあるものですね。今では、彼女とはとても気が合う仲のいい友達ですが、そんな彼女に再び驚かされたのは、「これかどんなことを目指しているの?」尋ねたら「鹿児島を発信基地にして、日本を動かすような仕事をしたい」と、いう答えが返ってきたことです。やはり、鹿児島が産んだ日本の偉人“西郷隆盛”と同じ名前の文字を持っているだけに、それだけ度量も大きいのですかね。
◎プロフィール
勤務先:マッサージ、小顔矯正、聴き屋
出身校:東京理科大学
居住地:東京都杉並区
血液型:A型
出身地:鹿児島県鹿児島市
誕生日:1977年7月12日
ウェブサイト
http://facebook.com/tarimitsu
ありさは、母洋子と別れて病室を出ると、彼女が入院をしている病院がある帝都病院の玄関を出て、すぐその目の前の道路を渡って階段を下りると、地下道で繋がっている西新宿駅に向かった。
いつもは、ちょっとした運動にもなるために自動歩道は使わずに地下道を歩いて帰るのに、久しぶりに洋子の前で大泣きしたこともあるからだろう。
なんだかこの日は、躰全体に気だるさや疲労感が凄くあったために、何人かの通行人がありさの横を急ぎ足で追い越して行ったが、彼女は自動歩道のベルトコンベアの上を一歩もあるこうともせず、ゆったりと手摺りにも凭れかかるようにして駅に向かった。
いつものように、西新宿駅からありさのアパートがある方南町と洋子が入院している帝都病院との、電車の通行区間の乗り換え地点である中野坂上の駅で方南町行きの電車に乗り換えると、運よく座席が空いていたのでホッした安堵感とともに、まるで席にへたり込むようにして座った。
おそらく、わずかその間十分か十五分くらいの距離なのに、すっかり寝込んでしまっていたところを見ると、やはりありさは自身最近いろんなことがあり過ぎて、それだけ疲れているのが、自分でも分かった。
方南町に着くと、この日は花金に加えてまだ午後の五時を回ったばかりで、かなりいつものありさの帰宅時間にしては早いということもあり、商店街の八百屋や魚屋などのあちこちの店先から、あれこれと客寄せのための威勢のいい呼び込みの声が聞こえていた。
ただ、ありさは商店街で買い物をすると、周囲に大型店のスーパーやコンビニなどが出来たことも、そのひとつの悪条件にはなっているのだろうが、やはりそういった大型店に比べると商店街の商品は値段がかなり高いので、方南通りを隔てた向かい側の少し路地を入った所にあるコンビニでで、チューハイの中缶五本と摘まみ用の乾き物の裂きイカとチーズふた袋を買った。
帰宅すると、早々に洗面所で手洗いとうがいを済ませ、さっそく座卓に座ってチューハイを飲みながら、病院ではその手紙の文字を見てあまりもその文字の形に感涙して、たった一行も文面さえ読むことが出来なかった、母洋子からもらった手紙をハンドバックから取り出し、その書かれている手紙の内容に目を通した。
その手紙の中には、次のようなことが書かれていた。
記
ありさへ
ごめんね。
お母さんがこんな体になったばっかりに、お前にどんなに詫びても詫びきれないほどの苦労を掛けることになってしまって・・・。
それに、お前はお母さんに心配かけまいとして何も言わなかったけど、お母さんの病気のせいでお前が翔太さんのプロポーズの返事をうやむやにしていたばかりに、翔太さんにプロポーズを断れてしまったのではないかということは、お母さんにはなんとなく分かっていました。
それは、お前からクリスマスイヴに翔太さんと会うことを聞いていた、その後のお前の普段とはまったく違う、どこか悲しげな態度を見て直感していたからです。
それに、お前には悪いけど、お母さんはお前の行動や性格を生まれた時から見て来ているから、お前がどんなに隠し事をしていても、なんとなくですがお前の行動を見ていると、「私にこの子は何もいわないけど、何かあったのでは・・・」という、第六巻が働きピンと来るからです。
それは、もうお前にも分かっていることだとは思いますが、お前はお母さんにとって、お母さんがお腹を痛めて産んだ、この世で一番の大切な宝物だからです。
ただ、いくらそんなことを自慢しても、お前の一番大事な時期に、こんな躰になってしまって何もしてやれないことは、お母さんにとっては一番悔しいことであり、お前の母親としては失格だと思っています。
ですが、何も出来ないからといって母親として、このままお前がお母さんのせいで翔太さんにプロポーズを断られて、もがき苦しんでいる姿を黙って見過ごしているわけには行きません。
今、お母さんにしてあげられることは、お前がいない間のことはすべて看護師さんやヘルパーさんに頼んで置きましたので、しばらくお母さんのことを含めて何もかも忘れてもらっていいですから、お前に自由気ままな旅にでも出かけてもらい、少しでもお前が気分転換が出来るように後押しすることです。
そのためには、お前が十分に旅行を楽しめる金額とは言えませんが、五万円を手紙と一緒に封筒の中に入れて置きますので、何か旅先でゆっくりと温泉にでも入り、美味しい物でも食べるたしにしてください。
ありさは、洋子が書いた手紙を読んでいる間中、ここまでお母さんは自分のことを心配してくれているんだと知り、涙が止まることはなかった。
そして、洋子が手紙に書いていたように、もう一度封筒の中をよく覗き込むと、几帳面に折りたたまれてティシュに中に、新札の五万円の金が入っていた。
洋子が、この金をいつどうやって都合して入れたのか?それとも最初から入っていたのに、ありさが洋子が無理して書いた手紙を見て感涙しすぎて、単に気付かなかっただけなのか?まったく予想が付かなかった。
その真相はともかく、ありさの目頭からは、ティシュの中に几帳面に折りたたまれて入っていたそのお金を見た瞬間、再び大粒の涙が乾く間もなく溢れ出し、洋子が書いた手紙の上にボロボロと頬を伝って零れ落ちた。
ありさは、さっそく翌日アルバイト先のスーパーSに休暇届を出すと、洋子の後押しがあったこともあり、久しぶりの旅支度に取り掛かった。
ただ。今回の旅は今までの旅とは違って、かつての恋人の翔太や友達と一緒に行く旅ではなく、まったく行き先や宿泊先も決まっていない上に、初めての独り旅であることだった。