じゅんの空のかけら

毎日のんびり、ゆったり、
ボサノヴァ気分。

「美丘」 石田衣良

2009-08-03 22:02:45 | ブックス
僕は夏の暑さは好きではないが、夏の明るさと眩しさと、そしてエネルギーがみな
ぎり、運命的な出来事への期待が充実するその季節感が大好きだ。
だが1つ厄介なことがある。
それは、僕はこの時期になると自分で言うのもなんだが、感受性の感度が高まるこ
とだ。
別な言い方をすればナーバスになりがちだ。
理由は分からない。
心の病気ではないことを祈るだけだ。
そんないつもの夏の気分で僕は「美丘」を読み始めた。

僕は小さい頃から、小説や映画の主人公への感情移入が物凄く強い。
更に感受性のバランスが悪いのか、切ないことや悲しいことに敏感過ぎて、それは
あたかも自分に起こった出来事として長い時間苦しんでしまう。
そして、こんなことになるとは思いもよらなかった。


「美丘」は、若い大学生2人の切なく悲しいラブ・ストーリーだ。
平凡な大学生の太一の前に突然現れた彼女。「美丘」みおか。
大学の準ミスと付き合っていた太一は、強烈な個性と奔放な行動力を持つ美丘に急
速に魅かれていく。
だが、障害を乗り越え結ばれたとき、太一は衝撃の事実を告げられる。
彼女は治療法も特効薬もない病に冒されていたのだ。
その病は、クロイツフェルト=ヤコブ病。
だが、太一は美丘と一緒に生きようと決心をする。

読み進むにつれ僕の心は、悲しみと絶望と切なさと怒りで埋め尽くされていった。

残された時間を最後まで一緒に過ごしたい2人は、双方の両親を説得し婚約を条件
に同棲の許しをもらう。
そして両親達と別れた直後、太一は改めて自分の口から美丘に言う。
「美丘、僕と婚約してくれないか。きみとずっといっしょにいたいんだ」


僕はここから先を読むことができなくなってしまった。
ストーリーはまだ続いているのに。
愛する人が自分の前から消えてしまうことが分かっている切なさと悲しみ。
そして恐怖。
結末は分かっている。そう、分かっているのだ。
だが、それを認めたくない。知りたくない。
これから訪れるであろう容赦ない運命を受け入れたくないのだ。
2人の最も幸福なときが未来まで続いてほしい。
涙があふれて止まらない。
ページをめくることができない。できそうにない。


僕が2人の愛と運命を受け入れるのは、もう少し先になりそうだ。