一期一会:陽春の塔ノ岳(1)
(単独山行)
2007年5月9日(水) 晴・暑い
■「晴れ」なので塔ノ岳
朝から晴。先週5日に塔ノ岳へ登ってから,もう4日も経っている。そろそろ大倉尾根を往復しないと足腰が弱るような気がするので,急遽,大倉尾根を往復することにする。例によって,小田原,渋沢経由で7時27分にバス停「大倉」へ到着する。今日は平日にもかかわらず,バスがほぼ満席になるほど沢山の登山客が訪れている。
軽くストレッチをした後,7時34分に歩き出す。気温が大分高く真夏のように蒸し暑い。少し動くだけでも汗ばんでくる。気温が高くなるのを見越して,リュックには,何時もよりも500ミリリットルほど余計に水を入れている。その分だけ今日は荷物が重いことになる。
大汗にならないように注意しながら登り続ける。蒸し暑いけれども,まだ蚊やアブが出ていないので,まだ助かる。例により,滅多に山へ名のぼらないと思われる登山客を順次追い越していく。これらの方々は,総じて沢山の荷物をリュックに入れているので,リュックがとても重そうに見える。それに大変厚着のように思える。
<塔ノ岳山頂付近の可憐な花>
■83才の登山客
7時54分に観音茶菓を通り過ぎる。そして,高原の家への分岐に差し掛かったときに,私の前を歩いている年輩の男性に,声を掛けられる。男性は,
「若い方には負けるので,お先にどうぞ・・・」と言いながら,私に道を譲る。私は「若い方」と言われて,大変な違和感を感じる。
「私もそんなに若くないんですが・・・」
と言いながら,お礼の挨拶をする。すると,彼は,
「・・・私,83才です。13日からX社のツアーで台湾の玉山・雪山に登るので,足慣らしのために塔ノ岳へ来ました・・・・昨年はキナバル山へ登りました・・」
と自己紹介する。
私はこの紳士が一見60歳代後半か70歳代前半ぐらいにしか見えないのに,実際は83才という高齢なことに大変驚きながら,
「そうでしたか,私はX4才です。丹沢でお目に掛かる方々はほとんど私より若い人ばかりです。でも私はお宅様よりはずっと若いですね・・・」
と返事をする。
この方のお住まいは戸塚。元帝国海軍の軍人だったという。70才になってから山登りを始めて,昨年は遂にキナバル山(標高4,095m)にも登ったというからもの凄い。
「私は常に目標を持って行動するようにしています・・・だらだら漫然と過ごしていてはダメ。自分の身体を痛めつけながら過ごすのが大切だと思ってるんです・・・」
とだんだん話が教訓めいてくる。
私は心の中で「今日は時間など気にせずにノンビリと登ることにしよう」と決めて,83才のお話に相づちを打ちながらユックリと歩く。そして,8時12分に見晴茶屋に到着する。
■若手の2人連れ
見晴茶屋からは急坂が始まる。83才の老人とは,ここで一旦お別れして,先へ進む。5月5日に登ってから,まだ4日しか経っていないが,その間に随分と新緑が鮮やかになっている。蒸し暑いのには閉口するが,眼に鮮やかな新緑がとても心地よい。ユックリとしたペースで登っているのに,全身がじんわりと汗ばんでくる。
8時55分に堀山の家を通過する。ここから富士山が良く見えるはずだが,今日は春霞でかすかに見えるだけである。直ぐに露岩帯に入る。ここを登り切ると堀山の稜線に出る。私の手前に中年男性2人連れが互いに写真を撮り合っている。私が,
「写真撮りましょうか・・」
と2人に声を掛ける。
「何だか貴方を待っていたようなで済みませんが,撮ってください」
という。稜線をバックにお二人の写真を撮る。すると,
「もし,カメラお持ちでしたら,撮りますよ・・」
と私に申し出る。私は,この辺りは何回も訪れているので,写真は不要なことを丁寧に説明してお断りする。
「何回も・・って,どのくらい来ているんですか」
「他の山へ行かないときは,週に2回程度ですか・・・」
「えぇ~っ・・・週に2回もですか・・・どこか高い山へでも登られるためですか」
「ええ・・まぁ・・高い山へも行きますが,体力維持のために登山を続けています」
「高い山って,例えば雲取山? 最近何処の山へ登りましたか?」
私は返答に窮した。今年になって登った高い山といえば,パプアニューギニアのウイルヘルム山(4509m)だけで,日本の高山には登っていない。
「・・・最近ということですと,ウイルヘルム山という4500メートルほどの山だけですが・・・」
こんなとりとめもない話をしながら,戸沢分岐付近まで一緒に登る。
■健康談議
「で・・・,今,お幾つなんですか・・・?」
と質問してくる。
「また始まったな・・」
と心中で思いながら,自分の年齢を正直に話す。すると,
「健康だから山へ登れるですね・・・健康診断で引っかかる項目はないですか」
と聞いてくる。
「いえ~ぇ,特に自分が健康だとは思っていませんが,結果的に健康診断で引っかかる項目はないですね・・・健康だから山へ登れるのか,山へ登るから健康なのか,その辺りは,あまり良く分かりません」
「食事制限などしないんですか・・・体重のコントロールはしていないんですか」
「食べ物は全く自由に好きなだけ食べていますし,体重のコントロールなどしていませんが,特に肥満にもならず普通なようです(ちなみに私のBMIは22.5)」
さらに雑談が弾んで,お一人が痛風や糖尿病など,頻りに健康のことを気にしている。その彼が,
「山頂でビールを飲むのが楽しみなんですよ・・・だから山登りが止められないんですよ」
と物騒なことを,実感を込めて言い出す。
「でも,注意した方が良いですよ・・・水も飲まずにビールを飲んでばかりだと通風になりやすいと,私達の山岳ガイドが言ってましたよ・・・」
お二人が汗ビッショリになって,「ハァ,ハァ」と荒い息づかいをしているので,無理をさせてはいけないと思って,戸沢分岐でお別れをして,私一人先へ進む。
■うらやましい九州から気儘旅
戸沢分岐を過ぎて暫くしてから露岩帯に入る。ここで,60歳代と思われる男性に追いつく。男性は私の方を振り返りながら挨拶をする。
「実は九州から来ました。丹沢は初めてなんです・・・」
という。
彼は九州から数日掛けて関東一人旅をしているとのことである。昨日は群馬の○○山(山の名前は聞いた途端に忘れた)へ登った。そして,今日は丹沢山を往復して秦野で泊まる。明日は伊吹山へ登る・・・そしてナントカという街道を15~16キロメートルほど歩いてから九州へ戻るという。
この話を伺うと,気儘に散策する生き方に何ともいえない羨ましさを感じる。
<堀山の家からの眺望>
晴れていれば正面に富士山が大きく見える
■塔ノ岳山頂に到着
花立山荘手前の階段で,この方とお別れして先を急ぐ。これまで,何人かの方々とノンビリとした調子で歩いていたので,花立山荘前の階段も,あっさりと登れてしまう。そして,9時33分に花立山荘を通過する。つい4日前頃までは,この辺りはまだ冬景色だったが,今日は辺り一面が,もう新緑に覆われている。目に焼き付くような青葉が何とも心地よい。
<花立山荘上の露岩帯から塔ノ岳山頂が見える>
途中,小粒で綺麗な桜が満開である(花の名前はうろ覚え)。
10時02分に塔ノ岳山頂に到着する。所要時間は,途中,道草をしたこともあって2時間28分と平凡。山頂の気温は18.1℃でかなり高い。微風が吹いていて心地がよい。ただ遠くの山々は春霞で殆ど見えない。数名の登山客が山頂で日向ぼっこをしながら食事をしている。
私は山頂で暫くの間深呼吸をしてから,尊仏山荘に顔を出す。ご常連の先客が男1人,女1人が座っている。ネコのミー君は姿を見せない。今日の小屋番は大野さんお一人である。
女性のご常連が,
「私,今日はバカ尾根を2時間40分で登ったわよ・・・」
と自慢している。
リュックを下ろして,300円也のお茶を所望する。リュックが汗を吸い込んでベタベタしている。家に帰ったらリュックを洗濯しようと思う。
(つづく)
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