<鎌倉地ビール>
閑話休題;Iさんと鎌倉美術展会場を巡る
2011年7月6日(水) 晴
早いもので,7月1日に始まった鎌倉美術展も,今日で6日目を迎える.そして,明日はもう最終日である.今日は水曜日.それに天気がよい.もし展覧会がなければ,私は間違いなく塔ノ岳に行っていたであろう.
今日は,私の学生時代の同門で,絵では先輩のIさんが,私の絵を見に来てくれる.Iさんは,数年前から,私に絵を描くように熱心に勧めてくれていた大恩人である.同時の神奈川美術協会の重鎮でもある.私は,Iさんと一緒に会場の絵を見て回るのが楽しみである.
10時に会場で落ち合う約束である.私は9時過ぎに,例によって鎌倉中央公園を通り抜けて,大船にある鎌倉芸術館に向かう. 途中,見頃を迎えた鎌倉中央公園のハンゲショウを楽しむ.東京は今日も相変わらず炎暑のようだが,鎌倉では,涼しい海風が吹き抜けているので,暑さもそれほどでもない.4キロメートルほどの道のりをブラブラと歩いて,待ち合わせ時間の10分前に,会場に到着する.Iさんも私と前後して到着する.
会場が10時に開くのを待って,たっぷり時間を掛けて,Iさんの感想を伺いながら,1枚,1枚,丁寧に見て回る.画歴の長いIさんの批評は大変面白い.私が思いもよらない視点からズバッと色々なことを指摘する.その詳細をここで披露するわけにはいかないが,私自身のために,差し障りのない項目だけ,いくつかメモしておこう.
*額縁に無関心では駄目だ
Iさんの指摘で,私が意表を突かれたのは額縁談義である.Iさん曰く,
「絵は額縁という境界の中で一つの世界を作るもの,だから,額縁は絵を引き立たせるように吟味して選ばなければ駄目だ・・・」 「なるほど!」
・・・とは言っても,私などは,額縁を選ぶと言うよりは,なるべく安価なものを見つけて購入している.実際の所,絵にあった額縁かどうかは,考える余地がないほど,絵はお金が掛かるなと嘆いてばかりだ.
展示されている絵の中に額縁を使っていない作品がある.Iさん曰く,
「額縁がないと言うことは,壁全体が額縁と言うことだよ・・すると,壁次第で絵が変わるということになるよ.それでは作者の意図がどこにあるのか見ている方に正確に伝わらなくなる・・」
またもや,私は,
「そんなものかな・・・」
と感心する.
*白色は七色が混ざったものだよ
やがて私の絵の前に立つ.当然,氷河や雪の白さが話題になる.Iさん曰く,
「そもそも白っていう色はないんですよ・・・だってそうでしょう.太陽の光をプリズムを通してみれば七色でしょう・・」
ここから,白を巡って2人の雑談が始まる.
なるほど白は七色である.七色の組み合わせは絶えず微妙に揺らいでいるはずである.対象となる氷河や雪の白さも,そのときの気象条件の絶え間ない揺らぎに同期して揺らいでいるはずである.
もっとも,透明な光が七色から構成されているという話は,昔,昔,美術の授業で利いたことがあるし,実際に,印象派の巨匠の絵を見て,感心したこともあるので,決して目新しい話ではないのだが,改めて,ハッと気がつく.
立場を変えて,その氷河や雪を見ている私も,そのときの体調,感情などによって,同じ対象物を見ていても,色,形などが絶えず揺らいで見えているはずである.だから,白色の陰は,単なる灰色ではなく,絶えず揺らいでいる色のはずである.
「・・あっ! そうだ!」
私はある種の“ひらめき”を感じた.
太陽光線は確かに白い・・というか透明である.しかし,スペクトルは紫外線,可視光線,赤外線,さらには電波・・と連綿と続いている.そして,スペクトルを見ると,沢山の黒い所,フラウンホーヘル線がある.それぞれのフラウンホーヘル線は固有の元素の存在を表している. 自分の頭の中にある意識を考える.自分で自覚している意識は可視光線に当たる.無意識は紫外線か赤外線だ.そして意識をスペクトルにすると,そのときの感情によって,固有のフラウンホーヘル線が存在するはずである.
「よお~し,オレは頭の中のスペクトルを意識して絵を描くぞ・・」
と妙な決心をする.でも,実際にどうしたらよいのか大いに戸惑っている.
随分と長い時間を掛けて,絵を見て回る.今回の展覧会は,実に素晴らしい絵ばかりである.私は会期中,ほぼ毎日通い詰めているが,何回,会場を見て回っても飽きないから不思議である.丁度,好きな歌を何回歌っても飽きないのと同じ感覚である.
どちらからともなく,
「ちょっと,お茶でも飲みましょうか・・」
ということになる.
場所を探し回るのも面倒なので,鎌倉芸術館内のレストランに入る.レストランの名前は,端から覚える気がないので見ていない.
真っ昼間からビールも気が引けるが,下戸の私でもIさんとの絵画論議で気分が高揚している.お互いに鎌倉地ビールの小瓶で乾杯する.
飲みながらの話題は尽きない.
もう一昔以上前のことになるが,Iさんは某大手ネットワーク企業で副社長の要職に就任していた.
その頃,BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)が世界的に流行していた.Iさんと私はアメリカにおけるBPRの現状調査のために,何人かの企業の方々と一緒に渡米したことがある.このときの強烈な印象が,まだ,二人の頭の中に残っている.
このときの懐旧談が切っ掛けになって,「絆」とは何か,「絆」という視点から見て,何で私は自分の絵を展覧会に出品しているんだろう・・こんなことを話題にして話している内に,瞬く間に,小一時間すぎてしまう.
「ついでに,ここで昼食を食べましょう・・」
ということになり,カレーライスを注文する.
このカレーライスが実に美味い.値段は980円と少々高め,でもコーヒーが付いているので高くもないか.カレーライスの味は絶品.病みつきになりそうである.
食後のコーヒーを賞味しながら,Iさんとの雑談が続く.
最近Iさんが高齢者ケアーのプロジェクトを始めたという.Iさんは,
「高齢者介護というと,すぐに箱物を作って,高齢者を収容しようとする・・そんなの本当の介護ではないと思います・・」
とIさんが熱心に語り出す.
Iさんの介護の話は絵の主題から外れるので,今回は省略するが,私はなるほどと感心する.そして,散歩や絵を通じて,Iさんの取り組みに側面から協力しようと決める.
雑談の主題が,テレビ番組になる.
私は放送大学の学生ではないが,放送大学の番組を絶えず見ている.もともと理系出身の私は,放送大学の物理学,天文学,数学の分野の番組を見ていると,気分がワクワクしてくる.とにかく面白い.
同じように,どうせ水彩画を描くのなら,きちんと体系的に勉強してみたいという衝動に駆られる.放送大学にはなさそうだが・・・
そんな話をしている内に,Iさんから岩波新書の『色彩学』という本を読みなさいと薦められる.
14時頃,Iさんとお別れする.私は,早速,隣のビルにあるブックオフで『色彩学』の本を探すが残念ながら見当たらない.家に帰ってからアマゾンででも探してみようと思う.
もう一度,会場に戻る.そして会場を再度一回りしてから,また,ブラブラと帰宅する.
帰宅後,何気なくテレビを点けると,またもや『水戸黄門』をやっている.ストーリーは何時も同じだが,ついつい,何となく,全部見てしまう.
こうして,私には珍しく昼間からビールを飲んだ一日が終わる.ひさびさのIさんとの雑談は,実に楽しかった.
(おわり)
「閑話休題」の前回の記事
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