中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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ミンミン蝉とコオロギに誘われて:途中撤退の丹沢塔ノ岳(今年26回目)

2010年09月09日 09時29分55秒 | 丹沢の山旅

                  <本日の終点:見晴山荘>

  ミンミン蝉とコオロギに誘われて:途中撤退の丹沢塔ノ岳(今年26回目)
             (単独山行)
           2010年9月8日(水)

■素晴らしい朝焼け
 台風9号が日本海を東に進んでいる.
 前日,9月7日の夜.月額315円の有料天気予報では,今日,9月8日の天気は夕方まで曇,その後雨ということであった.
 9月8日.私は早朝3時40分頃起床.
 ここ2~3日,残暑が幾分和らいで来たような気がするが,今朝はさらに涼しくなっている.まだ外は真っ暗で様子は良く分からないが,時折,ビュ~ッと軒先をかすめる風の音が聞こえるだけ.勿論雨は降っていない.
 一昨日夜,うっかり点けっぱなしにしていた冷房のために,私は風邪気味.夏風邪かな.喉がイガイガしていて気分が良くない.今日は夏風邪を引いて2日目.まだ,喉にゼイゼイ感が少し残っている.
 塔ノ岳へは,9月1日(水)に登ってから,土日連日の孫達の来訪やら,何やかやで,早,1週間のご無沙汰である.
 私は,どうしようかと迷った末に,雨が降り出す前に塔ノ岳を往復してしまおうと決心する.
       

■ミンミンゼミとコオロギ
 何時もの通り,5時10分に家を出る.
 9月も秋分が近付くと,つるべ落としに日が短くなる.5時過ぎになっても,まだ,完全には夜が明けず,辺りは薄暗い.それでも東の空一面が朝の太陽を反射して見事な朝焼けになっている.
 住宅地の道路を湘南モノレールの駅まで下る.近くの森では,まだ朝が早いのにミンミンゼミが大きな声で啼いている.足許の草むらでは,もうコオロギが鳴き始めている.
 「もう,秋だなぁ~・・・」
 私は慌ただしく過ぎ去っていく今年の夏に別れを惜しむ.

■分厚い雲が丹沢を覆っている
 5時20分,住宅地近くのモノレールの駅に到着する.
 晴れていれば,駅のホームから藤沢の市街地を前景にして丹沢が良く見える筈である.ところが,今日の丹沢は山裾まで厚い雲にすっかり覆われていて,全く見えない.私はこのまま丹沢に行って良いか迷った.そこで,また携帯電話で天気予報を見る.すると,今日の丹沢の表側は,10時頃までは曇,11時頃から1時間に1ミリメートル程度の雨,午後から6ミリメートル程度の雨になるという予報である.
 それならば,下山時に多少の雨を覚悟すれば,雨が激しくなる前,つまり12時少し過ぎに下山できる.多少の雨でも,むしろ気温が涼しいので,快適な登山ができそうだと判断する.

<丹沢は雲の中:湘南モノレール湘南町屋駅より>

■ご常連が殆ど居ない
 何時も通りのルートで,渋沢発大倉行の一番バスに乗車する.空は今にも雨が降り出しそうな気配である.ドンヨリとした雲が,鉛のように上空を覆っている.
 バスに乗車した客はたった5人.小田急線の下り電車が遅れているためか,いつもドッと乗ってくる韋駄天組を始めとする登山客は全く姿を見せない.車内にはご常連の女性,それに若い男性と私の3人だけが登山客である.
 「登山を止めて引き返そうかな・・・」
と迷ったが,まあ,どうせだから,暫くの間,歩いてみようかと思う.

■予想より早く雨が降り出す
 6時57分,大倉に到着する.予想に反して,早々と雨が降り出す.
 ご常連の女性は,
 「・・生憎の天気ですね.でも久々に(塔ノ岳へ)来たんだから,このまま登ります・・」
と私に挨拶して,そそくさと登り始める.
 同じバスに乗り合わせた若い男性も,無言で登山を開始する.
 バス停に残ったのは,優柔不断の私だけ.軽くストレッチをしながら,登るか登るまいかどうしようと迷い続ける.
 「・・お前,何時も肝心なときにフニャフニャとしていて,決められないんだな.女々しいよ・・」
と私の体内に生息するもう一人の私が,私を責める.
 「そう無下に責めるなよ・・・オレだって折角高い電車賃を払って,ここまで来たんだから,そりゃこのまま登りたいよ・・でも,もし事故にでも遭ったらつまらないし・・どうしようかな」
 「昔からバカに付ける薬はないっていうな・・・お前さんに付ける薬もないよ.好きにするんだな・・呆れたよ.だからお前さんは現役時代を三流社員で過ごしちゃったんだ.お前さんが出世しなかったからオレまで苦労させらっぱなしだよ・・」
とあらぬ方向に妄想が飛ぶ.
 「うるさいな! お前,でかい面しているが,オレが死んだらお前だって,この世から消えてしまうんだぞ・・もういいから盲腸の裏っかわにでも引っ込んでろ・・」
 私は,漸く,様子を見ながら登ってみることにする.

■雨の中を楽しく
 リュックには,一応,ザックカバーを被せる.まだ大した雨ではないので,雨具は着用しないことにする.ただ,雨具はすぐ取り出せるように,リュックの一番上に移動する.
 7時08分,ようやく大倉バス停から歩き出す.ここから見晴茶屋までは大した登り勾配もないし,登山道に危険もないので,折りたたみ傘をさして歩こうと思う.
 まだ,夏風邪が完全に治っていないのか,気管支のインピーダンスが何時もより高いような気がする.そこで大事を取って,歩き出しは,ごく,ごく,ユックリとした歩調で,呼吸が乱れないように注意しながら歩き始める.
 7時14分,登山口に到着する.何時もより2分も余計に時間を掛けている.杉木立に囲まれた登山道に入ると,辺りは一層薄暗くなり,意気消沈する.濡れた石に足を取られないようにして,1人トボトボと登山道を歩き続ける.
 樹木が勢いよく繁茂しているところへ来ると,木の葉が天然の傘になって,傘をささなくても平気である.ユックリと歩いている内に,だんだんと体調が良くなってくる.その内に夏風邪による体調不良もどこかへ消えてしまう.私は,何時しか,昔,昔,憧れを持って見ていたジーンケリーの“Just singing in the rain・・・” を口ずさんでいる.
 雨のお陰で,蒸し暑さも随分と和らいでいる.歩くほどに,実に心地よくなってくる.


■堀山の家ぐらいまで登るか
 7時32分,観音茶屋に到着する.気温24.8℃.登山にはやや高温だが,ジッとしているには心地よい温度である.私は観音茶屋で2~3分留まって,雨脚の様子をチェックする.歩き出してからまだ,それほど時間が経っていないのに,かなり雨脚が強くなったようである.茶屋の屋根に降り注ぐ雨が,ザアザアと音を立てている.
 この時点で,私は塔ノ岳山頂まで登るのは諦める.そして,天候が急変しない限り,今日の終着点は「堀山の家」にしようと決める.

■天候がますます悪化する
 再び歩き出す.雨脚は少し強くなっているが,森林の中のトラバース道を歩いているので,風は殆どない.
 歩きながら,私は,なぜ,こんな雨の日に,山道を歩いているんだろうと不思議な気持ちになる.それも良い年をして・・・そんなとき,何時もサムエルウルマンの詩を連想する.

 “Youth is not a time of life; it’s a state of mind”
    ----------------------------------------
  “Years may winkle the skin; but not winkle the soul”

 私は,現役の時代から,今日まで,この詩のお陰で,どれだけ勇気づけられたことか.それだけに,折に触れ,この詩が私の脳裏を過(よ)ぎる.
 7時50分,雑事場ノ平に到着する.ここからほんの暫く平らな尾根道が続く.ここまで来ると峠を越える風が吹いていることが多いが,今日は全くの無風である.ただ,山麓に低い雲が立ちこめているのか,遠くの木立が霧の中に霞んで見えている.周囲の山の眺望は全くない.天候はますます悪化しているようである.

■三十六計逃ぐるに如かず
 7時52分,見晴茶屋に到着する.辺りには人気が全くない.
 ここでは,何時も,立木の間から僅かに見える下界の風景を見下ろすのを楽しみにしているが,今日の下界は真っ白.霧角もか分からないが景色は何も見えない.
 私は,茶屋の前で立ち止まる.うっかり草むらに近付くと,ヒルにやられるかもしれないので,なるべく広い地面を選ぶ.
 携帯電話を取りだして,有料の天気図を呼び出す.すると予想に反して台風9号が静岡地方に近付いている.そして,上空からの雲の画像を見ると,箱根の山塊の西に豪雨を表す真っ赤な雲海が広がっている.このままこの雲海が東へ移動してくれば,間もなくこの辺りでも大雨が降り出すことが確実である.
 私は堀山の家辺りで引き返そうかと思っていたが,この雲の情報を見る限り,とても堀山の家まで行っているゆとりはないなと判断する.私は,未練がましく見晴山荘から直ぐ先の急坂を一目見回してから,すぐに下山することにする.
 そのとき,どこからともなく遠雷が聞こえてくる.
 「これはもう,登山どころではない・・“三十六計,逃ぐるに如かず”・・」

<見晴山荘直後の急坂>

■撤退
 7時52分,私は見晴山荘を出発,下山を開始する.雨脚は次第に強くなる.風は吹いていないものの,登山道は半ば小川のようになり,石の間を流下する雨水がチョロチョロと音を出し始める.
 下りはじめると,これから登ってくる数名の登山者とすれ違う.ずぶ濡れになった若者が,
 「・・上の方の様子はどんなでしたか?」
と私に聞く.
 「いえ,私は見晴山荘から引き返しました・・」
 8時37分登山口に戻る.
 克董窯付近を下っているとき,突然,後ろから,
 「ビシャッ,ビシャッ,・・」
という音が聞こえてくる.振り返る間もなく,私の脇を,
 「おはようございます・・」
と言いながら韋駄天のYさんが,私を抜いていく.2本のストックを,まるで飛行機の両翼のように横に広げて,走り去っていく.
 私はYさんの雄姿をカメラに収めようとして,慌ててデジカメを構える.シャッターを押したときには,疾風のように走り去るYさんの姿はファインダーから消えていた.
 登山口を過ぎると,大倉までは綺麗に舗装された自動車道になる.雨水が波を打って舗装道路の路面を流下している.これは大変なことになりそうだと予感する.
 大倉9時07分発渋沢行バスに乗車する.この時点で引き返した登山客は私1人.渋沢から小田原を経由して,鎌倉の自宅へ11時過に帰宅する.

<登山道にチョロチョロと音を立てて雨水が流れ始める>

■台風9号が大暴れ
 午後から神奈川県に豪雨が降り続く.小田原の柏尾川が氾濫して中州に人が取り残されたというニュースが飛び込む.新幹線,東海道本線,小田急線の電車のダイヤが大幅に遅れたり,運転中止になったというニュースが立て続けに入る.
 私は,多少の未練があったものの,あの時点で登山を中止して本当に良かったなと,胸を撫で下ろす.
 それにしても,今度の台風9号は,実に不思議な経路を取って東海上に抜けていった. 尊仏山荘のネコに会えなかったのが実に残念.
 今週末は,仲間達と中山道中六十九次の旅に出掛ける.2泊3日のやや長旅である.これからその準備に掛からなければならない.そうなると今度塔ノ岳を訪れるのは来週中頃になってしまう.
 「今年は何だかんだで,塔ノ岳へは,年間40回ぐらいしか行けないかな・・」
と,私は今から弱気になっている.

<ラップタイム>

 7:08  大倉歩きだし
 7:33  観音茶屋
 7:52  見晴山荘 着(登山中止)
 7:54  見晴山荘 発
 8:17  観音茶屋
 8:41   大倉 着
                                (おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/c/e0a50817c751d08dbd1067c151acf3dd
「丹沢の山旅」の次回の記事
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