中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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モンブラン登頂記(11):白いついたて・グランドジョラス

2010年04月16日 07時00分23秒 | フランス・スイス;モンブラン登頂
                  <白い衝立:グランドジョラス>

      モンブラン登頂記(11):白い衝立・グランドジョラス
             (アルパインツアー)
         2005年9月5日(月)。
その1。晴。

■クーベルグル小屋の一夜
 昨日,シャモニーを出発した私たちは,スリル満点のメールドグラス氷河歩行の後,クーベルグル小屋(標高2687メートル)で一泊した。
 自覚症状はないものの,「声が変に掠れている」との指摘を受けた私は,昨夜,寝る前に消防署長から分けて貰った風邪薬を飲んでいた。そのためか,寝ている内に,昨日の言いようもない疲労感も大分薄らいできた。
 まだ,時差の影響が残っているため,深夜に目が覚めてしまう。普段,就寝中には滅多にトイレへ行ったことがないのに,時間帯がずれているためか,珍しく夜中にトイレに立つ。一応水洗トイレになっているが,使用済みのちり紙が片隅にうずたかく積もっていて,お世辞にも綺麗だとは言えない。トイレだけは最近の日本の山小屋の方がずっと清潔のようである。トイレの水を流すと,とてつもなく凄い勢いで水が流れる。木造の小屋なので,水の流れる音がとても良く響く。廊下を通ってトイレに行く人の足音がギシギシと伝わってくる。通路を歩く人の気配が気になる。そんな中で,寝付きが良いドッジさんが,寝息を立てながら,気持ちよさそうに眠っている。羨ましい限りである。そういえば,
 「ドッジさんには,時差なんてないんだよ。だから,何時でも,何処ででも,寝られる幸せな人なんだよ」
とフクロウが悪口を言っていた。
 目覚めたまま暫くの間,ベッドの中でジッとしている。6時頃,ようやく空が白み始める。私は,待ちかねたように起き出して,再びトイレに行く。ついでに外へ出てみる。小屋から西南の方向に,朝日に染まって輝くモンブランの雄姿が眩しく見える。眼下にはメールドグラスが蛇行しながら深い谷を流下している。谷も先には,シャモニーの町並みが見える。まだ,電灯がキラキラと輝いている。山腹には,朝靄がたなびいている。
 風は吹いていないが,身が引き締まるように寒い。
 7時10分,朝食である。
 一同,小綺麗な食堂に集まる。
 まずは,大きなボウルにいっぱいの紅茶を賞味する。紅茶を啜りながら,固いパンをかじる。昨日の疲れは残っていないものの,あまり食は進まない。

               <グーベルグル小屋の朝食>

■仰ぎ見るグランドジョラス
 8時12分,小屋を出発する。
 メールドグラス氷河の右岸に沿って,見晴らしの良い山道が,暫くの間,淡々と続く。ベテラン添乗員のSさんも,このコースを通るのは初めてだという。氷河の上流,つまり南の空に,グランドジョラス(Grandes Jorasses, 4208メートル)が,ゴツゴツと屏風のように立ちはだかっている。西にはエギューデタキュル(Aig.du Tacul, 3444メートル)の峰々が,まるで剣山のように屹立している。どちらの山も谷間は氷河に覆われている。グランドジョラスの西側の峠から,私たちが見下ろしている谷間に向かって,レジョ氷河(Glacer de Leschaux)が,大きく左にカーブしながら,累々と流下している。足下にはこの氷河に向かって下る尾根が見える。この尾根に沿って,カモシカが氷河の方へ下っていくのが見える。
 眺望の良いのどかな山道を歩いていると,突然,岩場に出る。これまでの山道とは様相が全く違う。斜度がどのくらいかは分からないが,多分,70度を越えているだろう。岩肌に10センチメートル四方ほどの鉄製の足場が飛び飛びに打ち込まれている。胸元の高さに鉄製の手すりが打ち込まれている。手すりを掴みながら,飛び飛びの足場に足をかけて,一歩一歩慎重に進む。足場を確保するには,どうしても断崖の下も見なければならない。高い切り立った断崖の下を見ると目が眩む。
 やっとの思いで,断崖のトラバース道を渡りきると,今度は長い鉄バシゴを下る。鉄バシゴが終わると,また断崖である。別に体重を手で支えているわけではないが,だんだんと両手が草臥れてくる。
 大阪から参加したSさんが岩の斜面で,足場を間違えて動けなくなる。私はガイドのSさんに助けを求める。幸いなことに,登山学校の仲間は,全員,難なく岩場をトラバースすることができた。こんなところでも,登山学校に通っていた成果はあるなと実感する。

                  <高度感が凄い断崖の連続>

■レジョ小屋
 突然,岩場の端に小さな建物が見え出す。ここがレジョ小屋(Ref. de Leachaux)である。この小屋に入るには,鉄バシゴを下らなければならない。また,小屋を出て氷河に降りるにも,やはり鉄バシゴを何本も降りなければならない。
 10時50分,小屋に到着する。真っ赤に日焼けした女性が出迎える。彼女が小屋番らしい。
 ガイドが,
 「ここで,何か食べておきましょう」
という。小屋には小さなテラスがある。10人も座れば一杯になる物干し台のようなところである。日陰なので少々寒い。建物の中を見せて貰う。数名程宿泊できるスペースがある。平らなところは,これしかない。まるで空中に浮かぶ小さな小島のようである。こんな所に犬,猫,1匹ずつ飼われている。人に馴れている。犬も猫も,ときどきテラスから首を出して,下を眺める。その様子を見ている私の方が怖くなる。この小屋は,グランドジョラス登山者が利用するらしい。
 ガイドのSさんが,凄く香辛料が利いたサラミハムを取り出す。そして,手袋をしたまま刃が出せるという自慢の折り畳みナイフで,サラミハムを切り出して,一同に振る舞う。とても臭いが,これが結構美味しい。ノシイカだったか,消防署長だったが記憶が定かでないが,日本製のヨウカンを取り出す。そして,それをフランス人のガイド2人と,山小屋の女主人に振る舞う。女主人が,「これ何?」と怪訝な顔をする。ガイドのステファンが,
 「ジャパニーズスイートだよ」
と,なぜか英語で説明する。
 「ふ~ん?」
というような顔をして,女主人は試食する。旨いとも不味いとも言わない。それに対して,ステファンは,小さく一囓りしただけで,ヨウカンを机に置いてしまう。
 「ダメですか?」
と聞いてみる。ステファンは,顔をしかめて,ダメだという仕草をする。

                  <断崖に建つレジョ小屋>


               <レジョ小屋のテラス>
          ※小屋の広場は,この狭いテラスだけ.小屋は断崖の中腹にあるので,
           上からも下からも長い階段を使わないと入れない.

■レジュ氷河へ下る
 食事を終えた私たちは,11時30分,レジオ小屋を後にする。
 すぐに鉄バシゴの連続である。岩とザレた急傾斜の道を,イヤになるほど下り,レジョ氷河の上に出る。上流を仰ぎ見ると,グランドジョラスが見上げるような高さで聳えている。鋭い岩の襞が垂直に何本も切り立っているのが見える。その襞の尖端は,強風に吹きさらしになっていて,降りしきる雪は吹き飛ばされて,岩肌が露出している。それに反して,岩襞の内側には吹き固められた雪が過酷な氷河になっている。雲一つなく晴れ上がった背後の空は,深い藍色に輝いている。
 私たちは,アイゼンを付けないまま,レジュ氷河を下り始める。
                             (つづく)
「モンブラン登頂記」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/f6428ad4b45d7b03619796bd8c7f83ae
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