中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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モンブラン登頂記(12):メールドグラス氷河を下る

2010年04月17日 19時19分57秒 | フランス・スイス;モンブラン登頂

                     <氷河を下る>

      モンブラン登頂記(12)メールドグラス氷河を下る
              (アルパインツアー)
        2005年9月5日(月)。
その2。晴

■レジョ氷河を目指して
 私たちは,グランドジョラスの雄姿を見ながら,断崖にへばり付くように建っているレジョ小屋で昼食を済ませた。そして,11時30分,レジョ氷河を目指して出発した。小屋から外に出るには,いきなり長い鉄バシゴを使わなければならない。そのあと,幾つかの鉄バシゴを下ると,岩混じりのザレた急坂が連続する。
 漸くの思いで急坂を下り終えて,レジョ氷河に降り立つ。今回は,アイゼンを装着しないで,氷河を下り始める。土砂が混入しているとはいえ,氷河は氷である。氷だから良く滑るという先入観から,なかなか脱却できない。恐る恐るフラットフッティングに注意しながら,一歩一歩慎重に足を進める。すると,意外に氷河は滑らない。
 行く手に,時々,クレパスが横たわっている。小さなクレパスは,「えい~っ」と飛び越える。大きなクレパスに遭遇すると,渡れるところを探して川上に遡る。こんな氷河歩きも,馴れてくると大変に楽しくなる。むしろ,砂礫がゴロゴロしている一般の登山道よりも,氷河の方が歩きやすく,楽しいとすら感じる。

<レジョ小屋から,これから歩く氷河を見下ろす>


<高度感のある鉄バシゴとトラバースの断崖が続く>


<緊張の連続>


<氷河に降り立つ山旅スクール5期の方々>

■タキュール氷河と合流
 12時59分,私たちはタキュル氷河(Glacier du Tacul)との合流点に到達した。エキューデタキュールを挟んで,私たちが下ってきたレジョ氷河は東側,タキュル氷河は西側を流下して,エキューデタキュールの北側で合流して,メールドグラス氷河になる。この合流点で暫く休憩を取る。
 休憩場所から東へ20~30メートル離れたところに大きな岩がある。まず始めにフクロウが,この岩陰で用を足す。ついで,ノシイカと消防署長が連れたって,少納言である。

<尖峰を眺めながらクレパスを避けて歩く>


<雪庇ではなく氷河庇(?)を避けながら先へ進む>

■クレパスを越えて
 13時08分,約10分の休憩を終えた私たちは,引き続きメールドグラス氷河を下り続ける。途中でアイゼン歩行を練習している高齢の男性に遭遇する。彼は自分の前と後ろのガイドとロープで固定された状態で,ソロリ,ソロリと歩いている。
 行く手に大きなクレパスが横たわっている。ガイドのピエールが,私たちに,
 「ちょっと待っていて・・・」
とボデーランゲージで伝えた後,クレパスに沿って上流へ遡って,渡れるところがないかどうか調べている。そして,10数メートル遡ったところから,私たちに
 「こちらへ来い・・・」
と指示する。私たちが渡ったクレパスの幅は30センチほど,
 「えいっやぁ~っ・・・」
で飛び越える。そして,今飛び越えたクレパスに沿って,下流に向かって歩く。ちょうどそのときに,アイゼンを装着した10名ほどのパーティとすれ違う。皆,おっかなビックリの状態で,ソロリ,ソロリと,へっぴり腰で歩いている。私たちも山登りの素人ながら,多少の歩行技術は山旅学校で習っている。その習ったことが,こんなときに意外と役に立っているのを知って,大変嬉しい。

<氷河の真ん中で一休み>


<うねる氷河>

     
     <ザックリ口を開くクレパス:幅が狭いので飛び越える>


<ノーアイゼンで,クレパスの間を歩く>
※ここをノーアイゼンで歩けないと,モンブランに連れて行ってもらえない.


<クレパスを飛び越える:危険はないがスリルあり>

■ドッジさんを先頭に
 いつの間にか,先頭のガイドの後ろに,フクロウ,ノシイカ,それに私の3人が集団になって歩いている。その他のメンバーは,先頭の4人より大分遅れてしまった。私たちの後ろに,やや距離を置いて消防署長が続いている。少し立ち休憩をしながら,消防署長の到着を待つ。私たちに追いついた消防署長は,開口一番に,
 「ドッジさんに自信を持っていただくために,これからはドッジさんを先頭にして歩きましょう」
と提案する。
 もちろん,私には異論はない。そこで,暫くの間,遅れているドッジさんを待つ。そして,ドッジさんを先頭にして,氷河下りを続ける。やがて,遙か下流の左岸中腹に登山電車の駅,モンタンベールが見え始める。駅の手前に氷河に下るなだらかな山道が見える。
 「帰りは,あの道を登るんですか」
とガイドのSさんに尋ねる。
 「いえ,あの道は下の方が崩れていると思います。ですから,昨日,下った鉄バシゴを登ることになります」
 また,あの目も眩むような鉄バシゴを登るとは。まことに残念である。
 私たちは,徐々に左岸寄りのコースをたどりながら,モンタンベール駅から1キロメートルほど手前の左岸に到着する。ごろごろと転がっている大きな岩の間を潜りながら急坂を5分ほど登ると,見上げるように屹立した岩壁に突き当たる。そこには,並行して2本の鉄バシゴがある。目測だが,高さが40~50メートル程もある。ちょっとした高いビルぐらいの高さは十分にある。少しは休憩を取るのかと思ったら,ガイドが登れとボデーランゲージで私たちを促す。
 私の前を行くドッジさんに,
 「どうぞ,先に登ってください」
と促す。ドッジさんは,
 「私,すぐには,とても登れません。先に行ってください」
とボデーランゲージを交えて喘ぎながら,私を促す。

<長い鉄バシゴが何段も続く>


<凄い高度感>

■長い鉄バシゴを登る
 鉄バシゴに取り付く。これまでイヤになるほどトラバースや鉄バシゴを伝ってきたので,両手の二の腕がとてもだるい感じがする。このまま安全に登れるか,少々,不安になる。大阪のSさんも,盛んに手がだるいと言っている。しかし,他人に頼るわけにはいかないので,目の前の垂直に近い鉄バシゴを登り始める。やはり,手がだるくて握力が落ちているのが分かる。やっとの思いで,1本目の長い鉄バシゴを登り切る。すぐに2本目の鉄バシゴが控えている。これも,また,やけに長い。登っている途中で,ますます手がだるくなる。鉄バシゴの途中で,暫時,休憩をとりながら,やっとの思いで登り続ける。私の後ろからついて登っていたガイドのSさんは,垂直に近い岩壁を,鉄バシゴを使わずに,まるで猿のように,上り下りしている。私が鉄バシゴの途中で休むと,岩場を移動して,隣の鉄バシゴに移ってしまう。Sさんの岩登技術は正に驚嘆に値する。
 こんなことを繰り返している内に,やっと最後の鉄バシゴに取り付く。この鉄バシゴが,また,やけに長い。ただ,長いだけでなく,途中で勾配が変わるので,妙に曲がりくねっている。垂直に近い場所を登りながら,あの辺りが鉄バシゴの最後かなと思いながら登ってみると,その先に勾配が少し緩くなった鉄バシゴが続いている。そしてその先はさらに勾配がきつくなっている。北アルプスの東鎌尾根にある垂直のハシゴより10数倍長い鉄バシゴである。
 手がだるくなるのは私だけではないようである。
 私の少し前を登っているノシイカが,
 「ああ,きつい。私,もうダメ・・・」
というような独り言を大きな声で言っている。私は,内心,同感! 同感! と思っている。鉄バシゴの側の岩場を登っているジャンピエールさんが,何か言っている。それを聞いたガイドのSさんが,大声で,
 「『べちゃべちゃ喋っていないで,サッサと登れ』とピエールさんが言っているよ」
とノシイカに注意する。
 先頭を登っていたフクロウは,早々と鉄バシゴを登り終える。その後から,消防署長,ノシイカ,大阪のSさん,それに私の4名が,一団となって登り終える。ドッジさんはかなり遅れているようである。
   
     <肝を冷やす長い登り階段>


<やっと登ったと思ったら,まだ先がある>

■道に迷う

 ここからは,普通の登山道になる。私たち4人は,50メートルばかり先に居るガイドとフクロウの2人の後ろ姿を目標にして後を追う。先を行く2人の歩く速度が速いので,なかなか追いつけない。その内に,辺りの景色に見覚えがないところを,どんどん下りだした。左側の崖の上にロープウェーの駅のような建物が見える。
 「おかしいな・・・」
と思ったものの,先を行く2人がガイドとフクロウだと信じている私たちは,なおも2人の後を追う。ついに,思いあまった消防署長が,見え隠れする前方の2人に,
 「フクロウさぁ~ん・・・」
と大声で呼びかける。返事がない。何事もなかったように2人は歩き続けて,私たちの視野から消えた。
 どうやら,私たちは道を間違えたらしい。そこで,私は,
 「ちょっと戻って,道を確かめてきます。道を下らずにここで待っていてください」
と3人に言って,今来た道を大急ぎで引き返す。ちょっとの間にこんなに下ってしまったのかと思えるほど,急傾斜の道を引き返す。500メートルほども戻ったのだろうか,やがて三叉路に到着する。ここには,先ほど見落としてしまったが,大きな案内板が立っている。私たちは,この案内板を見落としていた。三叉路から見上げると駅舎が見える。駅舎に向かう登り道の途中を,喘ぐようにして登っているドッジさんの後ろ姿が見える。
 「ドッジさぁ~ん・・・」
と大声で叫んだが,疲労されているのか聞こえない。
 私は大急ぎで追いついて,ドッジさんであることを確かめる。ドッジさんは後ろからいきなり私が現れたのでビックリする。私は,道を間違えたことを待っている3人の所へ戻って知らせるだけの体力がない。ここは,ガイドの佐々木んにお願いしようと思う。
 大急ぎで,駅舎のある広場まで登って,佐々木さんに,事の次第を報告する。3人に知らせに行こうとすると,意外にも,三叉路から3人が現れた。3人によると,途中ですれ違った人に確かめて,自分たちが間違っていることを確かめ,私の後を追ったとのことであった。
 モンタンベール駅には沢山の観光客が詰めかけていて,大混雑である。

<見落とした看板>


<モンタンベール駅前広場から,今日歩いた氷河を見下ろす>
※一般の観光客は,ここから氷河を見下ろしただけで帰ってしまう.


                          (つづく)
「モンブラン登頂記」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/da823a4b4637fbfd0ca06b243e4e0794
「モンブラン登頂記」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/5bb5cf2d57ca69ff644d05221eed65d7



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