<強風と残雪の塔ノ岳山頂>
強風と残雪の塔ノ岳
(第16回)
(単独山行)
2008年4月1日(火) 晴・強風
■大分長い間,登山を休んだ!
漸く春めいてきたが,天候が不安定なこともあって,3月25日に塔ノ岳も腕をしてから,今日で丁度1週間になる。その間,鎌倉や藤沢で軽ハイキングはしていたが,どうも体力維持がままならない気がしている。
実は,今年になってから月間登攀累積高度8,000メートルを目指して,毎月登山を続けているが,3月は山旅スクールの広沢寺岩稜練習や本社ヶ丸など,登攀高度をあまり稼げない山旅が多かったこと,および行きたいと思った日に,あいにくの雨になるなど,思うに任せない日が結構続いた,そのために,3月の累積登攀高度は高々5,620メートルに留まってしまった。
今日からは新しい月である。今月は是非目標をクリアーしたい。そこで,多少,強風が残るとの予報だったが,とにかく塔ノ岳に出掛けることにした。
■少々調子が良くないが出掛けるぞ
話が変わるが,この所,上奥歯の治療のために近くの歯科に通院している。週に1回の治療なので,間が空いて,なかなか捗らないので,多少,イライラしている。そんな折,つい2~3日前に,硬いものを治療中の歯で噛まないように注意をしていたにもかかわらず,食事中に,この歯がいきなり割れてしまった。割れた瞬間,かなりの痛みがあったが,暫くすると,その痛みもなくなった。
次回の治療の予定日は3日。何とか予定日まで持ちこたえようと思うのだが,患部から少しずつ分泌物があるらしくて,口の中がネチャネチャするような気がする。こんな時は,体調を維持することが大切だと思って,前日(3月31日)は,20時30分頃就寝する。
丁度,眠りが深くなった21時頃,コアラガイドの電話で,たたき起こされる。
「・・・俺は20時30分に就寝するんだ・・・こんな時間に電話など掛けてくるな・・」
と心の中で,ブツブツ言いながら電話に出る。
それが,切っ掛けになって,昨夜は夜中に2回も目が覚めてしまい,今朝はどうもスッキリした気分になれない。
■強い風が登山道を吹き抜ける
朝起きたときに,何となく眠くて,身体が重い感じがしたが,天気も良さそうなので,兎に角,出掛けることにする。例によって,節約モードのナントカキップを購入して,藤沢から小田急線に乗車し,渋沢から何時ものバスにのって,7時28分頃,大倉に到着する。今日は平日なのに,バスはかなり沢山の登山客で混雑している。中高年の男性の人数が圧倒的に多い。私の後から,例のローギヤー氏も,バスに乗り込んでくる。
7時37分にバス停大倉を歩き出す。今素晴らしい快晴である。真っ青な空が眩しい。昨夜雨が降ったらしくて,足元が濡れている。歩き出してみると,この所,登山の間を空けたためか,何となく身体が重い感じがする。どうやら風も強く吹いているようである。それならば,安全第一に,ユックリと登ろうと決心する。
出発して間もなく,登山口を通過して,薄暗い杉林の道に入る。路面がベタベタに濡れていて滑りやすい。身体に負担にならないように注意をしながら,でも,あまりユックリとしたペースでもなく,慎重に歩き続ける。
8時13分に雑事場ノ平を通過して尾根道に出る。尾根道に出た途端に,海から吹き上げてくる強い風に煽られる。波打つように吹き付ける風によって,林の木がごうごうと音を立てている。風音が足元に広がる林から尾根道を通り越して,反対側に抜けていく。
<沢山の霜柱が立っている:見晴山荘付近>
■素晴らしい富士山が見える
8時15分,見晴茶屋を通過して,急な階段道に差し掛かる。何時もなら,誰かが登っている姿が,坂の前方に見えるのだが,今日は珍しく誰も居ない。暫くの間,私の一人旅が続く。昨夜は冷え込んだのか,見晴茶屋を過ぎる頃から,登山道脇の土手に,かなり沢山の霜柱が立っている。時折,強い風が,ごうごうと音を立てながら,私の側を吹き抜けていく。
8時31分に一本松を通過する。何時もより1~2分遅いテンポである。この調子だと,山頂まで,2時間30分程度で到着できれば「御の字」だなと思い始める。この辺りで,やっと何人かの登山客と遭遇する。軽く会釈をして,先に行かせて貰う。
8時45分,駒止茶屋を通過する。すぐに堀山の長い稜線道になる。ところどころに泥濘があるが,そんなに歩きにくい所はない。尾根道を進むと,綺麗に晴れ上がった青空に,真っ白な富士山が,とても良く見える。とかく春霞の多いこの時期に,これほど綺麗な富士山を見るのは,久々のことである。
ここで,中年のご婦人を追い抜く。
「今日は良い天気で良かったですね・・・とりあえず先に行かせて貰います・・」
<強風で残雪が舞い上がる富士山:堀山の家から>
■南アルプスや大島も良く見える
9時01分に小草平,堀山の家を通過する。今日は,小草平からも,富士山がとても良く見えている。富士山にも強風が吹いているらしくて,富士のすそ野から舞い上がった雪が,まるで雲のように,山麓にまとわりついているのが良く見える。
いよいよ花立山荘までの急坂が始まる。出だしでユックリと歩いたこともあって,殆ど汗もかかずに,マイペースで気楽に登り続ける。そして,9時17分に戸沢分岐を通過する。
分岐の直ぐ上の萱場平で定点観測の写真を撮る。昨夜の雨のためか,萱場平には小さな水溜まりができている。そして,その周辺はかなり泥濘になっていえる。ただ,梅雨時の泥濘に比較すれば,まだかなりマシである。
その後も,ノンビリとかなり楽な気分のまま,9時54分に花立山荘を通過する。ここまでの所要時間は,随分とユックリ登ってきたつもりだが,何時ものペースに比較して,ほんの3分ばかり余計なだけである。たった3分の違いでも,随分と楽だなと実感する。
花立山荘から始まるやや急な登り坂を過ぎると,露岩帯になる。今日のここからの眺望は,特別に素晴らしい。どうやら強い海風が塵埃を吹き飛ばしたらしくて,富士山から南アルプスだけでなく,南側を見下ろすと,真鶴半島,伊豆半島,遠く大島まで手に取るように見えている。北側を見ると,これから登る塔ノ岳や蛭ヶ岳などの丹沢の山々が残雪で厳しい姿を見せている。いくら春だといっても,高い山はまだまだ冬だなと実感する。
風が強いだけでなく,気温も下がっているようである。ここまで,シャツ1枚にチョッキだけで登ってきたが,強い風の波が通り過ぎる毎に,体中に風が吹き込んで,冷えてくる。堪らず手袋をする。
<今日の萱場平:水溜まりができて,足元が悪い>
■しぶとく残る泥濘と残雪
9時54分に金冷シを通過する。北側の斜面は別にして,登山道の雪は全く消えていたが,金冷シを通過した途端に,彼方此方に残雪が見えるようになる。とはいえ,日が当たる所では,雪が溶けて泥濘になっている。暫くの間,泥道と残雪道が交互に現れる。
登り坂の手前で,高校生らしい数名の団体が,草臥れ果てた顔をして休んでいる。私が近付くと,一斉に挨拶をする。
「・・下りですか?」
と質問すると上りだという。若いのに随分とユックリだなと不思議に思う。
山頂が近付くに連れて,残雪の量が増え始める。頂上直下では,まだ,階段道がすっぽりと雪に覆われている所もある。足跡とスプーンを拾いながら,雪の急坂を登りつづける。
<雪の蛭ヶ岳方面を望む:塔ノ岳山頂より>
10時10分,何とか塔ノ岳頂上に到着する。所要時間は2時間33分と不甲斐ない。でも,今日の体調と残雪を考えると,まあこんな所かと自分を慰める。山頂には人影がない。
山頂からの眺望は,めったにお目にかかれないほど素晴らしい。絶えず強い風が吹き付けるので寒くて仕方がないが,少々我慢して,周囲の写真を撮りまくる。
<富士山と南アルプス:塔ノ岳山頂より>
■満員の尊仏山荘
尊仏山荘に入る。山荘の中は大混雑で,座る所を見付けるのがやっとである。どうやら常連客は居ないようである。多分,風が強いので,普段なら山荘に入らない人達も,山荘に入ってきたために混雑しているのであろう。
今日の小屋番は,オーナーのHさん。私の顔を見ると,
「やあ,いらっしゃい! 暫くぶりですね」
と挨拶する。
山荘の寒暖計によると,10時過ぎの山頂の外気温は0.0℃。案外寒い。
「・・今朝の気温は,マイナス5.5℃でしたよ・・・」
とHさんが言う。
山頂はまだまだ冬である。でも,厳冬期に比較すると随分と暖かくなっている。
「ついこの間,山旅スクールの生徒だという方々が来て,flower-hillさんのことを,聞いていましたよ」
とHさんが私に話す。
「へえ・・・誰だろう?」
「近々,泊まり掛けで来るって,言ってましたよ・・・」
私の周辺のスクール生で,わざわざ尊仏山荘で泊まるような奇特な方は見当たらない。一体誰だろう? 不思議である。
営業部長のミー君は姿を見せない。ミー君を見ないと,少々寂しいが,今日は沢山の来客が居るので,サボっているのだろう。
その内に,先ほど追い越した高校生が,シオシオと山荘に入ってくる。話を聞いていると,バカ尾根から表尾根を通ってヤビツに出るようである。小屋の中がまた混雑し始めた。10時30分頃,堀山で追い越したご婦人が山荘に入ってくる。
私は,そろそろ潮時かと思って,山荘を出る。
<山頂近くの残雪:アイゼンなしで十分歩けるが・・・>
■年寄り談義
10時38分に下山を開始する。外は寒い。余りに寒いので,ブレーカーを羽織る。普通の速度で下山すれば,大倉発12時52分延ばすに間に合うだろうと胸算用をする。ノーアイゼンで残雪を下る。ときどき滑りそうになる。金冷シを過ぎて,花立山荘辺りまで下ると,気温が上がり,日差しがポカポカし出す。ついつい,その辺に寝転んで昼寝をしたくなるが,そんなことをしていては何時になっても帰れなくなるので,我慢をして下り続ける。
<遠く真鶴半島・伊豆半島が見下ろせる:花立山荘上のコルから>
途中,淡々と下って,11時24分に萱場平に到着する。ここにはベンチが2脚あるが,片方のベンチは数名の登山客が占領している。仕方なく,先客2人に挨拶して,もう一方のベンチの片隅にリュックを下ろして,ブレーカーを脱ぐ。
年輩の先客1人が,私に話し掛けてくる。
「今朝,登ったんですか?」
私は何でそんな質問をするのだろうと,ドギマギしながら答える。
「はい・・・7時30分過ぎに大倉から昇り始めました・・・頂上の尊仏山荘で一休みしてから下山してきました・・・」
「・・で,一体,山頂まで何時間で登ったんですか」
「今日は,不本意ですが,2時間33分でした」
すると,もう一人の50才代の方が,
「へえ・・私は,先日,暫くぶりに登ったんですが,5時間半掛かりましたよ・・」
と驚く。年輩の方がさらに質問をする。私は,また何時ものように,たまに登ってくる人が,何時も精進している人より時間が掛かる・・そんなこと,当然ではないか,一緒にされては困ると,心の中で思っている。
「どちらにお住まいですか・・・どれくらい山に登って居るんですか」
私は,あまり関わりになりたくなかったが,鎌倉に住んでいて,かなり頻繁に塔ノ岳に通っていることを話す。すると,彼は,
「私,町田に住んでいます・・貴方より近いですね。でも,今年○10+1才。年だからダメですよ・・・」
と例の言い訳話を始める。私が彼より4才年上だというと,彼が質問する。
「これから,登り続ければ,(山登りに)強くなるでしょうか」
「そりゃ~ぁ・・・継続すれば,必ず強くなりますよ・・」
と勇気づける。私も歩き始めた頃,鎌倉天園を一回りしただけで,翌日,足が痛くなって困ったことを披露する。
「貴方の話を伺って,とても勇気づけられましたよ・・・今度,何日に登られるんですか。是非,お目に掛かりたいです・・」
「そうですね・・・何時登るかはお天気次第。尊仏山荘の方に言付けて貰えば,私と連絡が取れますよ・・」
こういう年齢をテーマとした話題は,毎度言うように「目くそ鼻くそ」の話である。とはいえ,私の生き様が,同年輩の方々に勇気と希望を与えられるのならば,それはもう,私にとっても,望外の幸いである。私のブログを読んだ方からも,ときどき同じような感想を頂戴することがある。毎日,2時間ほど掛けて,ブログを整理する甲斐があるといえよう。
■堪らず歯科に飛び込む
余り道草をしていると,帰宅するのが遅くなる。
この辺りで,お暇させて貰って,萱場平を出発する。とはいえ,余程急がないと,もう,12時52分のバスには間に合わない。そこで,13時22分のバスに乗るつもりで,デレデレと下り始める。途中で,数名の方に追い越される。下るに連れて,辺りはますます春らしく長閑な雰囲気になる。
13時06分,無事,バス停大倉に到着する。
強風と列車妨害とかで電車は遅れるが,15時30分頃,帰宅。
まだ,歯の調子が悪い。塔ノ岳往復中も,治療中の歯の周辺がネチャネチャする感じがしていたので,ときどき,うがいをしながらしのいでいた。
早速,歯科に連絡を取って,夕方,診て貰う。
「・・はは~ぁ・・・歯が縦に割れていますね。割れた歯を接着できません。かなり奥まで割れているので,麻酔をして割れた方を取りましょう・・・」
歯科医は,幹部周辺3箇所に痛い麻酔の注射をしてから,歯の欠片を取り除く。
「何でも良いから,早く,完治するように治療してくれ~ぃ・・・」
と言葉には出さないが,心の中で叫んでいる。
[ラップタイム]
7:37 大倉歩き出し
7:42 登山口
7:50 丹沢ベース
7:58 観音茶屋
8:03 分岐
8:13 雑事場ノ平
8:15 見晴茶屋
8:31 一本松
8:45 駒止茶屋
8:53 堀山
9:01 堀山ノ家
9:17 戸沢分岐
9:19 萱場平
9:39 花立山荘
9:54 金冷シ
10:10 塔ノ岳山頂 着
=============================
10:38 塔ノ岳山頂 発(0.0℃)
10:53 金冷シ
11:06 花立山荘
11:24 萱場平(11:36まで雑談)
11:38 戸沢分岐
11:52 堀山ノ家
12:00 堀山
12:06 駒止茶屋
12:19 一本松
12:32 見晴茶屋
12:35 雑事場ノ平
12:44 分岐
12:47 観音茶屋
12:53 丹沢ベース
13:00 登山口
13:06 大倉 着
[山行記録]
■登攀・下降高度 1201m
■水平移動距離 6.5km
■登攀所要時間
大倉発 7:37
塔ノ岳山頂着 10:10
(所要時間) 2時間33分(2.55h)
登攀速度 1,201m/2.55h=471.0m/h
■下降所要時間
塔ノ岳山頂発 10;38
大倉発 13:06
(所要時間) 2時間28分(2.47h)
下降速度 1,201m/2.47h=486.2m/h
(おわり)
強風と残雪の塔ノ岳
(第16回)
(単独山行)
2008年4月1日(火) 晴・強風
■大分長い間,登山を休んだ!
漸く春めいてきたが,天候が不安定なこともあって,3月25日に塔ノ岳も腕をしてから,今日で丁度1週間になる。その間,鎌倉や藤沢で軽ハイキングはしていたが,どうも体力維持がままならない気がしている。
実は,今年になってから月間登攀累積高度8,000メートルを目指して,毎月登山を続けているが,3月は山旅スクールの広沢寺岩稜練習や本社ヶ丸など,登攀高度をあまり稼げない山旅が多かったこと,および行きたいと思った日に,あいにくの雨になるなど,思うに任せない日が結構続いた,そのために,3月の累積登攀高度は高々5,620メートルに留まってしまった。
今日からは新しい月である。今月は是非目標をクリアーしたい。そこで,多少,強風が残るとの予報だったが,とにかく塔ノ岳に出掛けることにした。
■少々調子が良くないが出掛けるぞ
話が変わるが,この所,上奥歯の治療のために近くの歯科に通院している。週に1回の治療なので,間が空いて,なかなか捗らないので,多少,イライラしている。そんな折,つい2~3日前に,硬いものを治療中の歯で噛まないように注意をしていたにもかかわらず,食事中に,この歯がいきなり割れてしまった。割れた瞬間,かなりの痛みがあったが,暫くすると,その痛みもなくなった。
次回の治療の予定日は3日。何とか予定日まで持ちこたえようと思うのだが,患部から少しずつ分泌物があるらしくて,口の中がネチャネチャするような気がする。こんな時は,体調を維持することが大切だと思って,前日(3月31日)は,20時30分頃就寝する。
丁度,眠りが深くなった21時頃,コアラガイドの電話で,たたき起こされる。
「・・・俺は20時30分に就寝するんだ・・・こんな時間に電話など掛けてくるな・・」
と心の中で,ブツブツ言いながら電話に出る。
それが,切っ掛けになって,昨夜は夜中に2回も目が覚めてしまい,今朝はどうもスッキリした気分になれない。
■強い風が登山道を吹き抜ける
朝起きたときに,何となく眠くて,身体が重い感じがしたが,天気も良さそうなので,兎に角,出掛けることにする。例によって,節約モードのナントカキップを購入して,藤沢から小田急線に乗車し,渋沢から何時ものバスにのって,7時28分頃,大倉に到着する。今日は平日なのに,バスはかなり沢山の登山客で混雑している。中高年の男性の人数が圧倒的に多い。私の後から,例のローギヤー氏も,バスに乗り込んでくる。
7時37分にバス停大倉を歩き出す。今素晴らしい快晴である。真っ青な空が眩しい。昨夜雨が降ったらしくて,足元が濡れている。歩き出してみると,この所,登山の間を空けたためか,何となく身体が重い感じがする。どうやら風も強く吹いているようである。それならば,安全第一に,ユックリと登ろうと決心する。
出発して間もなく,登山口を通過して,薄暗い杉林の道に入る。路面がベタベタに濡れていて滑りやすい。身体に負担にならないように注意をしながら,でも,あまりユックリとしたペースでもなく,慎重に歩き続ける。
8時13分に雑事場ノ平を通過して尾根道に出る。尾根道に出た途端に,海から吹き上げてくる強い風に煽られる。波打つように吹き付ける風によって,林の木がごうごうと音を立てている。風音が足元に広がる林から尾根道を通り越して,反対側に抜けていく。
<沢山の霜柱が立っている:見晴山荘付近>
■素晴らしい富士山が見える
8時15分,見晴茶屋を通過して,急な階段道に差し掛かる。何時もなら,誰かが登っている姿が,坂の前方に見えるのだが,今日は珍しく誰も居ない。暫くの間,私の一人旅が続く。昨夜は冷え込んだのか,見晴茶屋を過ぎる頃から,登山道脇の土手に,かなり沢山の霜柱が立っている。時折,強い風が,ごうごうと音を立てながら,私の側を吹き抜けていく。
8時31分に一本松を通過する。何時もより1~2分遅いテンポである。この調子だと,山頂まで,2時間30分程度で到着できれば「御の字」だなと思い始める。この辺りで,やっと何人かの登山客と遭遇する。軽く会釈をして,先に行かせて貰う。
8時45分,駒止茶屋を通過する。すぐに堀山の長い稜線道になる。ところどころに泥濘があるが,そんなに歩きにくい所はない。尾根道を進むと,綺麗に晴れ上がった青空に,真っ白な富士山が,とても良く見える。とかく春霞の多いこの時期に,これほど綺麗な富士山を見るのは,久々のことである。
ここで,中年のご婦人を追い抜く。
「今日は良い天気で良かったですね・・・とりあえず先に行かせて貰います・・」
<強風で残雪が舞い上がる富士山:堀山の家から>
■南アルプスや大島も良く見える
9時01分に小草平,堀山の家を通過する。今日は,小草平からも,富士山がとても良く見えている。富士山にも強風が吹いているらしくて,富士のすそ野から舞い上がった雪が,まるで雲のように,山麓にまとわりついているのが良く見える。
いよいよ花立山荘までの急坂が始まる。出だしでユックリと歩いたこともあって,殆ど汗もかかずに,マイペースで気楽に登り続ける。そして,9時17分に戸沢分岐を通過する。
分岐の直ぐ上の萱場平で定点観測の写真を撮る。昨夜の雨のためか,萱場平には小さな水溜まりができている。そして,その周辺はかなり泥濘になっていえる。ただ,梅雨時の泥濘に比較すれば,まだかなりマシである。
その後も,ノンビリとかなり楽な気分のまま,9時54分に花立山荘を通過する。ここまでの所要時間は,随分とユックリ登ってきたつもりだが,何時ものペースに比較して,ほんの3分ばかり余計なだけである。たった3分の違いでも,随分と楽だなと実感する。
花立山荘から始まるやや急な登り坂を過ぎると,露岩帯になる。今日のここからの眺望は,特別に素晴らしい。どうやら強い海風が塵埃を吹き飛ばしたらしくて,富士山から南アルプスだけでなく,南側を見下ろすと,真鶴半島,伊豆半島,遠く大島まで手に取るように見えている。北側を見ると,これから登る塔ノ岳や蛭ヶ岳などの丹沢の山々が残雪で厳しい姿を見せている。いくら春だといっても,高い山はまだまだ冬だなと実感する。
風が強いだけでなく,気温も下がっているようである。ここまで,シャツ1枚にチョッキだけで登ってきたが,強い風の波が通り過ぎる毎に,体中に風が吹き込んで,冷えてくる。堪らず手袋をする。
<今日の萱場平:水溜まりができて,足元が悪い>
■しぶとく残る泥濘と残雪
9時54分に金冷シを通過する。北側の斜面は別にして,登山道の雪は全く消えていたが,金冷シを通過した途端に,彼方此方に残雪が見えるようになる。とはいえ,日が当たる所では,雪が溶けて泥濘になっている。暫くの間,泥道と残雪道が交互に現れる。
登り坂の手前で,高校生らしい数名の団体が,草臥れ果てた顔をして休んでいる。私が近付くと,一斉に挨拶をする。
「・・下りですか?」
と質問すると上りだという。若いのに随分とユックリだなと不思議に思う。
山頂が近付くに連れて,残雪の量が増え始める。頂上直下では,まだ,階段道がすっぽりと雪に覆われている所もある。足跡とスプーンを拾いながら,雪の急坂を登りつづける。
<雪の蛭ヶ岳方面を望む:塔ノ岳山頂より>
10時10分,何とか塔ノ岳頂上に到着する。所要時間は2時間33分と不甲斐ない。でも,今日の体調と残雪を考えると,まあこんな所かと自分を慰める。山頂には人影がない。
山頂からの眺望は,めったにお目にかかれないほど素晴らしい。絶えず強い風が吹き付けるので寒くて仕方がないが,少々我慢して,周囲の写真を撮りまくる。
<富士山と南アルプス:塔ノ岳山頂より>
■満員の尊仏山荘
尊仏山荘に入る。山荘の中は大混雑で,座る所を見付けるのがやっとである。どうやら常連客は居ないようである。多分,風が強いので,普段なら山荘に入らない人達も,山荘に入ってきたために混雑しているのであろう。
今日の小屋番は,オーナーのHさん。私の顔を見ると,
「やあ,いらっしゃい! 暫くぶりですね」
と挨拶する。
山荘の寒暖計によると,10時過ぎの山頂の外気温は0.0℃。案外寒い。
「・・今朝の気温は,マイナス5.5℃でしたよ・・・」
とHさんが言う。
山頂はまだまだ冬である。でも,厳冬期に比較すると随分と暖かくなっている。
「ついこの間,山旅スクールの生徒だという方々が来て,flower-hillさんのことを,聞いていましたよ」
とHさんが私に話す。
「へえ・・・誰だろう?」
「近々,泊まり掛けで来るって,言ってましたよ・・・」
私の周辺のスクール生で,わざわざ尊仏山荘で泊まるような奇特な方は見当たらない。一体誰だろう? 不思議である。
営業部長のミー君は姿を見せない。ミー君を見ないと,少々寂しいが,今日は沢山の来客が居るので,サボっているのだろう。
その内に,先ほど追い越した高校生が,シオシオと山荘に入ってくる。話を聞いていると,バカ尾根から表尾根を通ってヤビツに出るようである。小屋の中がまた混雑し始めた。10時30分頃,堀山で追い越したご婦人が山荘に入ってくる。
私は,そろそろ潮時かと思って,山荘を出る。
<山頂近くの残雪:アイゼンなしで十分歩けるが・・・>
■年寄り談義
10時38分に下山を開始する。外は寒い。余りに寒いので,ブレーカーを羽織る。普通の速度で下山すれば,大倉発12時52分延ばすに間に合うだろうと胸算用をする。ノーアイゼンで残雪を下る。ときどき滑りそうになる。金冷シを過ぎて,花立山荘辺りまで下ると,気温が上がり,日差しがポカポカし出す。ついつい,その辺に寝転んで昼寝をしたくなるが,そんなことをしていては何時になっても帰れなくなるので,我慢をして下り続ける。
<遠く真鶴半島・伊豆半島が見下ろせる:花立山荘上のコルから>
途中,淡々と下って,11時24分に萱場平に到着する。ここにはベンチが2脚あるが,片方のベンチは数名の登山客が占領している。仕方なく,先客2人に挨拶して,もう一方のベンチの片隅にリュックを下ろして,ブレーカーを脱ぐ。
年輩の先客1人が,私に話し掛けてくる。
「今朝,登ったんですか?」
私は何でそんな質問をするのだろうと,ドギマギしながら答える。
「はい・・・7時30分過ぎに大倉から昇り始めました・・・頂上の尊仏山荘で一休みしてから下山してきました・・・」
「・・で,一体,山頂まで何時間で登ったんですか」
「今日は,不本意ですが,2時間33分でした」
すると,もう一人の50才代の方が,
「へえ・・私は,先日,暫くぶりに登ったんですが,5時間半掛かりましたよ・・」
と驚く。年輩の方がさらに質問をする。私は,また何時ものように,たまに登ってくる人が,何時も精進している人より時間が掛かる・・そんなこと,当然ではないか,一緒にされては困ると,心の中で思っている。
「どちらにお住まいですか・・・どれくらい山に登って居るんですか」
私は,あまり関わりになりたくなかったが,鎌倉に住んでいて,かなり頻繁に塔ノ岳に通っていることを話す。すると,彼は,
「私,町田に住んでいます・・貴方より近いですね。でも,今年○10+1才。年だからダメですよ・・・」
と例の言い訳話を始める。私が彼より4才年上だというと,彼が質問する。
「これから,登り続ければ,(山登りに)強くなるでしょうか」
「そりゃ~ぁ・・・継続すれば,必ず強くなりますよ・・」
と勇気づける。私も歩き始めた頃,鎌倉天園を一回りしただけで,翌日,足が痛くなって困ったことを披露する。
「貴方の話を伺って,とても勇気づけられましたよ・・・今度,何日に登られるんですか。是非,お目に掛かりたいです・・」
「そうですね・・・何時登るかはお天気次第。尊仏山荘の方に言付けて貰えば,私と連絡が取れますよ・・」
こういう年齢をテーマとした話題は,毎度言うように「目くそ鼻くそ」の話である。とはいえ,私の生き様が,同年輩の方々に勇気と希望を与えられるのならば,それはもう,私にとっても,望外の幸いである。私のブログを読んだ方からも,ときどき同じような感想を頂戴することがある。毎日,2時間ほど掛けて,ブログを整理する甲斐があるといえよう。
■堪らず歯科に飛び込む
余り道草をしていると,帰宅するのが遅くなる。
この辺りで,お暇させて貰って,萱場平を出発する。とはいえ,余程急がないと,もう,12時52分のバスには間に合わない。そこで,13時22分のバスに乗るつもりで,デレデレと下り始める。途中で,数名の方に追い越される。下るに連れて,辺りはますます春らしく長閑な雰囲気になる。
13時06分,無事,バス停大倉に到着する。
強風と列車妨害とかで電車は遅れるが,15時30分頃,帰宅。
まだ,歯の調子が悪い。塔ノ岳往復中も,治療中の歯の周辺がネチャネチャする感じがしていたので,ときどき,うがいをしながらしのいでいた。
早速,歯科に連絡を取って,夕方,診て貰う。
「・・はは~ぁ・・・歯が縦に割れていますね。割れた歯を接着できません。かなり奥まで割れているので,麻酔をして割れた方を取りましょう・・・」
歯科医は,幹部周辺3箇所に痛い麻酔の注射をしてから,歯の欠片を取り除く。
「何でも良いから,早く,完治するように治療してくれ~ぃ・・・」
と言葉には出さないが,心の中で叫んでいる。
[ラップタイム]
7:37 大倉歩き出し
7:42 登山口
7:50 丹沢ベース
7:58 観音茶屋
8:03 分岐
8:13 雑事場ノ平
8:15 見晴茶屋
8:31 一本松
8:45 駒止茶屋
8:53 堀山
9:01 堀山ノ家
9:17 戸沢分岐
9:19 萱場平
9:39 花立山荘
9:54 金冷シ
10:10 塔ノ岳山頂 着
=============================
10:38 塔ノ岳山頂 発(0.0℃)
10:53 金冷シ
11:06 花立山荘
11:24 萱場平(11:36まで雑談)
11:38 戸沢分岐
11:52 堀山ノ家
12:00 堀山
12:06 駒止茶屋
12:19 一本松
12:32 見晴茶屋
12:35 雑事場ノ平
12:44 分岐
12:47 観音茶屋
12:53 丹沢ベース
13:00 登山口
13:06 大倉 着
[山行記録]
■登攀・下降高度 1201m
■水平移動距離 6.5km
■登攀所要時間
大倉発 7:37
塔ノ岳山頂着 10:10
(所要時間) 2時間33分(2.55h)
登攀速度 1,201m/2.55h=471.0m/h
■下降所要時間
塔ノ岳山頂発 10;38
大倉発 13:06
(所要時間) 2時間28分(2.47h)
下降速度 1,201m/2.47h=486.2m/h
(おわり)
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