ここはとある川辺の雑木林
夜明け前のさわやかな空気の中を、彼女は自分の背丈よりも高く茂る草むらの中を、ゆっくりゆっくり歩いていました
彼女が歩を進める少し(前方)を、沢山の小さな生き物たちが彼女に踏み潰されまいと、華麗なダンスにも似たジャンプで次々に回避しています
草むらを抜けて少し開けた木陰にはベンチ代わりにちょうど良さそうな小岩があり彼女はそこにペタンと腰を掛けます
どうやら彼女にとって慣れ親しんだお気に入りの場所のようですね
彼女は一人で口を開きました
彼女さん「たったの一歩‥ほんの少し歩くだけで、わたしは一体いくつの生き物と関わっているんだろう?」
?「…そうだよな、世界はこんなにも生命で満ち溢れているのに‥よりにもよって、なんでオレはあんなヤツとくっついちゃったんだろう…」
彼女さん「…あなた初恋の相手とくっついちゃったんだっけ?。お互い始めて同士で」
?「…うん」
彼女さん「あのさ‥ちょっと言いにくいけど、いまごろ相手も同じこと思っているわよ、多分!」
おやおや?彼女さん、小岩の近くの川面にプカプカ浮いているカルガモさんと[普通に!]お話をしているようですね
…しかもこれは…恋バナでしょうか?
カルガモさん「え!!………、‥あぁ、やっぱりそうだよな…だけどさ!子供達が卵から孵った途端にオレを敵視してくるなんて!‥信じられないよ」
彼女さん「あなたのところ10羽だっけ?今年生まれたのは?」
カルガモさん「うん、そうだよ」
彼女さん「わんぱく盛りのおチビ達10羽か‥多分、奥さん、いや[お母さん]も子育てで手一杯で余裕ないんじゃないかなー」
カルガモさん ハッ!!(゜Д゜;)ガーン‥
カルガモさん「…そ、そうか、オレはまだ彼女と恋人気分だったんだけど…彼女はもうとっくに母親として頑張っていたんだ…そういう事なんだね、人間さん!」
彼女さん「んー、どうだろね。多分そうだとは思うけど、わたしあなたの奥さんと会った事ないからなー。ま、参考までにねー♪」
カルガモさん「ありがとー!人間さん、オレ今から頑張ってくるよー!」
彼女さん「うん、がんばれー♪」
バシャバシャバシャー!…と、カルガモさんはお母さんとおチビ達の元へ…今度は父親として飛んで帰って行ったようですね
彼女さんは静かに目を閉じて座っています
もうすっかりお日様は登っていて、全ての生き物を明るく照らしています
どうぞよい一日を
====================
カルガモ親子の微笑ましい行列は、都会でも時折見かける光景ですが…一体お父上はどこでどうしているんだろうか?。
この疑問はずいぶんと以前から持っていましたが、先日(5月の中頃だっけ)母鳥に追い立てられ、追い出されていたように見えるカルガモの(多分ね)お父上らしき姿をチラッと遠目に見かけた事がありました。
その後、遠くに見えるカルガモの群れと、その群れからつかず離れずついて回る一羽のカルガモさんが、辺りに注意深く目を配っているような光景を毎朝見かけていました。
川辺でいろんな生き物たちを見ていると、今まで知らなかった事や知識だけで分かったつもりになっていた事など、様々なことが実際に目の前で起こります。
動物たちの行動は、言葉を持たないヶ故に真摯で興味深いのです。
私達人間は口先と行動が乖離する不幸な生き物なのですが、野生の生き物たちを見続けていると、同じ生き物として学べるところや共感できるところ、そして生かせるところが沢山あり、それが私の心にドンドン溜まっていきました。
そして、(彼女さん)というキャラクターの口を借りて川辺での出来事を語らずにはいられなくなってしまう所まで来てしまい…とうとうヤッちまいました。
後悔はしていません。(笑)
とはいえこの小説モドキは、あくまでも私というオッサンの観念、感情という妄想を通して、川辺で見た事を解釈したショートストーリーです。
今後も不定期で連載するつもりですが、お目こぼし頂ければ幸甚に存じます。
230 拝