佛暦2561年 9月26日
あらゆる生きものに対して暴力を加えることなく、あらゆる生きもののいずれも悩ますことなく、また子を欲すなかれ。況や朋友をや。犀の角のようにただ独り歩め。
交わりをしたなら愛情が生ずる。愛情にしたがってこの苦しみが起こる。愛情から禍の生ずることを観察して、犀の角のようにただ独り歩め。
朋友・親友に憐れみをかけ、心がほだされると、おのが利を失う。親しみにはこの恐れがあることを観察して、犀の角のようにただ独り歩め。
子や妻に対する愛着は、たしかに枝の広く茂った竹が互いに相絡むようなものである。筍が他のものにまつわりつくことのないように、犀の角のようにただ独り歩め。
林の中で、縛られていない鹿が食物を求めて欲するところに赴くように、聡明な人は独立自由をめざして、犀の角のようにただ独り歩め。
仲間の中におれば、休むにも、立つにも、行くにも、旅するも、つねにひとに呼びかけられる。他人に従属しない独立自由をめざして、犀の角のようにただ独り歩め。
仲間の中におれば、遊戯と歓楽とがある。また子らに対する情愛は甚だ大である。愛しき者と別れることを厭いながらも、犀の角のようにただ独り歩め。
四方のどこにでも赴き、害心あることなく、何でも得たもので満足し、諸々の苦難に堪えて、恐れることなく、犀の角のようにただ独り歩め。
出家者でありながらなお不満の念をいだいている人々がいる。また家に住まう在家者でも同様である。だから他人の子女にかかわること少なく、犀の角のようにただ独り歩め。
葉の落ちたコーヴィラーラ樹のように、在家者のしるしを捨て去って、在家の束縛を断ち切って、犀の角のようにただ独り歩め。
しかしもしも汝が(懸命で協同し行儀正しい明敏な同伴者)を得たならば、あらゆる危機にうち勝ち、こころ喜び、気を落ち着かせて、彼とともに歩め。
しかしもしも汝が(懸命で協同し行儀正しい明敏な同伴者)を得ないならば、譬えば王が征服した国を捨て去るようにして、犀の角のようにただ独り歩め。
われらは実に朋友を得る幸せを褒め称える。自分よりも勝れあるいは等しい朋友には、親しみ近づくべきである。このような朋友を得ることができなければ、犀の角のようにただ独り歩め。
金の細工人が仕上げた二つの黄金の腕輪を、一つの腕にはめれば、ぶつかり合う。それを見て、犀の角のようにただ独り歩め。
このように二人でいるのならば、われに饒舌と諍いとが起こるであろう。未来にこの恐れのあることを察して、犀の角のようにただ独り歩め。
実に欲望は色とりどりで甘美であり、心に楽しく、種々のかたちで、心を攪乱する。欲望の対象にはこの患いのあることを見て、犀の角のようにただ独り歩め。
これはわたしにとって災害であり、腫れ物であり、禍であり、病であり、矢であり、恐怖である。諸々の欲望の対象にはこの恐ろしさのあることを見てとって、犀の角のようにただ独り歩め。
寒さと暑さと、飢えと渇えと、風と太陽の熱と、虻と蛇と、──これらすべてのものにうち勝って、犀の角のようにただ独り歩め。
肩がしっかりと発育し蓮華のようにみごとな象は、その群を離れて、欲するがままに森の中を闊歩する。そのように、犀の角のようにただ独り歩め。
集会を楽しむ人は、暫時の解脱に至るべきことわりもない。太陽の末裔(ブッダ)のことばをこころがけて、犀の角のようにただ独り歩め。
相争う哲学的見解を超え、(さとりに至る)決定に達し、道を得ている人は、「われは智恵が生じた。もはや他の人に指導される要がない」と知って、犀の角のようにただ独り歩め。
貪ることなく、偽ることなく、渇望することなく、(見せかけ)で覆うことなく、濁りと迷妄とを除き去り、全世界において妄執のないものとなって、犀の角のようにただ独り歩め。
義ならざるものを見て邪曲にとらわれている悪い朋友を避けよ。貪りに耽り怠っている人に、みずから親しむな。犀の角のようにただ独り歩め。
学識豊かで真理をわきまえ、高邁・明敏な友と交われ。いろいろと為になることがらを知り、疑惑を除き去って、犀の角のようにただ独り歩め。
世の中の遊戯や娯楽や快楽に、満足を感ずることなく、心ひかれることなく、身の装飾を離れて、真実を語り、犀の角のようにただ独り歩め。
妻子も、父母も、財宝も穀物も、親族やそのほかあらゆる欲望までも、すべて捨てて、犀の角のようにただ独り歩め。
「これは執着である。ここには楽しみは少なく、快い味わいも少なくて、苦しみが多い。これは魚を釣る釣り針である」と知って、犀の角のようにただ独り歩め。
水の中の魚が網を破るように、また火がすでに焼いたところには戻ってこないように、諸々の(煩悩)の結び目を破り去って、犀の角のようにただ独り歩め。
俯して視、とめどなくうろつくことなく、諸々の感官を防いで守り、こころを護り慎み、煩悩の流れ出ることなく、煩悩の火に焼かれることもなく、犀の角のようにただ独り歩め。
葉の落ちたパーリチャッタ樹のように、在家者の諸々のしるしを除き去って、出家して袈裟の衣をまとい、犀の角のようにただ独り歩め。
諸々の味を貪ることなく、えり好みをすることなく、他人を養うことなく、戸ごとに食を乞い、家々に心をつなぐことなく、犀の角のようにただ独り歩め。
こころの五つの覆いを断ち切って、すべて付随して起こる悪しき悩み(随煩悩)を除き去り、なにものかにたよることなく、愛念の過ちを断ち切って、犀の角のようにただ独り歩め。
以前に経験した楽しみと苦しみとを擲ち、また快よさと憂いとを擲って、清らかな平静と安らいとを得て、犀の角のようにただ独り歩め。
最高の目的を達成するために努力策励し、こころが怯むことなく、行いに怠ることなく、堅固な活動をなし、体力と智力とを具え、犀の角のようにただ独り歩め。
独座と禅定を捨てることなく、諸々のことについて常に理法に従って行い、諸々の存在には患いのあることを確かに知って、犀の角のようにただ独り歩め。
妄執の消滅を求めて、怠らず、明敏であって、学ぶこと深く、こころをとどめ、理法を明らかに知り、自制し、努力して、犀の角のようにただ独り歩め。
音声に驚かない獅子のように、網にとらえられない風のように、水に汚されない蓮のように、犀の角のようにただ独り歩め。
歯牙に強く獣どもの王である獅子が他の獣にうち勝ち制圧してふるまうように、辺地の坐臥に親しめ。犀の角のようにただ独り歩め。
慈しみと平静とあわれみと解脱と喜びとを時に応じて修め、世間すべてに背くことなく、犀の角のようにただ独り歩め。
貪欲と嫌悪と迷妄とを捨て、結び目を破り、命を失うのを恐れることなく、犀の角のようにただ独り歩め。
今の人々は自分の利益のために交わりを結び、また他人に奉仕する。今日、利益をめざさない友は得がたい。自分の利益のみを知る人間は、汚らしい。犀の角のようにただ独り歩め。
(中村元 訳/ブッダのことば スッタニパータ より)
230 拝
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