旅先で何も考えず、ただぼーっとしている時間が好きだ。
寧ろそんな時間を求めて旅に出ているのかもしれない。
心を締め付けていた箍が取り外され、意識が自然の中にゆっくりと溶け込んで
いつの間にか周囲の世界と同化され、暫くしてはたと気がつくと
浦島太郎のように小半時が過ぎ去っている。
心という言葉はもとは「凝る」からきているのだと、ものの本に書いてあった。
凝りから解き放たれ無辺境に漂い、時の流れの縛りからも自由になれる。
それを味わいたくて旅に出ているのかもしれない。
翌朝、裏磐梯の雄子沢から入りブナ林を抜けて、雄国沼まで登ってきた。
ニッコウキスゲで知られる雄国沼。残念ながら今年は当たり年とはいかなかったようだ。
雄国沼は標高1100m。猫魔火山のカルデラにできた湖沼。
湿原に咲いているのはキスゲだけではない。トキソウやサワランも木道の
下にひっそりと花をつけている。
トキソウ(朱鷺草、鴇草)は、花色が朱鷺の翼の色に似ていることから
より一層朱色の濃いサワラン(沢蘭)。別名アサヒラン(朝日蘭)。
沼の反対側を歩くと 一際派手な色彩を持つコウリンタンポポがさいていた。
これはヨーロッパ原産の帰化植物。最近山道でもよく見かけるようになった。
沼の畔にはウツボグサ
枯れかけたイチヤクソウ
ウラジロヨウラクも咲いている。
どうやら天気の心配もないようなので、雄国山へ向かう。
シラタマノキの花?ちょっと自信がない。あとで考えると花を少しかじってみるのだった。
シラタマノキならば特有のサリチル酸臭がするはずだ。
ヨツバヒヨドリはたくさん見かけたが、まだ花は開いていなかった。
ウツボグサで吸蜜しているのはコチャバネセセリ
途中雄国沼を見下ろす。白い道は湿原を一周している木道。
キスゲの黄色はほとんどわからない。
サンカヨウはとうに実をつけていた。
30分ほどの登りですぐに頂上。
頂上からは眼下に雄国沼の全景が広がる。
雄国山からは雄国パノラマ探勝路を下った。この下りが結構長かった。
マタタビの花
とがった頭のテングチョウ
白樺の幹には黒いカメムシ、名前は分からない
ヤマホタルブクロ
ナルコユリ
アオヤギソウ
ユキザサの実
一時間半、暑い中のだらだらとした下りを何とか下りきって
やっとバス停のあるラビスパ裏磐梯へ着いた。バスが来るまでは
未だ一時間近くあるのでバス停近くの日陰で休んでいたら、何と
20mほど前方にクマを発見しびっくりした。
体長は1m弱でまだ若熊といったところか。それにしてもこんな車の
ひっきりなしに通行しているところでクマに出会うとは……。
もっとも山の中で出会わなかっただけ、運が良かったというべきなのだろう。
暫く辺りをうろうろしてようやく山の方に戻っていった。
宿に戻ってクマの話を主人にしたら、「あぁよく見かけるんですよ」と
事も無げに返された。 この辺で。