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ノーベル生理学・医学賞を受賞するカリコ氏ら「困難にも決して諦めず」2023.10.3橋本 宗明

2023-10-03 18:05:53 | 連絡
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橋本 宗明
はしもと・ひろあき
日経ビジネス編集委員 日経バイオテク編集委員

1987年京都大学農学部卒業、同年日経マグロウヒル社(現日経BP)に入社。
医学雑誌の日経メディカル、医療経営誌の日経ヘルスケア、健康誌の日経ヘルス、日経ビジネス、日経バイオビジネスなどを経て、2006年にバイオ産業の専門ニューズレター日経バイオテクの編集長に就任。
以来、一時薬剤師向けの日経ドラッグインフォメーションの編集長を務めるが、10年以上にわたって日経バイオテク編集長を務め、日本のバイオテクノロジー産業や医薬品業界の研究開発と産業化の動向を報道してきた。
 

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スウェーデンのカロリンスカ研究所は10月2日、2023年のノーベル生理学・医学賞をドイツのビオンテック社外顧問(前上級副社長)であるカタリン・カリコ氏と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン氏に授与すると発表した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するメッセンジャー(m)RNAワクチンの実用化を可能にした基盤技術の研究が評価された。
授賞理由は「COVID-19に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にした核酸修飾に関する発見」。
従来のワクチンは、不活化したウイルスそのものや、ウイルスが持つ特定のたんぱく質を接種することにより、ヒトの体にウイルスに対する免疫反応を誘導する。
mRNAワクチンは、特定のたんぱく質をつくり出すように設計されたmRNAを投与することにより、体の細胞の中で免疫反応を誘導するたんぱく質をつくらせる。
体外でたんぱく質をつくるのに比べて、速やかに量産できるなどの利点がある。
 ただ、mRNAワクチンに通常の核酸を利用すると、自然免疫と呼ばれる生体反応を刺激して過剰な炎症を生じさせたり、十分な量のたんぱく質をつくり出せなかったりすることが知られていた。
両氏は核酸を改変する修飾技術により、こうした課題を克服できることを見いだした。
 両氏は22年4月に来日し、国際科学技術財団が授与する日本国際賞の受賞会見を行っている。
来日時の会見に基づく記事をお届けする。
2022年4月15日、国際科学技術財団が授与する日本国際賞の受賞者らの会見が行われた。
22年の日本国際賞の受賞者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)向けワクチンの開発に貢献したドイツのビオンテック上級副社長のカタリン・カリコ氏と米ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン氏、環境分野の研究者である米スタンフォード大学のクリストファー・フィールド氏の3人。
カリコ氏とワイスマン氏は共同で会見に臨み、COVID-19ワクチンに結びついたメッセンジャー(m)RNA研究の経緯や今後の展望などを語った。 
日本国際賞は、科学技術の進歩のための研究開発活動を奨励することなどを目的に日本政府の構想に対して民間からの寄付を基に設立されたもので、1985年に第1回の授賞がなされた。
2022年の受賞者は1月に発表され、4月13日に天皇、皇后両陛下が出席して授賞式を開催。14日にオンラインでの受賞記念講演の収録、15日に受賞者による記者会見が開かれた。
カリコ氏、ワイスマン氏は、1997年ごろからmRNAを医薬品にすることを目指した共同研究を開始。
2005年8月にRNAの一部を改変して過剰な炎症反応が生じない方法を見いだした。
この発見が、米ファイザーと独ビオンテック連合、米モデルナの両陣営のmRNAワクチンのベースになっている。
 少し説明すると、ゲノムを構成するDNAは4種類の核酸と呼ばれる物質が二重らせんの数珠状につながっており、その配列に遺伝情報が記録されている。DNAに記録された遺伝情報は、1本鎖のmRNAに写し取られ、その配列を鋳型にたんぱく質がつくられる。
このため、DNAやmRNAを人体に直接投与すれば、体内でたんぱく質がつくられて、ワクチンや医薬品として働くというアイデアは古くからあった。
1990年代初めには、人工的に合成したmRNAを用いた動物実験が幾つかの研究グループから報告されている。
 しかしながら、mRNAは不安定な物質で、かつ動物に投与すると激しい炎症反応を起こした。
このため90年代後半には、DNAはともかくmRNAを医薬品やワクチンにする研究は下火になっていった。
だが粘り強く研究を続けていたのがカリコ氏とワイスマン氏だった。
ペンシルベニア大学の上級研究員だったカリコ氏は、97年にペンシルベニア大学に研究室を立ち上げたワイスマン氏と共同研究を開始。
mRNAを投与すると免疫反応により強い炎症が生じるのに、自己が持つmRNAに対してはなぜ免疫反応が生じないかを明らかにした論文を2005年、「イミュニティー」誌に発表した。
このうち、RNAを構成する「ウリジン」という核酸を、「シュードウリジン」と呼ばれる少し改変した核酸に置き換えるというアイデアが、mRNAワクチンに採用されている。さらに08年には、シュードウリジンに置き換えると、生体内でつくり出すたんぱく質の量が増えることも発表している。
この研究は当初はあまり注目されなかったが、大いに注目した研究者が少なくとも世界に2人いた。
モデルナの創業に参画した米スタンフォード大学にいたデリック・ロッシ氏と、トルコ出身で独マインツ大学にいたウール・シャヒン氏だった。
シャヒン氏はmRNAベースの治療薬の開発を目指すビオンテックを08年に創業し、13年にカリコ氏を副社長として招いた。 
 ハンガリー出身のカリコ氏は苦労を積み重ねてきた人だ。
ハンガリーのセゲド大学を卒業し、ルーマニアやセルビアとの国境に面したセゲド市にあるハンガリー科学アカデミーの生物学研究所でRNAなどの研究に携わっていたが、30歳になった1985年に、研究費が続かず、製薬企業からの支援も失った。「
ハンガリーを離れたくはなかったが、米国に行かなければ研究を続けられない」状況になり、2歳の娘と夫とともに渡米した。当
時、共産圏のハンガリーでは外貨の持ち出しが制限されており、自動車を売って得た英ポンドをテディベアのぬいぐるみに隠して出国したエピソードは語り草になっている。 
「その話は真実だ。誰も頼る人がいない状態で米国に渡った。十分なお金もなく、恐ろしかった」と、カリコ氏は会見で振り返った。 
ただ、米国に渡った後も厳しい状況に遭遇した。89年にはペンシルベニア大学で助教のポストに就くが、95年には研究費を得られなくなってそのポストを失った。
だが、「『どうして私が』と考えるのではなく、『何をすべきか』と前向きに考えるようにした。
自分を見失わない。他人のせいにしない。
<「暗いと不平を言うよりも、進んで灯りをつけ、希望を見出しましょう」
「世界標準の現場・現物・現実取材客観情報から正しい判断が得られる!」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E3%81%AE%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%97%E3%81%B3>
https://tomoshibi.or.jp/radio/r-program.html

常に自分の人生に必要なものは何かを考えることで、ギブアップせずにやってこられた」と、カリコ氏は語った。
粘り強さでは、ワイスマン氏も同じかもしれない。2005年にmRNAに関する論文を発表した際には、「大きな反響があると思っていた。電話が鳴り続けるのではないかと思っていたが、1カ月で1~2本あっただけで驚いた」と、ワイスマン氏は会見で口にした。
「だけど炎症を抑えることができればRNAを治療に使えると確信して、研究を続けた。決して諦めはしなかった」
そんな両氏の研究に光を当てたのが、COVID-19が世界を襲ったことだった。COVID-19がなければこのイノベーションがどう扱われていたのかは分からないが、粘り続けた両氏の研究が感染の拡大から世界を救ったのは確かだろう。今回の日本国際賞をはじめとする様々な表彰という形でたたえられ、ノーベル賞の有力候補と誰もが認めている。  
〇遺伝子治療は素晴らしいが、使えないと意味がない

<私が日本電信電話公社に入社した当時(1970年代前半)、武蔵野電気通信研究所の正面には噴水のある池があり、その池の傍に石碑が建てられていた。現在、その石碑は武蔵野研究開発センターの本館1階奥に移設され、研究者達を見守るようにひっそりと鎮座している(写真)それには1948年に発足した電気通信研究所(NTT研究所の前身)の初代所長である、吉田五郎氏が掲げた「知の泉を汲んで研究し実用化により、世に恵を具体的に提供しよう」という言葉が刻まれている(1)。同氏は、「実用化」という言葉とともに、「具体的」という言葉も使って、研究成果を具現化して世に提供することにより、社会の繁栄に貢献するという強い思いを言い表した。時代の変遷とともに様々な価値観が変容していく中で、石碑に刻まれた精神が当社においても末永く継承されていくことを願う。
実用化への道が開かれたmRNAは、新しいワクチンや医薬品のモダリティー(治療手段)として今や大きく注目されている。
ワイスマン氏は感染症向けのワクチンでは、COVID-19、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)というコロナウイルスによる感染症に幅広く有効なワクチンの開発を進めており、「数年後には実用化できるだろう」と語った。
また、インフルエンザに対しては、「10年に1回接種すればいいような、有効性が長く続くワクチン」を検討していることも明かした。
治療薬では既に、英アストラゼネカがモデルナと共同で、心不全患者の心筋に、新しい血管の形成を促すたんぱく質をつくるmRNAを投与する臨床試験を行っており、「臨床試験で症状を改善したという結果が既に報告されている。これが最も承認に近いだろう」とカリコ氏は語った。 
あるいは、患者の免疫細胞を体外に取り出して遺伝子を改変して戻すキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法と呼ばれるがん治療などについても、mRNAを投与することにより体内で免疫細胞の遺伝子を改変する治療が検討されていることを紹介した。
ワイスマン氏は、「遺伝性疾患を治療できる遺伝子治療は素晴らしいが、使えないと意味がない。
数百万ドルもかかるような遺伝子治療を、例えばアフリカに何万人もの患者がいる鎌状赤血球症に対して使えるだろうか。
我々は患者から細胞を取り出さずに、mRNAを投与するだけで遺伝性疾患を治療する研究を行っている。
遺伝性疾患治療のゲームチェンジャーになる」と語り、mRNAの活用により、高額化が問題となっている革新的な治療法を、より一般的なものにできる可能性を示唆した。
COVID-19で脚光を浴びた両氏の研究は、様々な疾患を対象にその活躍の場を探っているところだ。将来的に、人類にどれほどの福音をもたらすかが注目される。 



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