今度は亜細亜大の中国人教授が中国で“失踪”、中国共産党の権力抗争に巻き込まれた可能性も#2024.4.23(火)# (ジャーナリスト・吉村剛史)
吉村 剛史のプロフィール
日本大学法学部卒後、1990年、産経新聞社に入社。
阪神支局を初任地に、大阪、東京両本社社会部で事件、行政、皇室などを担当。
夕刊フジ関西総局担当時の2006年~2007年、台湾大学に社費留学。
2011年、東京本社外信部を経て同年6月から、2014年5月まで台北支局長。
帰任後、日本大学大学院総合社会情報研究科博士課程前期を修了。
修士(国際情報)。
岡山支局長、広島総局長、編集委員などを経て2019年末に退職。
以後フリーに。主に在日外国人社会や中国、台湾問題などをテーマに取材。
東海大学海洋学部非常勤講師。台湾発「関鍵評論網」(The News Lens)日本版編集長。著書に『アジア血風録』(MdN新書、2021)。
共著に『命の重さ取材して―神戸・児童連続殺傷事件』(産経新聞ニュースサービス、1997)
『教育再興』(産経新聞出版、1999)、
『ブランドはなぜ墜ちたか―雪印、そごう、三菱自動車事件の深層』(角川文庫、2002)、
学術論文に『新聞報道から読み解く馬英九政権の対日、両岸政策-日台民間漁協取り決めを中心に』(2016)など。
日本記者クラブ会員。
日本ペンクラブ会員。
ニコニコ動画『吉村剛史のアジア新聞録』『話し台湾・行き台湾』(Hyper J Channel)等でMC、コメンテーターを担当。
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〇またも中国人教授が中国で行方不明に
今度は亜細亜大学の中国人教授が、中国に一時帰国したまま所在不明となっていることが4月22日までに関係者らの証言で明らかになった。
消息不明となっているのは、亜細亜大学都市創造学部都市創造学科で国際法や政治学などを受け持っている范雲濤教授(61)である。
取材を進めると、同教授は中国の国政助言機関、人民政治協商会議(政協)の王滬寧主席とパイプがあることや、日本の学生を対象にした中国の“プロパガンダ事業”活動歴、また家族が警察とトラブルになった問題などが関係者らの証言で新たに浮上した。
それらの行動のいずれかが中国当局から問題視された可能性も指摘されている。
日本在住の中国人研究者としては、今年3月に神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部グローバル・コミュニケーション学科の中国人教授、胡士雲氏(63)が、范氏と同様、昨年夏に一時帰国して以降所在不明となっていることが本誌報道で表面化したばかり。
いずれもスパイ関連を取り締まる国家安全部(省)などの中国当局に拘束された可能性が指摘されており、関係各方面が注目している。
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(参考)中国当局が拘束か、神戸学院大の超大物教授が昨夏に一時帰国して以来「半年以上行方不明」状態(JBpress:2024年3月16日)
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〇王滬寧氏とパイプ
今回新たに“失踪”状態にあることが判明した范氏は、亜細亜大の広報担当者らによると、上海復旦大から日本の京都大学大学院に留学し、法学博士を取得。大阪国際大、龍谷大で非常勤講師を務めた後、中国弁護士として東京の法律事務所にも所属したことも。
上海交通大助教授、上海市外国貿易大客員教授などを経て2006年4月より亜大で現職。
亜細亜大によれば、昨年2月に一時帰国した本人と連絡がとれなくなり、
日本在住の家族とのやりとりを通じて昨春以降は病気休職扱いとし、
担当講義やゼミなどは他の教員による代講に切り替えたという。
范氏と交流があった日本人研究者らによると、「上海復旦大学で学んだことのある研究者」という共通点から、范氏は中国共産党序列4位で中国人民政治協商会議主席の王滬寧氏
ともパイプが太かったとされ、コロナ禍前には、日本の学生を中国に招待する一種のプロパガンダ企画を展開していたこともあるという。
この時、范氏から複数の日本人研究者に対して、「教えている学生らに参加をうながしてほしい」との依頼がなされていたというが、「政治色が強すぎる」として断られる場面もあったという。
また別の証言によれば、2020年ごろ、范氏の家族が都内で警察の職務質問を受け、その際の所持品の特殊なボールペンが凶器にあたるとして軽犯罪法違反の容疑をかけられたことがあった。
范氏はこの一件に対する強い憤りから、法律の専門家として日本の警察の言動を問題視していたという。
〇一連の事件に透けて見える権力闘争
中国では2014年に「反スパイ法」が制定され、
23年にはこれを改定し、「スパイ」としての摘発対象拡大に乗り出している。また
国家機密のあつかいを定めた「国家秘密保護法」についても中国共産党による指導と関連部門の権限を強化する形で今年2月に改定しており、5月1日から施行予定だ。
范氏は連絡が途絶える前、周囲に対し、
当局から「同行を求められ、尋問を受けた」などと話していたとされる。
日本在住の研究者が重点的な摘発対象とされている可能性もある。
一方、今年3月に本誌指摘で“失踪”状態が表面化した神戸学院大の胡氏は、
SNSでの過激な発言で“戦狼外交官”として知られる中国駐大阪総領事館の薛剣総領事(大使級)と同じ江蘇省出身で、10人ほどいる「総領事顧問」のひとりでもあった。
筆者は、2016年11月に中国・江蘇省に業務目的で一時帰国した岡山県の華僑華人団体のトップが翌年3月まで中国当局にスパイ容疑で身柄を拘束された事案を、2017年、当時所属していた産経新聞紙上でスクープしたことがある(後にこの一件は拙著『アジア血風録』[MdN新書]の中で詳述)。
この団体トップが拘束中、かつて岡山県内で企画した王毅元駐日大使(当時)の講演会での言動を徹底的に調べられた、と証言したことから、拘束は反王毅勢力による派閥抗争だった可能性も指摘されてきた。
王毅氏は現在、中国共産党政治局員兼外相として習近平指導部の重鎮である。
そして駐大阪総領事の薛剣氏は反王毅派と目されている。
それだけに薛剣氏と同郷で総領事顧問を務めていた胡士雲教授の“失踪”に関して、在阪華僑、華人らのなかには「やはり一種の政争で、真のターゲットは薛剣総領事なのではないか」と考える者もいる。
〇想像を絶する権力闘争の激しさ
これに対し、中国共産党序列4位の王滬寧氏
は江沢民、胡錦涛、習近平政権を理論面で支える「三朝帝師」の異名を持ち、
今4月10日には北京を訪れた台湾の馬英九前総統を習近平国家主席らとともに出迎えた「軍師」級の最高幹部のひとりだが、
関係者の一部には「力のある幹部だけに足の引っ張り合いなど、何らかの政争が水面下で展開され、近しい人物を叩いてホコリを立てようとしている可能性もあるのではないか」との見方もある。
今回の范雲濤教授の“失踪”に関し、亜細亜大では「個人情報保護の観点から、休職者に関して、休職という事実以外は明らかにしておりません。本学としては、引き続き、ご本人の復職を切に願い、適宜、必要な対応をとってまいります」との声明を発表するにとどめている。
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