中国は1980年代から1990年代にかけて、経済を共産主義から資本主義へと転換させる改革開放を実施しました。
これが中国から極度の貧困を撲滅したという見方が多くのエコノミストの間で定説となっていますが、実際は逆に貧困に苦しむ低所得層を大量に生み出したと指摘する論文が発表されました。
Full article: Capitalist reforms and extreme poverty in China: unprecedented progress or income deflation?
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13563467.2023.2217087
Full article: Capitalist reforms and extreme poverty in China: unprecedented progress or income deflation?
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13563467.2023.2217087
China’s capitalist reforms are said to have moved 800 million out of extreme poverty – new data suggests the opposite
https://theconversation.com/chinas-capitalist-reforms-are-said-to-have-moved-800-million-out-of-extreme-poverty-new-data-suggests-the-opposite-216621
世界銀行の報告によると、中国では1980年以降の40年間で1日当たりの収入が1.9ドル(約280円)を下回る人が7億7000万人も減少したとのこと。
その結果、中国における極度の貧困率は世界最高だった1981年の88%から2018年には事実上ゼロとなりました。
このレポートの中で世界銀行は、「中国の貧困との戦いは、人類史上最も多くの人々に利益をもたらした」と称賛する中国の高官のコメントを紹介し、中国は他の発展途上国にとっての手本であるとしています。
しかし、一部の経済学者はこの見方に懐疑的です。
このレポートの中で世界銀行は、「中国の貧困との戦いは、人類史上最も多くの人々に利益をもたらした」と称賛する中国の高官のコメントを紹介し、中国は他の発展途上国にとっての手本であるとしています。
しかし、一部の経済学者はこの見方に懐疑的です。
オーストラリア・マッコーリー大学の非常勤フェローであるディラン・サリバン氏らによると、世界銀行の計算は購買力平価という指標を使っているとのこと。
購買力平価は、一般的な人々の購買力を国家間で比較するのに使われる標準的な手法で、有名なビッグマック指数もその1つです。
購買力平価は、一般的な人々の購買力を国家間で比較するのに使われる標準的な手法で、有名なビッグマック指数もその1つです。
しかし、この手法は生きるのに必要な最低限のサービスや商品に対する購買力が考慮されていないため、貧困の改善を推し量る指標としては限界があると批判する文献が増えています。
今回、査読付き学術雑誌・New Political Economyに掲載された論文の中で、サリバン氏らは経済協力開発機構(OECD)が発表したデータを元に中国における極度の貧困率を算出し、基本的なニーズを満たす費用に対する所得を評価しました。
分析に使われた「生きる上で最低限必要な物品」は1日に必要なカロリー、必須栄養素、3平方メートルの住宅費、衣類、暖房器具、石けんの価格など多岐にわたります。
この研究の結果、社会主義時代末期にあたる1981年から1990年の中国における極度の貧困率はわずか平均5.6%で、発展途上国の中で最も低い部類だったことがわかりました。
国の規模が同程度の発展途上国と比較すると、インドは51%、インドネシアは36.5%、ブラジルは25.9%でした。
しかし、中国の貧困率は市場改革を境に激増し、1995年のピークには67.7%に達しました。
しかし、中国の貧困率は市場改革を境に激増し、1995年のピークには67.7%に達しました。
これは、価格規制の緩和により食費や住宅費が高騰し、低所得層の家計が圧迫されたのが原因と考えられています。
以下は、サリバン氏らが算出した中国の極貧人口(赤線)を、世界銀行の貧困線(黒線)と比較したグラフです。
生きる上で必要な衣食住の価格を踏まえて計算すると、一般的に信じられている定説とは対照的に、1980年から1990年ごろまでの中国の貧困率が低かった一方、1990年代半ばには非常に高くなっていたことがわかりました。
1990年以降、中国の経済はそれまでの4倍に成長しましたが、2018年の貧困率は1981~1990年とほぼ同じ水準にとどまっており、世界銀行が算出した「事実上ゼロ」には至っていません。
研究者らは、以前の中国における貧困率が低かったのは、社会主義的な政策が食料や住居の価格を統制していたからだと考えています。
物価以外にも、平均寿命や乳幼児死亡率、平均就学年数、電気を利用できる人口の割合など、多くの社会指標が、サリバン氏らの推測を裏付けているとのこと。
こうした点から研究チームは、「中国の目覚ましい産業発展は、近代的な電化製品や情報技術、その他の商品へのアクセスを大幅に改善させましたが、基本的な栄養素や住居へのアクセスに関して言うと、中国の人々の多くが市場経済への移行の中で苦しんでいるのが目に浮かびます。
産業の発展は重要ですが、少なくとも資本主義改革と社会政策の縮小という文脈では『成長だけでは極度の貧困を減らすことはできない』ということを示唆している点で、これは重要な発見です」と述べました。
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