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・その日は晴れの披露宴である。
新婚三日目の夜は、
親族を招いて、
盛大な祝宴が張られる。
夕霧右大臣は、
薫中納言、
(表向きは源氏を父とする兄弟)を、
相伴の客として誘った。
薫は快くやってきて、
何くれと協力し世話する。
夕霧は一時は、
六の君の婿に薫をと、
考えたこともあったが、
薫にその気がなかった。
匂宮は宵を少し過ぎたころ、
来られて六の君の居間へ入られる。
その間に宴の用意はととのう。
寝殿の南の間、
東寄りに宮のお席が設けられる。
高坏が八つ、
その上に料理を盛った、
銀の皿が並べられる。
小さい台二つには、
花足のついた銀の皿、
これには三日夜の餅が飾られている。
夕霧も席につき、
宮のお出ましを、
女房をやっておすすめする。
夕霧の北の方、
雲井雁の兄弟などだけが、
席についていた。
宮がお出ましになって、
あるじ側の頭の中将が盃を捧げ、
お膳をお勧めする。
客たちも次々宮に盃をお勧めする。
ことに薫がしきりに酒を、
おつぎするのを、
宮は苦笑して受けられる。
薫は真面目に祝宴の接待につとめた。
下にも置かぬ婿君の、
もてなしの花やかさが、
薫の家来たちには、
うらやましく見えた。
宮家のお供にひきかえ、
ろくに振舞酒にもありつけなかった、
薫の前駆の一人が、
帰ってからぶつぶついっているのが、
薫に聞こえた。
「あ~あ、
どうしてうちの殿は、
大臣の婿君に納まって、
下さらなかったんだろう。
味気ない独身生活の、
どこが面白くて・・・
こちらまで廻り合わせが悪い」
薫はおかしかった。
それにしても気がかりは、
先ごろ帝が洩らされた、
内意のことだった。
(ほんとうに姫宮を、
ご降嫁させられる、
おつもりだろうか。
気のすすまぬ自分はどうすれば、
いいのだろう。
しかしその姫宮が亡き大君に、
似ていらっしゃるとしたら、
どんなに嬉しいだろう)
と思うと、
この縁談に全く気が動かないわけでも、
なかった。
匂宮は今は全く、
二條院へは来られないでいられる。
中の君のことも、
お気がかりではあるものの、
六の君にすっかりお心を、
奪われていられる。
婿君として宮はもはや、
昼間も六の君のお部屋で、
過ごされる。
六の君は、
非のうちどころのない美女で、
二十を一つ二つ越えていたから、
いまを盛りの年頃。
新婚夫婦に仕えるのは、
美しく若い女房三十人ばかり、
女童が六人。
夕霧の北の方(雲井雁)の大君を、
東宮にさしあげたときよりも、
この度の結婚は美々しかった。
宮はもはや、
二條院へお出かけになること、
叶わぬお身となられた。
下々の者のように、
ふと思い立って、
というわけにはいかない。
宮はそのまま六條院の南の町に、
(ここはその昔、
亡きお祖母さま、紫の上の手もとで、
幼い宮がお育ちになったところである)
住んでいられる。
二條院の中の君は、
いずれこうなることは、
予想していたものの、
宮のお立場を、
察し得るわけでもないので、
(ご婚儀以来、
ふっつりとお見えにならなくなった。
こうもあっさりとお見限りに、
なるなんて。
数ならぬわたくしなどが、
世間に顔出しするほうが、
間違っていた。
やはり宇治に籠っていれば、
よかった)
と思うとわが身が悲しかった。
宇治へ帰ろう、
中の君は思う。
きっぱりと宮との仲を、
断つというのではない、
宇治にしばらく退いて、
心を落ち着けたい、
と思った。
頼る人といえば、
薫しかなかった。
中の君は薫に手紙を書いた。
「先日の父の法要のこと、
阿闍梨が知らせてきましたので、
詳しく承りました。
ほんとにありがとうございます。
もしできましたら、
お目にかかってわたくしからも、
お礼を申しあげたく存じます」
薫はこの手紙を受け取って、
胸がときめいた。
いつもはこちらから出した、
手紙の返事にもはかばかしい、
言葉を書かないひとが、
「お目にかかりたい」
と書いてよこした。
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(次回へ)