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・おかげさまで私も気が晴れて、
ぐっすり眠れた
あくる朝は早く駅へ行って、
スポーツ新聞を二、三種買う
いっぺん見た試合を、
こんどは活字でくりかえし読みたいとは、
どういう心理なのだろう
今夜も引き続き巨人阪神戦である
テレビの前へ坐ったところへ、
次男が来た
「今夜こそ雪辱戦でっせ」
「おや、また来たの、
何もここまで来んかて、
自分の家で見たらええやないの」
「いや、
おばあちゃんのギュウいう顔、
見とうてな、
それが肴や」
次男は家では、
タテのものをヨコにもしないと、
嫁が嘆いているが、
ウチへ来ると、
自分でさっさと冷蔵庫から、
缶ビールなど取り出してくる
二回表、
シピンが本塁打で二点
「どんなもんじゃ、
巨人先行ですんまへん」
と次男が手を叩いていたが、
三回裏、真弓が同点二ランである
次男はテレビに向かい、
「平気平気、
今日の堀内は気合はいってる
今日は頂きや
おばあちゃんギュウいわしたれ」
「何いうてんねん、
堀内は中盤でおろさはるねん
それにくらべ、
阪神の工藤はよう投げてはる
私ゃ、じっくりしている工藤が、
好きやねえ」
「じっくりしてるも、
くそもあるか
堀内とはくらべものにならんわい」
試合は同店のまま、
ニッチもサッチもいかぬ、
というところで、
夕べと同じ、
つばぜりあいが続いている
九回表まで巨人は無得点であった
九回裏で阪神は、
一死後にラインバックが二塁打を打ち、
島野が代走に送られた
そのあたりから、
球場内もアナウンサーも昂奮してしまって、
よくみきわめられない
巨人の堀内投手は夕べの佐野を、
敬遠しているらしい
次のバッターは竹之内であった
竹之内の打ったタマは、
たよりなげにセカンドのほうへ、
フワフワと落ちてゆく
淡口がけんめいに追いかけてゆくが、
ポロリとグラブからこぼしてしまった
足の早い島野がそのすきに、
かけぬけて、
これで二日続きのサヨナラ勝ち
阪神ナインは固まり、
もんどり打って喜んでいる
「どうもすみませんねえ
二晩続けて勝たせていただいて
お気の毒やこと」
私がこらえきれず、
ニヤッとすると、
「くそっ!」
と次男は拳でテーブルを叩き、
髪をかきむしるのである
こういうのをいじめるのは、
楽しい
「堀内の名球会入りもお流れか、
可哀そうに」
「ちゃう、よう投げた
堀内が九回まで持ちこたえたんは、
頭脳的投球をしたからや」
「堀内だけでは舞が舞わへん
まわりが堀内見殺しにした
巨人は何してはるのん」
「へん、
そいう阪神こそ、
故障だらけやないか」
ケンカしあいながら、
次男は帰ろうともしない
さらに新しい缶ビールを開け、
快さそうにワルクチをいっている
その顔は晴れ晴れと輝いている
もしかすると、
ウチはケンカ道場、
私は荒気でもって、
荒気をやわらげるという、
荒気の現神様かもしれない
荒姥こそ、
荒気なごみの教祖さまなのだ
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(了)