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・私は曽野綾子さんと一緒に旅したことがあったが、
曽野さんは堂々とした流暢な英語を操り、
全く頼もしかった。
とてものことに私は、
曽野さんとかホトトギス氏、
(同行の旅行社青年の姓が名作『不如帰』の主人公と同じなので)
の庇護がないと、外国へは出かけられない。
その点おっちゃんは気楽で、
「なに、その場になれば何とかなります」
「おっちゃんは昔の教育受けた医者だから、
ドイツ語はいけるんでしょ、
次に着くのはフランクフルトだよ」
「ワシのは古いことなので、腐ってしもた」
「しかしカルテはドイツ語でしょう」
と私も執拗なのだ。
「カルテは決まったコトバしかない。
思いがけん言葉は出てきませんからな」
私は台湾、香港は別として外国へ行くと、
どうもコンプレックスを感じていけない。
建物が巨大すぎる、
何もかも高いところについてる、
言葉がわからない、
女の人が堂々としてる、
なんてのに圧倒されるのだが、
おっちゃんは全くそれはないという。
尤もまだ外国のトバ口である。
太陽はやっとフランクフルトで沈み、
美しい夜になる。
ここの空港の見事さは、
あとで見たドゴール空港の上をゆく気がする。
空港の従業員はたてものの中を自転車で、
きびきびと走り回っていた。
空港ショップの人も、コーヒー店の女も、
「つれづれなるままに」という感じではない。
モスコー空港の従業員たちはそうであった。
最新の近代的な磨き立てた空港で、
きびきびと働いているのである。
ここからパリまで一時間。
パリへ着くと夜も遅く、十時半。
パリの空港の雰囲気がまた違う。
空港の空気はやわらかく、
女の声のフランス語のアナウンスは歌うようである。
目のさめるような金髪美人が、
赤いセーターと赤いスカートで歩いていると、
両替の窓口の男もポーターもおっちゃんまで、
じ~っと視線をあてて、美人の行く方へ首を曲げる。
「かないませんなあ、
女の子が通り過ぎるまで手を止めて見てるんですから」
ホトトギス氏は、円をフランに替えてきて、
男たちのワルクチをいった。
今夜はパリに一泊して翌朝ローマという、
ちょっと勿体ない旅、
空港からホテルまで乗ったタクシーの運転手は中年のおばさん、
助手席に犬を連れていた。
十時半という時間なのに、
けなげに働いている中年おばさんには感動する。
ただ女性運転手の困るところは、
荷物をトランクに積むのを手伝わないことである。
(それは男の仕事でっしゃろ)
という顔で、腰に手をあてて見ている。
しかしこのおばさんは愛嬌のある方で、
ホテルの名をホトトギス氏がいうと、
地図を出して場所をたしかめ、
「うい」といった。
犬はかなり大きいヤツ、
車に長年乗り慣れているのか、
うずくまっていたのがおもむろに立って、
うしろの席をじろりと見、
(野郎ども、乗ったか)という感じで、
ひと声「ワン」と吠え、
私たちは度肝をぬかれた。
パリの運転手は、
隣の席に犬を乗せているのが多いようである。
女性運転手だから乗せてるのかと思ったら、
そうでもないらしい。
四人でタクシーに乗ろうとしたら、
横の犬を指さして両手を広げ首をすくめる運転手もいたから。
三人以上乗せたくないためも、あるかもしれない。
ホテルへ一泊し、
翌朝早くローマへたつ。
やってきた運転手は小粋で陽気なしゃべりんである。
空港へ行く途中の高速道路で、
夕べここでギャングとポリスがやりあった、
と片言英語でいう(らしい)
彼は昂奮してしゃべりまくり、
ハンドルから手を離して、新聞を肩越しに私たちに見せ、
見ると写真を指で叩いて説明し、
合間に指を二本出した。
「二人つかまった?」
と日本語でいうと、日本語わかるはずないのに、
「うい」という。
「そらええけど、ちゃんと運転してや、前見てや」
おっちゃんとホトトギス氏はハラハラしていた。
いよいよローマというので、
おっちゃんはネクタイをしめてる。
「出入国の折はちゃんとせな、係官に悪感情を与え、
国家規模の紛争を招くかもしれまへん。
何しろこのヒゲづらですから」
といっていたが、
パリでもローマでもヒゲ男は多く、
たちまちおっちゃんぐらいのヒゲでは目立たなくなった。
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(次回へ)