![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/34/b4aa4161ed662da9dd13a133eefd6e2d.jpg)
・台北の町はどんなところにも屋台が出ていた。
ここの屋台の特徴は、
たとえば銀座の屋台のように酔客が相手ではなく、
市民の台所がそのまま道路へ進出した、
という感じなのだ。
人々は家族連れで腰掛けに坐って、夜食を食べる。
朝から屋台の腰掛けは満員である。
安いから、家で食べるのも外で食べるのも変わらない。
妙齢の美人が、どんぶりを抱えて朝飯を食べている。
この間行ったのは冬だったが、
蓬莱島の台湾は冬も暖かく、
ポインセチアが赤々と咲いている道ばたで、
人々がのんびり坐っているのもいい眺めであった。
夜遅くまで屋台は賑わい、人々は群がる。
暖かい白い湯気が路上にただよい、
おいしそうな匂いは町にたちこめている。
屋台にはいろんなものがあって、
ラーメンやスープ、蒸し饅頭、豚の団子入りビーフン、
やきそば、ギョーザ、チマキ、ありとあらゆるものがあった。
そういうのが頭にあるので、
「ヨーロッパでも屋台はあるのかしら」
という疑問になったのだ。
そういえば十年前にいったヨーロッパ、
アムステルダムとフランクフルトでは屋台を見た。
アムスでは魚、フランクフルトではむろん、
ソーセージを煮たてていた。
「屋台というからにはやはり、
暖かい国のほうがおいしいのとちがいますか」
と私はカモカのおっちゃんに意見を述べた。
「屋台は行儀のええもんと違うから、
解放的な南ヨーロッパの方に多いかもしれません」
とおっちゃんもいった。
そういうわけで、
私は、ヨーロッパは初めてというおっちゃんと、
諸国訪台の旅に出たのである。
この「台」は台湾ではなく、屋台の台である。
また、屋台、縄のれん、赤提灯など、
安直なる店は都市のバイキンであるとすると、
諸国訪バイの旅、ということもできる。
ところで私もおっちゃんも、
外国語はサッパリなので、
言葉に堪能で事務に明るい旅行会社の青年が、
ついていってくれることになった。
同行三人、羽田からルフトハンザに乗り込む。
ゆく先はローマである。
ローマなら古き都であるから、
屋台や赤提灯ふうな店も多いであろうと思ったのだ。
今度の旅はパリ行きの団体に便乗しているので、
ヘンなコースである。
そうして偶然、諸国の空港を見学できることになった。
羽田を出て十時間くらいして、
まず給油でモスコーの空港に着いた。
間に機内食がいっぺん、型通りのものが出た。
おっちゃんは、生まれて初めてのヨーロッパというので、
機内食も一物残さず平らげ、水割りも飲む。
モスコー空港は雪であった。
三月終りというのに、おそろしい寒さ、
一面の雪で、白樺の林が空港の向こうに見え、
地平線まで何もない。
空港の側に人家や高速道路があり、
飛び上がると目の下にうちのマンションが見える、
伊丹空港とはえらいちがい。
大きなだだっ広い空港で、人けはなく、
兵隊があちこちにいて、旅行者を見ている。
少年みたいな兵隊もいるが、
雪にさらしたように真っ白い肌に、
ほっぺたがピンク色で美しい。
空港の中は暖房もきいていて、文明国らしいのだが、
トイレに行ってみると、ドアはボロボロ、水洗の水は出ず、
紙は薬包紙みたいなのが備えてあった。
空港で働いているらしい女性が来て、
悠々とこわれたドアを半開きのまま、
用を足していた。
窓ガラスの外では鉄砲を持った、
兵隊が外套を着て、行ったり来たりしている。
やっと飛行機に乗り込んで旅を続ける。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/airplane2.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/airplane2.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/airplane2.gif)
(次回へ)